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2010-12-12

[][]中国の犠牲者数1000万、2000万、3500万についての考察 中国の犠牲者数1000万、2000万、3500万についての考察を含むブックマーク 中国の犠牲者数1000万、2000万、3500万についての考察のブックマークコメント

ブログというかネット全般にうんざりすることが多くて距離を置いていたら、久しい更新になってしまった。

ひと月ほど前になるが、雁屋哲氏がブログで「日本が過去に」「全部で2000万人とも言われる中国人を殺戮した」と書いたところ、それに対し、はてブで「ありえねー」的な反応だったり「むし返すな」と恐れたり「証拠は」と誤魔化したりと、まぁ、テンプレ通りの反応が多くあって、既にいくつかの批判するエントリが書かれている。

冷静になりましょう | 雁屋哲の今日もまた

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はてなブックマーク - 痛いニュース(ノ∀`) : 「尖閣衝突…まず日本は中国人2千万人虐殺謝罪しろ。尖閣に自衛隊?…日本がおかしくなる訳だ」…美味しんぼ・雁屋哲 - ライブドアブログ

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痛いニュース(ノ∀`) : 「尖閣衝突…まず日本は中国人2千万人虐殺謝罪しろ。尖閣に自衛隊?…日本がおかしくなる訳だ」…美味しんぼ・雁屋哲、のはてブがとてつもなく痛い件について(追記・訂正あり) - bogus-simotukareの日記

雁屋哲主張には疑問をおぼえることが少なくないが - 法華狼の日記

はてなダイアリー


リンク先については個々に詳しく紹介しないが、雁屋哲氏の「2000万人とも言われる〜」という表現からもわかるとおり、これは複数ある中のひとつの主張として書かれているものである。ただ、日本の多くの教科書で中国の太平洋戦争の犠牲者数1000万人と習う日本人にとっては漠然と多いと感じるんだろう。

でもその「1000万人」や、中国側の言う「2000万人」または「3500万人」という犠牲者数について、どのように出てきたのか数字なのか知っている人は案外少ないのではないだろうか。そのあたりを、ちょうど読んでいた歴史研究者の笠原十九司氏の著書に短くまとまった文章が載っていたので引用しながら少し考察してみようと思う。(最初に書いておきますが、このエントリは正確な人数を確定しようとするような、自分の力量を越えた無茶なことを目的とするものではありませんので。)


笠原十九司南京事件三光作戦 - 未来に生かす戦争の記憶』1999年

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1000万人という数字について


p76より

(以下、原文ではすべて漢数字を使用していますが読みやすいよう、資料名以外はアラビア数字に改め、ふり仮名、改行、脚注も加えています。)

 戦後すぐに国民政府の行政院賠償委員会が発表した被害調査資料では、中国東北や共産党の解放区(抗日根拠地)を含まない中国軍民の死傷者1278万4974人(うち民間人は913万4569人、民間人の死者は439万7504人、軍人の死者132万8501人)としており(遅景徳『中国対日抗戦損失調査史述』国史館印行、1987年)、一方、共産党側の中国解放区救済委員会の資料「中国解放区(共産党地城)の対日抗戦八年間における損失統計表」(1946年4月)では、中国東北や陝甘寧辺区*1その他を含まない解放区での「虐殺および虐待による死者」は317万6123人としている(殷燕軍『中日戦争賠償問題』御茶の水書房、1996年)。


 これらの資料にもとづいて1947年に国民政府は、抗戦8年間にわたる中国軍民の死者は最低にみつもっても1000万人、物的損害は556億米ドルと発表、1949年に建国された中華人民共和国政府も1960年に、8年間にわたる日本の中国侵略戦争中国軍民の死者1000余万人、物的損害500億米ドルという数字を公表していた(小島麗逸編『近代日中関係史料 第1集』龍渓書舎、1976年)。これらの政府公表の数字を受けて日本の日中戦争史関係の書物の多くが1000万人以上の犠牲者という記述をとってきた。


このままでは中国東北部や解放区の一部地域が抜け落ちているし、本書では台湾について含まれているのか言及がないのではっきりしないが、とにかくこの、戦後すぐに国民党政府が発表した死者数に共産党側の発表した「虐殺および虐待による死者」数を単純に足してみると死者数だけで890万2128人となる。

ここで想像してほしいのが、中国に日本軍は最高時200万もの軍隊を中国へ侵攻、駐留させ、住民の居住する地域が約15年間という長期にわたって戦場または食料の調達地域となったことである。それらがまねいた民間人の病死や餓死を、戦後、調査していけば、戦争を原因とする犠牲者(死者、負傷者といった生命を失ったり傷ついたりした者)の正確な数字は難しいにしても、上記の数字よりある程度、増えていくことはイメージできると思うのだが、日本ではごく一部の人を除いて、ほとんどの人がそうしたイメージを持てないのが現状のようである。


2000万人という数字ついて


これについては本書では触れられていないのでid:scopedog氏による『日中戦争における中国側犠牲者数の考察 - 誰かの妄想・はてな版』を参照してもらいたい。

「1970年 1800万 共産党政権発表」であるが、これも国府中共双方の軍民死傷者数(寡婦、孤児、身障者の296万3582人を含める)を指すのであれば、合計約1860万人である。

1970年になって増やしたのではなく、単に負傷者・病死者・寡婦、孤児、身障者を含めるかどうかの解釈の違いに過ぎないで説明できる。

では「1985年 2100万 共産党政権発表(抗日勝利40周年)」はどうか?

上記の国共軍民死傷者数1860万人に強制連行犠牲者を含めると2100万人を超える。犠牲者というくくりであり得る解釈であり、これも初期のデータから説明できる数字に過ぎない。


3500万人という数字ついて


p74.75より

 中国では、1995年の抗日戦争勝利50周年にむけて、全国各地の省から、県・郷・鎮・村にいたるまでの行政レベルにおける中共党史委員会や政治協商会議の組織が中心になって、地域で発生した日本軍の侵略・虐殺・暴行事件について聞き取り調査や文献資料の収集をおこなった。それらの成果を集大成するかたちで、河北省政治協商会議文史資料委員会が全国の政治協商会議文史資料委員会と共同して出版したのが、季秉新・徐俊元・石玉新主編『侵華日軍暴行総録』(河北人民出版社、1995年)であり、もう一つは、全国の社会科学院と地方党史、地方史誌関係者を結集して編集した、中国社会科学院近代史資料>編集部・中国人民抗日戦争記念館合編『日軍侵華暴行実録』(全4巻、北京出版社、1995年)である。


 こうした全国規模の調査・研究の総合をふまえたかたちで、中国側は、抗日戦争8年間に中国軍民の死傷者は3500万人に達したという数字をあげるようになった(何天義「日本侵華戦争遺留問題概述」『抗日戦争研究』1997年第四期)。1998年秋に訪日した江沢民・中国国家主席早稲田大学で「歴史を鏡として未来を切り開こう」と題して講演したさいに、日中戦争で「中国は3千5百万人が死傷し、6千億ドル以上の経済的損失を受けた」と中国の公式見解を述べた(『朝日新開』1998年11月29日)。


本書で笠原十九司氏は、中国の犠牲者数を「1000万人以上」という数字でほぼ統一して書いているが、収録されている1998年のカリフォルニア大学での国際シンポジウムの準備報告書には「中国軍民の死者数は2000万人以上といわれる(江口圭一『新版・十五年戦争史』青木書店p260)」という記述もある。3500万人という数字については同シンポジウムで正確ではないとする否定的な発言があったことだけを紹介しているので懐疑的な見方をしているように思われる。

ただ、ここで注意しておきたい重要なことは、本書で繰り返し批判されていることだが、今となっては正確な犠牲者数を確定できるだけの調査資料が存在しないのに、自分の信じたい数字を延々と主張するような態度は不毛な結果を招くだけでありヤメるべきだ、ということである。

これは中国政府の公式見解である犠牲者3500万人という数字にこだわる人がいるなら、その人達へ向けた批判でもある*2

この「数の議論」というのは、歴史上のさまざまな事件の否定論だったり歴史修正主義といったものと非常に親和性が高く明確な境もないことは多くの研究者によって指摘されていることだし、笠原十九司氏も「数の議論の落とし穴」という言葉を使い、犠牲者の「顔」も「名前」も一切、思い起こすことのないこの「数の論争」に終始すべきではないという態度をとっている。

ぼくも経験上、数字の議論に終始する人が、じゃあ、その人は正確な認識を持つよう努力するのかといえば、そうした人はほとんどいないし、多いことだけでなく少ないことも問題にするのかといえば、そうした人もほとんどいない*3

正確な数字がわからないのは戦時中の日本政府や日本軍が殺害した人数の記録をもともと残していなかったり、終戦直後、大量の資料を焼却したことにも原因があるわけだけれど、そうした日本政府や軍を批判することもまずない。

そうした人は、人数を確定できる根拠も持たないのに、大げさで根拠のないプロパガンダを広める中国が悪い、とこれまたたいした根拠もなく全否定して決め付けてかかる人が多いが、そうした自分の認識に疑問を持ったりする人は、まずいないのである。

ぼくは、こうした凝り固まった姿勢で日本の過去をみるよりも、被害をうけた人、ひとりひとりの顔や現状を知ったり、現在も世界中で似たような被害を生み出している戦争や紛争の問題とリンクさせていったほうが、ずっと建設的で本質的な問題を知ったり考えることができるのではないかと思う。

最近は中国とのあいだで、尖閣諸島の問題などギクシャクしているが、今のようなときほど、過去からお互いをもっと知ろうとする姿勢が大事なのではないかと考える。

*1:陝甘寧辺区(せんかんえい-へんく)とは、中国共産党日中戦争期間中に陝西省(せんせいしょう)北部、甘粛省(かんしゅくしょう)及び寧夏省東部に設立した抗日根拠地のこと。

*2:本書では数の問題こだわるアイリス・チャン氏なども批判の対象となっている。

*3:例えば、404 Error - FC2ブログのような反応とかね。

どろどろ 2010/12/24 22:56 「中国は3千5百万人が死傷」

3500万人は死傷者数であって、死者数ではありませんね。
障者は死者の数倍いるのが普通ですから、とんでもない数字とは思いませんよ。

dj19dj19 2010/12/25 11:18 どろさん
人数については、死者、死傷者、犠牲者といった用語の使い方や、
期間を、日中戦争の8年間、満州事変からの15年間、あるいは
それよりも前からとるかで変わってきますからね。

笠原氏が『日本軍の治安戦』で書いていますが、村単位の虐殺事件に
ついては、中国側でかなり徹底して調査されているようです。
ただ総数については「数字を形容詞的に使っているのだと思う」と
正確性については懐疑的なようですし、自分の力量を越えることな
のでなんとも言えません。

Qui-gonQui-gon 2011/01/18 18:18 うんざりする気持ちわかります。なんで、こんなに感情剥き出しで恥ずかしいこと言えるんだろうって思う物が多いですね。特に戦争の話題となるとネトウヨが・・。

dj19dj19 2011/01/19 23:34 Qui-gonさん
「うんざり」というのは左右問わずいるんです…
感情的になることは必ずしもわるい行為ばかりだとは思いませんが、ネットでは相手への
攻撃ばかりが目立ち、普遍的な問題への問いに結び付けられていないケースが多々あるよう
に感じています。自戒も込めてですが、もっと深く考えていければなぁと、頭が悪いなりに
考えているところです。

Qui-gonQui-gon 2011/01/25 09:27 左右問わずいる・・確かにそうですね。ネットではもっと、相手への思いやりを持って、感情を少し鎮めてほしいという事よくあります。

戦争の犠牲者数の特定ってまず無理ですよね・・。負傷者数とかに関しては、どの程度の負傷を負傷者数に入れるかという問題もありますし、死者は、場合によっては、遺体が見つからない場合もありますしね。ずっと後になって生死が判明する場合もありますし。ただ、中国側はかなり調査しているんだなというのは分かりました。