楽をする事で新たに生み出された時間。
その時間を使って子どもにしてあげられる事を考えてみると少し前向きになれますよ。
(丹野)「ジェームズさんモーリンさんへ。
先日は大変お世話になりありがとうございました。
私はジェームズさんに会って認知症と共に生きるジェームズさんもすごいと思いましたが一人の男性として尊敬しました。
フォーラム終了後私と一緒に歩んでいると言ってくれた事うれしい事ばかりでした。
ジェームズさんを見習ってもう少しレディーファーストをできるようにしていきたいと思っています。
丹野智文」。
去年11月認知症の常識を変えた男性がスコットランドからやって来ました。
ナイストゥシーユー。
ジェームズさんは17年前認知症と診断されました。
認知症になると何も分からなくなるとする当時の常識に対し「私たち本人の声を周囲が聞いていないだけだ」と反論。
偏見を改める事を求めたのです。
ジェームズさんとの対話から私たちが認知症と共に生きていくために何が必要か考えます。
ジェームズさんが暮らすイギリス北部スコットランド。
ここに14年前から続く世界に知られる活動があります。
メンバーはおよそ130人。
全員が認知症です。
医療やケア偏見などテーマごとに集まって議論し提言しています。
グループ誕生のきっかけはジェームズさんが感じた疑問でした。
「認知症の人の生活に関わる事が本人の意見を聞かずに決まるのはおかしい」。
今ではスコットランド自治政府と定期的に会合を持ち計画作りにも参画するようになっています。
今日本で認知症の人は500万人以上。
誰にとってもひと事ではない時代を迎えています。
自分が認知症になった時どのような生き方ができるのか。
スコットランドの経験に学ぼうと開かれたフォーラムには全国から参加者が集まりました。
その中にジェームズさんに手紙を書いた丹野智文さんをはじめ数多くの認知症の人の姿がありました。
(拍手)皆さんこんにちは。
ジェームズ・マキロップです。
私は認知症と共に生きています。
診断されたのは1999年。
残念ながら認知症の症状は徐々に進行しています。
しかし私はそれを受け入れ自分の人生を楽しもうと決意しています。
当時は認知症になると意味のある事を話せなくなるというのが世間の常識でした。
私が信念を持って話すのを見た人たちは本当に驚き子どもを褒める時のように頭をなでる人もいました。
そこで私たちはスコットランド認知症ワーキンググループを立ち上げました。
そして認知症の人がいそうなあらゆる場所に出かけ「仲間になりませんか?」と呼びかけたのです。
その年のうちに13人が集まりどんどん成長し今では世界で知られるまでになりました。
目標はこれから認知症になる人たちがよりよい人生を送れるようにする事です。
壁はありますがそれだけ決意が強くなります。
(拍手)日本でも自ら声を上げる人たちが現れています。
2年前ジェームズさんたちに学び日本認知症ワーキンググループを結成しました。
当時40歳だった丹野さんは最年少のメンバーでした。
「私たち抜きに私たちの事を決めないでほしい」。
丹野さんたちの声に国は耳を傾けました。
去年認知症に関する初めての国家戦略を発表。
認知症の本人が計画作りやその評価に参加できるようにするとしたのです。
認知症や高齢者等に優しい地域作りを省庁横断的に進める事と致しました。
発表当日ワーキンググループから丹野さんと藤田和子さんが首相官邸に招かれました。
皆さんと一緒に頑張っていきたいと思いますのでよろしくお願いします。
ジェームズさんが出演したフォーラムの翌日。
ワーキンググループのメンバーたちは支援者の協力を得てジェームズさんと妻のモーリンさんと話し合いました。
皆さんこんにちは。
全国から11人が参加。
丹野さんが進行役を務めます。
昨日の話を聞いて佐藤さんはどうだったですかね?やはりジェームズさんが一人でいろんな各地に出向いて仲間を集めたという事に非常に驚きましてその行動力に称賛を覚えました。
今私が一人で出向いていったと言われましたが実際には支援者が一緒に行動した事を心に留めておいて下さい。
認知症の人たちと話をすると皆が共通の不満を持っている事が分かりました。
周りが自分を子どものように扱うというのです。
私が話しかけただけで多くの人が驚きました。
長い間誰とも話さなかったので自分はもう話せなくなったと思い込んでいたのです。
話し始めると取り上げたい問題が次々にあふれ出てきました。
ジェームズさんを見てるとすごい自信があってすばらしいなと思うんですけど自分が価値ある人間だと思えた瞬間というのはどういうところだったのかな…。
誰でも認知症になると自信を失います。
周りの目がそうさせるのです。
私も何もできなくなったと思い込み家で一人椅子に座ったままでした。
そこにやって来たのがブレンダでした。
彼女は私が動き出せるようそっと背中を押してくれました。
強くではなくそっとです。
私が自信を取り戻すまで続けてくれたのです。
ブレンダさんはアルツハイマー協会からジェームズさんのもとに派遣された職員でした。
彼女の行った独特の支援の方法がその後人生が大きく変わるきっかけになります。
ブレンダは私に何がしたいか尋ねてくれました。
例えば「富士山に登りたい」と言えば彼女自身は無理でも若くたくましい男性を探してきてくれるのです。
私の希望がかなうようあらゆる可能性を考えてくれました。
認知症の人に対して「何をしたいですか?」と誰も尋ねません。
これこそが根本的な問題です。
私たちは聞いてほしいのです。
ジェームズさんの奥様にお聞きしたいんですがご主人がこういう活動というか活躍をされておられる事についてですねどういうふうに受け止めておられるのかお聞かせ頂きたいんですが。
私はとても喜んでいます。
なぜならジェームズが診断された時私たち家族の生活は崩壊寸前でしたから。
支援を受け始めてジェームズが以前のジェームズに戻り支援の大切さを痛感したのです。
私も認知症になったおかげで皆さんとお会いする事もできてジェームズ夫妻とも会う事ができて認知症になってよかったなって思える瞬間があるんですね。
ジェームズさんはそういう事がありますか?私は誰にも認知症になってほしくありません。
人によってはがんになる人もいれば心臓発作を起こす人もいます。
それが私の場合たまたま認知症だった。
だから特別に幸せだという事はありませんが嘆きもしません。
ジェームズさんがどのような目標を持ってるかっていう事だったんですけど。
私の目標は認知症の人にとって間違っていると思う事を見つけたらそれを正すべく行動を起こす事です。
必要があれば役所にも出向きます。
スコットランドで私たちの役割はまだ終わっていません。
今までやってきた事をこれからも続けていくつもりです。
今日は日本のワーキンググループのみんなと一緒にジェームズさんと交流意見交換を持って私たちの会がますます発展するように願っております。
どうかお力を貸して下さい。
(拍手)話し合いを通して分かってきたのはジェームズさんも認知症になった時周囲の偏見にうちひしがれたという事でした。
敬意を込めて。
ありがとうございます。
(拍手)そして偏見を改めるようワーキンググループを立ち上げるとその活動を支援する仕組みも作られていったという事です。
サンキューベリーマッチ。
(拍手)これからの活動の課題が見えてきました。
ジェームズさんがワーキンググループの活動を始めて14年。
その原点には家族と共に味わった苦しい日々がありました。
診断当時認知症による変化が起きているもののそれがなぜだか分からずもがいていたジェームズさん。
モーリンさんや4人の子どもたちに暴言を浴びせ暴力を振るうようになっていきました。
モーリンさんと子どもたちは家を出ようとまで思い詰めました。
あんな思いはもう誰にもさせたくない。
その決意が今も活動の原動力になっています。
今回ジェームズさんと出会った丹野さんには聞いてみたい事がありました。
家族を支える一人の男性としてこの病気とどう向き合うのか。
丹野さんも2人の子どもの父親です。
私は普通の人間です。
認知症ではありますがそれが私の全てではない。
一人の人間として夢や希望を持ちながら生きているのです。
病気というものはなる時にはなるものです。
つきあっていくしかありません。
認知症っていうのをできるだけ人に知らせる事で助けてもらえるしいい事があるのにまだまだやっぱり隠した方がいいよっていう人も中にはいるんですよ。
でも私は本当にオープンにしてよかったなって助けてもらってたくさんの人が周りにできたのでよかったなと思ってるのでジェームズさんは病気をオープンにするっていう事についてどう思ってるかちょっと聞きたいなと思って。
自分が認知症である事を隠すと受けられるはずの支援を拒否する事になります。
私も最初は隠していました。
その状態を抜け出せると思えず本当につらい時期を過ごしていました。
私は周囲の偏見を恐れていました。
とりわけ子どもたちが学校でいじめられないかと。
それを思うと恐ろしくてなりませんでした。
やがて私は公表しようと決断しました。
自分が公表すればほかの人も公表しやすくなりみんな生きやすくなると考えたからです。
すごい!子どもさんたちはやっぱり今お父さんがこういうふうに活動してる事に対してやっぱり誇りに思ってますか?はい。
とても誇りに思ってくれています。
私が認知症になった当初家族には本当に苦労をかけましたから。
認知症である事を公表して支援を得る事の重要さを理解してくれています。
やっぱりその支援者っていうのがものすごい大切だと感じてるんですね。
私には…ジェームズさんにはブレンダさんがいると思うんですが私には若生さんという人がいてそれを私だけじゃなくほかの人たちにもたくさんのサポーターっていう人たちがつくにはどうしたらいいかなって…。
スコットランドにも同じ問題があります。
よい支援者を増やすにはお金がかかりますがそれは政府次第です。
よい支援者が増えて認知症の人が介護施設に入らず自宅で暮らすなら巨額の経費節減になり政府は歓迎するはずです。
本当におんなじだなと思って考えている事がね。
やっぱり…これをね…日本の政府に伝えて変えてかなきゃいけないと思うのでそのためには何が必要だと思うか…。
大きくなってしまったかな?まずあなたと同じ認知症の人たちに会いに行きグループを育てて下さい。
そして自分はプロなんだという気概を持って政府と話し合って下さい。
その時には全員に影響するような大きな問題を取り上げます。
例えば「なぜ認知症だと支援者を頼めないのか」とか「なぜ施設を増やさないのか」と質問しそれがほかの人たちにとっても利益になるのだと説明して下さい。
政府は問題は放っておけば消えてなくなると考えるものですが悪くなるだけです。
私が言う「プロ」とは例えば手紙を出す時つづりが間違っていないか文法に誤りがないか確認し返信用の封筒を同封する事です。
それによって相手が受ける印象が違ってくるからです。
そして役所に行く時にはきちんとスーツを着用し髪を整えていきます。
ビジネスライクに進めれば相手も敬意を払ってくれます。
どなったりしてはいけません。
相手に敬意を払い時間に遅れず時間を超えないようにして下さい。
役所の人たちは忙しいですから。
う〜ん…。
今までは何となくしか自分の中でプロ意識っていうのは実はなくて何となくこう…動けばいいかなってしか思ってなかったけど話を聞いた事でやっぱり私たちが変えていくんだという強い意識…やっぱりそれは藤田さんにはあったんだけど私にはまだまだついていけばいいやっていう考えだったのがやっぱり変えていかなきゃいけないかなっていうのが子どものためにも妻のためにも両親のためにも変えていかないといけないなって今日改めて感じました。
ジェームズさんが伝えたのは認知症になった自分たちにしかできない役割が社会の中にあるという確信でした。
大阪で2回目のフォーラムが開かれました。
認知症の人たちの声に医療や介護社会はどうこたえるのか専門家と共に考えていきます。
(町永)ジェームズさんモーリンさんご夫妻が今着席です。
(町永)よろしくお願い致します。
当事者が開く新時代。
私たちは次の社会をあえて言えば次の世代に誰もが安心して生きやすい社会を今作る現場に立っています。
そのスタートを切らせてくれたのは認知症の当事者ご本人その家族であります。
登壇していらっしゃる認知症介護研究・研修東京センター研究部長まさに介護の最前線で活動なさっている永田久美子さんどんなふうに考えればよろしいでしょうかね?丹野さんジェームズさんお話ありがとうございました。
認知症になって何が起こるかは当事者がプロでなった人しか分からない事から学ぶという事が本当になかったというのが一番大きな点ではないかと思います。
(町永)粟田さん医療の側も当事者の声を聞く事によって変わってくるのかなっていう印象を持ってるんですが…。
永田さんのおっしゃるとおりです。
認知症という言葉で1くくりにされているイメージというものとはですね長い認知症と共に生きていく旅路があるんだという事をちゃんと理解しなくてはいけないと。
(町永)ともすれば我々の社会は介護が必要になったところをスタート地点として認知症の考え方を築いていったけどもっとその前があるんだったら当事者の声に…。
そういう事ですね。
厚生労働省認知症施策推進室長の水谷忠由さんにもおいで頂いております。
認知症の方っていうのは決して壁の向こう側に行っちゃったかわいそうな人ではなくて認知症になったらどうなる事か教えてくれる人。
丹野さんを支えてる方も丹野さんから得てるものがある。
そういう意識を本当に持てるかどうかっていうのが社会として認知症に向き合っていくって事の一番根本にあるんじゃないのかなと思います。
ジェームズさんに聞きたいと思いますがジェームズさんもいろいろな所で講演する事によって周りの人の偏見が解けていく受け止め方が変わっていくという手応えを感じていますか?そう思います。
スコットランド政府は認知症への偏見を改め私たちをこの病気の専門家として受け入れるようになりました。
(町永)自分たちで立ち上がって何とかしようっていうのがスコットランド認知症ワーキンググループジェームズさんたちの活動でヘルプカードっていうのを作ったって…。
(町永)これ丹野さんも自分でヘルプカードって…。
そうなんですよ。
スコットランドで作ってるのを知らなかったです私は。
私は自分で作ったっていうのがありましてあの会社に行くのに道に迷うんですよ。
スーツ姿で会社に行くので「私会社の場所忘れたので教えて下さい」って聞くと変な顔で見られたので。
(町永)お若いしね。
で女性の人に聞くとナンパだと思われてしまって。
(町永)いい男だしね。
私の場合は「私は若年性アルツハイマー本人です。
ご協力お願いします」っていう事を書いてそれを見せる事でみんな優しく教えてくれるんですよ。
(町永)丹野さんね社会の側認知症でない人々の側への問いかけとも思えるんですけど。
やっぱり偏見があるので家族の中にも偏見があると思うんですよ。
当事者の中にも偏見があると思います。
だからこそ周りから何を言われるんだろうという偏見があるから自分から言いたくないっていう事だと思うんですよ。
私は使っていいと思って使ってるんですけどまだまだ使いたくないという人もやっぱり出てくると思うのでせっかくいいものがあるのに使いたくないというのは周知がされてないからなって感じてます。
私やっぱりヘルプカードというのは一つの手段だけれどもやっぱり理解というものを知識でとどめずに本人のいる身近な地域の中で生きた理解と即できる事もあるという本当にハードルがそんな高くないできる事があるんだっていうそんな感覚をしっかりと広げていくために非常に重要だと思います。
(町永)ヘルプカードって認知症の人のためじゃなくって地域のために認知症と出会う大きなツールだというふうに思うんですけど水谷さんどんなふうに…。
まずその新しいオレンジプランの中で認知症の方が自らの言葉で語る姿を積極的に発信していくんだって事を掲げております。
それは最初の丹野さんの紹介のVTRの中でですね総理とお会い頂いた場面とか出てきたかと思います。
あそこで総理がおっしゃっていた言葉一緒に頑張っていきましょうというメッセージ一緒に頑張っていきましょうというメッセージを出したって事はそれは私は非常に大きな意味があると思ってます。
医療やケアのこれまでの在り方を当事者の人の声を聞くという事は大きく組み替えていくっていうふうに考えてよろしいですかね?本人の声を大事にしようというのは2000年前後ぐらいからはかなり言われてきたんだけれどもそれはやっぱり医療やケアの情報として医療やケアを提供するための情報として本人から聞こうというやっぱりあくまでも提供する側のために聞いていたという面があったと思います。
丹野さんの言葉とかジェームズさんの言葉の中にもありますけども認知機能というものが低下したり障害された時にそれと共に生きていくという事がどういう事かって話がたくさん出てきたかと思うんですけども恐らく診断する医師はそういうようなプロセスの中で診断をして病気を説明して今後の暮らしの事を一緒に考えるというそういうような事を医療者としてやるという事が恐らく認知症の医療の基本というかスタンダードというふうに考えていかなくてはいけないんじゃないかなというふうに思います。
(町永)これは粟田さんならではねそうやって診断された時から支援につなげるような医療って端的言ってないですよね。
「ないですよ」って断言しちゃいけないんだけど少ないんじゃないかなっていう気が…。
今のところはないですね。
これは我々の責務は聞いた者の責任は大きいなって私も思いました。
ジェームズさんいかがでしょう?認知症はこの世にたくさんある病気の一つにすぎません。
しかし私はいつもこう念じています。
認知症の人によい事はみんなにとってよい事である。
だから丹野さんたちワーキンググループの活動が大切なのです。
私から丹野さんへのアドバイスは「諦めるな」。
あなた方が価値ある人間である事を人々に示しそれが認められるまで何度でも扉をたたき続けて下さい。
(町永)ジェームズさんモーリンさんありがとうございました。
2016/01/26(火) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV 認知症▽ジェームズとの対話(1)当事者の声が“常識”を変える[字]
世界初の認知症本人のワーキンググループを設立した、ジェームズ・マキロップさんとの対話シリーズ。第1回は、同様に声を上げ始めた、日本の人々との対話の模様を伝える。
詳細情報
番組内容
去年11月、世界初の認知症本人のグループ、スコットランド認知症ワーキンググループを立ち上げた、ジェームズ・マキロップさん(75)が来日した。「私たち抜きに私たちのことを決めないで」を合言葉に2002年に生まれたグループは、今や行政の施策立案に参画するまでになった。日本でもこれに学び、2年前日本認知症ワーキンググループが発足。声を上げ始めた日本の認知症の人たちとジェームズさんとの対話の模様を伝える。
出演者
【語り】河野多紀,【声】千田光男
ジャンル :
福祉 – 障害者
福祉 – 高齢者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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