古くなった原発を解体する廃炉。
原発事故をきっかけに去年、国内5基の原発が一斉に廃炉を決定。
解体に向けた作業が始まろうとしています。
日本で原発が運転を開始してからちょうど50年。
原発を解体したときに出る放射性廃棄物をどこに処分するか決まっていません。
今、地元からは不安の声が上がっています。
なぜ処分場は決まっていないのか。
取材で見えてきたのは国も電力会社も原発の運転を優先し問題を先送りにしてきた現実です。
原発の後始末。
廃炉が抱える課題をどう解決していけばいいのか検証します。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
原発から出る放射性廃棄物をどうするのか。
たまり続ける使用済み核燃料や使用済み核燃料を再処理した際に出る核のごみ。
そして寿命を迎えた原発を解体したときにも出てくる放射性廃棄物など処分場の問題を先送りしながら原発が作り出す電力を使い続けています。
原発の運転期間は原則40年です。
今後、全国で老朽化した原発が相次いで廃炉を迫られます。
廃炉作業がすでに始まっているものあるいは、廃炉がすでに決まっている炉の数は赤の14基。
今後、10年の間に廃炉の判断を迫られる原発はオレンジ色の15基に上ります。
原発の解体によって出てくる放射性廃棄物は、全体の3%程度。
3つに分類されます。
直接核燃料に触れていた制御棒など放射能レベルが最も高いのがL1。
地下深く10万年の隔離が求められています。
最も放射能レベルが低いものの量が最も多いのがL3です。
廃炉に伴って出てくる低レベル放射性廃棄物の処分場は電力会社が責任を持って決めることになっていますが廃炉が実際に始まり廃炉の時代が本格的に近づいているにもかかわらず最も放射能レベルが低いL3ですらどこにどう処分するのか決まっていないのが現状です。
処分場が決まらないかぎり廃炉作業が行き詰まるのは確実です。
原発事故後、原発への不信感が高まった中で処分場の立地に向けた合意形成をどのように作り出すのか。
極めて難しいこの問題現状がどうなっているのか先行して解体工事が進む自治体を取材しました。
6年前から廃炉が進められている中部電力浜岡原子力発電所です。
ことし、建屋内の解体に着手。
初めて放射性廃棄物が出る作業が始まる予定です。
主蒸気配管と呼ばれるこの配管は原子炉とつながっています。
内側に放射性物質が残っているため、解体すると低レベル放射性廃棄物になります。
廃炉によって処分が必要になる放射性廃棄物は3つに分類されます。
直接、核燃料に触れる制御棒など放射能レベルが一番高いのはL1。
次に高いのはL2。
主蒸気配管などの周辺機器は最も放射能レベルが低いL3とされます。
広大な建屋内に張り巡らされた配管やポンプ。
L3は、低レベル放射性廃棄物の90%以上を占めます。
中部電力ではその量を1万8900トンと見積もっています。
6年間、廃炉を進めてきた中部電力。
しかし、処分場の選定は全く進んでいません。
廃炉を開始した当初処分場は、建屋内の解体に着手するまでに定めるとしていました。
ところが去年3月中部電力は、処分先を未定とし先送りにしたのです。
なぜ処分場を決められなかったのか。
当初、中部電力はほかの電力会社と協議したうえで処分場の選定を進めようとしていました。
しかし、廃炉を開始したあとに福島第一原発の事故が起きます。
国民の間に放射性廃棄物への不安が高まり処分場の選定は完全にストップしたといいます。
処分場が決まらない中去年9月中部電力が発表したのは建屋内に廃棄物を一時的に保管するという計画でした。
あくまで仮置きであるとしていますがいつまで仮置きを続けるのか見通しは示していません。
こうした事態に地元では不安が高まっています。
浜岡原発がある御前崎市の石原茂雄市長です。
石原市長は一時保管した敷地がそのまま処分場になるのではないかと懸念しています。
浜岡原発より早く15年前から廃炉が始まっている茨城県の東海原発。
より差し迫った状況に直面しています。
解体工事ですでによりレベルの高いL2に相当する廃棄物が出ています。
3年後にはL1も発生する見込みです。
しかし、解体は処分場が決まらないまま進められてきました。
解体で出た廃棄物は敷地内の倉庫で一時保管を続けています。
その数、ドラム缶でおよそ2000本分。
倉庫の容量は残り20%を切り処分場の確保に迫られました。
去年7月事業者の日本原子力発電はL3の処分場を原発の敷地内に建設する計画を打ち出しました。
国の基準に従い容器に入れた廃棄物を、敷地内の地下4メートルの深さに埋め50年間、管理する計画です。
廃炉措置の状況をご説明致します。
日本原電は東海村や周辺の自治体で30回住民説明会を開き安全性について説明してきました。
しかし、最も低いレベルとはいえ不安を感じる住民も少なくありません。
東海村の山田修村長です。
今回、NHKの取材に対しL3に限っては処分場を容認する考えを初めて明らかにしました。
しかし、山田村長は今後発生するL1やL2まで敷地内で処分することは受け入れられないといいます。
今夜は、原発の取材を続けています科学文化部の本木記者と共にお伝えしてまいります。
東海村の山田村長、L3であればやむなしということをおっしゃっていましたけれども、自治体の取材をされていて、このことば、どのようにお聞きになりましたか?
不安を抱く住民がいる中では、やはり苦渋の決断だったんだと思います。
ただ、東海村は、国内初の原子炉が運転を始めて、多くの原子力施設があるということから、住民にとっては長年、原子力というのは、身近な存在だったんです。
そうした中で、山田村長は、住民説明会の状況を踏まえて、これであれば、住民の理解というのが、最終的に一定程度、得られるであろうというふうに考えて、先ほどの判断になったんだと思います。
一方、今のリポートでも御前崎市長は、仮置き場である、受け入れとして、仮置き場だった敷地が、いつの間にかなし崩し的に、処分場になるのではないかという懸念を持っていらっしゃいますね。
そうですね。
その意味で、これから廃炉に本格的に直面しようとする自治体には、東海村とはちょっと事情が異なってくるんだと思います。
石原市長もおっしゃっていたように、原発の建設は認めたんだけど、処分場まで受け入れたつもりはないというのが、この立地自治体に共通する、戸惑いなのではないかというふうに思います。
実際、NHKが昨年末に行ったアンケートでは、こちらなんですけれども、全国34の原発の立地自治体に、仮に敷地内に埋め立て処分をしたいという申し出があった場合の対応を尋ねたんですけれども、その時点では、これ、違いますね、すみません。
この時点では、容認するという回答というのはゼロだったんです。
また、将来廃炉で出る廃棄物をどこに処分するかについて、原発の建設の時点から、なんらかの説明を受けたかという質問もしたんですけれども、これについても、廃炉が決まる以前に説明があったという自治体というのは、なかったんです。
つまり、これまで処分場が必要になるという認識さえ、自治体側にはなかったと見られています。
しかし、受け入れが自治体によって、難しいという背景には、不安、低レベル放射性廃棄物が一体どの程度、危険なのかということが、よく分からないということがあるかと思うんですけれども、例えばこのL3ですけれども、どの程度の放射線量があると考えたらいいんでしょうか?
一概に言うのは難しいんですけれども、廃棄物の表面の放射線量というのを例に挙げて説明したいと思います。
例えば、日本原電によりますと、東海原発の敷地内に埋めるL3ですね、このL3では1時間当たり、0.3ミリシーベルト未満になるということなんです。
つまり、仮に人間が廃棄物に体をぴたっと密着させた状態で、1時間いた場合に、0.3ミリシーベルトの被ばくをするということで、これは1年間に浴びても差し支えないとされている国際的な基準、これが1ミリシーベルトなんですけれども、このおよそ3分の1になると、それ未満になるということなんです。
そもそも、この廃炉で出る放射性廃棄物の処分の在り方は、どういう道筋で決めることになっているんですか?
これ、実は、発生者責任の原則という考え方に基づいて、電力会社が確保するということが決まってるんですけれども、それ以外のことは決まってないんです。
その点ですね、取材を通じて、これまでこうしたやり方には、もう限界が来ているというふうに考えています。
こちらの先ほどのアンケートなんですけれども、電力会社に処分場確保を任せるという、今の枠組みについてどう思うかという質問をしたんですけれども、これについて国の関与、あるいは主導が必要だという答えが半数近くに達しまして、一方で、現状のままのやり方でいいという答えは、7%にとどまりました。
やはり、国は原子力を、原発をこれまで進めてきたという責任から、処分場の確保についても一定の役割を果たすべきだというふうに考えます。
科学文化部の本木記者でした。
お聞きいただきましたように、処分場の確保に向けて、国の関与を求める声が高まっています。
そして日本が制度の参考にしているのが、アメリカです。
廃炉を進めるうえで、政府が重要な役割を果たしています。
世界に先駆けて原発の解体を進めてきたアメリカ。
電力会社だけでなく廃炉専門の会社が解体を担うなどしてすでに10基の廃炉が完了しています。
日本で問題になっている処分場の確保ができたため廃炉が進みました。
その大きな要因は電力会社ではなく行政が深く関与する仕組みを整えたことでした。
30年前に定められた低レベル放射性廃棄物の処分場に関する法律です。
州政府が責任を持って処分場を確保することになりました。
確保できない場合には多額の課徴金が科せられます。
その結果、州政府や民間企業が所有する処分場が4か所確保されました。
その一つ、ユタ州にあるクライブ処分場です。
日本のL3に当たる放射性廃棄物を全米から受け入れています。
東京ドーム55個分の広大な敷地に地下水などの監視設備を170か所設置。
100年間管理することを条件に操業の許可を得ています。
廃炉が進む中で起こりうる問題にも政府が対処する仕組みを整えています。
おととし廃炉が決まったバーモントヤンキー原発です。
シェールガスとの競争の激化や安全対策への投資がかさんだことで予定よりも20年早く廃炉を決定しました。
その結果、問題となったのが廃炉の費用です。
900億円余りと見積もられている費用に対し200億円以上不足している状況に陥りました。
廃炉費用は原発の運転開始時に見積もられ毎年積み立てられます。
この制度は日本でも取り入れられています。
しかし運転期間が短くなったことで積み立て期間が不足し十分な資金がたまっていないのです。
そこで電力会社はおよそ40年間、廃炉を進めずこの間に資金を運用して増やす計画を発表しました。
これに対し、政府は電力会社任せにせず資金を毎年チェックし必要に応じて改善命令を出すことにしています。
ここからは、住民との合意形成など、原子力政策にお詳しい、長崎大学教授、鈴木達治郎さんと共にお伝えします。
国の原子力委員も務められた経験をお持ちでいらっしゃいます。
よろしくお願いします。
アメリカはすでに、10の原子炉の廃炉を完了させている。
そしてL1からL3まで、処分場の確保ができている。
国の大きさ、そして州政府と連邦政府、日本の都道府県と国のその関係など、違いはいろいろありますけれども、参考にできる点ってなんですか?
一番大きいのは、やっぱり住民や国民の信頼があるかどうかということなんですね。
この住民の信頼を得るためには、私はこの3つのポイントで国の関与が必要だろうと。
まず第1に廃棄物処分を推進している機関ではないところが、今の場合ですと、州政府になりますが、そこが立地とか、事業の責任を負うということが第1点ですね。
これによって信頼が得られるんではないか。
日本の場合は今、責任は?
経産省と電気事業者ですね。
それ以外のところに、立地や責任を負わせるということが1つある。
2番目は、住民との情報共有で、日本でも説明会のビデオが出ましたが、やはりここも、規制委員会やそれから事業者、住民が全員がそろって情報共有できるところがあると。
これも日本ではまだなされていない。
実は規制委員会を作るときに、国会の付帯決議で書いてあるんですけれども、実現していないですね、これが2番目の問題ですね。
でも、説明会はありますよね、日本でも。
説明会は今、事業者がやることが非常に多い。
あるいは経産省がやるんですけれども、上と関係してきますが、当事者以外がホストになるということが大事な点です。
3番目は、今、規制委員会が、廃炉費用のチェックをしてましたが、日本では、これもやはり経産省がチェックしてるんですけれども、第三者機関がチェックすることによって、信頼が高まる。
この3つについて、まだ何も日本ではできていないので、これをやっぱりやることが大事ではないかと思いますね。
信頼ということがキーワードのような気がするんですけれども、日本の場合は、やはり、福島第一原子力発電所の事故を受けて、原発への信頼、再稼働についても、賛成よりも反対がまだまだ上回っているような状況ですけれども、何が今回の事故を受けて、根本的に合意形成を難しくさせている、その要因になっていると思いますか?
一番の原因、私は、脱原発か否かという二極対立が進んでしまって、それで原子力の例えば、放射線リスクについても、あるいは今回の廃棄物処分についても、安全か危険かという二極対立になってしまって、真ん中がない。
それはやはり、そういう客観的な信頼できる情報を提供する機関もなければ、共有する場もない、議論する場もない、これが一番大きいと思いますね。
根本的にその合意形成の在り方を見直さないといけないというお立場でいらっしゃいますよね。
それは情報提供の見直し、機関の見直しもありますし、意思決定プロセスの見直し、この中で透明性と公正性というのは、実は原子力委員会も問題があったといわれたんですが、国民の意見をどうやって反映するのか、パブコメやってるけど、それがどうやって取り入れられたのか、それが目に見えるようにする。
どうやって意思決定がなされたのか、それを追跡できるようにする、そういう透明性が今のところ、まだ足りないと思います。
これをまずやること。
次に、チェックする機関がない。
要するに第三者機関がない。
これは廃棄物処分でも、われわれは提言させていただいた、原子力機関的に。
事業主体が国が経産省がやることを、誰かが市民の目でちゃんとチェックしてやる。
これがないということが今、信頼がない最大の理由ではないかと思いますね。
これは国が大きいからアメリカではできたというふうに思ってよろしいんですか。
いや、そんなことはなくて、フィンランドとか、スウェーデンとか、スイスとか、非常に小規模な国でも、そういう信頼醸成のためには、第三者機関をちゃんと作って、市民のために監視する、情報共有もすると、そういう仕組みがありますので、国の大小ではないと思います。
それにしても、もう原発が建設されてから50年たとうとしていて、処分場のことに関しては、先送り、先送りされてきた。
原子力委員会のメンバーでもいらっしゃったお一人ですけれども、なぜこんなことになってしまったんですか?
原子力委員会やってるときにも痛感したんですけれども、国の責任と民間の責任の境目がはっきりしていなんですね。
都合のいいときには、国の責任であり、都合の悪いときには、これは民間の責任だという。
誰も責任を取らないような仕組みになってしまっているので、ここはしっかりと、今回の信頼を得るためにも、国の関与という意味では、そういう責任を明確にすると、民間ではできないことは国がやる。
事業者の責任はここまでというようなことをはっきりとすることが必要だなと思いますね。
国策で民営でやってきた。
そうですね。
そこのあいまいさが今、一番問われていると思います。
国の関与?
国の関与というのが大事だと思いますね。
ありがとうございました。
2016/01/27(水) 03:10〜03:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“廃炉時代”到来 積み残された課題」[字][再]
老朽原発の廃炉が次々と決まり“廃炉時代”に突入する日本。放射性廃棄物の処分場をどうするのか、問題が顕在化している。廃炉費用は誰がどう負担すべきなのか、検証する。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】長崎大学教授…鈴木達治郎,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】長崎大学教授…鈴木達治郎,【キャスター】国谷裕子
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ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
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