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epilogue そして……
『拝啓 零さん元気ですか?
あれから五年の月日が経ちました。
色々とありましたが、世界はどんどん良い方向に進んでいます。
人と精霊の関係はより良いものになっています。
でも、油断せずにこれからも頑張っていかないといけませんね!
そうそう、話は変わるのですが、先月お姉さまと坊ちゃんが結婚をいたしました。
驚きですよ!
お姉さま曰く、あいつは誤解されやすいから私みたいのが一緒にいないと駄目なんだ。
そんなことを言っていました。
我が姉とは思えないくらい変わった人です。
私も最近では女としての色気がグッと増したのか、プロポーズなんかされちゃったりします!
……気が乗らなくて、全部断っちゃってるんですけどね。
あ、ちなみにリルリは身長も少し伸びて凄く綺麗になりました。
でも胸は大きくなりませんでした。ざまぁみろって感じですね。』
「グレイス様、そろそろお時間です」
「え? もうそんな時間? すぐ行きます!」
「……またお手紙ですか?」
「はい、近況を零さんに届けないと行けませんからね! 残りは途中で書きあげちゃいます」
私はペンを置き、身支度を整えた。
今日は精霊の森に向かう日だ。
最近では忙しくて余り行けていなかった。だけど、時間ができたらなるべく行くようにしている。
行くときは手紙を持って行く、これが私の決まりごとだった。
おっと、リルリが待っているんだった。
私は一つ伸びをし、部屋を出る。
部屋の外にはリルリが待っていた。二人で連れ添って城を出る。
馬にまたがり出発する、二人と二頭での小旅行だ。
最初は馬車で行ったりもしたのですが、苦手意識が抜けません。結局天気が良い日に馬に乗って行くようになりました。
二人で町を経由しながら精霊の森に向かう。
この小旅行にも慣れたもので、さくさくと進む。
ただ、城内にいるときだけリルリの口調が戻ってしまった。
それが気になる。何か仲良しな感じで、砕けた口調も良かったんですけどね。公私はしっかりと分けないといけない、らしいです。
そして数日、久しぶりの精霊の森。ちなみに馬は町に置いてきて、ここまでは歩いてくる。ピクニックみたいでいいですよね。
勿論、隔離されてしまっているため入ることはできない。透明な壁みたいなのがあるみたい。
リルリと作ったポストに、手紙を入れる。
零さんが手紙を見ていないことは知っている。ただの自己満足だ。
でも、何となくそうしたい。零さん風に言うと、理屈じゃねぇんだよ! って感じですかね。
「グレイス様、昼食の用意が出来たよ。僕は紅茶にするけど、どうする?」
「んー、私も同じのでいいです!」
青空の下、二人でする昼食。気分が良いなぁ。
この昼食もお決まりだった。手紙を入れて帰るのじゃ味気ないので、必ずこうすることにしていた。
そしていつも零さんの話をする。短い間しか一緒じゃなかったのに、話題は尽きない。本当に私たちは、あの人がすごく好きだったんだなぁと実感する。
少しまったりとした後、私たちは町へと戻ることにする。
「零さん、また来ますね」
「またな、ボケナス」
いつものやり取りをいつものようにこなし、私たちは町へと街道を戻って行く。
だが、その日はいつもと違った。
「グレイス様! 急いで!」
「分かってる! もう! 何でこんなところにゴブリンが大量発生してるの!?」
私たちは見渡す限りのゴブリンに追われている。五年前より体力がついているとはいえ、とても逃げ切れない。
魔力もほぼ尽きている。それはリルリも同じようで、魔法を使わずに走ることしかできない。
でもこのままじゃ追い付かれてしまう! 私は最後の魔力を振り絞ることにした。
「リルリ! 最後の魔力で足止めをします! その後は振り向変えずに走って!」
「分かった! 僕も合わせる! せーの!」
私たちは同時に後ろへ振り向き、両手を前に突き出す。
今はほんの一瞬でも時間が稼ぎたかった。
だがその時、私たちの両肩をポンッと触る感じがした。
そして次の瞬間、恐ろしい威力の炎と氷が全てのゴブリンを吹き飛ばした。一体も残っていないどころじゃない、明らかにやり過ぎな威力だった。
……そんなことが出来る人を、私たちは二人しか知らない。そしてその一人は城にいる。
つまり、ここにいるのはだ。私とリルリは、物凄い勢いで後ろへと振り向いた。
そこにいたのは、ざっくばらんな長い黒髪、ボロボロの服。昔のような幼さは残っていない端正な顔立ち。身長も伸びている気がする。だが、その目を見れば誰かはすぐに分かった。
「おう、大丈夫か?」
「零さん……?」
「な、なんでお前がここにいるんだ!?」
「あぁ? てめぇらなんで俺の名前を知ってんだ?」
この人、まさか……。私とリルリだって気付いていない!? いや、確かに五年経ってますよ!? でも私たちはすぐ分かったのに!
「零さん! 本気で言ってるんですか!」
「え、いや、何怒ってんだ? 悪ぃが、俺にはこんな赤髪と銀髪な美人の知り合いはいねぇぞ?」
「美人……」
リルリ! 何を嬉しそうにしているんですか! 確かに私もにやけてますけど!
あぁもう! 今はそれを喜んでる場合じゃない!
「私です! グレイスです!」
「僕はリルリだ」
「は? いや、あいつらはもっとこうちんちくりんでだな……」
「五年経ってるんですよ!? 昔のことを言われても困ります! それより、何でここにいるんですか? もしかして、出れるようになったんですか?」
私が聞くと零さんは、気まずそうに頬をかいた。
そして一つ溜息をつき、話し始めた。
「いや、実はな……。ちょっと色々頑張り過ぎちまったみてぇでよ、精霊が増えすぎちまったんだ。それで世界がな? なんつーか……乱れちまってるらしくてよ」
「えぇ!? また世界が乱れてるんですか!?」
「僕らがあんなに頑張って何とかしたのに……」
「まぁ、なんだ、それでだな? 対策とかを考えるために、ちょっと色々と世界を周ろうかと思ってな。ちょうど良いところで会えたな。行こうぜ」
世界が乱れて……。しかも精霊が増えすぎてって、零さん一体何をしたんんですか。
って、あれ? 行こうぜ? どこに?
だが零さんはスタスタと一人で先に歩いて行ってしまっている。
「ちょっと、零さん! え? 行くってどこへ? 私たちもですか?」
「あぁ? 他に誰がいるってんだ。……それに、約束しただろうが」
「え? 約束?」
「ちっ。……旅、すんだろ」
覚えていてくれたんだ。私は、大精霊のところを周ったことで旅をしたと思って、約束なんて忘れていた。
でも、この人はちゃんと覚えていてくれたんだ。
私は感極まって零さんに抱き着いた。
「もう零さんってば! もう! 大好きです!」
「ちょ、グレイス様ずるい! 僕もずっと待ってたんだからな!? 大好きだってことなら負けないよ!」
「ま、待てお前ら! くっつくな! 色々当たって、その、もうガキじゃねぇんだからやめろ!」
零さんは顔を真っ赤にして何か色々言っている。だが私もリルリもお構いなしだ。
今日はとってもいい日だ。さっきまでのゴブリンに追いかけられていたことなんて、全部吹っ飛んだ。
「あぁもうやめろって言ってんだろ! おら行くぞ!」
「はい! まずはどこに行きますか?」
「あぁそうだなぁ、とりあえずアマ公と坊ちゃんにも話を聞いておくか」
「あの二人、結婚したんだぞ。知らなかったろ?」
「まじかよ!? あの二人、確かにちょっといい感じだったもんな……」
私たちの旅は終わった。
でもまた始まる。そしてきっとこれからも、ずっと……。
END
真内 零
スキル:『精霊に愛されし者』
特徴:目が怖い
アイテム:(ミスリルの)鉄パイプ ククリナイフ 軽鎧
精霊:107562体
目的:旅は続く
最後まで読んで頂き、本当にありがとうございます!
もしお手数でなければ、感想や評価を頂けると幸いです。
よろしくお願いします。
8/29 21時より、新規連載を開始いたします。
ツイッターや活動報告でも宣伝をさせて頂きます、よろしければこちらもお願いいたします。
タイトルは「異世界倉庫の管理人さん」です!
http://ncode.syosetu.com/n8832cv/

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