『それでもドキュメンタリーは嘘をつく』森達也(2008)
第14章 「犯罪加害者のモンスター化」からの引用。
たぶんここまでの僕の文章に、
「もしもお前の家族が殺されたなら、そんなことを言えるのか?」
と気色ばむ人は必ずいる。ならば答えよう。
「 もしも自分の家族が殺されたなら」などと人は想像できない。
絶対に抑制してしまう。もしも自分はリアルに想像できるという人が
いるのなら、大切な何かが欠けている人なのじゃないかと僕は思う。
だからそんな人とはこれ以上話したくない。人生は短い。
やりたいことはたくさんある。
(中略)
今僕たちが意識化せねばならないことは、無理矢理に当事者側に身を
置こうとすることではなく(絶対に置けないのだ)、自分が当事者である
ことを、もっと徹底して自覚することだ。今の僕は当事者じゃない。
だから冷静でいられる。当たり前だ。
(中略)
今のこの社会が共有しているのは、被害者の悲しみではなく、加害者
への表層的な憎悪だけだ。被害者や遺族の底知れない哀しみなど、実は
第三者である僕らに共有できるはずがない。
加害者の心中を慮る報道は、何故抑制されがちなのか?
「想像力を働かせて、相手の身になって考えることが大事です」
僕らはそう教わって育ってきた。
この文句のつけようのない正論に則った、加害者への集団的な攻撃性の発露を森氏は認めない。その中に潜む欺瞞を、森氏は見逃しはしないから。
人は結局のところ、あまりにも非日常的な局面に置かれた他人の身になる事など出来はしないのだ。
そう気付かせることで、より冷静な判断や思考のありようを読者に問いかけてくる。
『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』
森達也(2013)でも、論理の骨格は変わらない。
「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい―――正義という共同幻想がもたらす本当の危機
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2013/08/23
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (11件) を見る
『いのちのたべかた』森達也(2011)
未読のかたには是非お勧めしたい。
それこそ「人の身になって」考えられるべき立場に置かれた人は、法廷以外にもたくさんいるではないか?
森氏の疑問の対象は、社会的弱者に広く向けられるだけでなく動物にも及ぶ。
屠肉される牛や豚、医薬品・化粧品で実験対象となる犬やウサギにも。
ありのままを見ること、そして考えること。
「世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい」
(森達也氏の同名の著作から)
それに気づくか否かは、我々自身の責任に他ならないことを森氏は教えてくれる。
若い方にこそ、一読して欲しいノンフィクションライターの一人。
以上 ふにやんま