文/辻田真佐憲(文筆家、近現代史研究者)
炎上するイラスト集『そうだ難民しよう!』
シリア難民を揶揄するイラストをフェイスブック上に投稿し、世界的に大きな反響を巻き起こした漫画家はすみとしこの作品集が昨年12月に刊行された。『そうだ難民しよう! はすみとしこの世界』(青林堂)である。
表紙には、これ見よがしに、有名になった難民少女のイラストと、「そうだ難民しよう!」の大きな文字。なかを開くと、在日コリアン、韓国人の元慰安婦、シー・シェパード、SEALDs、有田芳生などを批判的に取り上げる21枚のカラーイラストが厚手の紙に印刷されている。
作者自身による詳細な解説が付されているのも特徴的だ。それによると、件の難民のイラストは「より豊かな暮らしを求めて欧州へ移動する『偽装難民』を揶揄した作品」であり、「『難民』の欲求のエスカレート」は「在日韓国人の優遇措置(在日特権)要求のエスカレート」と関連づけられるらしい。はすみが一貫した政治的意図にもとづいて、イラストの素材を選んでいることがここから読み取れる。
確かに、彼女のイラストのレベルはそれほど高くはない。ただ、素材の使い方や、煽り文の作り方などにはある種の能力を感じさせる。難民のイラストがあそこまで話題になったのもゆえなしとしない。はすみは同書収録のインタビューにおいても、「あの女の子だって、美人さんに描いてあげたつもりですよ」とわざわざ煽り気味に主張している。
今年に入ってからも、つい先日、2月11日に東京神保町の書泉グランデで行われる予定だったトーク&サイン会が、「書店が差別的な本を支援するのか」などという抗議によって中止に追い込まれた。はすみの周辺は今後も火種になりそうな気配である。
だが本稿では、刺激的な個々の作品よりも、あまり問題にされてこなかった彼女の肩書き「ホワイトプロパガンダ漫画家」に注目したいと考えている。なぜなら、この奇妙な肩書きこそ、「はすみとしこの世界」を理解する上でもっとも重要な鍵だと思われるからである。
はすみは、なぜ(彼女にしてはわかりにくい)「ホワイトプロパガンダ漫画家」なる肩書きをあえて名乗ったのか。まずはそこから考えてみたい。
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