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» 2016年01月28日 10時00分 UPDATE

いまさら聞けない「流体工学入門」(1):流体解析をするために知っておきたい最低限のこと (3/5)

[志田穣,MONOist]

流れの観測点と図化

 流れの現象・運動を数式で表現する場合、2通りの方法があります(図6)。

  • ラグランジュ(Lagrange)の方法:例えば、流れる川の上に木の葉が流れてくる様子を観察した場合、その木の葉は流体のふるまいを反映した運動を行います。流体を無数の粒子の集団と考え、その中の特定の粒子の追跡・運動を観察することで、流体の運動を記述する方法がラグランジュの方法と呼ばれています。観察の主体は木の葉の上に乗っており、時間経過に沿って密度、圧力を観察するイメージです。
  • オイラー(Euler)の方法:ラグランジュの方法が流体の中の特定の粒子に着目して追跡する方法なのに対し、オイラーの方法は、流れの様子を見渡して全体の様子を表す表現方法です。具体的には、流れの中の特定の場所に注目して、ある時点における流速や密度、圧力を観測するものがオイラーの方法です。

yk_cfdkiso01_06.jpg 図6:ラグランジュの方法とオイラーの方法

 その定義からいって、流れの場全体を表現するためにはオイラーの方法が便利であるため、流体力学一般ではオイラーの方法が広く用いられています。

 流れの状態を理解するために、図として表現することが考えられます。方法としては、オイラーの方法で観測されたさまざまな位置の流速(速度とは向きと大きさの情報を持ちます)をベクトルで表示する方法と、流れを表す滑らかな曲線(複数あります)で表示する方法とがあります。後者の方法は視覚的で分かりやすいのですが、それぞれの物理的な背景をふまえて理解すべきです。

  • 流線(Streamline):ある時刻の速度ベクトルを描画し、その描画面の上で速度ベクトルを滑らかに結んだ曲線のこと。 流速が0でない限り流線同士が交わったり、分岐したりしません。 流速が0の点においてのみ流線が分岐・合流する場合があります。流線上のある点の接線は、その点の速度ベクトルと重なります。これは、オイラーの方法を図示しているといえます(図7)。

yk_cfdkiso01_07.jpg 図7:流線の定義
  • 流跡線(Path Line):ある特定の粒子に着目し、その粒子が通過して来た経路を描いた曲線のこと。例えば、風が吹いている空中を風船がたどる軌跡がこれに相当します。これは、ラグランジュの方法を図示しているといえます(図8)。

yk_cfdkiso01_08.jpg 図8:流跡線の定義
  • 流脈線(Streak Line):空間中のある点を通過した流体粒子を連ねてできる曲線のこと。例えば、煙突から出た煙のたどる軌跡がこれに相当します(図9)。

yk_cfdkiso01_09.jpg 図9:流脈線の定義

 流れとは動的なものですが、オイラーの方法で観測した場合、あらゆる位置の流速(=流れの方向と大きさ)が常に変わらない場合、この3つの曲線は合致します。

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