NHKスペシャル 新・映像の世紀「第4集 世界は秘密と嘘(うそ)に覆われた」 2016.01.27


社会主義国家東ドイツを支配した秘密警察シュタージ。
冷戦下で撮影された極秘映像が公開された。
写真やネガ170万枚。
録音や映像は3万巻に及ぶ。
大半は市民を盗撮した監視映像である。
これはシュタージによる監視行為を記録した映像である。
西側と通じていると密告された市民の留守宅に忍び込みその証拠を探す。
まずインスタントカメラで部屋を撮影。
メモ手紙そしてゴミまでしらみつぶしにあたる。
国を挙げて隣人の密告が奨励され隠しカメラや盗聴器が至る所に仕掛けられた。
対立陣営のアメリカでも同じような事が行われていた。
これはFBIの捜査活動を記録した映像である。
盗聴郵便開封家宅侵入脅迫。
全て違法な捜査である。
目的は共産主義者を捜し出す事だった。
自由と競争をうたうアメリカにとって共産主義は国を脅かす危険思想だった。
共産主義者の摘発赤狩りは既にソビエト建国時から始まっていた。
第2次世界大戦後世界は2つの陣営に分かれた。
資本主義のアメリカ。
社会主義のソビエト。
ヨーロッパは鉄のカーテンで分断された。
お互いの憎しみがいつかさく裂し核戦争が勃発する。
恐怖のシナリオに世界がおびえた冷戦時代。
核兵器による恐怖の均衡が続く中米ソは直接戦う事を避け世界各地で代理戦争を繰り返した。
軍拡競争が果てしなく拡大。
罪もない人々が巻き込まれた。
そして米ソが引き揚げたあと荒廃した大地に残されたのは大量の武器と底知れない憎悪だった。
百年の時を映像で追体験する「新・映像の世紀」。
私たちはなぜ今こんな世界に生きているのか。
その答えを映像の中に探していく。
今回は闇に閉ざされていた冷戦の時代。
発掘映像によって米ソの謀略戦を明らかにする。
21世紀の今世界各地で噴き出している憎しみを生んだ秘密と嘘の時代である。
これは第2次世界大戦直後の廃虚のドイツ。
敵対するアメリカとソビエトは大戦中は手を結びナチス・ドイツを倒した。
だが共通の敵であるファシズムが姿を消した時米ソの覇権争いが再びむき出しとなった。
焼け跡でまず米ソが繰り広げたのはナチの科学者やスパイの争奪戦だった。
ソビエトはナチ科学者の頭脳を大量にスカウト。
後れていたミサイルや化学兵器の分野を急速に進歩させた。
一方アメリカも1,600人を超えるナチの残党を雇った。
アメリカに上陸したナチの科学者やスパイたち。
戦犯の容疑を免れ笑顔を浮かべている。
ミサイル兵器の第一人者フォン・ブラウンもいた。
後にアポロ計画を推進した人物である。
ソビエトに対するスパイ工作の専門家ラインハルト・ゲーレンもいた。
アメリカにソビエトの機密情報を提供する見返りに戦犯のリストから除外された。
ナチの残党をスパイとして大量に雇った巨大諜報機関CIA。
ウォール街の弁護士だったアレン・ダレス長官がCIAを率いた。
ダレス長官が邪悪な組織と呼んだソビエトの秘密警察KGB。
世界中でスパイ戦を担い国内では人民を弾圧した。
1924年に権力を握り恐怖によってソビエトを支配した独裁者スターリン。
一方で見えない敵におびえるさいぎ心の塊だった。
スターリンは秘密警察に命じてソビエト国内にいる裏切り者を捜し出そうとした。
疑われた者は強制収容所に送られ形ばかりの裁判によって大量に粛清された。
(銃声)スターリンは大戦中からアメリカに巨大なスパイ網を築いていた。
政府機関を中心に349人ものスパイが潜入していた。
IMF国際通貨基金を創設した大物官僚ハリー・デクスター・ホワイト。
後にソビエトのスパイである事が判明した。
大統領の側近首席秘書官のラフリン・カリーもソビエトのスパイだった。
ひそかに外交機密をソビエトに渡していた。
ソビエトの最大のねらいはアメリカから核兵器の機密を盗み出す事だった。
大戦中既に原爆開発のアメリカの秘密基地にもスパイを送り込んでいた。
原爆の設計図を含む最高機密を次々と盗み出した。
ソビエトは原爆は4年後に水爆は3年でアメリカに追いついた。
ソビエトが核兵器を手にした事でアメリカの市民は恐怖におびえた。
これは800万のニューヨーク市民が参加した避難訓練の記録映像である。
ウォール街から人影が消え街は廃虚のような静けさに包まれた。
どこかに共産主義のスパイが潜んでいる。
赤狩りが果てしなくエスカレートしていった。
議会の公聴会で疑われた人物が尋問される様子がテレビ中継され共産主義への恐怖をあおった。
ハリウッドは赤狩りの格好の標的とされた。
政治家たちはハリウッドを見せしめにして大衆の注目を集めようと企てた。
大スターが議会に呼ばれ魔女狩りのような尋問が続いた。
証言を拒めば映画界を追放される。
売れない俳優が突然脚光を浴びた。
ロナルド・レーガン。
驚くほど赤狩りに協力的だった。
1985年に機密解除されたFBIファイルによればレーガンはFBIのスパイだった。
コードネームはT−10。
ハリウッド俳優組合の記録映像。
右側がレーガンである。
政府を批判する者をひそかに監視。
FBIに密告した。
黒幕として赤狩りを操っていたFBI。
CIAと並ぶアメリカの強力な情報機関である。
CIAは海外FBIは国内を活動の場とする。
アメリカ中にFBIのスパイを潜ませ共産主義者を捜し出そうとした。
フーバーの赤狩りは醜悪な副産物を生んでいた。
調査の過程でフーバーは政治の裏情報を握った。
実に48年間8代の大統領に仕えた。
権力の源泉は長きにわたって蓄積された秘密ファイル。
冷戦終結後FBIの秘密ファイルの一部が開示された。
これはハリウッドの女優マリリン・モンローのファイル。
モンローはロバート・ケネディと親しくしていた。
ケネディ政権で司法長官を務めたロバート・ケネディ。
大統領の弟である。
ホワイトハウスの一角にはフーバーの銅像まで作られた。
1953年ソビエトの独裁者スターリンが世を去った。
後継者フルシチョフは後にスターリンを批判したがアメリカとの謀略戦は引き継いだ。
スターリンが去ったその年アメリカはひそかに海外の政権転覆をねらった秘密工作を進めていた。
ターゲットはイランだった。
20世紀初頭からイランの石油利権を独占していたのはイギリスだった。
イラン人は安価な労働力として酷使されるばかりだった。
そこに勇気ある政治家が現れた。
1951年に首相に選ばれたモサデク。
民主的な改革に取り組みイギリスから石油資源を奪還した。
それに対してイギリスは国連でモサデクを激しく非難した。
だがモサデクは一歩も引かなかった。
モサデクは共産主義者ではなかったがソビエトの支援を受けたイラン共産党がここぞとばかりに支持した。
アメリカはイランが共産化し石油がソビエトに奪われる事を恐れた。
CIAのダレス長官はイギリスの諜報機関と協力しモサデク政権を倒す秘密工作エイジャックス作戦を開始した。
2013年に公開された機密文書によればCIAの工作員は100万ドルをばらまき軍人やギャングを買収。
暴力を使って強引に政権を転覆させようとした。
モサデクは国家反逆罪で逮捕された。
CIAが仕掛けたクーデターはあっけないほど簡単に成功した。
亡命先のローマから帰国したパーレビ国王を支援し親米政権を作った。
新たにアメリカの石油メジャー5社が利権の4割に食い込んだ。
この成功に味を占めたCIAはその後も世界各国で秘密工作を仕掛け反米政権を次々と転覆させていく事になる。
イラン国民のアメリカへの怒りが爆発するのは26年後の事である。
社会主義陣営でもおぞましい事態が起こっていた。
街自体が分断されたベルリン。
東西対立の最前線となっていた。
1961年市民の西側への逃亡を防ぐため壁が築かれた。
西側と接する窓も塞がれた。
それでも多くの人々が命懸けで逃亡を試みた。
旧東ドイツの秘密警察シュタージは西側と通じる者を摘発するため異常な監視体制を築いた。
密告を奨励。
国民の7人に1人が協力した。
これは密告によって監視された女性の盗撮映像である。
盗撮は1か月にわたって毎日続けられ膨大な映像が撮影された。
広場で落ち合った2人の女性。
西ドイツの親戚に連絡を取っただけでひそかに監視されていた。
いずれのケースもスパイの証拠は得られなかった。
市民が集まる広場は24時間監視されシュタージのスパイが紛れ込んだ。
どこかで誰かから監視されているという恐怖は市民から自由を奪う十分な効果を上げた。
シュタージの収容所。
政治犯がここに閉じ込められた。
精神に異常を来す者も多かった。
冷戦後シュタージの秘密文書が公開された。
300万人を超える市民が監視記録の閲覧を望んだ。
ベルリンの壁が築かれた年。
アメリカでは43歳のケネディ大統領が誕生していた。
若き大統領は翌年核戦争勃発の危機に直面した。
アメリカは隣接する社会主義国キューバの不審な動きに気が付いた。
ソビエトの輸送船が盛んに出入りしていた。
そこにモスクワに潜伏しているスパイから情報が届いた。
キューバに持ち込まれているのは核ではないか。
CIAは偵察機を飛ばした。
偵察機が撮影した写真によって核弾頭を搭載できるミサイルが持ち込まれている事が確認された。
アメリカ政府は驚がくした。
主要都市が核ミサイルの射程距離に入っていた。
3年前キューバでは革命家カストロが親米政権を倒した。
アメリカの武力侵攻を恐れたカストロはソビエトの援助を求め軍事面での協力を強化した。
アメリカに核ミサイルの機密情報をもたらしたスパイ。
その正体はソビエト軍参謀本部大佐ペンコフスキーだった。
権力闘争に明け暮れる指導者に絶望していたペンコフスキーはソビエトの最高機密をCIAに渡していた。
ケネディはテレビ出演した。
危機を世界に公開する事でソビエトをけん制するねらいだった。
世界中が息をのんで危機の行方を見守った。
ケネディはキューバ周辺を海上封鎖すると宣言した。
アメリカにパニックが広がった。
人々は核シェルターに閉じこもりスーパーマーケットからは食料品が消えた。
その直後ソビエトに潜伏させていたスパイペンコフスキーからの連絡が途絶えた。
ソビエトはペンコフスキーがアメリカのスパイである事を突き止めていた。
冷戦後に機密が解かれたKGBの監視映像である。
KGBはペンコフスキーを泳がせアメリカの動きを探ろうとした。
機密文書を超小型カメラで撮影している様子も窓越しに捉えた。
監視に気付いたペンコフスキーはひそかに亡命の準備を始めた。
そこに事件が起こった。
ソビエト軍がキューバ上空を飛んでいたアメリカの偵察機を撃墜したのだ。
世界に更なる緊張が走った。
アメリカ空軍参謀総長ルメイはソビエトへの先制核攻撃を大統領に進言した。
皆殺しのルメイと恐れられたカーティス・ルメイ。
第2次世界大戦中東京をはじめ60を超える日本の都市を爆撃する作戦を指揮した人物である。
ルメイはソビエト全土にわたって7,000メガトン広島型原爆46万個分の核ミサイルを投下する計画を立てていた。
少なくとも数億人の民間人が犠牲となり北半球全体が放射能に汚染される。
核ミサイルの発射基地はアジアにもあった。
米軍統治下の沖縄。
ひそかに1,300発の核弾頭が持ち込まれ32基の核ミサイルが配備されていた。
射程距離内にソビエトの一部と中国が入る。
あとは大統領の命令を待つばかりだった。
だがケネディはルメイの進言を却下する決断を下した。
スパイペンコフスキーからの情報を分析した結果たとえ先制攻撃してもキューバのミサイル基地せん滅には至らず報復は避けられないという結論だった。
水面下では米ソの間で妥協点を探る努力が続けられていた。
土壇場でフルシチョフが譲歩した。
ソビエトがラジオでミサイル撤去を発表。
世界が安堵した。
ソビエトのミサイルがキューバから撤去される。
アメリカ軍が撮影した映像である。
アメリカが今後キューバへの武力侵攻をしないという条件で両国は合意にこぎ着けていた。
一人のスパイがもたらした機密情報が大統領の決断を支え世界は破滅を逃れた。
そのころペンコフスキーはKGBに拘束されていた。
危機の回避から半年後ペンコフスキーは処刑された。
(銃声)キューバ危機から1年。
ケネディ大統領はエアフォースワンでダラスに降り立った。
妻ジャクリーンのピンクのスーツはこれからの世界平和への希望を象徴しているかのようだった。
しかし…。
そのころ始まったニュースショーは衝撃的なニュースを刻々と伝えた。
暗殺から2日後容疑者オズワルドを捜査のため移送する最中の出来事だった。
(銃声)事件の真相は今も謎のままである。
後継者はジョンソンだった。
新しい大統領にとって緊急かつ最大の難問はベトナムだった。
アメリカは1950年代から南北ベトナムの内戦に介入していた。
北ベトナムは社会主義国家。
アメリカは南ベトナムに傀儡政権を作り打倒を図るがこう着状態が続いていた。
北ベトナムの指導者ホー・チ・ミン。
中国やソビエトの軍事援助を受けていた。
ソビエトの軍事顧問が北ベトナムの兵士を指導する映像である。
地対空ミサイルなどソ連の最新兵器が提供された。
ジョンソン大統領は大規模な空爆に踏み切った。
第2次世界大戦をはるかに超える爆弾を投下。
50万の地上軍をベトナムに送った。
アメリカの指導者はいわゆるドミノ理論に取りつかれていた。
もし南ベトナムが共産主義者の手に渡ればアジアの国々が雪崩を打って共産化してしまうとおびえていた。
アメリカの兵士は米軍統治下の沖縄からベトナムへ向かった。
アメリカ軍の沖縄での極秘訓練を記録した映像が残されていた。
沖縄の村人にベトナム人を演じさせた。
実弾の使用を除けば実戦と全く変わらない戦闘訓練が続いていた。
アメリカの傀儡政権南ベトナムにはCIAの切り札が派遣されていた。
秘密工作のプロコルビーである。
軍とCIAが手を組み北ベトナムと通じる共産主義者を南ベトナムから一掃する破壊工作が始まった。
疑われた2万人以上の民間人が手当たり次第に拷問虐殺された。
恐怖をあおるため殺害したベトナム人の口にスペードのエースをくわえさせた。
共産主義者が潜むとされた村は焼き払われた。
南ベトナムでもアメリカに対する憎しみが拡大した。
CIAの工作員でさえ作戦に疑問を感じ始めた。
それでもジョンソン大統領は勝利は近いと言い続けベトナムへ投入する戦力を拡大した。
ジョンソン大統領とFBIのフーバー長官はベトナム反戦運動を共産主義者の陰謀と見なした。
FBIとCIAは反戦運動の指導者を監視し盗聴脅迫した。
もう一つフーバー長官が敵視していたのは人種差別の撤廃を求める公民権運動である。
先頭に立っていたのはキング牧師だった。
公共施設や学校で黒人を隔離する差別的な政策に抗議した。
キング牧師はこの公民権運動とベトナム反戦運動とを結び付け大きなうねりを作り出そうとしていた。
ベトナムで戦死した兵士の多くが貧しい黒人であった。
FBIはキングは共産主義者の手先だというデマを流し自殺を勧める手紙を送って脅迫した。
キング牧師は政府との対決の姿勢を鮮明にした。
リバーサイド教会での演説は人種を超え多くの聴衆に感銘を与えた。
演説から1年後だった。
キング牧師が暗殺された。
犯人は白人の暴漢だった。
全米の黒人は怒りと悲しみに震えた。
1975年南ベトナムの首都サイゴンが陥落。
アメリカが初めて戦争に負けた。
逃げ出すアメリカ人。
アメリカに向かう最後のフライトに協力したベトナム人が殺到。
乗せてくれと追いすがった。
取り残された人々は大量の難民となった。
同じ頃CIAに対する批判が高まっていた。
外国要人の暗殺拷問クーデターへの関与などCIAの違法な秘密工作を調査するアメリカ議会の映像である。
おびただしい秘密と嘘が暴かれた。
ベトナム戦争終結の4年後。
今度はソビエトがアフガニスタンに侵攻した。
ソビエトの傀儡政権がイスラム勢力によって脅かされていた。
かつてベトナムでソビエトの支援するゲリラに苦しめられたアメリカ。
報復のため最新兵器をイスラムゲリラに提供した。
ベトナム戦争におけるアメリカとソビエトの役割がそっくり入れ代わった戦争だった。
1981年かつて俳優だったレーガンが大統領に選ばれた。
ソビエトを相手に史上空前の軍備拡張を宣言。
米ソはその後も中南米やアフリカを舞台に代理戦争を繰り返す。
大量の武器と憎しみがばらまかれた。
アフガン戦争でCIAの訓練を受けるイスラム戦士たち。
その中にサウジアラビアから参加した若者がいた。
米ソが引き揚げた荒廃した大地に21世紀世界に恐怖をもたらす憎しみの種がまかれていた。
2016/01/27(水) 02:20〜03:10
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 新・映像の世紀「第4集 世界は秘密と嘘(うそ)に覆われた」[字][再]

資本主義のアメリカ、社会主義のソビエト。冷戦時代、両国は激しいスパイ合戦を繰り広げた。秘密工作、暗殺。新たに発掘された映像から闇に閉ざされていた冷戦を見つめる。

詳細情報
番組内容
冷戦時代に東ドイツの秘密警察シュタージが行った諜報活動の映像が公開された。夫婦がお互いに監視し合ったり、親しい隣人を盗撮するなど、人間性破壊のおぞましい映像である。一方、アメリカもCIAの秘密工作によって外国の反米政権を次々に転覆させた。核兵器による恐怖の均衡が続く中、米ソは直接戦うことを避け、世界各地で代理戦争を繰り広げた。世界が核戦争の恐怖におびえ、秘密とうそが覆った狂気の時代を描く。
出演者
【語り】山田孝之,伊東敏恵

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
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