戦後、日本国憲法が果たしてきた役割を検証すべき

法律文化2001年2月号掲載

1.日本国憲法を変える必要はない

2.生命ほどとうといものはない

戦後、日本国憲法が果たしてきた役割を検証すべき

法をめぐる議論の高まりの中、護憲政党はどのように行動しようとしているのか。社民党の衆議院議員・金子哲夫氏に、社民党の日本国憲法の見解についてうかがった。また平和・反核運動に打ち込んできた金子氏に平和憲法についての思いをお聞きした。

 

日本国憲法を 変える必要はない

・・・・・・昨年、衆参両院に憲法調査会が置かれ、議論が始まりました。護憲政党として社会民主党はそれをどのようにとらえているのでしょうか?

[金子哲夫]

私たち社民党は日本国憲法の精神を守って、それを21世紀に伝えていきたいと考えています。現行憲法に書かれている理念、考え方は変える必要はないというのが私たちの基本的なスタンスです。

ですから党としては憲法調査会の発足に反対していましたし、発足にあたっては、党として色々、意見も申し上げました。最終的に、憲法調査会には議案提出権が無いことを議院運営委員会理事会の申合せ(※注)で確認しました。

憲法調査会は改憲のためにあるのではなく、日本国憲法が国民生活や政治にどういう影響、役割を果たしてきたか調査することを目的にするということで、設置に合意したものです。当然、私たちはそういう立場で臨んでいます。

※注 憲法調査会設置に関する申合せ 「憲法調査会設置に関する申合せ」(議院運営委員会理事会)平成11年7月6日
1.憲法調査会は、議案提出権がないことを確認する。
2.調査機関は、概ね5年程度を目途とする。
3.会長が会長代理を指名し、野党第一党の幹事の中から選定する。

・・・・・・社民党が主張される護憲は、第9条の「改悪」を防ぐという意味合いが大きいのでしょうか、それとも現行憲法は変える必要がないとお考えなのでしょうか?

[金子哲夫]

私は衆議院憲法調査会に出席しましたが、そこで行われている論議を見てまいりますと、当初は環境権であるとか首相公選制のことなど、あたかもこ現行憲法に色々な不足があるという話から入っても、最終的には、やはり前文と第9条に焦点が絞られていくわけです。

結局、改憲したい人たちの意識のほとんどはそこにあると思います。戦後の憲法をめぐる論議の流れを振 り返っても、つねに第9条をどうにか改正したいという意識が根底にあったわけです。

・・・・・・現行の日本国憲法のすばらしい部分を生かして、さらに環境やプライバシーなど新しい人権も取り入れて、社民党としての草案を作成して提示することはまったく考えていないと?

[金子哲夫]

第9条以外についても、私は現行憲法を変えなければならないという考えはありません。

私は憲法が本当に生かされれば、今日ある様々な問題を十分解決できると考えています。

今、党内で論議していることは個人のプライバシーや環境権などの問題を扱うのは今の憲法の中で十分、可能であるということです。それを実行するために様々な法律が作られていくわけです。

現実的に憲法の条文に書かれていないものも、色々な形で法律になり、守っていくことは行われています。たとえば情報公開にしてもそうです。憲法に書いてありませんが、国民の要求があり、それを法律で保証することによって、さまざまな形で情報公開が進むわけです。

現行憲法で解決できない課題があるのではなく、より重大な問題は、現行憲法のもとで当然できることを、今の政治が責任を持ってやっていないところにあると思っていますから、そこから改憲の必要性を感じることはありません。

村山政権時代の「合憲解釈」からの転換

・・・・・・旧社会党時代の村山富市首相当時に決めた自衡隊を合憲とする解釈を、社民 党として転換するという報道がなされました。

[金子哲夫]

この件に関しては現在、党内で議論されているところですので、私個人の見解としてお話しします。

社会党は結党以来、平和憲法を中心とする日本のあるべき政治の道を一貫して唱え、そのためには日本国憲法を護らなければならないと言ってきました。

村山首相が誕生した時点で、政権についたときの準備が十分でなかったということがあったと思います。党の基本政策と連立政権における政策協調の問題が党内で十分に論議が尽くされ、準備された段階で、村山政権が成立したかというと、そうではなかったということです。短期間で政権交代が起こり、誕生した村山政権は現実の政治状況に合わせなければならなかった。

当時も憲法を守ろうと言ってきた人たちがその精神をすべて捨ててしまったということでは無かったと思います。ただ連立政策の政策協定と党の基本政策が整理がつかないままだったということです。

村山さん自身、苦悩の中で決断されたのでしょうが、私は憲法に盛られた平和主義の精神は、あの当時 も失っていなかったと思います。 私自身のことでいえは、当時、広島にいて、党の基本的路線と連立政権における政策協定は違ってしかるべきだということ、したがって従来通り、護憲という党の基本路線は、守ってほしいということを言い続けてきました。

その後、党名が社会党から社会民主党に変わり、社会民主党も民主党へ多くの議員が流れていく時代を経て、状況も変化しています。新ガイドラインが結ばれる中、日本の自衛隊の位置づけ、役割も随分変わってきました。現時点で、社民党としてどういう政策を持つべきか、今、真剣に考えているところです。

私は憲法9条の不戦の精神を大事にして、それにできるだけ近づけた政策を打ち出すべきだという方向で党内の論議が進められるものと思っていますし、近々、そういう方針を発表できると思います。

一度、政党が転換した政策を戻すためには、民主的な手続きを経て、党内の合意を作りながらやるのが党の方針です。私としても、そこのところの討論をしっかりやっていきたいと思います。

昨年の衆議院選挙で、私たちは憲法9条を護ることを訴えて、13名の新人議員を当選させることができました。21世紀を迎えて、改めて憲法の大切さということを訴え、責任を持つ党でありたいと思います。

第9条はどこから読んでも不戦

・・・・・・第9条にはさまざまな解釈が存在します。たとえば自衛権は国家の固有の権利であり、日本も自衛の戦力は認められるという見解もあります。

[金子哲夫]

個人的見解を申し上げますと、第9条の条文はどこから読んでも不戦です。

交戦権を否定し、戦力を保持しないこと、武力によって紛争の解決をしないと明確に言っています。 最近、民主党の1年生議員と話しましたら、彼もそのことを言っていました。交戦権を否定している国家は無いと。確かに憲法で明確に交戦権を否定している国は日本だけということは間違いないと思います。

ただ私はそれは、世界の人たちが向かっていくべき道筋を先駆的に示したものと思います。「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」とある前文、および第9条がひとつのものとして憲法全体の平和主義を貫いているととらえています。そこに他の解釈を入れる余地は無いと思っています。

国際社会は戦争をできるだけ無くそうという方向に向かっていると思います。第1次世界大戦後には国際連盟を作り、第2次世界大戦後は国際連合を作った。そのもう一歩先をいくのが日本国憲法です。

・・・・・・自衛の戦力を持たないということになりますと、では侵略に対してどう対処するのかという疑問が呈せられると思いますが?

[金子哲夫]

その問いに対しては、では日本を攻めてくる国はどこですかと逆にお聞きしたい。

今、日本を取り巻いている各国の状況の中で、現実的に軍事力をもって日本に進攻してくる国があるか、ぜひ教えていただきたい。 私は、日本を侵略する国は無いと思っていますが、それでも仮にあったらどうするのかと重ねて問われれば、武力で抵抗するよりも、非武装で殺されることになれば、その道を選びますと言いたいと思います。

非暴力による抵抗によって失われる命と、自衛隊が本気になって抵抗したとき失われる命と、どちらが多いか。日本人の生命と財産を守るといっていますが、ひとたび戦争になり、戦力によって防衛しようとすれば、どれだけの被害が生じるかと言いたい。

沖縄戦、広島、長崎、そして全国の空襲でどれだけの国民の生命が奪われたか。結局、どんな巨大な軍事力をもってしても、国民の生命と財産を守り切ることはできない。その歴史の事実を忘れてはならないと思います。

日米関係から 軍事的性格を無くすべき

・・・・・・日米安全保障条約についてはいかがお考えでしょうか?

[金子哲夫]

現在、2国間の軍事同盟は日米安保以外、世界のどこにもありません。世界は地域安全保障という考え方に向かっています。まずそこに発想を変えなければなりません。

社民党は「北東アジア総合安全保障」の創設を提唱しています。アジアの人たちの間で、信頼と友好の関係を築いて、その中に平和を作っていく発想に切り替えることが大事です。

今、朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化交渉がなかなか進まないことが北東アジアにおける懸案材料とされますが日中関係にしても、国交正常化までは中国に厳しい見方が日本国内にありました。

しかし国交を回復してから状況が変わりました。今も日本の一部には、中国の防衛力が大きくなり過ぎているとする方がいますが、これだけ経済交流、多くの人たちが行き来する状況が作れている中、少なくとも日本国民に中国が敵国だという意識は無いと思います。

そういうことを考えますと、私は日朝国交正常化こそ、北東アジアで、日本の安全保障の一番大きな鍵にな ることだと思います。 土井たか子党首は北東アジア非核地帯構想を打ち出し、その実現のため努力されています。韓国、北朝鮮、モンゴル、日本で非核地帯を作ろうということです。これも信頼と安定を作るひとつの重要な柱になると思います。 アジアの安全保障はそういうことを包含的にやっていくべきです。

そのような形でアジアで平和が維持されるようになれば、日米軍事同盟の役割はむしろアメリカにとっての意味しか無くなり、軍事同盟としての役割を終えていくでしょう。

私は周辺国の軍事力の問題より、日本の国土にこれだけあ る米軍基地を中心とする軍事力の脅威のほうが遥かに大きいと思います。日本における米軍基地を撤去していくのは北東アジアの平和と安定により有効です。周辺国の懸念を除去するためにも、日米関係から軍事的性格を無くしていくことが大切です。

私も日米はより友好な関係を作らなければならないと思います。しかし今のような日米軍事同盟を頂点にした関係ではなく、日米安保条約を解消して、友好親善条約的なものに変えていくべきです。

・・・・・・核兵器を用いるような国家間の全面戦争の可能性は低くなっていくかもしれませんが、地球上から地域紛争が無くなるまではしばらく時間がかかるのではないでしょうか。世界平和への貢献ということについても日本はPKOに協力すべきではないと?

[金子哲夫]

社会党は国際頁献については、平和的貢献、人的貢献ということを申し上げています。

今、日本には自衛隊という武力を持つ組織があるから、それを使おうということになるので、できるだけ早く自衛隊を解消して、災害救助隊のような組織に再編することを提唱しています。そういう性格に変えれば、私はそういう論議は無くなると思います。  

私も世界で宗教的な対立や民族間の対立があることは心が痛みます。そういうことは無くすべきだと思っています。だからといって日本が軍事力を持っていくことは認められません。

PKO法が強行採決されたとき、当時の広島県の社会党は「ヒロシマの心」を訴えて、女性議員を当選させました。そういう思いを持っていますので、PKOでも、日本がいっさいの軍事的行動を拒否するのは当然だと思います。

→ 次項

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