3年前、がんの予防効果が期待され、定期接種になった子宮頸
(けい)がんワクチン。
今、混乱が続いています。
接種した人たちから副作用ではないかと訴える声が相次いだことから、国は積極的な接種の呼びかけを中止。
接種すべきかどうか判断に迷う異例の状況が2年以上続いています。
ワクチンを接種する人が激減する中子宮頸がんになる人が増えると懸念する声も上がっています。
長引く混乱の背景に見えてきたのは副作用かどうか判断する仕組みが十分に整っていない実態でした。
安心してワクチン接種を受けるためには何が必要か考えます。
こんばんは「クローズアップ現代」です。
予防したい病気の原因となるウイルス弱毒化したものなどを体内に入れ免疫をつける。
これがワクチンです。
感染症の撲滅に大きな役割を果たしてきたわけですがワクチンを打つと一定の副作用も起きてしまいます。
病気をどれぐらい予防でき接種の副作用は、どの程度でどのぐらいの割合で起きるのか。
ワクチンによるメリットとデメリットをはかりデメリットが上回っていると判断されれば、ワクチンの接種をやめなければなりません。
人種の違いなどによってワクチンの副作用の症状や発生頻度も異なることが少なくないため、それぞれの国で科学的な根拠に基づいた判断が大事だとされています。
ところが日本ではワクチンの有効性とリスクを科学的に評価する仕組みのぜい弱さからワクチンへの不信感が生まれる事態が起きています。
世界100か国以上で接種が行われ、日本でもすでに340万人が接種を受けた子宮頸がんワクチン。
小学校高学年から高校生の女性が主な対象でウイルス感染が原因で発症するがんを予防できるとされています。
日本では3年前に定期接種化されましたが接種後に痛みやしびれなどの症状を訴える人が相次ぎ国は積極的な接種の呼びかけを中止するという迅速な判断を下したのです。
しかし、その後、症状がワクチンによるものなのかどうか明確な判断ができず2年半たった今もワクチンの接種を呼びかけるべきかどうか決められない異例の状態が続いています。
大学1年生の酒井七海さんです。
高校生のときに子宮頸がんワクチンを接種。
その後、右足と右手が自由に動かせないなどの症状が出ています。
ワクチンが定期接種化されたのは3年前。
そのころから、手足の痛みやしびれなど、副作用ではないかと訴える人が相次ぎました。
子宮頸がんワクチンはがんの予防効果が期待できるとして導入されました。
毎年およそ1万人がかかり2700人が死亡する子宮頸がん。
このワクチンはがんになる人を、最大で半分に減らせるとされています。
しかし、副作用ではないかと訴える声を受け国は定期接種にしてから2か月で積極的な接種の呼びかけを中止。
実態の把握を進めるとしました。
接種の呼びかけを再開するかどうか、判断したいと行ったのが、追跡調査です。
国の制度では副作用は、医師を通じて報告されることになっています。
子宮頸がんワクチンについて報告されていたのは、2584人。
この人たちが対象となりました。
調査結果が公表されたのは去年9月。
症状が続いている人が186人いるとされました。
この調査結果に対し不信感が広がっています。
今も、手足が自由に動かせないという酒井さん。
症状が続いている186人に入っていませんでした。
父親が、公表された国の資料を調べたところ、酒井さんはすでに回復していることになっていたのです。
なぜ、酒井さんは回復しているとされたのか。
酒井さんは、ワクチンを接種した翌日に突然、失神。
40度近い高熱に襲われ病院を受診します。
このとき、医師らが作成した国への報告書です。
症状は1日で治まり回復と記されました。
その後、手足がしびれるなどの症状が現れるようになった酒井さん。
症状に応じて別の医療機関にかかりました。
しかし当時、どの医師も新たな報告を挙げませんでした。
報告用紙には、主な副作用が挙げられていますが酒井さんの症状はいずれにも該当しなかったのが大きな理由だったといいます。
副作用を訴える人たちの団体は酒井さんのように調査から漏れるケースは少なくないと考えています。
会のメンバーにアンケートを行ったところ症状が続いていると回答したのは219人。
国の調査結果を上回っていました。
国は対象者2584人すべてを詳しく調べることができなかったと認めています。
酒井さんのように、7日以内に回復と報告されていた人は追跡の必要はないと判断し現状を確認しませんでした。
さらに病院を変わって連絡がつかないなどの理由で追跡できなかった人が845人。
結局、国が現状を確認できたのは442人。
全体のおよそ6分の1でした。
ワクチン接種の呼びかけを中止してから2年半。
接種する人は激減しています。
このままでは子宮頸がんを予防できなくなると懸念する声も上がっています。
日本産科婦人科学会は症状に苦しんでいる人たちへの診療体制を整えたうえで早期に積極的な呼びかけを再開すべきだとしています。
国の部会でワクチンの副作用を検討している岡部信彦さんです。
これまでの調査は、必ずしも十分ではなかったとし、今後さらに信頼を得られる調査を行っていきたいとしています。
今も症状が続いている酒井さん。
早く納得のいく説明をしてほしいといいます。
今夜は、国立感染症研究所で、国内外の副作用報告制度について、調査を行った経験をお持ちで、現在は国立病院機構の三重病院の医師でいらっしゃいます、谷口清州さん。
そして取材に当たってきました、科学文化部の稲垣記者と共にお伝えしてまいります。
まず谷口さん、子宮頸がんワクチンを再開するかどうか、接種を再開するかどうか、判断をしたいと思って行われた追跡調査。
追跡できたのは、副作用を訴えた方々の6分の1にとどまった。
この結果、なぜこのようになったと思われますか?
これはやはり、まずは報告体制が、医師に判断を委ねられているわけですね。
実際に非接種者が副反応だと思っても、それが報告されない。
ただ、非常に多彩な症状が出れば、医師が判断するのは非常に難しいことは明らかですよね。
しかもまた、ワクチンの接種者の履歴をきちっと管理できるようなシステムが、日本にはございませんので、それによってやはり漏れも出てくるという状況になっているんだろうと思います。
日本では、誰がどこでワクチンを受けたかということは、記録としてはあるんですか?
市町村単位で、予防接種台帳というもので管理されていますが、ただそれが、国レベルでデータベースとして、管理できていないということですね。
ですから、その不明となった方々も多い。
それは、その市町村にデータベースがあるのであれば、ずっと追跡はできないわけですか?
少なくとも市町村単位ではできると思うんですが、ただ、引っ越してしまえば、なかなか分からなくなったり、つながらなくなったりすることは起こりえますよね。
そうすると、今の状況は、ベネフィットと、それからメリットとデメリットをてんびんにかけようと思っても、情報が全然ないと、そういう状況ですよね。
稲垣さん、酒井さんは、私たちはワクチンが危険だということを言いたいんではないって、言われていました。
今、どんな思いで、何を訴えたいと思ってらっしゃるんですか?
彼女たちが訴えているのは、ひと言で言えば、自分たちの実情をきちんと国に把握してほしいということに尽きると思います。
酒井さんも、病院で症状を訴えたときに、気持ちの問題ではないかと言われて、ワクチンとの関連について、十分話を聞いてもらえなかったということなんですけれども、この問題を話し合う国の部会でも、症状を訴える人たちの話を聞く機会というのはありませんので、自分たち抜きで議論が進んでいるっていうことに、強い不信感を持っているのではないかと思います。
積極的な接種を求められなくなって2年半。
日本産科婦人科学会では、子宮頸がんを防止できるこのワクチン、積極的に進めてほしいという声も上がっているわけですよね。
これだけ時間がたった中で、どうやってこの先、判断をしていくのか。
国は何をしようとしてますか?
国は新しい調査をすることを決めていまして、今、副作用ではないかというふうにいわれているのは、全身の痛みですとか、歩行障害、それから学習障害といった症状なんですけれども、これらについて、ワクチンを接種したグループと、していないグループの2つのグループを作って、それぞれどのくらい、そうした症状を訴える人たちがいるのかというのを、調べようとしています。
この2つのグループの違いというのは、ワクチンを接種したか、していないかですので、それが、その2つのグループで発生頻度に違いが出てくれば、これはワクチンの接種が症状につながっているかどうかを考えるうえでは、重要なデータになります。
国は、この調査結果を、早ければ秋ごろにまとめたいとしています。
ワクチンの信頼を回復できるデータになると思われますか?
少なくとも、現時点では、やはりベースラインという、実際にワクチンを打ってない方で出る症状の頻度と、ワクチンを打った方の頻度、これを比較する以外には方法はありませんし、また、それが出てくれば、実際のエビデンスになってくると思いますけどね。
科学文化部の稲垣記者でした。
今お聞きのように、ワクチンを使用するうえで避けられない、この副作用の問題ですけれども、市民の信頼をどうやって回復していくのか。
ワクチン接種を国家事業と位置づけて、仕組み作りを行っているアメリカの事例をご覧ください。
アメリカ国内で使われるワクチンの安全性を監視する国の研究機関疾病対策センターです。
新たなワクチンは、未知の副作用を起こしうることを前提に対処する仕組みを整えています。
ポイントは、副作用の迅速な察知。
そしてワクチンとの因果関係の科学的な分析です。
副作用の報告は誰でも簡単にできます。
所定の用紙を使って電子メールやファックスで報告します。
日本とは異なり医師を通す必要はありません。
さらに、IDを付与して引っ越しなどしても追える仕組みになっています。
想定外の副作用が疑われる場合、ワクチンとの因果関係を迅速に分析する仕組みがあります。
鍵を握るのは大規模なデータベース。
9つの医療法人、940万人分の電子カルテからなります。
この膨大なデータを分析しワクチンを接種したグループとしていないグループで副作用が疑われる症状の発症率を比べます。
つまり、いつでもすぐにワクチンと副作用の関係を調べる疫学調査ができるのです。
この仕組みを使って直ちに使用中止の判断が下されたワクチンがあります。
乳幼児に感染性胃腸炎を引き起こすロタウイルスのワクチンロタシールド。
1998年に発売されました。
その直後から、副作用として腸重積症という重い腸の病気が疑われます。
報告は半年で10件でしたがすぐに医師に対し接種を見送るよう通知されました。
そして電子カルテのデータベースでワクチンとの関係を調査。
すると、このワクチンを接種した人は、発症率が13.6倍であることが分かったのです。
ロタシールドを打って腸重積症になる人は1万人に1人の割合。
命に関わる事態に陥ります。
一方、ワクチンを打たない場合ロタウイルスに感染して重症化するのは、1万人に20人。
数は多いものの、主な症状は下痢による脱水で水分補給をすれば、命に関わることはほとんどありません。
結局、デメリットのほうが大きいと判断され危険を察知してから、僅か4か月後に使用中止となりました。
副作用のデメリットとワクチンのメリット。
どちらが大きいのか明確でない場合もあります。
そんな場合、判断を行うのは専門家や一般市民15人から成る予防接種専門委員会です。
副作用に悩む人やワクチンを打たずに亡くなってしまった人の家族からも話を聞き判断の材料にします。
そして最後に委員が多数決によって結論を出し国に提言するのです。
今のアメリカの例で、ロタウイルスのワクチンの使用中止までの経緯、非常に説得力あったんですけれども、日本ではこの子宮頸がんワクチンのような混乱を繰り返さないために、今、一番必要な制度ってなんですか?
やはり、まず最初の探知の部分で、予想できないような健康事象があった際に、それを事象としてきちっと探知できる報告システムですよね。
そのあと、これが、本当にリスクが高いのかどうか。
アメリカのようなシステムが出来るといいんですけれども、アメリカがああいうことができるのは、国家的なワクチンのデータベースがあって、誰がいつ何を打ったかというのが、すべてあるわけですね。
実際にまた、電子カルテと、このワクチンのデータベースが標準化されているので、それがすぐにリンクができるわけです。
故に、そのデータベースを使って、打った人と打たなかった人の率を比較できる。
つまり非常に早い評価ができる。
またそれだけではなくて、それらのデータをきちっとまとめたうえで、専門家委員会で幅広く議論をする。
そういったことによって、最終的に国民の皆様の理解を得ることができる、こういった包括的なワクチン、新しいワクチンをどんどん入れるだけではなくて、その周りを固めていくようなことを作っていくことが大事だと思いますね。
健康に関わる個人情報を、国家にそこまで把握されたくないという議論も出てきそうですけれども、そういったその議論を助けるうえでのメリット、デメリットの情報が出てくるってことですね。
やっぱりアメリカも、最初はプライバシー法の部分で、そういった個人のワクチンの履歴とか、健康情報をそうやって国でリンクしていいのかっていう議論はあったみたいですけれども、ただ最終的に、いずれも個人の利益にもなる、国民全体の公衆衛生の利益にもなる。
そういったことで、納得がされたというふうに伺っています。
最初にしていた事象ベースで報告をする。
なぜそれが大事なんですか?少し繰り返しになりますけれども。
あらかじめ規定されたものだけを報告であれば、それ以外の新たなものは、絶対に報告されないわけです。
どんなことであっても、まず報告、みんなでその問題を共有しないと、解決にはつながらないわけですね。
そうしますと、やはりこれまで分からないことであっても、少しでも関連があると考えられれば、それをきちっと記述して、事象として報告していただくというのが、今、世界的にもこういった方向になっています。
アメリカの場合は、医師だけではなくて、患者本人も、報告できるシステムでしたよね。
やはり、本当にいろんな症状が出れば、医師がそこですべて判断するっていうのは難しい場合もあります。
ただ、そういったときにいろんな方が報告をすることによって、間口を広く取ることによって、感度が上がってきますので、それによって、見逃しも落ちてくると思いますから、そういったことも必要だと思いますね。
最初にワクチンを接種したときに、得られる情報を、なるべく包括的に吸い上げて、判断材料を集める、そして分析をする。
2016/01/27(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「“副作用”がわからない〜ワクチン早期導入をはばむ壁〜」[字]
3年前に定期接種化された子宮頸がんワクチン。副作用を訴える声が続出し、国は勧奨を中止。2年以上経った今も混乱が続く。ワクチン評価制度のぜい弱さが浮き彫りになった
詳細情報
番組内容
【ゲスト】国立病院機構三重病院・臨床研究部長…谷口清洲,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】国立病院機構三重病院・臨床研究部長…谷口清洲,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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