「日本の男社会がこんなにも苦しいのはね、タテマエは自由、でも、腹ん中では未だに戦争やってるようなもんだからだよ。表面上は戦後民主主義を装いつつ、精神面では戦時中の靖国精神から脱していない。徴兵制から生まれた『立場主義』と、『ホモマゾ社会』が日本の男を死に追い込んでいる」
両親との決別、離婚により家族の呪縛から逃れたことから、この国の根底に潜み、日本の男を息苦しくさせているシステムに気づいた東大教授・安冨歩(52)。しかし彼は、自分を苦しめ、自殺衝動までをも引き起こしているもう一つのストレスの正体に長らく気づいていなかった。(→前回はこちら)
身も心も自由にしてくれた「女性装」のはじまり
第二の飛び降りのきっかけ、それは2013年に初めて体験した「女性装」だった。
もともと太ももが太く、骨盤が大きく、ウエストの細い体型で、男物のズボンが合わずに困っていた。50歳になって減量に成功したことで、ますますウエストと下半身のサイズのギャップが悩みの種に。それを見たパートナーの女性が「なら女物を試してみたら?」と薦めたのが始まりだ。
試しに着たところ、女物の服は男物の服よりもずっとバリエーションが多く、安く、着心地がよかった。女性のモデルのような体型の安冨にもぴったり合った。安冨は、瞬く間に女物の衣類の虜になった。
しかしそれは決して利便性の側面からだけではない。安冨がはじめて女性の装いをした瞬間に感じたのは、途方も無い”安心感”だったという。
「女性の恰好をする男性の中には、性的刺激を求めてそれを行う人もいるけど、私の場合は“安心”だった。それは、両親から植え付けられていた、男性が背負うべきプレッシャーからの解放、つまり『女の子だから、戦争にいかなくっていいんだもん!』という解放感だった」
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