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二十話 覚悟
俺達一行はブロベック村から出て一路西に進んで行った。
子供達は荷台に乗り大人は歩いて進んで行く。俺は当然歩く側に回り、三十分ほどで切れるブレスを常時歩いている三人と馬に掛けてやる。
次の目的地には少し距離があり、一日は野宿が決定しているので、俺達は余り体力を使わない様に道を進んでいった。
道と言っても草原のそこだけが草が生えていない、人や馬車等が踏みしめて出来た道で、偶にすれ違うのは大体が商人の馬車で、余り人の行き来は見られなかった。
度々休憩しては、食事をしたり用を足したりするのだが、俺は今までとんでもない間違いを犯していた事に気付いた。
「ゼン様おしっこに行くのですか? 僕も一緒に行きます」
「えっ……、良いけど」
俺が用を足す為に一行から離れようとしたら、アルンが付いてくると言いだした。
俺はこの時アルンは羞恥心が無い子だなと思っていたのだが、それは直ぐに間違いだと気付いた。
離れるにはもう良いだろうと言う距離で、俺は下着を降ろしていざ放出と行こうとしたのだが、俺の後ろを付いて来ていたアルンが、何故か俺の隣りに立ちおもむろに下着を降ろしたのだった。
「お兄ちゃん達と、良く一緒にしてたのを思い出します」
アルンはそう言うと、ブルッと震え綺麗な放物線を、俺と同じモノが付いている股間から描いた。
「お、お前男だったのかよっ!?」
俺が昔言ってみたかった「お前女だったのか」の逆バージョンを、まさか転生してからやるとは思わなかった。
体が細く顔立ちも可愛いし、髪の毛も長く伸ばしていたので、俺はてっきり女の子だとばかり思っていた。
本人の話では母親が可愛からと伸ばしていたらしいが、奴隷商に売られた後も切られる事なく、むしろ整えられていたらしい。
その手の客狙ってたって事か……。
「アルン、お前髪切れ」
俺は男の娘なんぞ要らんのだ。本人も短く出来る事を喜んでいるので、次の街にでも着いたら髪の毛は短くする事にした。
俺は戻ってナディーネ達に知っていたのか聞いてみたのだが、初日の宿屋で体を拭いていた時に気付いていたらしい。双子は両方とも女の子だと思っていたので、その手の世話を全てナディーネに任せていたので全く分からなかった。
まあ、男だから如何こうなる訳でもないので、これからも対応は変わらないだろう。むしろ、気兼ねなく扱えそうで助かるわ。
その日は道から少しそれた場所で寝床を作った。
家財道具等は全て持っているので、特に困る事無くキャンプも出来て、寝床もベッドを取り出そうかと思ったのだが、屋根が無いのでもし雨が降ったら最悪な事になると気付き、それは止めておいた。
そう言えばマジックバッグの容量を考えたら、家ぐらい余裕で入るので、今度小型の家でも建ててそのまま収納するのも良いなと思った。
俺は風呂桶も完備していて、魔法で湯が沸かせるので、大自然の中、露天風呂を楽しむ事も出来た。
村の中だと排水に困るので、マジックバッグに収納していたのだが、何か余りいい気分では無かったので、此処ならばどこで捨てても自然が吸収してくれるし困る人も出ない、気兼ねなく野宿ならではの楽しみを満喫できた。
俺がミラベルちゃんを洗ってやり、風呂桶から出て体を拭いてると、ナディーネが布一枚で次の番を待っていた。
俺もそろそろ、その手の欲求が湧き出ているので、正直余り刺激を与えないでほしかった。
次の日も早朝から俺達は西へと進んでいく。
目的地の村までは、半日と言った所だろうか。
しかし、人とすれ違わない。
基本的に人は、村と街の道は通るのだが、村から村の道は通る人が少ないので仕方が無いか。
荷台に乗っている子供達には、暇つぶしにとマジックグローブを渡している。これにはナディーネも興味深々のご様子だ。
どうせ旅は長いのだから、気長にやっていってもらいたい。
昼の休憩を終え、俺達はまた歩き出す。
それから一時間ほど経ち、何気ない会話をしていると、俺達の後方に何かが迫っている事を、荷台に乗り後ろを見ていたアニアが気付いた。
俺も確認する為に後ろを見てみると、馬に乗った数人の人影が見える。見晴らしの良いこの場所では、探知のスキルで気付くより視界に入ればそれより先に気付くことが出来る。
「ポッポちゃん、警戒だ。みんなは固まって」
相手が何だかわからないが、警戒する事に越したことは無い。
余り出ないとは言え、強盗などの可能性があるし、もしかしたら俺達を追ってきた相手の可能性もある。
俺は皆を守れる位置に移動して、何時でも武器を取り出せるよう、こちらに迫る相手を見つめていた。
次第に相手の姿が見えてくる。
一際大きな馬に乗る男が先頭を走り、その後に四人の男が追随しているのが見える。
「そこの連中、止まれ!」
後方にいた男がまだ距離があると言うのに、こちらまで届く大きな声で、停止を呼びかけてきた。
既に止まっている相手にその掛け声は、アホなんじゃないかと思ったが、お約束なんだろうか?
更に近づいてきた男達は、皆軽装なのだが腰や背には武器を携帯している事が分かる。この世界じゃ珍しくも無い事だが、俺の緊張も高ぶってきている。
その中に一人、妙に気になる奴が居る事に気付いた。
そいつを良く見てみると、先日俺がぶっ飛ばした男、イーノスの姿がそこにはあった。
はぁ……、そう言う事かよ。
その時点で相手が何なのか容易に理解できた。
俺はナディーネ達にイーノスが迫っている事を伝えると、恐怖の色がその目に映し出されていた。
だが、そんな目をされても最低限の行動だけはしてもらう。
俺はマーシャさんとナディーネに、事が起きたら子供達に見せない様、指示を出した。
ふぅ……、こうなった以上は最悪の事態だけは考えて、覚悟しないといけないな。
俺は槍を取り出し、先頭を走る馬の目の前を狙って投擲すると、地面に刺さった槍に驚いた馬が棹立ちになりその走りを止めた。
乗っていた男は何とか馬をいなすと、連中から怒号が聞こえてきた。
俺は相手に聞こえる様に大声で話しかけた。
「何方か知りませんが、それ以上近づかないでください」
先頭の男が止まったからか、男達は皆馬の足を止めている。
この距離だと大分相手の詳細が分かる。
男達の人数は五人、皆一様に若く、話している様子を見る限り、先頭を走っていた男がリーダみたいだ。
剣を下げている奴が二人に、槍持ちが一人、それに弓と柄の長い斧。見える限りの武器はこれだけだ。
「おいっ! クソガキ! 覚悟しろよ!」
腰に下げていた剣を抜いたイーノスが、目を見開き叫んでいる。
その姿はまるで狂人の様で、その顔を見てしまったのか、俺の後ろから誰かの息を飲む声が聞こえてくる。
「イーノスさん逃げたんですか? 僕達はもう許しますから、大人しく帰ってもらえないですかね」
「ば、馬鹿にしやがってっ! ベイル様やっちまって良いですよね!?」
あれがベイルか。
流石貴族様、顔は残念だが、着ている服も馬も一ランク違うな。
俺が少し小馬鹿にした感じで、話しかけてみるとイーノスは顔を引きつらせて、隣にいる男に話しかけている。もうこの段階で交渉なんて成立しない事は分かっているので、挑発して相手の出方を見てみる事にしたのだ。
「落ち着けイーノス、おい子供、槍の事は忘れてやる。ナディーネを解放してこちらに渡せ。それで許してやる」
なるほど、こいつは面白い。ふざけた事言いやがる。
「僕が買い取った、三倍出してくれるなら良いですけど?」
「あぁ!? 幾らだ!」
「大金貨三十枚ですよ」
「……ふざけるなっ!」
あれ? 値段聞いてきたけど本当に交渉する気だったのか?
いくら積まれても売る気何てさらさら無いんだけど。
「ふざけてませんよ。僕はナディーネさんを大金貨十枚出して買っていますから。奴隷商から聞いてないんですか?」
そう言えばあの太った奴隷商はどうなったんだ?
イーノスが居るって事は、奴隷商に行く前に俺達を追っかけてきたのか?
まあいいか今は。
「ベイル様、もういいでしょ! こんなガキ殺しましょうよ!」
イーノスがそう言うと、明らかにベイルの雰囲気が変わった。
ベイルが左手を後ろに回すと、弓を持っていた男が矢を番えるのが見え、それに合わせたかのように各自が武器を手に取り始めた。
「貴族様、寛大な御心で考え直して頂けないですか?」
「……やれっ!」
まあ、どの道こうなるんだな……。
相手が襲い掛かって来るならば、俺も全力で相手をするしかない。
人を殺した事なんて無いけれど、やらなくては俺達が蹂躙される。
こいつ等の目的はナディーネだが、俺がここを通せば彼女以外は口封じで殺されるなんて目に見えている。
例え中途半端に撃退したら、多分俺達は貴族に牙をむいた犯罪者扱いになるんだろう。俺だけならともかく、ここに居る皆がそんな事になるなんて理不尽過ぎる。
殺すか。
自分の心が思ったより揺らいでいない事に気付いた。
そもそも俺は、俺と俺の身内に害為す相手ならば、初めから容赦をする気は無いのだ。今迄散々亜人を殺していたのが、人に変わっただけの話だな。
「ストーンウォール!」
俺は弓を構えていた男が、俺達の馬を狙っている事を分かっていたので、ストーンウォールを俺の後ろにある荷台との間に作りそれを防いだ。
予想もしていなかったのか、いきなり現れた石の壁に弓を構えた男は、どこを狙うか迷ったようで、その矢じりが俺に向く前に、俺は槍を取り出して全力で弓を持つ男に投擲をした。
足を止めた馬の上に乗っていた男は、とっさの行動を取れずに、俺が投擲した槍を胸に受け、その衝撃でそのまま後ろへと飛んで行った。
探知の反応ではまだ生きている様だが、俺が見た限りでは槍は胸を貫通していたので、回復の手段が無ければ直ぐに死ぬだろう。
その様子を見ていた男達は、ベイルを除いた三人が馬を嗾けてこちらに迫ってくる。
俺はナイフを取り出し、まずは目を見開き先頭を走るイーノスに向かって投付けた。ナイフはイーノスの肩に突き刺さり、イーノスは馬から転げ落ちている。
俺は残りの斧と槍を持つ男にも、ナイフを投擲したのだが、この二人は中々の手練れらしく、槍の男はナイフを食らいながらも更に加速をしてこちらに迫り、斧の男は手に持つ大きな斧でナイフを弾いた。
「ゼン君っ! 危ない!」
石の壁の脇から覗いていたナディーネの叫び声が聞こえた。
その声を聴いた俺に迫る二人の男は、口に笑いを浮かべる。
馬に乗る二人の男が武器を高々と構え、俺に後数秒で迫る所で俺は魔法を唱えた。
「ストーンウォール!」
こいつ等、本当にあほなんだろうか?
俺が今さっき、出して見せた魔法を理解してなかったのか?
目の前に突然出された石の壁に、二人の男と二頭の馬が嫌な音を立てて激突した。壁があるのであちら側の様子は分からないが、物音一つしない。
どうなったのかと回り込んで見てみると、どう考えても曲がってはいけない方向に、体中が曲がっている男二人と馬がそこにはいた。
あっ、馬がもったいねえ……。
生きていれば使えたのにと、ため息が出てしまった。
残りはベイルだけなのだが、全員がやられたのを見ると馬を返してこの場から去ろうとしている。
ここまでやって逃がすのはあり得ない。
「ポッポ来いっ!」
俺はナディーネ達を守る様に控えていたポッポちゃんを呼び寄せると、その体を持ちベイルに向かって助走を付けて投擲をした。
体を弾丸の様にしたポッポちゃんが、物凄い速度で飛んでいく。
更にそこにポッポちゃんの加速魔法が加わり、俺が投げるどんな物よりも速い速度が出ている事が分かる。
一気に距離を詰めたポッポちゃんは、ベイルが間近に迫ると風魔法を繰り出して、背中に命中させ落馬させる。
すると、ポッポちゃんは今度は体を反らして高度を上げると、そのままブーメランの様に俺の方へ戻ってきた。
「うっひょおおお、ポッポちゃん、すげぇ!」
ポッポちゃんは羽ばたかなくとも体の僅かな動きで、動きを制御していた。
そしてポッポちゃんは、俺の手に戻ってくると「大成功ねっ!」と、おすまし顔でウインクをしてくれた。
流石俺の相棒、多くを言わなくともやって欲しい事を理解してくれている。
可愛いポッポちゃんを愛でるのは後回しにして、俺は落馬して地面に転がる二人の元へと進んでいった。
まず先に落馬したイーノスは、俺が投擲したナイフが深々と肩に突き刺さっていて、痛みで喘いでいた。
動けなさそうなので、ポッポちゃんに見張らせる事にして、俺はベイルが落馬した所に駆けて行く。
うつ伏せに倒れて気絶しているベイルは、背中にはポッポちゃんの風魔法の後がくっきりと残っていた。
木の表皮位なら余裕で吹き飛ばす強さなので、中々酷い状態だ。
俺がマジックバッグから水を出して、ベイルの顔に掛けると、ベイルは直ぐに気が付き咳き込むと、体中にある痛みを感じたのかうめき声を上げ出した。
「何か言い残す事あるか?」
死んでもらう事はもう確定だ。そもそもこいつ等から仕掛けてきたんだ。情け何てかける気はさらさらない。
だが、言い残すこと位は聞いておこうと思う。既に三人殺しているが、何も感じない自分の心が怖いからだ。
「お、おい助けろ子供。俺を誰だと思ってるんだ! 伯爵の息子だぞ!」
「言い残す事はそれで良いんだな?」
「俺をこ、殺したら、この国に居られなくなるぞっ!?」
「全員死ぬのに、誰が知らせるんだ?」
「なっ!?」
あぁ、この程度か、でも良いこと聞けたよ。要するに皆殺しは正解だったって事だな。
俺はもう、この男の言動に心が動じる事が無いと分かったので、止めを刺す事にした。苦しめるつもりはないので、槍で胸を一突きしたのだが、俺の低い槍術では上手くいかなかったのか、物凄い断末魔を上げられてしまった。
投擲してやった方が良かったな……、すまない。
残るはイーノスの処分だけなのだが、こいつはベイルの断末魔を聞いたのか、痛むだろう体を起こしてまで頭を下げて命乞いをしている。
逃がせば俺たちの身を滅ぼすだけなのは分かってはいるが、これは躊躇をせざる得ない。
「ゼン君私がやるわ。退いてっ!」
俺が頭を掻きながら悩んでいると、ナディーネが襲ってきた男が持っていた槍を持ち、俺の背後で叫んだ。
「ナディーネ、殺したいのか?」
「こ、殺……、ゼン君だけにやらす訳に行かないわ! 全部私の所為なんだからっ! 私さえ居なければこんな……こんな事にはっ!」
大粒の涙を流しながらナディーネは、手に持つ槍を地面に刺して支えにして、体を震わせ心の中身をぶちまけた。
「ナディーネ、俺は君にやらせる気は無いからな。『命令』だ武器を捨てて荷台に戻れ」
ナディーネの気持ちは分かる。だが、幾ら復讐だとしても、こんな娘に人を殺させる気なんて俺には全くない。
俺は奴隷契約で行える命令を使い、ナディーネの動きを封じる事にした。見るからに正常な判断を行える状態じゃないので、暴発されても困からだ。
ナディーネは俺の命令通り、武器をその場に落として後ろに下がった。
「イーノス、最後に何かあるか?」
「こ、殺さないでくれ何でもする!」
「それは無理だろ、もうそれが許される状況じゃない。そもそも、お前らが警告を無視したんだぞ?」
「そ、それは……。く、くそおおおおおおお、お前さえ! お前さえ居なければっ!」
「それが最後の言葉か……」
俺はマジックバックから槍を取り出し、イーノスの心臓に向けて投擲をした。
イーノスの驚いたような、悲しそうな顔が印象的だった。
その顔、俺が今まで殺してきた亜人もしてたよ。
だからと言って俺の心が激しく揺さぶられる事も無く、ただ単に生き物を殺した何時もの感覚があるだけだった。
しかし、やっちまったな。
マーシャさんはちゃんと、子供達に見せない様にしてくれてたよな?
俺はしでかした事の反応が怖く、恐る恐る荷台に戻ると、そこには様々な様子の皆の姿があった。
ナディーネはマーシャさんに抱き付泣いてる。
マーシャさんはミラベルちゃんに、周りを見せない様に腹に抱えて居るのだが、帰ってきた俺の事を見て「はぁ~凄いわぁ~」と、口を開けて感心していた。
あれ? 何か反応がおもったのより――
「強盗倒したんですよね! 凄い!」
「ゼン様はとても強かったんですね!」
俺がマーシャさんの意外な反応に戸惑っていると、アニアとアルンが荷台から下りてきて俺に飛びかかってきた。
何か勘違いしてるし物凄く興奮している様子なのだが、もしかして見てたのか?
「お前達、俺の事怖くないの? 人殺してんだけど」
「何でですか? 悪い人が襲ってきたら、倒すのは当たり前ですよね?」
「そうですよっ! いやー、凄かったなぁ、僕も何時かゼン様のお役に立てる位強くなりたいです」
「ゼン君が強いのは聞いてたけど、ここまでとはね。全く相手になってなかったわね」
「マーシャさんまで……」
確かにギルドでもキャスの話でも、襲ってきた盗賊何かは殺してもオッケーと言っていたけど、まさかここまで「普通の事です」見たいな反応をされるとは思わなかった。
殺伐としてんなぁ……。
一段落付いたので、俺は死体は全てマジックバッグに収納した。生きていた三頭の馬は、一匹は遠くへ逃げられてしまったが、残りの二匹は俺の調教で従えることが出来た。
荷台を引く馬を調教した二頭に変更して、俺達は先へと進んだ。
村で貰ったまだ小さい馬にはナディーネが乗り、荷台は馬力が上がったので俺も乗って移動する。
話題は終始、アニアとアルンが興奮した様子で先程の戦闘を語っていて、それにマーシャさんも加わっていた。
俺は少し恥ずかしくて居心地の悪さを感じたので、何も見ていなかったミラベルちゃんを膝に抱き、甘い果物を食べさせて上げていた。
活躍したポッポちゃんにもご褒美として、アワをあげてみたら物凄い食いつき様だった。街の食糧品店に置いてあったので、つい買ってみたのだが、名前を知ってるだけで食べ方なんて知らない事を後になってから気付いた物だったので、ご褒美になるなら今後は幾らでもあげよう。
そんな中ナディーネは、一人静かに馬に乗っていた。
思う事もあるだろうから、今は放って置こう。
あの出来事から数時間が立ち、俺達は目的の村へと辿り着いた。
早速宿を取り、夕食も食べ子供達は既に寝床についている。
「さて、マーシャさんどうしますか? イーノス達は退けましたが、ベイルを含めて全員殺してしまいました。やっぱこれって不味いですよね」
俺はマーシャさんとナディーネの三人で、今後の事を話し合う為に、身を寄せて話し合いを始めた。
「そうね、とは言えあの時点でもう選択肢は無かったわ。ゼン君に全て押し付けてしまって、大人として恥ずかしいけどあれが正解だったのよ」
マーシャさんは真っ直ぐに俺の目を見てそう答えた。そこには以前見せたナディーネを失った悲しみに明け暮れていた姿は無く、何かが吹っ切れた力が籠った目をしていた。
「私は……」
ナディーネが何かを言いかけて止めてしまう。まだ考えが纏まっていないのだろう。
「ナディーネさん、一つだけ言っとくよ。あれは俺の仕事だから。別に報酬を貰ってる訳じゃないけど、俺は全員を守るって決めたんだから気にする事じゃないよ」
「でも、ここまでしてもらって、どうやったら返せるって言うの?」
「ん~、恩を感じるなら、体で返してもらおうかな。アニアとアルンの面倒見てやってね」
「その程度じゃっ!」
「それ以外にも今後やる事出来るから。マーシャさん、俺達この国出た方が良いですよね?」
俺がそう言うとマーシャさんは驚いた顔をして返事をする。
「ゼン君、そこまで考えてたの……? 目的地の変更は宛てが無くなるから、言い出し難かったけど、やっぱり貴族を殺してしまったのはまずいわ……。別にあんな奴は死んで当たり前なんだけど、もし気付かれてしまったら、私達全員この国の敵になるからね」
やはり貴族殺しは御法度なんだろう。正当な理由があり証人も居れば何とかなりそうだが、今回はそれは無い。言い逃れが出来ない状況に何て身を委ねる気は無い。
「じゃあ、隣の国まで行きますか」
「ゼン君、本当にありがとう。この恩は絶対に返すわ」
うむ、マーシャさんの笑顔も明るくなったな。
残るはナディーネだがどうすっか……。
「ナディーネさん、まだ悩んでるの?」
「だって、幾らなんでもここまでしてもらう理由が無いじゃない」
なるほど理由か。
なら教えてやろうナディーネよ!
「男が女を守るのに、理由何て要らないのさっ!」
俺は親指を立て、少しわざとらしい表情でニヤッと笑い恰好を付けてみた。
「ふ、ふふ、あはは! ゼン君ったら、どこの物語に影響されてるのよ。ふぅ……、でもありがとう」
ぐっ、予定とは違ったが笑ったならいいさ。
大分辛気臭さも抜け、俺達は今後の予定を話し合ったのだった。
「よし今日も頑張って進むか!」
「はい、ゼン様!」
「今日は僕も歩きます!」
目的地は変わったが、道なりは変わらない。
俺達は予定通り西へ、エゼル王国と進む事になったのだった。
三章終わりです。
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