小杉健治サスペンス「十年 〜妻が夫を裏切った日」 2016.01.27


(新幹線の警笛)ねぇあなた。
(漆原和樹)うん。
(漆原冴子)私7月2日までには外出できるかしら?
(新幹線の通過音)
(祇園祭のお囃子)
(蝉の鳴き声)船越医師:奥さんの癌はこの胃のほかに卵巣胆嚢のほうにまで広がってます。
つまり進行性の癌です
(蝉の鳴き声)船越:手術で除去はできます。
しかし血液の中に癌細胞が入ってるとするとどこに転移するか…。
じゃ手術をしても同じだと…?
(船越)う〜ん手術をすれば一時進行を止めることはできます。
ただ言いましたようにいずれ転移すると考えたほうが…。
手術をしてもしなくてもつまり…つまり結果は同じだと…?残念ですが。
先生冴子にはあくまでも治る見込みのある癌だということに…。
ですから手術を。
先生とは何の話?ん手術のこと。
私…治るかなぁ?そのための手術だよ。
ほら先生も言ってらしたろ癌が治って通院してきてる人何人もいるって。
そろそろ髪の毛抜けるわねぇ。
ん?ほら抗癌剤打ってるから。
ああ。
大丈夫大丈夫。
ねぇ見て。
ん。
どれどれ。
こっちは?
(北山久仁枝)仲がいいこと。
何久仁枝また来たの?話相手入院したんだものここに来るしかないでしょう。
まあまあどうぞ。
私会社に戻りますからそれじゃ。
はいおみやげ。
まあ今日もありがとう。
(救急車のサイレン)〜手術をしても〜しなくてもつまり…。
つまり結果は〜同じだと…?〜
(船越)残念ですが。
〜〜冴子頑張るのよ。
〜〜行ってくるね〜富田:ほらほら
?86さんL@F|B‘1!だって!)そうなんです。
よかったねおめでとう。
頑張ったもんねぇ。
旦那さんがかな?
(道子)また夫婦で仲よくしてる〜。
あ〜あ私も漆原さんの旦那さんみたいな人と結婚したい!いやこの人はダァメ。
ムリムリハハハ。
それじゃ。
ゆっくりね。
(犬の鳴き声)あモモただいま。
いい子だったか?お帰りなさい。
あ起こしたか?いいの。
ねヘルパーさんは?うん今帰ったところ。
そう。
どう具合?雨の音でうとうとしちゃった。
まだ梅雨の前なのにな。
ごめんね。
何?また入院。
ほらあれは肩のところの皮膚ここの検査なんだから。
うん。
お家にいられたのたったの2週間。
検査が終わればまたすぐ戻れるんだから…な。
(雨の音)ね〜ぇあなた。
ん?私…7月2日までには外出できるかしら?何7月2日って…?
(雨の音)ねぇ…。
ん?私が死んだらあなたどうするの?〜〜ねぇ。
〜〜バカ。

(犬の鳴き声)〜モモ。
〜7月2日までには〜外出できるかしら?〜〜今日ね蒸してるよ。
〜へぇ蛍が喜ぶわねぇ。
うん蛍?〜う〜ん。
これねそっち。
〜うん。
蛍か…見てないな〜そんなもの。
ねぇ源氏と平家〜どっちが先だっけ?え蛍のこと?〜そんなのわかんないな。
〜何?〜えっ。
ああパジャマここね。
〜あぁ。
〜神護寺って京都ですよね?えぇ。
10年前は久仁枝さんもまだ京都でしたよね?東京に出てきた頃ですけど。
多分それ以前のことだとは思うんですけど。
何かしら?
(北山茂)あこりゃ。
ああこんにちは。
またモモお願いします。
あ〜漆原さん会社もおありだし大変だ。
うちはいつでもかまいませんから。
あ…。
奥さんいかがですか?えぇ奥さんにはもういつもお世話になりっぱなしで。
京都以来の親友ですから久仁枝も居ても立ってもいられないってとこでしょう。
お出かけですか?主人だけですから。
ごゆっくり。
行ってらしゃい。
失礼します。
久仁枝さん冴子と結婚した頃のいきさつってご存じですか?詳しくは知りませんけど漆原さんが京都本社のサラリーマン時代に知り合ったんでしょう?えぇ知り合ったのは取引の関係でお父さんのほうが先なんですよ。
あぁ。
東京支社から転勤してた2年間下請けの工場の担当をしてましたから。
親父が死んで親父の会社のあとを継いだのが12年前です。
それで東京に戻ったんですよ。
東京に戻って京都の冴子のお父さんから相談受けましてねぇ。
工場が逼迫してるから何とか取引してもらえないかって。
ちょうど私も社長になったばかりでそれまでの取引先からは多少なめられてたこともあって冴子のお父さんの工場から部品を買うことにしました。
そうしたらその後業績が伸びたんです。
それで感謝もされて恩義に感じられたのかなぁ。
嫌じゃなかったらぜひ娘を嫁にと…。
私ね久仁枝さん。
冴子には1度じかに断られたんですよ。
つきあってる人がいるから正直に言うんですよ。
その潔さに今度は私が冴子に…。
プロポーズ?はい。
しばらくしてから承知してくれました。
でもねぇ本当は心から承知したんじゃないんじゃないかって…。
なぜ?〜これは…?冴子の手帳に挟まっていたものを書き写しました。
これが?当時つきあってた相手がこの直彦という人ならそれなりに納得できるんですよね。
冴子もその人もきっと思いを残したまま別れたんですよ。
だからこうやって10年後に再会する約束を…。
この前一時退院してきたときポツリと言ったんですよね冴子。
7月2日までに外出できるかって。
つまりそれは私と結婚して10年経った今でもその男のことを忘れないでいるということでしょ。
もしそうだとしたら京都に行けない冴子の代わりに私が行こうかと…。
どうして?もしかしたら冴子この10年ご主人を裏切ってたかもしれないのに。
約束を守りたいだけなのかもしれません。
ただ昔を懐かしむだけなのかも。
ダメよ。
久仁枝さん。
相手が来ても何も恨みつらみを言うつもりはないんですよ。
ただ冴子が約束を守らない女じゃないってことだけは冴子だって多分それを気にして。
漆原さん。
(蝉の鳴き声)久仁枝さん冴子実は…冴子には言ってませんが治る見込みほとんど…望みほとんど無いんですよ。
だから7月2日が心残りならせめて私が代わりに…。
嫉妬じゃなく?それが全く無いわけじゃないけど。
やっぱりいい夫婦ね。
でもやめたほうがいいわ〜
(案内人)あれが@6Bl@nです。
〜川下りでおなじみの〜保津川と合流して〜嵐山の方へ流れてるんです。
この川はですね嵐山の〜渡月橋辺りでは大堰川そして下の方になると桂川と名前が変わります。
〜〜・北山です。
ただいま留守にしておりますので御用の方はメッセージをどうぞ。
漆原です。
神護寺で1時間待ったんですけど結局来ませんでした。
では…。
(蝉の鳴き声)あの…。
(蝉の鳴き声)
(溝口由喜子)失礼ですが冴子さんと関わりのあるお方でしょうか?はい。
私田中直彦の義理の妹で溝口由喜子と申します。
義兄がここに来られない事情ができましたので私が代わりにまいりました。
(清滝川のほとばしる音)義兄は今年の4月交通事故に遭いまして1度は退院したんですが肺炎を起こして再入院したんです。
見舞いに行ったとき義兄はかなり弱ってまして私姉に内緒で打ち明けられました。
昔の恋人ともし愛が冷めてなかったら10年後に会う約束をしているということ。
〜義兄は言いました。
約束の日には行けそうもないと。
でもそれは愛情がなくなったからではないことを伝えて欲しいと。
〜先月の初めに義兄は亡くなりました。
今日は迷いながら…。
〜あっすみません。
あの冴子とあなたの義兄さんはどこで…。
〜私の父が嵐山の方で会計事務所をやってまして義兄はそこで勤めてました。
そのとき冴子さんのお父さんの工場の…工場の経理をみていた関係で知り合ったそうです。
〜そのとき義兄は結婚してまして私の私の姉と結婚してましてですから不倫で…。
〜それが姉にも知れいろいろあって2人は別れ冴子さんは他の人と結婚。
その結婚相手が私です。
〜別れ際義兄は言ったそうです。
「10年待って」と。
10年もすれば姉や子供の暮らしがたつようにしてやれる。
そしたら別れると。
そのときもし愛情が変わらなければ一緒になろうと。
それで再会の約束を。

(清滝川のほとばしる音)お子さんは?いえ。
つくらなかったわけじゃないんですが…。
義兄に聞きました。
冴子さんは…。
結婚しても子供はつくらないとおっしゃったそうです。
子供がいると別れるのが難しいからって。
だからすぐに別れられるように子供はつくらないって。
(清滝川のほとばしる音)〜子供がいたらちょうどあのくらいになってるわねぇ。
〜〜うん。
アッ。
〜ア。
ハハハハ。
ア。
〜はい。
〜よいしょ!〜ナイスボール。
なんだよ。
(子供たち)ありがとう〜ございました。
〜は〜い。
なんだよテレちゃって。
〜アハハハ。
アッ!〜ア!落としたぁ。
冴子食べろ!〜嫌だ嫌嫌だ。
〜ほら食べろ!〜〜なぁに?〜残念なお知らせ。
旦那さん地方の仕事が長引いて今日は寄れませんて。
〜〜そうありがとう。
〜カーテン閉めましょうね?〜あいいの。
そのままで。
〜はい。
〜出かけるときは行けないでいる女房のためだなんて思ってたけど。
新幹線に乗ってわざわざ京都まで来てお寺の石段登りながら自分でも何してるんだろうって俺はいったい何やってるんだろうかって。
〜腹も立って女房にいや相手の男にも…。
〜女房どうして来れなかったか言いましたっけ?はい。
いいえ。
入院してるんですよ。
でも行きたいのわかったからせめて代わりにいや嘘だな代わりになんて。
女房に黙って来たのはそんな綺麗事じゃあないんだ。
奥さん幸せ。
幸せなのにメモなんか取っときますかねぇ。
7月2日のことを10年間忘れないでいますかね!〜そうやって怒ってらっしゃるでしょ?それだけ思ってらっしゃるってことだから。
そんなに思ってくれる男の人私知らないから…。
ご主人でしょ?思われてるじゃないですか。
主人からは逃げてるんです。
〜いろいろありまして…。
〜だからバイト先も転々で。
住むところ変わっても電話番号変えてもすぐに見つかってしまって。
〜だから漆原さんみたいに奥さんのことに真剣に向かい合ってる人をみるとなんだか…羨ましいっていうのかなんだか…。

(クラクション)〜ぶつかればよかったのに。
いけません!〜
(船の汽笛)うわぁ綺麗。
アッハハハあ〜。
お!滝本。
(滝本克巳)おう来たな。
どうしたの?サードに滑り込んだらよ。
これだよボキッだってぇ。
歳考えろよ。
どっちが見舞いかわかんないねぇ。
お友達面白い方ですねぇ。
面白いだけじゃないんだよ。
試しにデートしてみる?アハッハもうやだぁ。
松葉杖のお世話はちょっと?おう言ったな。
よろしくね。
じゃ失礼します。
どう…?ん相変わらず。
これ滝本さんのお見舞いいただいたの。
へぇ〜万華鏡。
しかし安心したよ。
お前は仕事してるし家も空けてるっていうじゃないか。
冴子さんに行き先も言わずに地方に出かけた。
つまりこれは冴子さんの病状が大したことじゃないという証だ。
だろう?おう。
出張どこ?松本信州の。
じゃモモはどうしてたの?北山さんに預かってもらってたよ。
だったら大丈夫ね。
あ俺ちょっと行くわ。
そろそろ医者。
じゃ俺送っていくよ。
いいよ来て早々なんだよ!俺ほら元気だからね。
じゃね冴子さんまた。
どうもありがとう。
お大事に。
これでファーストぐらいできねかなぁ。
看護師さん!無理すんなよ。
どっちがお大事になのか。
何か要るもんとか?ううん何もない。
あね〜え。
看護師さん呼んで。
何?おしっこ。
じゃ俺が。
嫌だあなたは外に出てってああこれ貸してあげるから。
はい看護師さん。
はいはい。
急いで。
はい。
(救急車のサイレン)
(子供たちの遊び声)
(クラクション)ぶつかればよかったのに。
いけません〜
(由喜子)はい。
溝口さん?〜はい。
番号嘘かもしれないと思って。
〜もしもし。
この前のことで奥さんに冷たくしないでくださいね。
〜もしもし。
また会えるかな?〜ご縁があれば…。
(電子音)・漆原です。
申し訳ありません。
モモをもうしばらく預かっていただきたいんですが後2〜3日。
勝手を言ってすみません。
念のため私のケータイの番号を申します。
(祇園祭のお囃子)
(小鳥のさえずり)〜私漆原さんにお会いした後〜〜お会いしたお陰で少し男の人に希望を〜持てそうになりました。
〜主人のことがありいつもビクビクしてましたから。
〜〜〜大げさですけどこの先生きる希望みたいなものがあるのかなって…。
〜〜〜あこれ泣いてんのかな?〜〜笑ってるのかな?〜知り合い?いえ。

(由喜子)〜どうしてまた京都に?さっき言ったよ。
〜会いたかったって。
〜〜違うな。
それだけじゃない。
〜〜女房の思い出の土地だから。
その思い出を穢して〜やりたいような。
〜すまない。
君まで〜引っ張り込んじゃったね。
〜私が神護寺に〜行ったばっかりに…。
〜〜行かなきゃよかった。

(水差しの割れる音)今度来れるのは12日かな?土曜日ですね…。
またいつでも。
冴子によろしく。
はい。
モモちゃんバイバイ。
それじゃ。
(パトカーのサイレン)
(カメラのシャッター音)
(及川刑事)カマさん何もありません。
(鎌田刑事)ああそう。
あのポケットには何もなかったんだね?はい。
死んでから日が経ってるようですね。
遺体のあちこちに傷があります。
傷?
(心電計の音)冴子!ありがとう…。
(心電計の音)ご…めん…ね…。
午前7時12分ご臨終です。
この報告書から考えると上流のほうで飛び下りた自殺とも考えられますね。
でも崖から飛び下りたら遺体はもっと傷ついてるんじゃ…。
おそらく殺しだよ。
そうですか?死体は水を飲んでない。
ってことは死んだ後に川に入ったってことだ。
冴子と何か話ができました?最期に「ありがとう」って。
それと「ごめんね」とも言いました。
冴子さん幸せだったんだよ。
ホントに幸せだったのかね…。
あたり前じゃないか!本当はどうなのかな…。
何言うんだお前は!
(雷鳴)
(雷鳴)
(モモの鳴き声)もしもしさっきは出られなくて。
12日に行けると言ってましたがちょっと動けない用事が…。
もしもし。
はい。
16日には行けます。
「リーガロイヤルホテル」のロビー4時に。
はい。
(祇園祭のお囃子)
(祇園祭のお囃子)すみません512号の漆原ですけど何かメッセージはありませんか?
(フロント)少々お待ちくださいませ。
メッセージは特におうかがいしておりませんけれども。
そうですか?…。
はい。
(祇園祭のお囃子)
(祭りの騒音)
(祇園祭のお囃子)
(祭りの騒音)ああすみません。
ここでお茶のときはいつもこうやって座ってました。
私がここで冴子がそこ…。
それももう出来なくなったのね。
7月2日京都にいらっしゃったんでしょ?相手の男は死んでました。
義理の妹さんというのが来てそんなことを。
つまり冴子にはそういう相手がいたということです。
10年間忘れなかった男が…。
憎む?冴子のこと…。
(小鳥のさえずり)冴子いなくなったのねぇ。
私もなんだか死んだみたい。
息はしてるけどなんだか…。
親友がいなくなって私独り海の中に放り出されたみたい。
お客さまのおかけになった電話番号は現在使われておりません…。
主人からは〜逃げてるんです。
〜〜知り合い?〜いえ〜できますか?あの資料といってもほとんどないんですけどすぐ送りますから。
はいよろしくお願いします。
(ファックスの受信音)この奥の寸法間違わないように。
はい。
じゃお願いします。
はいもしもし。
(竹井守)京都の「竹井探偵社」です。
ああ。
ご依頼の件お調べしたんですけども溝口由喜子という方のことは全く判りませんでしたよ。
全くって?嵐山に会計事務所は何軒もありましたけども由喜子とおっしゃる娘さんのいるお宅はありませんでした。
で田中直彦という所員が居た所もありませんでした。
すみません。
東京の漆原です。
どちらさんで?あの漆原です。
あっこりゃどうも。
依頼の件あの判らないってどういうことですか?ちゃんと調べたんですか!こちらとしては精一杯動きましたよ。
あの少ない資料で私が一人でコツコツと人に任せず。
一人じゃなくてもいいんですよ。
所員の方全員を動員していただいても…。
あいにく所員私一人でして。
所長兼所員で。
まぁどうぞ座ってください。
どうぞ。
ここが「田中」っていう会計事務所なんですけども息子が引き継いでいました。
女姉妹はいません。
ねえっ判っていただけました?私全部調べたんですから。
調べた結果がですね…。
あの漆原さん…。
あのこの人の身元まだ判ってないんですか?あぁまだのようですけども。
これが何か?あの〜死体発見が7月8日ですか?えぇあそこ。
いちばん左の堰に引っかかってたんです。
でも殺されたのは一日か二日前らしいです。
あの人を5日の日に見たんですよね。
どこで?あそこのホテルで。
捜すのをお願いした彼女と一緒に見たんですよ。
彼女あの人のことに気を留めたんですよ。
カマさんどうも。
ようっ。
目撃されたのはそちら?漆原さんとおっしゃって。
男を見たというのはどこで?この辺りからそこの駐車場で車に乗り込むところを。
どういう知り合いなんですか?私じゃなくて一緒にいた女性が見たんです。
その女性の行方捜しの依頼を私に。
あぁハハハ…。
でその男はこのホテルに泊まってたんですかね?いやそれはなんとも…。
じゃあフロントに訊いてみるか。
カマさん清滝川沿いのトンネル脇の道で不審車両が見つかったそうです!
(パトカーのサイレン)ごくろうさまです。
どうです?あっこの車です。
これに一人で?いえたしか女の人が中に…。
女の人が中に?あっ車の持ち主が判ったようです。
あなたの人捜しの依頼の中にもあった会計士です。
住まいは山科。
名前なんですけども野田直彦。
田中じゃありませんが直彦は同じです。
(お鈴の音)
(元子)主人の古いお知り合いといいますと?はい仕事関係なんですけど奥さん野田君は野田というつまり以前は田中という姓じゃ?いえ私の父の事務所は継ぎましたけど養子じゃないのでずっと野田です。
あぁそうですか。
それと…。
はい。
10年位前私の知り合いの消息を奥さんご存じじゃないですか?一人は由喜子といいます。
なかなか連絡がつかないもんですからもしかしたら野田君がと…。
いいえ。
じゃ高坂冴子という…。
お宅どなたですっ!?いえ私は…。
友達だなんて嘘でしょ!そんな女たちに何頼まれてきたか知りませんけど家にはお金なんか一銭もありませんから!いえ奥さん私はそういうことじゃ…。
主人は私にはもうとっくの昔に死んだも同じ人だったんですから。
(扇風機の回る音)あっどうも。
どうしました?とりあえずどうぞ。
警察の情報によれば野田直彦は7月2日の夜から女と嵐山のあのホテルに泊まっていたようです。
7月5日にチェックアウト。
どうもその日に殺されたようです。
で遺体の衣服の損傷などから清滝川に落とされた死体は落合で保津川と合流。
そのまま嵐山のほうに流れ着いた。
それが8日。
警察は車の助手席に乗っていたという女性を重要視してます。
それとホテルで野田直彦を見たというあなたの連れの由喜子さんも捜してます。
どうして?彼女がもしかして助手席の女性の顔を見てるかもしれないから…。
漆原さん。
私元は刑事でお話してくださるならご相談には乗れますよ。
私の知ってることはそれですべてです。
なるほどね。
(ボールがあたる音)
(子供)すみませんでした。
大丈夫だよポンコツだから。
ところが田中直彦も何もかも実在していない。
しかしあれは…。
はっ?神護寺で由喜子はどうして私に声をかけてきたんでしょうね?〜失礼ですが由喜子さんはおそらくあなたが来ることを知ってましたね。
〜〜なぜ?〜いやそれが謎ですが。
〜あなたが神護寺に行くのを〜知ってたのは?〜〜女房の友達だけです。
〜〜これは?〜女房も〜気づいていたのかも…。
奥さんの旧姓は〜何ていうんですか?〜高坂です。
高い坂道。
友達の旧姓はわかりませんけど〜名前は久仁枝。
洛南女子大学の付属高校の〜同級生です。
〜なんとも妙な具合に〜なってきましたね。
古都には魔物も棲む〜といいますからね。
〜魔物?いや奥さんが〜というのじゃなくて。
〜〜今フッと思ったんですが私を京都に向かわせたのは〜女房じゃないかって…。
私7月2日までには〜外出できるかしら…竹井さんこれ東京の佃煮です。
奥さんにどうぞ。
あいにく私独りで者でして。
…私も女房に先立たれて…。
酒のつまみにさせてもらいます。
いただきます。
同窓会名簿で奥さんの友人の久仁枝さんのことはすぐに判りました。
旧姓が宮脇さんです。
老舗の扇屋「宮脇賣扇菴」の娘さんですね。
あそうです。
たしか扇屋でした。
10年前に上京して「北山フーズ」社長北山茂氏と結婚。
で溝口由喜子さんのことなんですけども宮脇さんの線からすぐに判りました。
えっ?旧姓が小川。
実家は扇の仕上げ加工を代々やってる所です。
扇…?はい。
ツケという加工工程です。
つまり久仁枝さんの実家の扇を作ってるんですよ。
ですから奥さんのご友人の久仁枝さんと由喜子さんが知り合いでも不思議じゃありません。
じゃ竹井さん彼女の居場所も?いやそれは判りませんでした。
5年前に家出同然に実家をとび出してまして。
よくある男がらみです。
家の人にはこの前由喜子さんのことは訊いたんですけどもほとんど相手にしてもらえませんでした。
おそらく居所も何も知らないと思いますね。
結婚した相手は溝口孝道というんですけどもこの男がリストラで仕事をなくしてから二人の関係はおかしくなったようです。
亭主は仕事が続かずそのうえギャンブル。
由喜子さんは亭主から逃げるようにしてあちこち転々としてるようです。
しかしまぁ夫婦ってのはいろんな形がありますね。
では行かなきゃ。
私行きます…。
ごちそうさまでした。
(ケータイの呼び出し音)・
(久仁枝)北山です。
ただいま留守にしておりますので御用の方はメッセージを…。
由喜子さん!由喜子さん!由喜子さん!すみませんこんな所に。
いえ。
外だと主人に見つかるんじゃないかってビクビクするもんですから…。
どうぞ。
これまでいろいろとすみませんでした。
久仁枝さんに頼まれて…。
(麦茶を入れる音)ウチは昔から久仁枝さんのお店にはお世話になってて私が家を出たときもいろいろ助けてもらってそんな恩が私にはありましたので…神護寺に行くのもそれで引き受けました。
久仁枝さんはなんと言って…?人助けだって…。
京都以来の友人を救いたいって奥さんのことです。
友達の旦那さんが奥さんの昔のメモを…秘密のメモを見たのだと言われました。
10年後に再会を約束したメモだと…。
多分相手の男は来ないけど旦那さんのメモは残る。
奥さんへの疑いも残るって…。
そんなことになったら奥さんかわいそうだから旦那さんの気持にケリをつけたいって…。
作り話をして相手の男が死んだことにすれば旦那さんの気持も治まるはずだと…。
メモはメモで終わるはずだと。
私は相手の男の人の死を知らせる役目でした。
けど…女房にそういう相手がいたってことは事実だし…。
…でしょう?16日…どうして来なかったの?あなたから電話をもらった後久仁枝さんに電話しました。
そしたら奥さん亡くなったってずっと前から病気で重い病気だったって…そんなこと知らないから私自分のしたことに恐ろしくなってあなたにも奥さんにも悪いことをしたようでだから…。
だから…。
だけど久仁枝さんがどうして私に冴子を憎ませるようなそんな作り話の必要があったのかな?それは私も聞きました。
なんて…?それも人助けだって。
そんな人助けがどこにあるんだ!
(ドアが開く音)
(溝口孝道)こういうことか?俺から逃げ回ってこのヤロー。
別れたいだの何だのこのヤロー!お前にはこんな男がいたのか!このヤロー!ええっ!こらっ!やめろよ!そんな人じゃないの!お前は誰だよ!このヤロー。
テメェ他人の女房を寝取っといていい度胸してんじゃねえかよ!お前なぁこういうのはちょっと高くつくぞこのヤロー。
やめて!さっきからうるせえんだよ!警察に行きますか!警察に!ええっ!なに?お願い別れてください!
(電車の通過音)
(電車の通過音)ああっ!由喜子…由喜子お前テメェ!ええっ!〜すみません。
〜すみません。
奥さんにもあなたにも私…。
〜〜どうするの?これから…。
もう意地張らんと実家に戻ろうかと…。
主人家には来れないと思うし…。
そのほうがいいよ。
(鐘の音)
(由喜子)京都ではこのお寺を六道さんというんです。
8月のお盆の入りの日に亡くなった精霊を鐘を打って迎えるんです。
そして16日五山の送り火でその霊を送るのが京都のお盆です。
それで…夏は終わり。
(鐘の音)
(蝉の鳴き声)先月の5日嵐山のホテルに着いたとき古いBMW車に乗り込む男の人を見たよね?あの男の人が殺されて見つかったの知ってた?どうして届けなかったの?警察はねあの車に乗っていた女の人も私と一緒にいた君のことも捜しているよ。
どうして私を…?ホテルの駐車場で見たことを話したから…君があの男のことを知っているようだと…。
私は…。
警察はねもしかしたら君があの車に乗っていた女の人も見てたんじゃないかとも思ってる。
ねぇこれから〜警察に行かないか?〜〜どうして?〜〜ねぇどうして?〜〜昨夜考えたよ。
あのとき君が見ていたのは〜あの男の人じゃなくてあの車に乗っていた女の人を見ていたんじゃないかって。
〜京都に居るはずのない〜その人を…。

(店員)あっありましたよモモちゃん。
6月30日〜7月6日までお預かりしてます。
預けたのは…?こちらの方です。
北山…北山久仁枝。
北山さんあの…奥さんは?京都に行くと言ってましたが…。
ああそうですか。
ほらお盆でしょ。
今年は奥さんを大文字の送り火で見送るんだなんて…。
(女性の悲鳴)
(蝉の鳴き声)俺も京都に行くよ。
そこで見送るね。
(清子)お越しやす。
久仁枝の母親どすけど…。
ああ…あの漆原と申します。
はい。
久仁枝さんはこちらに…?北山さんとは家族ぐるみでお世話になってまして…。
あぁそうどすかけど久仁枝は来てしまへんえ。
ウチもどないしてんのか気にはしとるんどすけどなぁ。
そうですか。
けど茂さん久仁枝の行先も知りはらへんちゅうのはなんやけったいどすなぁ。
ええ。
(由喜子)久仁枝さんこっちに…?聞いてない?彼女の行きそうなところ知りませんかねぇ?会いたいんだ。
私も何とか連絡とれるようにしてみます。

(由喜子)この橋の向こうが〜西明寺です。
私は向こうの茶店で〜お待ちします。

(蜩の鳴き声)今冴子この世に戻ってきているのよ。
お盆の入りの日六道さんでお迎えの鐘撞いたんですよ。
多分私たちをどっかから見てるわね。
今夜…冴子を送り火で見送るわ。
久仁枝さん。
ごめんなさい。
あの10年前のメモ冴子のなんかじゃないの。
あのメモ私と…野田直彦の間で取り交わしたものなの。
あの人には奥さんも子供もいたの。
奥さんの実家の事務所引き継いでいたんだけど奥さんに知れてうちの店にまで押しかけられたんですよ。
親や兄たちに怒られてそれで引き裂かれたんです。
彼と10年前最後に会ったのが…嵐山。
そのとき約束したの。
「10年後愛が変わってなければ会おう」って…。
私京都に居られなくなって東京に行ったの。
実家の出店が東京にあったんでそこで働いてました。
その店に人に連れられてきた北山と知り合ってそれで結婚したんです。
野田のことも再会する約束のことも2〜3年は忘れてました。
そうたったの2〜3年。
北山…前から続いてる女がいたんです。
それだけじゃなくて次々と他の女とも…。
ハハ…知らなかったでしょう?冴子だって知らなかったはずよ。
隠したもの。
幸せなフリしてましたから…。
主人との間が冷めてるとわかったとき忘れてた約束を思い出したの。
「野田との10年を待とう野田に会ったら主人と別れて幸せになろう」…それを支えに暮らしてました。
そして私も7月2日…神護寺に行ったの。
〜野田直彦:いやぁ〜かわらないねぇ。

(久仁枝のすすり泣く声)〜〜〜久仁枝…〜その日は夢みたいだった。
〜次の日もその次の日も〜うれしくって楽しくって…。
〜〜〜それが…。
(うがいをする音)
(うがいをする音)
(スパゲティをすする音)うん…!?ううん。
うん。
(ジュースをすする音)〜あんたはあの後玉の輿か?〜〜俺はずっと〜惨めなものでね。
仕事の業績も上がらずそのうえこの前は事故をやって〜怪我だ。
仕事はできない借金は増えるわでもう…。
〜そんな話…。
〜少し…融通してもらえないかな?〜ええっ!?〜600万円あるんだ借金。
〜何も全部とは言わんけど少し何とかならない?〜〜助けてくれよ〜なぁ助けてくれよ。
なんなら旦那に〜俺が頼んでもいいんだ。
〜こんなものを取り交わした〜間柄だと言ってさ…。
〜なぁ助けてくれよ。
〜ああっ…どう…あの頃と変わらないね。
うん静かだろ?高雄…栂尾…槇尾…。
よいしょよいしょ。
俺女房と別れるから…。
それで東京に行くよ。
東京でなんか事業始めてもいいし…。
助けてくれるよね?久仁枝…。
10年…10年待ったんだよ。
久仁枝何だよお前…。
久仁枝!何だよお前…!?変わるなよ久仁枝!ああっ!うっ!久仁枝!久仁枝!直彦さん…。
直彦さん!
(激しい川音)
(蜩の鳴き声)〜時間が憎いわ10年が…。
〜〜人を変えてしまう歳月が…〜憎い。
〜私何も主人に知れることが〜嫌だったんじゃないの。
〜あんなふうに変わった野田を〜ずっと思っていたことが〜悔しかったの。
あんな男…〜ずっと待ってたことが…。
〜しかしあのとき神護寺には…。
私たちの約束は午後1時だったんですよ。
それを冴子がこう書き足して「十」に…。
久仁枝さんどうしてあのメモが冴子に…?野田とのこと相談したとき冴子は「よしなさい」って言ったの。
でも少し経って病院に行ったら「あのメモを使わせて」って言い出したの。
私がこんなメモを持ってるって知ったらあの人きっと行くわ。
行けない私のためにか腹を立ててかはわからないけどあの人きっと神護寺に行く。
冴子!そこへ別の人が来て主人に会うの。
会って本人が死んだと言ってもらうの。
私とその相手の10年前の恋を言ってもらうの。
和樹さんを10年も裏切っていたことも。
なに言うのよ!ご主人あなたを恨むじゃない。
憎むじゃない!それでいいの。
冴子!〜久仁枝私わかるのよ。
主人は何も言わないけど〜もう…私長くないのよ。
〜私が死んだらこれ…自惚れじゃなくてあの人こたえると思うの。
〜いつまでも引きずってそれでも独りで生きていくと思うの。
〜それがかわいそうだから早く私のこと忘れさせたいのよ。
〜忘れて〜早くいい人をみつけて…。
そのためには憎まれたまま死んだほうがいいの〜〜最後のさいごまで冴子〜ご主人のこと…。
〜〜そんな夫婦を見て…だからよけい10年前の約束に〜すがってしまって…。
〜〜ごめんなさいね。
〜ねえぇ…。
〜うん!?私が死んだら〜あなたどうするの?〜〜ねえぇ…〜私…今夜冴子見送れないわ。
〜〜代わりに送ってください。
〜〜由喜ちゃんも近くに来てるのかしら?〜〜冴子の思いが通じたのねぇ。
〜〜〜私…1度奥さんにお会いしたかった。
2016/01/27(水) 13:00〜15:00
テレビ大阪1
小杉健治サスペンス「十年 〜妻が夫を裏切った日」[字]

闘病中の妻が抱える秘密。その真偽を確かめるため、男は京都に向かう…。

詳細情報
番組内容
漆原製作所社長・漆原和樹は、末期がんに冒されている妻・冴子のある秘密を探るため、京都・高雄の神護寺に向かっていた。治る見込みのない妻の闘病生活を支え、病院でも仲睦まじいと評判の夫婦仲に何の疑いもなかった和樹だったが、ある1枚のメモが妻への疑惑を抱かせた。 6月上旬、一時退院していた冴子の再入院が決まり、荷物の準備をしていた和樹は、冴子の手帳から落ちた1枚のメモを拾った。
番組内容続き
そこには「平成十五年七月二日 神護寺 十時 直彦 平成五年七月二日」と書かれていた。和樹の脳裏に、冴子の「7月2日までには外出できるかしら」という意味ありげな言葉が浮かぶ。
出演者
漆原和樹…大杉漣
 北山久仁枝…藤真利子
 溝口由喜子…寺島しのぶ
 野田直彦…本田博太郎
 滝本克巳…石丸謙二郎
 北山茂…三浦浩一
 鎌田刑事…河原さぶ
 竹井守…遠藤憲一
 溝口孝道…寺島進
 漆原冴子…風吹ジュン   ほか
原作脚本
【原作】小杉健治「十年」より
【脚本】金子成人
監督・演出
【監督】井上昭

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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