9年の時を経て蘇ったおでん。
去る1月14日、あるゲームが発売された。そのゲームの名は「オーディンスフィア レイヴスラシル」である。
「オーディンスフィア」とは、2007年にPlayStation2で発売されたゲームだ。ファンの間では「おでん」と呼ばれ愛されている。今回の「オーディンスフィア レイヴスラシル」は、そのリメイク版である。ここから先は2007年のオリジナルを「無印」、レイヴスラシルを「今作」と呼ぶことにする。
無印も今作も手がけたのは「ヴァニラウェア」という開発会社だ。
ヴァニラウェアは知る人ぞ知る会社で、特に2Dのゲームに並々ならぬ情熱を注ぎこむことで知られている。代表的な作品は「朧村正」や「ドラゴンズクラウン」だ。
ヴァニラウェアを設立したのは元カプコンの神谷盛治氏。実はこの人キャラクターデザインもやっている。初めてディレクター及びキャラデザを手がけたのは、SEGA SATURN末期に発売された「プリンセスクラウン」だ。
当初、無印はこのプリンセスクラウンの続編として企画されたため、プリンセスクラウンとゲームデザインが似通っている。だが、プリンセスクラウンから無印までの10年の空白期間は神谷氏にとってもかなり厳しい時代だったようで、一時期はパンの耳を食べて生きていたようだ。
その後、奇跡的にアトラスに拾われて誕生したのが無印である。プリンセスクラウンはベスト版を合わせても6万本強(海外は不明)の売上に終わったが、無印は最終的に国内で9万本、ワールドワイドでは100万本を売上げた。
そして今回、「アトラス×ヴァニラウェア新本格HDプロジェクト」の一環としてリリースされたのが今作だ。幸いなことに、初週で無印の売上を上回る9.5万本(全ハード合算)という幸先の良いスタートを切ることが出来たようだ。
リメイクではなく、リ・クリエイト
今作は無印からかなり手が加えられている。ヴァニラウェアのスタッフは「リメイクではなく、リ・クリエイト」と色々な方面で語っているが、確かに「まるで別物」と言ってもいいくらい変わっている。
一番変わったのは操作性だ。
このゲームは横スクロールのステージ(ラウンドと呼ぶ)を、攻撃やジャンプを駆使して敵を倒しながら進んでいくのだからアクション要素がかなり強いのだが、無印では攻撃をする度に「POWゲージ」を消費する為、ガンガン攻撃し続けることは出来ない。というより、ゲージがなくなると一定時間行動不能になるので、ゲージの管理はかなり重要な攻略要素だった。
ところが、今作では(メルセデス以外)攻撃をしてもPOWゲージを消費しない。さらに、スライディング攻撃や空中コンボなどの技が充実し、更には無印ではキャラが違っていてもかぶっているものが多かった特殊攻撃であるサイファースキルも、一人ひとりに合わせて新規に追加されており、それぞれ個性を強調したものになっている。サイクロンやオーバーロードなどの一部共通スキルは、今作では魔法薬に変更された。
全体的に、手触り感はかなり「朧村正」よりに変更された。これはスタッフのインタビューでもそのように言及されている。
個人的にも無印の最大の不満点は、POWゲージのせいでチマチマ攻撃しなければならない部分だったので、この変更はかなり嬉しい。だが、100コンボ決まった後のクリティカルは無くなったようだ。まあ、今作では100コンボくらい簡単に決まるからやむなしだろう。
グラフィックスはワイドモニターに対応したものに変更された。これによりかなり視界が広くなり、戦闘時の立ち回りが楽しくなった。無印はキャラクターが大きめに表示されていたこともあり、画面内がゴチャッとなりがちだったが、今作ではそういうことも無くなった。画面外からの攻撃が避けやすくなったのは本当に助かる。
ハードウェアの進化で、無印では酷評された処理落ちも殆ど解消された。アイテム周りの仕様も、所々にアイテムボックスを設けることでインベントリが圧迫されることはなくなった。
ラウンドのデザインも、横に進むだけだった無印とは違い、縦に進むステージや鍵がかかっている場所などもあり、やや探索要素が増えた。とはいえ、それほど悩むようなものでもないので、謎解きはオマケ程度と考えてもらっていい。そういえば、所々に無印ではいなかった中ボスが追加されてたりする。
前作で面倒だった種の栽培も、今作ではフォゾンを貯蓄でき、いつでも放出することが可能になった(つまりコールフォゾンがスキルでは無くなった)ため、戦闘前に植えておく必要が無くなった。好きな時に種を植え、水をやるかのごとくフォゾンを与えれば実を回収することが出来る。しかも種はスタック出来るようになった。何より、フォゾンが触れるだけでも回収できるようになったのは地味だが楽である。
テキストアーカイブは無印のリスト形式から、グラフィカルな本棚に書物が入っているようなビジュアルになった。頑張って作った人には申し訳ないが、正直これは無印の方が見やすかったかもしれない。
他にも、アビリティと言う名のパッシブスキルが追加されたとか、出張レストランが追加された食事周りも随分と変更されたのだが、とてもとても書ききれないので、公式が用意した変更点のリンクを下記に貼っておく。とかいって、細かい所が物凄く変わっていて、公式の説明だけでは把握しきれないのだが。
みなさまの質問・ギモンにお答えします!「スペシャルQ&A」を一挙公開! | 「オーディンスフィア レイヴスラシル」公式サイト
変わらない面白さ。そして変わらない問題点。
ここまで、いかに今作が無印から変わったかを書き連ねてきた。正直って、文句のつけようのないリメイク(リ・クリエイトか)で、遊んでいてなんのストレスも感じずに楽しむことができている。
だが、実はなにも変わっていない部分もいくつかある。
まずはオーディンスフィアの核とも言えるストーリーだ。
オーディンスフィアは「ニーベルングの指環」をモチーフに、切なくも儚い物語が展開される。シェイクスピアの舞台劇を参考にしたという演出と、素晴らしい台詞回しの脚本も相まって、物語はただただ美しい。背景はまるで絵画のようだ。その美麗な世界を「ファイナルファンタジータクティクス」や「ファイナルファンタジーXII」のコンポーザーである、崎元仁氏率いるベイシスケイプの豪華絢爛なサウンドが更に引き立てる。
今作の開発段階で追加ストーリーの案も出たらしいのだが、「あれはあれで完成しているから美しいのだ」というスタッフの意見で一切追加ストーリーは無しになった。そのスタッフたちはオーディンスフィアに憧れてヴァニラウェアに入ってきたメンバーだった。よく「思い出の中で美化される」とかなんとか言われるが、今作はそんなスタッフ達が自分の中で美化されていた「最高のオーディンスフィア」を形にしたものであると言えよう。
ただ、ヴァニラウェアのゲーム全体に言えることではあるのだが、複数のストーリーがお互いに絡みあう面白さと引き換えに、ステージ構成やボスが重複することが多く、それがダルく感じる人もいるだろう。特に、何度も戦うことになるベリアルやオデットは「またお前か」とツッコミを入れたくなるかもしれない。
それと、探索要素があるとはいえ、基本的に移動は一方向に進むだけなので、その移動自体が無駄に感じる人もいるかもしれない。ドラゴンズクラウンのようにハック&スラッシュ要素があるならともかく、オーディンスフィアは朧村正と同じでアイテムドロップを楽しむゲームではないのだ。
新規に追加された要素が気に入らない人もいるかもしれない。個人的には好きではなかったが、「おでんはあのPOWゲージとのにらみ合いが良かったんだよ!」という人も。だが、そういう人向けに「クラシックモード」が搭載されている。
このクラシックモードは、まさに無印の完全移植版で、システムは無印のまま。画面サイズも4:3に変更が可能。さらには、各種変更点のオンオフを細かくカスタマイズが可能という、まさに移植のお手本のようなモードだ。再現度は無印の旧アトラスロゴを表示するところまでこだわっており、折り紙つきである。
おでんはいいぞ。
とまあ、ここまでツラツラと色々書いてきたが、一言で言わせてもらえば「おでんはいいぞ」である。
台詞回しがやや難解に感じるかもしれないし、固有名詞も沢山出てくるので、プレーヤーに多少の読解力は要求されるが、シナリオの素晴らしさは一級品なので是非体験して欲しい。
最もハードルが高かったシステム周りも、ハッキリ言ってゴリ押しが可能になったのでかなり爽快である。勿論、最高難度で評価Sランクを目指すのであればかなり戦略的な立ち回りは必要になってくるが、ノーマルやイージーでは適当にガチャガチャやってるだけでもズバズバ敵を倒せるので、アクションがどうしても嫌いという人以外は楽しめると思う。
PSストアで体験版が配信されているので、それでちょっと遊んでみて欲しい。そうすれば、オーディンスフィアの面白さがわかってもらえると思う。
そして次にお前は「おでんはいいぞ」と言う…!