(ゼンマイの音)さあさあ皆様御注目。
ご覧頂くのは江戸時代の傑作からくり人形「弓曳き童子」。
人形が自らの手で矢をつかみ弓につがえて的を射ます。
お見事!続いては「文字書き人形」。
何とも美しい筆さばき。
とめはねはらいも完璧です。
書かれたのは「寿」の文字。
こちらもお見事!今宵は皆様をこの遊び心あふれるからくりの世界へとご招待します。
ひとたびゼンマイを巻けばひとりでに動きだすからくり人形たち。
江戸時代不思議なからくり人形を次々と作り出した天才発明家がいました。
田中久重です。
きたきたきた〜!
(子供たち)お〜!この男とにかく人をビックリさせる事がだ〜いすき。
奇妙奇天烈なからくりを発明しては披露する事から「からくり儀右衛門」と呼ばれていました。
発明家としての原点それはなんとイジメ!寺子屋でいつもからかわれていた幼い頃の久重。
(子供たちの笑い声)しかしそれにはめげません。
(子供たち)開いた〜!いじめっ子たちに一泡吹かせた初めての発明品とは…。
久重の最高傑作とされる重要文化財「万年時計」。
そこには現代の技術者たちもびっくり仰天のからくりが…。
技術が大したもんですよね。
江戸時代でしょ?今宵はサプライズに人生を懸けた一人の天才発明家の物語です。
ようこそ「歴史秘話ヒストリア」へ。
今日私は福岡県久留米市のとあるお屋敷にお邪魔しております。
まずはお茶でもどうぞ。
(手をたたく音)あぁかわいいお人形さんがお茶を運んできてくれました。
あらいい位置で止まってくれますねえ。
早速お茶を頂いて…どうもありがとうございまし…あ〜!ええ!?そのままUターンしてお片づけ。
なんとも不思議なからくりですねえ。
久留米駅前にやってまいりました。
こちらにあのからくり人形を生み出した人物がいるというのですがさて…。
あっあちらの大きな時計をご覧下さい。
動きだしましたよ〜!駅前にある大きなからくり時計。
そこから現れたのは…。
この方こそが数々の傑作からくり人形を作り出した「からくり儀右衛門」こと田中久重。
久留米が生んだ天才発明家です。
江戸時代後期の寛政11年。
幼い頃から父の技を見て育った久重は人一倍手先が器用な少年だったといわれます。
ところが寺子屋では典型的ないじめられっ子。
周りの子供たちにはいつもいたずらされていました。
筆ば出せ。
おい開くっぞ開くっぞ。
(小声で)シッ静かに見とけ。
(久重)うわっ!
(カエルの鳴き声)すずり箱に仕掛けられていたのはなんとカエル!先生儀右衛門がカエルで遊んどる!
(子供たちの笑い声)つら〜い寺子屋でのいじめ。
ある時それをひっくり返すきっかけが訪れます。
近所の神社にやって来たからくり興行です。
当時からくり興行は芝居や見世物小屋と並んで庶民に大人気の娯楽でした。
(客)おお〜!心の声すごか〜!一体中はどげんなっとると?あんなすごかからくり作ってみたか〜。
夢中になってからくり人形を見つめるうちに…。
心の声そうか!久重の頭に一つのアイデアが浮かびました。
家に帰った久重はいたずらされていたすずり箱を取り出し何やら細工を始めます。
よし。
もうこれでいたずらできんぞ!寺子屋にすずり箱を持っていくと…。
なんこれ…どげんしても開かん。
久重初めての発明品…開け方にはコツがあるったい。
ここをこうやって…。
(子供たち)開いた〜!
(久重)ここがつまみになって鍵がかかるっちゅう仕掛けたい。
9歳の少年にひらめいた小さなからくりです。
へ〜すごかもんこしらえたなあ。
これ全部お前が考えたと?すごかぁ!俺にも作って!作って作って!私も作って!いじめられっ子から一転久重は人気者に。
心の声みんなばあっと驚かすからくりばこれからどんどん作るったい!久重は自宅の一室を細工場にしてからくりに熱中するようになります。
当時久重がお手本にしたとされる教科書がこちら。
茶運び人形をはじめさまざまな…江戸後期ベストセラーだったからくり本です。
久重はこの本を片手に日がな一日からくり作りに没頭。
そして大人になる頃には自分のオリジナルからくり人形を製作するようになります。
心の声本のとおりに作ってもいっちょん面白くなかね。
もっともっと驚かせるからくりにするたい!おなじみゼンマイ仕掛けの茶運び人形。
久重以前の茶運び人形は…一方久重の「茶酌娘」はまるで客が見えているかのように…一体どんなからくりなのか。
ちょっと着物の下を失礼して…。
こちらの歯車に久重が考えた秘密の仕掛けがあります。
歯車には人形の歩みを止めるためのストッパーが付いています。
このストッパーの最初の位置を変える事で歯車が回転している時間つまり人形が歩く距離を決める事ができます。
するとお客さんの前でピタリと止める事ができるのです。
あたかも人形が自分の意思で動いてるかのように見せる。
久重のからくりにはそんなサプライズが仕掛けられています。
そのぐらいの事をしてた。
(客のどよめき)二十歳を過ぎた頃久重は幼い頃から抱いていた夢を実現させます。
地元の神社でのからくり興行デビューです。
次にお目にかけまするは「弓曳き童子」。
これより4つの矢を流れるようにつがえまして的を狙います!まずは一の矢。
(客)お〜!心の声
(久重)おおみんなびっくりしとる。
この顔ば見るんがたまらんなあ!やっぱ自分にはからくりが一番たい!家業を手伝わずからくりばかりにかまけている久重に父は激怒します。
お前は長男ばってん家を継がんち言うとか!からくりなんぞ明日どうなるかも分からん商売たい。
食っていけるわけがない。
悪い事は言わん。
考え直せ。
しかし久重は…。
家業は弟に継がせて下さい。
自分は発明工夫をもって天下に名をあげたかと思います。
なんと家業を捨てからくりの道で生きていくというのです。
からくり興行師を夢みて家を出た久重。
この時26歳。
さてさて一体どうなってしまうのでしょうか?からくりで天下に名をあげると言って家を飛び出した久重。
まず向かったのが人の集まる京の都や大坂でした。
そこでからくり興行を行い一山当てようとしたのです。
久重の興行は一流の…中に入ると客席ではからくり人形がお出迎え。
待ち時間も期待が高まります。
さあいよいよ開演…と口上を述べるのもこれまたからくり人形。
舞台上では音楽と共に大仕掛けのからくりが妙技を演じます。
そこはまさに「カラクリ・ワンダーランド」。
評判が評判を呼び…大儲けしました。
これで久重も一安心…というわけにはまいりません。
からくり興行は当たり外れの大きい不安定な仕事。
そんなに甘いものではありませんでした。
(雷鳴)大坂での大成功のあと久重は意気揚々と江戸に乗り込みます。
しかし…ついには…さすがの久重もさぞ落ち込んでいるかと思いきや…。
なんのなんの!やって来たのは京の都。
久重はここに自分の店をオープンします。
店の名は…人々の悩みをからくりで解決してくれるお店だというのですが…。
おや?早速お客さんがいらしたようです。
(商人)店閉めたあと帳簿つけたいんやけど今あるロウソクとか行灯暗いねん。
年食ったせいか最近よう見えんようなってしもて。
夜でも仕事ができるような明かりが欲しい。
久重は…明かりを強くするには…油を切れ目なく火に送れればよかな。
きたきたきたきた〜!生まれたのがこちら…今で言うオイルランプです。
下の部分は燃料の油を入れておくタンク。
ここから空気圧で一気に灯心まで油を送る仕組みです。
ガラスのカバー付きで風にも強い画期的な照明でした。
筒の中の油が常に流れるごとなっとる。
火はロウソクより明るいし容易には消えん。
これがあれば夜でも仕事できますわ!…というふうに考えてもいいんじゃないかと思いますね。
久重の評判を聞き機巧堂には続々と依頼が舞い込みます。
アイタタタ…あ〜。
腰やってしもうたんよ。
漬物石のせいや。
うち仕出しやっとるやろ?たくあん樽がそりゃたんとあるわけやけども…。
儀右衛門さん漬物石を楽に持ち上げられるからくりないやろか?心の声きたきた〜!久重考案の…ねじ状の歯車を使い重い石を小さい力で上げ下げできます。
この取っ手をくるりくるり回せば片手でも楽々上げられるたい。
へえ〜ほんまに?早速十ほどこしらえてぇな。
いくらあっても足りひんからな。
またある時は…。
うちんとこに水飛ばす道具あるんやけどこれがまるで役に立たん代物で。
出る水がもうちょろっちょろなんや。
心の声きた!きたきたきた!今で言う消火ポンプです。
左右の取っ手を交互に押して空気圧を高め水を勢いよく噴出。
放水距離は9メートル以上にもなりました。
これで間違いなく5間以上飛ぶし水も途切れん。
筒先が自在に動く。
さすが儀右衛門はん分かっとるわ!機巧堂は押すな押すなの大盛況。
ひっきりなしにお客さんが訪れました。
常に注文主の予想を超える発明で人々に驚きと喜びをもたらした久重。
でも一番喜んでいたのは久重自身だったのかもしれません。
久重は生涯で数多くの発明品を生み出しています。
しかし中には大変評判の悪いものもあったそうです。
祇園祭の華…中でも山鉾が角を曲がる辻回しは最も迫力ある見せ場です。
実はこの辻回し一度久重が改良案を出した事があります。
久重のアイデアは折りたたみ式の補助輪を出すというもの。
こうすれば実にスムーズに曲がる事ができます。
ところが…鉾の曳き手たちは大ブーイング!うまく回りすぎては肝心の迫力がなくなってしまうというのです。
結局この案は不採用となりました。
久重はこの失敗から一つの事を学びます。
うまくいくかどうか分からん方が客は盛り上がるったい。
久重作の…実はこの人形4本の矢のうち…例えば2本目の矢を外せば観客はかたずをのんで3本目を見守ります。
そこで見事命中させれば大盛り上がり。
(歓声)さすがは久重。
天才発明家として日本中にその名がとどろくようになった久重ですがこれで満足していたわけではありません。
いよいよ最大のサプライズ。
究極のからくりへの挑戦が始まります。
ここに久重の生涯最高傑作とされるからくりがあります。
久重が53歳の時の作品です。
上部には太陽や月の動きを示す天球儀。
側面には旧暦や二十四節気など時に関するさまざまな表示がずらり。
この全てが連動し一年間自動で動くといいます。
時計の中には1,000を超える部品が組み合わさっています。
その複雑なからくりは現代の技術者をも驚嘆させるものでした。
今から160年以上前コンピューターもない時代にどうやってこの時計が作られたのか。
そこには天才久重の苦悩の物語がありました。
こりゃいかん。
風切り車の軸が折れとる。
久重はさまざまなからくりを作る一方…当時はもちろん電池などありません。
腕のある職人にしか修理できないものでした。
久重のもとには…儀右衛門はん聞いてぇな。
こないだうちの丁稚が変に時計いじって夏やのに冬の時計にしてしもたんよ。
やたら昼になるんが早いな思ったらこれや。
どういう事?実は…その一つを「一刻」と定めます。
ですが…夏は日が長いため昼の一刻は長くなります。
冬はその逆。
日が短いため昼の一刻は短くなります。
季節によって一刻の長さが変わる。
これを「不定時法」といいます。
こちらは…針が上下に動き文字盤の時刻を示します。
文字盤は目盛りの幅が異なるものがいくつも用意されています。
これを月に2回掛け替える事で不定時法に対応していました。
この櫓時計では分銅の位置を変える事で時計の進む早さを速くしたり遅くしたりして時間を調整しました。
こちらもやはり月に2回は調整が必要でした。
ほんまいちいち付け替えるんが面倒やねん。
てかつい忘れてまうしなあ。
あぁほっといても全部自分でやってくれるそんな夢みたいな時計はないんかなあ。
心の声1年中自分で調整する時計か…。
こりゃまた難しい注文ばい。
久重は早速設計に取りかかりました。
しかし今回に限っては肝心要のアイデアがなかなか浮かびません。
いかんいかん!これじゃこれまでのもんといっちょん変わっとらん。
久重の残したアイデアメモです。
書かれている数字は歯車の歯の数。
歯車の大きさや組み合わせを変える事で何とか解決できないか試行錯誤していた事がうかがえます。
久重は店を弟子たちに任せ昼夜を問わず工房で製作に励みました。
睡眠は多くて3時間ほどだったといいます。
このころの久重の心境をうかがわせる言葉が残っています。
夏が過ぎ秋が訪れ冬となりまた春がやって来る。
季節は次々と過ぎゆくもののそれでもひらめきは訪れませんでした。
心の声う〜ん…やはり難しいか…。
ん?工房の片隅にあったのは子供の頃熱心に読んだからくり本。
そこにはこんな一節が記されていました。
「からくり師の竹田近江は…」。
心の声子供の遊びか…。
心の声そうたい!子供の遊びたい!あっ儀右衛門さんや。
(久重)いっちにいっちに。
お〜上手やのう。
ほい。
いっちに…頑張れ頑張れ。
久重は童心に返って遊びました。
そして…。
そうか!これだ!生まれたのは一つの小さな歯車でした。
開発を始めてから3年。
久重は一体どんなからくりにしたのでしょうか?こちらが不定時法を示す「和時計」の盤面です。
160年以上たった今残念ながら動く姿は見られません。
文献に残されたその動きをCGで再現してみましょう。
久重のアイデア。
それは…夏は昼が長く夜は短くなり…。
冬はその逆。
季節に合わせて駒が動く事で不定時法が見事に表現されています。
一体どうしてこんな動きができたのか?2005年その謎を解くべく現代の科学者100人が結集。
万年時計の分解調査が行われました。
すると…かぶと虫のような形の…これこそが万年時計の鍵となる部品です。
時計の内部を改めて見てみると…。
中心部にはあの虫歯車。
隣の歯車とかみ合い左右交互に動いています。
普通の時計では歯車は一つの方向にしか回りません。
ですが虫歯車はその特殊な形で…この虫歯車の動きが盤面の駒へとつながり上下に往復する動きになっていたのです。
誰も挑戦できないような…その虫歯車というもので実現をしてしまったという。
虫歯車には無数のやすりの跡が残されていました。
久重が何百回何千回とやすりをかけ滑らかな回転を目指した証拠です。
現代の科学者をも驚嘆させた久重最大のサプライズはこうして生まれたのです。
今宵の「歴史秘話ヒストリア」。
最後は人々を驚かせまた喜ばせる事に人生を懸けた田中久重。
そんなお話でお別れです。
時代が明治になると久重は77歳にして…当時最先端の技術であった「電気」に注目。
遠く離れた場所に信号を送る…80年余りの生涯その最期に至るまで久重は人々を驚かせるからくりを作り続けました。
(鐘の音)2015年3月。
スイス・バーゼルで開かれた国際時計見本市。
ここで発表された一つの時計が世界を驚かせました。
「和時計改」。
久重の万年時計の機構を「腕時計」として現代によみがえらせた作品です。
この時計を作った…一つ一つの部品を久重と同じようにあえて手で作り構想から5年の歳月をかけて完成させました。
そういう気持ちがありますね。
人々を驚かせるサプライズに満ちた発明品を作りたい。
久重の心は現代の職人たちにも脈々と受け継がれています。
2016/01/27(水) 22:00〜22:45
NHK総合1・神戸
歴史秘話ヒストリア▽人生 なんてったってサプライズ〜からくり儀右衛門[解][字]
人々を驚かすことに人生を懸けた男がいた。江戸時代の発明家・からくり儀右衛門こと田中久重だ。電気もモーターも無い時代に久重が作った驚きのからくりの世界を紹介。
詳細情報
番組内容
江戸時代後期、奇天烈な発明品をつくっては、人々にサプライズを仕掛けるのが大好きな男がいた。通称“からくり儀右衛門”こと田中久重。小さい頃、いじめられっ子だった久重は、ある日、自作の「からくり」で子どもたちを驚かせ、一躍ヒーローに変身!以来、からくりの魅力に“ハマ”ってしまった久重は「弓引き童子」や「茶運び人形」といった精巧無比なからくり人形の傑作を次々と生み出していく。
出演者
【キャスター】渡邊あゆみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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