大炎上イラスト集『そうだ難民しよう!』そのシンプルすぎる世界観が覆い隠したものとは?

2016年01月29日(金) 辻田真佐憲

辻田真佐憲賢者の知恵

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自己主張を叫んでいるにすぎない

ところで、<はすみ的世界観>を受け入れないひとびとにとって、はすみとは「ホワイトプロパガンダ漫画家」でなくて何なのだろうか。

それはおそらく、「妄想的な世界観にもとづき、日本の宣伝戦を担っていると勘違いしている漫画家」だろう。

そもそも、歴史的に見て、独立した個人がイラストなどを通じて自らの思想信条を述べることはプロパガンダでも何でもない(プロパガンダの詳しい歴史や定義などについては、拙著『たのしいプロパガンダ』を参照されたい)。

従って、「ホワイトプロパガンダ漫画家」なる肩書きは僭称である。そのことを広く知らしめることもまた、<はすみ的世界観>への対抗となりうるだろう。彼女は何か公共的なものを担っているのではない、単に自己主張を叫んでいるにすぎないのだ、と。

以上見てきたように、あまり注目されてこなかった「ホワイトプロパガンダ漫画家」という肩書きこそ、実は「はすみとしこの世界」の核心なのだ。刺激的なイラストや発言だけに目を奪われてはならない所以である。

辻田 真佐憲(つじた・まさのり)
1984年大阪府生まれ。文筆家、近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科を経て、現在、政治と文化・娯楽の関係を中心に執筆活動を行う。単著に『たのしいプロパガンダ』(イースト新書Q)、『ふしぎな君が代』(幻冬舎新書)、『日本の軍歌 国民的音楽の歴史』(幻冬舎新書)、『愛国とレコード 幻の大名古屋軍歌とアサヒ蓄音器商会』(えにし書房)などがある。監修CDに『日本の軍歌アーカイブス』(ビクターエンタテインメント)、『出征兵士を送る歌 これが軍歌だ!』(キングレコード)、『みんな輪になれ 軍国音頭の世界』(ぐらもくらぶ)などがある。

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著者:辻田 真佐憲
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