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読書系フリーターの日常

ブラック企業を新卒半年で辞めた読書好きフリーターがいろいろ考えています

VERYの『妻だけED夫座談会』と男性脳の関係について思うこと/黒川伊保子 『恋愛脳』

読書

男女の思考のすれ違いというのは、何百年も皆が同じようなことで悩みながら一向に解決されない難題である。

 

ネットが騒然となった今月のVERYの「妻だけED男座談会」これ自体世界各国で繰り返され続けてきた問いではある)の記事を見ていて、ふと思ったことがあった。

こういった記事は心理的な面や男尊女卑的な文化面からのアプローチが多めになるのが常であるが、何度か読むうちに本当にそれだけなのか?と思い始めた。

 

読者の反応などを見ていると、当然ながらおよそ男性側の女性に対するとんでもない誤解や圧倒的な思いやりの不足を責めるものが大半であった。

一読目の後の私の感想も同じであったが・・・

mess-y.com

 要約するとアラフォーのハイスぺ男性4人にインタビューした結果、彼らが

・「妻にはもう性的魅力を感じないので不倫も当たり前のようにするが、妻には許さない。それでも妻を愛している」と主張

・「高収入を稼いでいるのだから責任は果たしているのに、彼女たちをケアしなければいけない意味が分からない」

・しかし妻からのケアがない・仕事が忙しいことに理解を示さずあまつさえ不満を持つなんて許せない

と揃いも揃って思っていて、妻側の気持ちや欲していることを全く理解していない、みたいな内容である。

 

女性の私としては腹の立つことしきりながら、少し置いて冷静になってから読んでみると、どうもこの男性たち心の底から「なぜ妻が理解してくれないのかわからない」「自分たちは悪いことをしていない、むしろ責任を全うしている」と信じ込んでいるような印象を受けるのである。

???じゃあ何?こいつらみんなサイコパスなの?と思ったのだけど、ふとそこで思い出した本があった。

黒川伊保子『恋愛脳』である。

恋愛脳―男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか (新潮文庫)

恋愛脳―男心と女心は、なぜこうもすれ違うのか (新潮文庫)

 

男女の脳の違いから男女のすれ違いについて書かれた本だが、ここで書かれていた内容がドンピシャ。

そこで、脳科学の面からちょっと切り込んでみるのも面白いかなと思って本の紹介がてら彼らの脳の仕組みを勝手に仮定して考えてみます。

「ハイスぺ男」とは、男性脳の部分が特に強い男性では?

男性脳*1とは、空間認知や成果思考が強く逆に情緒や気持ちの認識が弱い。

女性脳は、時間認識や情緒面が発達しており、逆に成果に重点を置かない傾向がある。

これらはもちろん強い人から弱い人まで、同じ性別でもかなり個人差がある。

ちなみに男女の違いについての権威であるアラン・ピーズは、著書で著しく男性側と女性側に寄った脳の人は、

同じ地球に生きていること以外に、共通点など何もない!

と書いておられます。

話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く

話を聞かない男、地図が読めない女―男脳・女脳が「謎」を解く

 

 それを踏まえ、この企画に限定するが対象が「ハイスぺ男」とあるので、つまりこの人たちが極端に男性脳が強い人たちなのではないか?

つまり、

ハイスぺ→高収入・高学歴→大企業などで出世している・成果を上げている→日本は仕事の場はまだ男性社会の色が強い→その男性優位社会で出世し評価される=「男性脳が強い」と仮定してもよいのではないか?と思った。

 

その前提で話を進める。

本書の脳のつくりと男女の違いの部分だけ抜き出すので、その他の要因には今回触れない。*2

本書の主張の主要箇所

この本の主張で主要なところはもう本当にこの二つなんだと思うのだけど、それが


・結婚における「愛している」の概念の違い
・成果追求型の男性脳と時間蓄積型の女性脳の違い

男性脳と女性脳の情緒の成熟するスピードの違い


の3つであって、男女関係の付き合いの問題のかなりの部分の根っこがこの辺りに集約されるというのが、私の実感である。

「愛している」の概念の違い

たとえば「愛している」と言ったとき、男の脳は「とりあえず繰り返し君のところに帰る」という約束をしたに過ぎない。

女の脳は、24時間、どの瞬間にも自分を最優先してくれる一生分の約束を手に入れたと思っている。もちろん、自分が「愛している」といえばそうするからである。

よく言われるのが、女性脳は多方面に注意を配るのが得意、男性脳は一点集中型。

女性は仕事しながら子供や夫、家事のことなんかを考えることができるが、男性は仕事となると仕事だけ。それ以外のことはすっぽり頭から抜けてしまう、という。

だからこそ、女性は男性が自分たちをないがしろに(まったく気にかけない)することに傷ついてしまうという。

 

VERYの記事の中にあった例で

多忙がピークを極め、「週の半分は家に帰れず、帰ったとしてもシャワーを浴びて着替えて、またすぐ出勤」の毎日が続く中、妻に離婚を切り出された

という男性がいて、しかし彼は、

「放ったらかしている、という気持ちは毛頭ない。たっぷりの愛は伝わっているはず。妻は自分の仕事を応援してくれているはず」と思っていたそうで、寝耳に水だった。

というエピソードはおそらくそこら辺だと思われる。

彼らは妻を愛していると言っているので、つまり「繰り返し家に帰ってくる」という約束を守り続けた=愛を示し続けたという発想により「寝耳に水だった」と考えることができる。

妻の都合やなんやは本当に頭から抜け落ちていたのだと思う。

 

一方妻の感覚では「愛していると言ったからには一生最優先にしてくれるはずなのに完全に無視されている=愛されていない」と読む。

もう無理。離婚。となる。

男は繰り返し女の元へ帰る暗黙の誠意を愛と呼び、女は、日々与えてもらう言葉の飴玉を愛と呼ぶ

この男性たちは男性脳でもって妻を愛し、それを示し続けたのかもしれない。暗黙の、というところもキーポイントである。

 成果追求型の男性脳 V.S. 時間蓄積型の女性脳

見る限り、ずば抜けて批判が集まっている男性の発言はこちらである。

「それにしても、世の女性たちはいくつになってもお姫様抱っこ級のケアをしないと満足してくれないものなのでしょうか」

それに対しての筆者のコメントがこれ。

妻の求めている「ケア」って絶対にそこじゃないよ。彼らは自らの妻を根本的に、幼稚でバカな女だと見下しているのではないか?

これを読んだ女性の大部分は同じ感想を持つんじゃないかと思うし、私も同じ感想を(一度は)持ちました。

しかし、これが「根本的に、幼稚でバカな女だと見下している」のではなくて「根本的に理解ができない(からバカにしてかかっている)」だとしたら?

そしてそれに対する本書の該当箇所がこちら。

 女性脳の情緒は、積分関数である。時間軸に、ゆったりと蓄積されていく。

女性脳は、時間軸に情緒を貯める脳なのだ。

 毎日一言ずつでも優しい言葉をかけてもらったり、小さなことでいいから支えてもらうことで愛情や喜びを感じられるのが女性脳。逆に、不満も小さいものから蓄積されることである日キレるのも女性脳である。

VERYの記事では働く妻の夫への要求の特集から

●自分のことは自分でして!それだけでいいから!
●子供が病気になっても休むのは私ばかりで、自分の仕事が軽んじられているように感じる
●子育てへのサポートは満足しているから、もう少し家事全般を手伝ってほしい
●気が向いた時だけ手伝ってくれるけど、気が向かなくてもやってほしい。家事は気分次第でやるものじゃない
●テレビに子守りさせないでほしい
●たまには(子供の)送り迎えもやってもらいたい

 などの日常の細々したものを挙げているが、まさにこれだ。

 

一方、男性脳は成果型。

おそらく彼らも過去に花束を渡すなり豪華なディナーでサプライズパーティをしたり、はたまた高額なプレゼントなどを渡して女性を喜ばせた経験があるのだろうと思う。

それこそが彼にとって「女性の大きな反応」という成果を得た経験であって、

だから日常の妻のリクエスト(達成しても成果と認識しづらい)を忙しいからと流しながらも、「結婚記念日に高級ディナーとサプライズ花束」みたいなでかい「成果」を打ち出すことが妻の要求なんだと考える。

 

ハイスぺに仕事と直結する成果型の考え方が強い人は多そうだ。

男性脳と女性脳の情緒の成熟するスピードの違い

30代までに女性が自分の気持ちを見つめ尽くし自我を確立できるのに対し、男が自分の気持ちを見つめるようになるのはようやく30代後半に入ってから。

人格の成熟や本書で言う「スポットライトの舞台」(=自分が中心で輝いて活躍するビジネスや男女関係などの場)への執着と距離を置けるようになるのに、そこに男女で約10年の開きがあるということらしい。

 

すなわち男性がビジネスゲームに夢中になっている間に、女性はすでに自分の気持ちとか人生の核になるものをつかんでいるということ。それを同年代の男性に投げかけても受け取ってもらえないこと。その開いた10年くらいは夫が仕事に夢中で自分を蔑ろにするのを我慢するハメになる。

 

VERYの記事で男性たちが「40代で男の成長」うんぬん言っているのは、おそらく周囲や自分の実感としてここらを感じているところからくる発言なのではないかと思う。

しかし時すでに遅し。すでに妻は自分の人生を見つめなおし、彼らを見限っている、と。

おわりに

あくまで脳の仕組みに絞って抜き出しました。

男女のすれ違いの記事を読んで、お互いに「こいつらは頭がおかしい」と憤っているだけでは何も変わらないと思うのです。

お互いにそういうものなんだ、ということを知っているだけで世界はちょっと変わるかもしれないのだけれど、男性側は問題があることすら気づいていないので双方の歩み寄りは遠いなあと思うのでした。

 コミュニケーションをとらないままで、「妻はわかってくれているはず」というハイスペ夫たちの無根拠な自信はどこからくるの?

いろいろ要因はあるかもしれないけれど、それはもしかしたら脳のつくりが一因かもしれません。

 

男性たちには少し長いですが、この部分を一言一句もらさず頭にぶち込んでいただきたい次第であります。

 恋人に理屈を言う女なんて、この世に存在しない。ことばの飴玉が欲しくて騒ぐ女性脳があるだけだ。

ある女はそれを甘えて欲しがり、ある女は愚痴で訴える。ある女は無関心を装い、ある女は理詰めにする。ある女は周り中の男からもらいたがり、ある女は唯一の男からの飴玉にしか興味がない。ある女はちょこちょこもらい、ある女は一生分を一回でもらう。

 

 

 

※当然、上記の男女の思考には個人差があります。

※当記事はED夫を擁護するものではありません。

※男性からの人格の否定、明らかに不当な扱いについては本書でも否定的に取り上げられています

著者と本書執筆のきっかけ

人工知能(AI)の研究にも携わる脳科学・言語や情緒の研究者である黒川伊保子が、男性脳と女性脳の違いについて科学的な根拠を元に書いた男女差・男女の意識の違いについて書いた本である。
この本を書いたきっかけは、人工知能の思考パターンを研究する中で男女で好む会話スタイルが違うということに気づいたことで、それを追求していくとそもそも男女でものの見方が違うということにたどりついたから、とある。

 

同著者の本については以前にも書いた。言葉の「音」が与えるイメージについて。

quelle-on.hatenadiary.jp

 これも視点が独特で面白かったし、汎用性が高そう。

 

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夫婦脳―夫心と妻心は、なぜこうも相容れないのか (新潮文庫)

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*1:=男性的な特徴をもつ脳およびそれを持つ人

*2:しかし、多様な要因が絡んでいることは確実である