雪国の長い冬が始まった。
仙北平野の北に広がる…しだれ桜の並木道は昔からこの城下町を見つめてきた。
京都・大原からやって来たベニシアさん。
太平の世を迎えた江戸時代後期の日本の暮らしに興味があるという。
ここ角館は今も当時のまま残る武家屋敷を見る事ができる。
(ベニシア)日本の江戸時代はゴールデンエイジっていう感じ。
侍の雰囲気っていうかここに残ってるって聞いた時是非見たい。
残ってるのを見られる場所あまりないと思うのね。
こういうの初めて見てるから。
戦のない時代侍たちはどんな生活を送っていたのか。
こんにちは〜。
(石黒)あっこんにちは。
ここは中も見られるんですか?ここは古い武家屋敷なんですけども残ってる中で室内上がってご覧頂けるのはここだけですので。
この石黒家は角館で財政を担う役職だったという。
堅実に生きた侍の家。
5つの部屋がふすまでつながり質素倹約を旨とした暮らしぶりがうかがえる石黒家。
ベニシアさんが大好きな囲炉裏がほっとさせてくれる。
ああいい感じやな。
炭を使う囲炉裏って現在もこうやって実際炭火を起こしてこの鉄瓶掛けてあるんですけれども長さを調整できる。
ああそれ知らなかった。
ここで時々食べますか?子どもの時はここで食事してました。
ここでお魚焼いたりお湯を沸かしたりお鍋かけたり。
夏でもここでお料理してたんですか?そうですね。
昔はやはり火は絶やさなかったですね。
昔の人は火を見てたでしょう?それやっぱり夕方になって御飯食べてしゃべる時もあるし多分黙って火を見たと思うんですよね。
時間がゆっくりたってるみたいに感じたいと思うからやっぱり火をゆっくり見ていいですね。
ここの上に載ってるこの棒なんですけどもこれ両方の鴨居に載ってるだけでスライドもできるんです。
へえ〜それは何で?これはですね冬場にここは雪が降ります。
ですから外で乾かすという訳にはいかないんで家の中に物をぶら下げる棒としてまあ物干し棒ですね。
私の家で作れるかもしれない。
面白いアイデアよね。
でしょ?雪国で生きる知恵。
家の風情を壊さずに手作りの工夫をする。
ここがすごい欄間がきれいよね。
そうですね。
客間にしつらえた欄間はけやきの一枚板。
彫られた絵柄は木目を波紋に見立て亀が水の中を泳いでいるように表現している。
質素な暮らしの中にある遊び心が楽しい。
こちら入って頂いて左右の壁をご覧下さい。
ああ〜。
今の亀の透かし彫りの影が映ってます。
へえ〜それきれい。
欄間の透かし彫りと格子模様が壁に美しい影絵を作り出す。
北国の陰影礼賛。
日本人の美意識が全体的に高いと思うのね。
だから侍だけじゃなくて普通のお百姓でもあると思うのね。
古きよき時代に思いをはせる。
裕福とは違う豊かさが生まれた時代。
重厚な武家屋敷が建ち並ぶ角館はかつて秋田藩の支藩として繁栄を極めた。
一歩入ればそこは下級武士たちが暮らしていた裏通り。
質素な生活を営んでいた。
戦のない太平の時代。
侍たちは食べていくために内職を始めたという。
山桜の皮を削って作る樺細工。
もともとは武士の必需品である印籠や刀の鞘を飾るものだった。
この技術はやがて角館の武士の暮らしを少しずつ変えていく事に。
丈夫で手触りがよく何よりその自然の美しさはたちまち評判を呼びさまざまなものに使われるようになった。
今も伝統の技はこの町で受け継がれ日本中に知られる民芸品となった。
武士のものから庶民のものへ。
時と共に生活の中で形を変え北国の暮らしの中で生き続けている。
今も江戸時代と同じ方法で樺細工を作っている場所があると聞いてやって来た。
うわ〜大変そう。
これ何やってるんですか?今お茶筒を作る山桜の皮の材料を削ってこれを削ったやつをお茶筒に張る作業です。
削るほど光沢を増す山桜。
それが樺細工の魅力と語る大橋さんは角館に10人しかいない伝統工芸士の一人。
こうやって下地の色を見ながら削っていくんで結構時間のかかる…。
これが表ですね。
へえすごいきれいに見える。
何かこれいつも見るとすごい渋いって感じ。
こうやって作るの知らなかった。
桜は大丈夫ですか?桜は大丈夫です。
痛くない?上の皮を一枚だけこういうふうに剥がすんでこういうふうに木に生えてるんでそれを今度はこういうナイフでホントに1mm2mmず〜っと傷つけるだけで大体この長さぐらいに剥ぐんで。
一回に上のやつ一枚しか取らないんで木は大丈夫です。
素材から接着剤まで全て自然のものを使う。
江戸時代から変わらない伝統的な作り方はシンプルだからこそ職人の技が試される。
48年間樺細工と向き合ってきた大橋さん。
納得できる艶が出せるまで時間を惜しまない。
一日1本の茶筒しか作れない事もあるという。
最初は何でこういうあんまりお金にならない仕事にかかったのかといつもそう思ってますけれどもこのごろですね何かちょっと楽しくなってきたんで年いってからいろいろ良さが分かってきた感じがします。
これでゆっくりゆっくり気長にコテがぬるくなれば取っ替えてまた温度調整してこれでやってる仕事なんでほとんど90%手仕事です。
いろいろ手で作ったら時間かかるけど満足のものがあるのね。
満足する時もあるし満足しない時もあるしさまざまですね。
時間をかけて仕上げる作品には大橋さんの手のぬくもりが伝わってくる。
桜の装飾も木の皮をくりぬいて花びらに見立てたものを一枚一枚手作業で貼り付けていく。
ベニシアさんそんな職人の世界に少しだけ触れさせてもらう。
そっと花びらを貼り付けていく。
自然のものですから花もいろいろあるんでしょうけどもちょっとバランスが合わないですね。
ハハハハッ。
散りかけたのもあるんでさまざまなんでどれが悪いとは言えない。
心を無にして最後の一枚に取りかかる。
もうこの感じかな。
はい。
すいません。
大橋さんが仕上げをして樺細工のお香入れが完成。
うんありがとう。
何かきれいになった。
これ細かい事すごいね日本人の得意なところよね。
これまだ簡単な方です。
細かくない方です。
でも思い出になるからありがとう。
いや〜すてき。
ベニシアさん秋田に来たら是非その作り方を見たいと思っていた民芸品がある。
更に北へ。
山間部を時速50kmでゆっくり走るローカル線に乗って移動する。
角館からおよそ2時間30分。
たっぷり時間を楽しみながら列車の旅。
今日は手作りのお弁当を持ってきた。
中身はお握り?それとも…。
ちょっとチーズを作ったのね。
あんまり今ハーブは庭にないからイタリアンパセリとタイム。
自分で作ってでパンが好きだから。
食べましょうか?アロマティーだから紅茶とハーブティーを混ぜて作ったの。
何か紅茶ですけどミントの香りがあるの。
オリジナルティーと庭のハーブを混ぜ込んだチーズ。
変わりゆく景色を眺めているといつもワクワクした気持ちになるという。
長く延びる線路の先に未知の出会いを期待して。
角館からおよそ100km。
大館市は秋田杉の産地として知られる。
ベニシアさんが訪れたのは曲げわっぱという秋田杉を使った民芸品を作る職人。
あっこんにちは。
ここでわっぱを作ってるんですか?はいそうです。
柴田さんは50年間この地で曲げわっぱを作り続けている。
すごいたくさんいろんな…。
わっぱとは方言で輪っかという意味。
薄く削った木を曲げて輪っかを作るから曲げわっぱ。
天然杉にこだわる柴田さん。
杉には持って生まれた機能美があるという。
こちらが日本のよく使われてきたおひつです。
おひつ。
御飯のね。
温かい御飯入れて。
ああ〜すばらしい。
湿気を取ってくれるんで隅がべとつかないし朝入れた御飯が夕方になっても真夏でも何も心配ない。
そこの場所にもよるけれどもね。
いいですね。
う〜んこのデザインも。
私よくお客さんから「このおひつの隅を丸めてもらえないですか?」と言われて。
取りやすいっていう感じ?取りやすくする。
それで試行錯誤やって。
このデザインを考えた。
やっと世に出るようになった作品です。
へえ〜どうやって作るんだろうなと思うもんね。
それこそ喜んで見せたい。
じゃあこちらの方に工房の方へ行ってね。
工房では柴田さんの技を受け継いだ4人の職人が曲げわっぱを作っている。
秋田生まれの秋田育ち幼い頃から曲げわっぱに囲まれて暮らしてきた柴田さん。
その魅力を日本全国に広めたいとある時たった一人で工房を立ち上げたという。
何歳の時始まった?一番最初やった時。
24歳の時。
所帯持ったもんだから弟子につく時間がなかった。
ええ〜じゃあ自分で考えてやり出したの?いきなりやり始めて…。
じゃあすごいじゃないですか。
自分で覚えてすごい。
なかなかうまくいかなかったし最初なんぼかこうして家内に投げたんだか分からない。
うちの家内にコロコロと転がっていったやつを持ってきて「またこうやろうこうやろう」って。
ああ持ってきてもう一回。
持ってきて…。
じゃあ応援してたんだね。
うんでしょうな。
だからもう辞めたいなと思った時も何回もあったの。
ところが家内の姿勢を見てるとそういう訳にはいかなかったのこんなもん。
よしまた今度もまた…。
その繰り返しがとうとう60過ぎた70過ぎたねえ。
でも奥さんのおかげもちょっとあるんやね。
そうですねそうです。
職人なら中学を卒業したら弟子入りするのが当たり前だった時代。
柴田さんは独学でここまでやってきた。
何度も何度も失敗を重ねながら覚えた曲げの工程。
80℃の熱湯につけて軟らかくした板を丸太に巻きつけ全身を使って曲げていく。
ああ〜そういう事。
曲げわっぱの全てが決まる最も大切な作業。
初めは木を割ってしまった事もあったが今では木目を見るだけで木のしなり具合や力の入れ加減まで分かるようになったという。
こうです。
(笑い声)柴田さんの誇りが詰まっている美しい円い形が曲げわっぱの象徴。
師匠がいなかった柴田さんにとって唯一の教材は先人たちが残した作品。
わっぱの接合部は手間がかかる鱗綴じという伝統的な技。
今ではこのデザインが柴田さんが作る曲げわっぱの代名詞になっている。
私全国から100〜200年前のものを百数十点コレクションしたんですよ。
昔のデザインってそれこそいい意味での切磋琢磨していろいろやった凝ったものはああいう形で骨董屋さんとかに残ってますね。
それが私の師匠です。
今もそう思ってます。
それでこういう綴じ方は現在全国歩いても今はやってないんですが今になってみてやはり大変だったけれどもやり続けてきてよかったなと思ってる。
かつて職人が作った作品から曲げ物の奥深さを追求している柴田さん。
今も日本だけにとどまらず世界中の曲げ物から学び続けている。
そんな柴田さんにとって最もうれしかった事。
就職して秋田を離れていた息子の昌正さんが後を継ぐために戻ってきたのだ。
(昌正)周りにこういう木があったもんですからそれで父親が野球のバットを作ってくれたりそういうおもちゃを作ってくれて楽しそうに仕事をしてる姿を見たら迷い無く面白い仕事だなと思ってましたので。
使ったらよさが分かってもらえるので使ってもらう事を考えていかなきゃならないなと思って今考えて行動してますけど。
曲げわっぱの道に進んで11年。
柴田さんが復活させた鱗形の模様を今度は昌正さんが受け継いでいる。
親子2代東北の地で育まれる匠の技。
その技術だけでなく作る事の喜びをしっかりと受け継いだ。
ここよく来るんですか?
(柴田)ええよく来ます。
工房から車で20分。
柴田さんが自らの原点だという場所がある。
樹齢200年を超える天然秋田杉の森にベニシアさんを案内してくれた。
それにしても立派なもんじゃないですかね。
すごいですね。
ねえ。
このちっちゃい枝がいっぱい出てきて。
きれい。
秋田県はこの天然杉というやつ今までものすごい大事にしてきた。
こういう自然の所にあるのは秋田県だけ。
だからうちは環境とやはり東北の我慢強さがここまで残ったんじゃないかなと思う。
こういう所で成長してるおかげで自分はこうして生きてここまで来られたし家族も出来てだから無駄にしないように200年250年たって成長してきたもんですから大事に使わなきゃな。
それが常にここに入るもんですからやっぱりここへ来ると落ち着くんですよまた。
ありがとうありがとうって。
感謝したいね。
常に忘れる事のない自然に対する慈しみと感謝の気持ちがぬくもりある秋田の民芸品を生み出している。
旅の終わりベニシアさんのために体の芯まで温まる秋田の郷土料理を用意してくれた柴田さん一家。
炊きたての御飯を杉の香りが優しく包み込む。
ダシは…。
(あかね)鶏がら。
鶏がら。
それと…ゴボウ。
あれは中身はお餅みたい…じゃないよね?御飯炊いたのを串に御飯をこうつけてコロコロコロコロ転がしてこの形になるまで。
それで上の方だけが真ん丸くこう細くして焼くんです。
ベニシアさんきりたんぽを食べるのはもちろん初めて。
ダシは比内地鶏からとっただけのシンプルなもの。
はいありがとう。
熱いですよ。
うんおいしい。
やっぱりおいしいこれ。
すごいおいしい。
じゃあこれで出来上がりです。
お待たせ。
家族が一つになる場所。
その真ん中には曲げわっぱ。
おひつから御飯をよそう一手間が柴田さん一家の絆を物語っている。
おいしい。
おいしそう。
やっぱりこれが中心ですわ。
うん。
ねえ。
日本はね。
この道具でのやっぱりいろんな思い出がこう何気なく浮かんで食事するのよ。
ベニシアさんが感じた東北の地に残る伝統とそのぬくもりここはとても温かい。
2016/01/27(水) 12:25〜12:55
NHKEテレ1大阪
猫のしっぽ カエルの手「木のぬくもり〜秋田県〜」[字][再]
ベニシアさん、秋田県を訪ねる。角館では武家屋敷を見学、武士の暮らしに触れ、樺(かば)細工を体験。ローカル電車で大館へ移動、曲げわっぱを作る職人の工房を見学する。
詳細情報
番組内容
ベニシアさん、江戸時代から伝わる民芸品があると聞き、秋田県を訪問。角館では武家屋敷を見学、武士の暮らしに触れ、山桜の皮を使った樺(かば)細工を体験。この後、曲げわっぱの民芸品を見てみたいとローカル電車で大館へ移動。車中、手作りパテをパンに塗り、手作りのハーブティーでティータイム。曲げわっぱ職人・柴田慶信さんの工房を訪ね、作業を見学。柴田さんの自宅に招かれ、生活の中で生きている曲げわっぱを実感する。
出演者
【出演】ベニシア・スタンリー・スミス,【語り】山崎樹範
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
趣味/教育 – 園芸・ペット・手芸
情報/ワイドショー – 暮らし・住まい
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:21190(0x52C6)