大炎上イラスト集『そうだ難民しよう!』そのシンプルすぎる世界観が覆い隠したものとは?

2016年01月29日(金) 辻田真佐憲

辻田真佐憲賢者の知恵

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<はすみ的世界観>を解体するために

この世界観がはすみ固有のものであれば、妄想として済ましてもいいかもしれない。だが、残念ながら、フェイスブックなどを見ればわかるとおり、彼女の支持者は決して少なくない。<はすみ的世界観>は、その活動を通じて日々広められている。

こうした事態に、どのような対処法があるだろうか。イラストやはすみ個人に対する批判だけではおそらく十分ではない。それでは、いつもの「サヨク達」の攻撃として受け流されるからだ。そうではなく、<はすみ的世界観>そのものを解体しなければならない。

実はその解体のヒントも、やはり『そうだ難民しよう!』のあとがきに隠されている。

はすみはここで「敵」と「味方」を明確に定義しなかった。いや、できなかった。なぜなら、細かく定義をはじめれば、「敵」や「味方」のなかに存在する「差異」に触れざるをえないからだ。

例えば、はすみはフェイスブックにおいて消費増税凍結を訴えるイラストも公開している(2015年11月24日)。ところが、これは「味方」であるはずの安倍政権が推進する政策にほかならない。また、はすみは『そうだ難民しよう!』のインタビューで「児童ポルノ法」の改正についてもやや距離感を保って言及しているが、これもまた安倍政権下に行われたことである。

つまり、いわゆる「味方」とされるひとびとの間でも、経済政策、税制、表現規制、雇用政策など個別のトピックについては様々な意見の相違があり、細かく見ると、「サヨク達」対「味方」という世界観を維持できなくなるのである。それゆえ、「サヨク達」と「味方」の定義は曖昧なまま放置されなければならなかったのだ。

なるほど、こうした差異を覆い隠すためにこそ、過激なレイシズムや排外主義が煽られる面は否定できない。これに対して、「断じて許しがたい」「販促イベントを止めろ」などの声が噴煙のごとく湧き上がるのも無理からぬことではある。

ただ、現状、差異を地道に暴露していくことや、差異を自覚させるような社会的な活動(人種や文化を超えた相互交流など)を増進することでしか、<はすみ的世界観>を効果的に解体していく手段は見当たらないように思われる。

一見遠回りに見えるかもしれない。ただ、こうした地道な作業は、第二、第三のはすみを生まないための防波堤となりうる。それゆえ、決して迂遠な行動とは言い切れない。

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