48/139
十六話 理由
今日もドラゴンに餌をやる。
毎日数百個のパンを与えているが、この巨体を維持するには足りてはいないみたいで、ドラゴンは催促の唸り声を何時も上げていた。
ドラゴンがその声を発したら、パンを上げない事を繰り返していたら、いつの間にか唸らなくなっていた。中々賢いトカゲ君だ。
最近ではドラゴンの大きい瞳で見つめられる事にも慣れてきて、全く他の生き物が寄り付かないこの場所は、俺にとってオアシスになってきている。
まあ、ポッポちゃんも近づかないので、俺一人はかなり寂しいのだが、今は特訓中だし仕方が無いと思うしかない。
パンを上げる事で調教スキルが上がるのだが、これだけやっていても直ぐに飽きるので、投擲術の訓練も再開して、同時にあのドラゴンを殺す算段も考えてみた。
俺のレベルの上がった投擲ならば、槍を投げれば鱗には刺さって血も流すのだが、巨体に槍を投げてもHPが千を超えている奴に、一ずつダメージを与えている様な感覚で、直ぐに諦める事にした。
頭を狙った方が良いと思い、あのデカい瞳を狙って投擲してみたのだが、前足は自由になるらしく。短いながらも顔を守る盾になり、槍はドラゴンの前足に刺さってしまった。
顔を狙われるのは嫌なのか、角度を変えたりして目を狙って何度か投擲していると、一度本気のドラゴンの咆哮を受けてしまった。
鼓膜が破れるかと思うほどの音量と、体の芯が震えるほどの音の振動で、俺はこの世界に来て初めておしっこを少しチビッてしまった。
びっくりしたと言う事もあるのだが、心の底から恐怖が沸き起こる感覚で、本来この世界の住人では無い俺でも、本能的な恐怖を感じるのだと後になってから感心してしまった。
今手元にある槍では仕留めきれない気がするので、他の方法を考えたのだが、俺の最終兵器である金属の杭は、これだけの大きさの相手には余り意味が無さそうなのと、殺せなかった時に回収するのが面倒だと考えて使うのは止めて置く事にした。
そうなると殺す方法が、飢えさせる位しか無いのかなと思っていたのだが、大分パンを与えてるのでそれも長丁場になりそうだと悩んだ。だが、物を食べると言う事は、あれも生き物なんだと気付き幾つかの考えが浮かんだ。
まず最初は、パンに毒を混ぜて食わせてみる事にした。
俺が今持っているのはポッポちゃんのレベル上げで使った、極炎草から得た毒なのだが、これをパンに付けて食わせてみた所、全くの反応を示さない事が分かった。
こんな少量の毒で死ぬ生き物がこの世界の最強種の一角を占める訳ないって事だろう。
次に俺は、森から燃えそうな物を掻き集めて、谷に居るドラコンに向かって落とし、ファイヤーアローを撃って、火攻めをして見る事にした。
だがしかし、流石ドラゴンと言うべきか、全く効果が無い。
無いばかりか、顔付近を狙って燃やした落ち葉などがうっとおしかったのか、物凄い勢いの一吹きで目の前にあった物を全て飛ばしてしまった。
突然の暴風に谷に落ちそうになってしまったが、何とか堪える事が出来た。
あれは良くあるブレスなんかじゃ無いみたいだが、本気でも無い一吹きでどれだけの威力を持ってるんだと文句を言ってやりたくなった。
こうなると殺す手段が無くなってきた気がしてきた。
多分これ程のドラゴンになると、国が軍隊を出して対処するレベルなのだろう。相手が動かなくとも、話に聞く伝説の武器でも無ければ個人で殺すのは、不可能なのかもしれない。
伝説の武器と言えば、俺が持っている杖二本はまだ試していないが、今の俺が使える程の魔法じゃまず殺せないだろうし、水の操作が出来た所で、俺の近くでしか水の操作は出来ないので、谷の下のドラゴンを水で窒息させる事も不可能だろう。
俺はもう諦めて、そろそろこの場を発とうかと考えていたのだが、窒息と言う所に何かが引っかかった。
別に水をドラゴンの顔の位置でキープしなくとも、やり様によっては行けるんじゃないか?
彼奴だって生き物だし息をしなければ死ぬだろう。最後にこれだけやってから諦めるか。
俺は思い付いた方法を試すべく、一度森に戻って用意を始める事にした。
◆
ドラゴンを殺す方法を考えてから、二十日を掛けてああだこうだと考えながら必要な物を用意した。用意をする物自体は幾らでも手に入る物なのだが、地味な作業だったので、話し相手になるポッポちゃんが居て本当に良かったと思う。
まず最初に取り掛かったのは、崖の向こう側まで届く木の橋だ。
これは開墾で得ていた木をそのまま繋げていって、何とか強度を保ちながら俺が乗っても耐えうる物を作る事が出来た。
次に必要になる大量の土砂を掘り返して、マジックバッグにひたすら収納していった。同時にその辺に転がっていた岩なんかも、何も考えず兎に角集める。
お蔭で辺り一面木の周り以外の大体の部分を掘り返してしまった。
それらをドラゴンの足側の谷に丸太の橋を通して、谷の半分程の高さまで土砂を落として塞いでいく。
これだけ高ければワニの様に歩きそうなこのドラゴンなら後退して逃げる事は出来ないだろう。
今回の土砂の運搬をもし人力でやる羽目になったら、こんな短時間では出来なかっただろう。
それから水場を探して大量の水を手に入れた。
それなりに流れがある川で、数時間ずっとマジックバッグに水を収納して、初めて容量の最大近くまで使い水で満たす事が出来た。
プール何倍分の水があるか分からないが、もし砂漠地帯でもあったらこの商売も有りかも知れないと思ってしまった。
今回用意する物はこれだけだ。
テーマは窒息死。
通用するか微妙だし用意に日数を掛けてしまったが、物は試しにやって見る事にする。
何か毎回こんな方法を考えている気がするが、地球で言えば素手で像を殺す様な物だ。無い知恵を絞ってやっていかなければ、こんな化け物を殺す事なんて出来やしないだろ。
用意が出来た所でドラゴンの元へと移動した。
一日一回は見に来ていたので、ドラゴンが移動していない事は分かっている。そもそも、地形にハマって動けないので余り心配はしていなかった。
作業をしていた期間は、調教も同時に上げようと思っていたので、パン位は与えていた。
それが餌付けになったのか、俺が顔を見せたらパンを寄越せと言っているみたいに唸り声を上げていた。
一時的に大人しくして貰う為にパンを十数個投げてやる。ドラゴンからしたら豆粒みたいなパンでも、唯一の食べ物なので息を荒くしながら食べていた。
食う事に集中している間に、ドラゴンの頭上に丸太を通してから命綱を腰に巻き、谷から離れた場所にある木に括り付けると、恐る恐る木の橋を進んでいく。
ドラゴンの頭の真上に来ると、改めてその大きさに見蕩れてしまう。
「よしっ! やるぞ」
別に気合を入れる必要も無い作業なのだが、何かのきっかけが欲しかったので、一つ声を上げてから作業を開始した。
まず最初に後ろ足の方でもやった谷の半分ほどまでを、土砂で埋める作業をする。ドラゴンがちまちまとパンを食べている間に、一気にマジックバッグから大量の土砂と岩などを落として埋めて行った。
ドラゴンは目の前が埋まっていく事に気付くが、食い意地が張っているのかパンに意識の大部分を向けている様だ。
俺は動かれてもまずいと思い、追加でイノシシやシカなどを数頭ドラゴンの口付近に落としてやった。
久々の肉に大興奮のドラゴンは夢中で食事をして、俺のがしている事には無関心になったので作業を再開した。
土砂を流し終えると、ドラゴンの前後を這いつくばる背丈より高い壁が出来上がった。
準備は出来たので大量の水を、ドラゴンの口と鼻目掛けて流し始める。
マジックバッグを逆さまにして水を放出すると、最初はバケツを逆さまにした程度の水量だったのだが、俺がマジックバッグに意識を向け出す量を調整してみると、物凄い勢いで大量の水が滝の様に流れ出した。
ドラゴンは最初は恵みの雨が降ったかの様に、ガバガバと水を飲んでいたのだが、何時までも息が続く事は無く、十分ほど水を大量に流し続けていると、段々と苦しそうな様子を見せ始めた。
その姿は頭からシャワーを掛けられると、呼吸が出来なくなる子供みたいで結構可愛い。でも実際は窒息しそうになってる酷い状態ではあるので可愛いは少し違うか。
ドラゴンが暴れ出したので、俺は次に再度土砂をドラゴンの頭を埋める程流してやる。頭や手で払おうとするが、その量と勢いで一気に顔が土砂で埋まってしまった。
そこに更に土砂を押し流さない程度の水量で水を流していく。
これを数度繰り返し、ドラゴンの顔が常に土砂に埋まった状態を作りだしていると、一度は力を溜めたブレスなのだろうか、大量の土砂が吹き飛ばされたが、それは口元だけの話で又崩れた土砂に顔が埋まってしまった。
俺が更に土砂と水とかけ続けていると、ブレスがドラゴンの最後の抵抗だったのか、段々と動きが鈍くなり遂に全く動かなくなってしまった。
俺は死んだのだと思ったのだが、ドラゴンからの経験値が俺に移動してきたのは、それから一時間後の話だった。
俺はそれまで、まだ気配があるドラゴンに、土砂と水が尽きるまで掛け続けていて、何時までも死なない事にもしかしたらどこかから空気を得ているのかと思い、諦めてキャンプ地に戻ろうとした所でやっと経験値を得る事が出来たのだ。
ドラゴンの経験値はやはり格別で、俺のレベルを一気に六も上げてくれた。労働力に見合った経験値なのか良く判らないが、俺はドラゴンの死体を手に入れたのだ。
それは、高級素材を手に入れたと言って過言では無い。
地形にハマる馬鹿ドラゴンだが、これだけの大きさならばどれ程の価値になるか、想像しただけで顔がにやけてしまった。
早速回収したいのだが、土砂で顔面が埋まっているので、一度水を取りに戻り土砂を流してから、マジックバッグに収納した。
収納する前に死体の鑑定をした結果は、地竜との事だった。
大きすぎてマジックバッグの容量に収まるか心配だったが、体積ではそれほどでも無く、まだ四分の一程空きがある。
用も済んだので、谷から上がる前に俺が作ったあまり意味が無かった防御壁を崩して撤去しておいた。崩すには時間は掛かったが、これを登ってここを通る魔獣に、谷を越えられても困るので必要な処置だろう。
かなりの日数を使ってしまったので、急いでキャンプ地に戻り、設置していたすべての物を回収して岐路に付く事にした。
森狼達の調教も解き自然に戻してやり、強化魔法を掛けて駆けて行く。
当初の目的であった、ダンジョンの部屋を探す事は出来なかったが、それは又の機会にすればいいだろう。今回はそれに匹敵する成果があったのだから。
道中ではポッポちゃんがドラゴンを殺した事を褒めてくれて、ご褒美にと俺の頭に乗ってずっと毛繕いをしてくれた。枝毛や絡まった髪の毛を俺が走る振動の中、器用に取り払ってくれて終わった頃には、手櫛をしても引っかかりの無い、サラサラヘアーになっていた。
五日を掛けてゴブリン達の集落へと戻ると、ゴブ太君の出迎えを受けた。俺が離れている間、集落は北からの敵の侵入が有ったらしいが、ゴブ太君の武で問題なく解決できたらしい。
俺が頼んでおいた物は揃っていて、植物図鑑に載っていた草や花等が、持ってきた籠の中にどっさり積まれてあり、木材で作った食器類も置いてある。質にこだわって作る様指示をしていたので、量は無いのだが、かなりの完成度になっている。
その隣には磁器の壺に入った漆が置いてある。予想以上に大量の壺があるので、一体どれ程の範囲から集めたのか聞いた所、縄張り外まで範囲を広げてかき集めてきたらしい。
この周辺には、リザードマンを取り込んだこの群れに、勝てる所が無いらしく、結構好き勝手に暴れ回ったとの事だ。
余りヘイトを溜めると、全面から攻撃を受けるんじゃないかと思うのだが、その時は全て倒しますとかゴブ太君は自信ありげに言っていた。
報酬は先に渡してあるので、俺はそれらをマジックバッグに収納しておいた。
次の日の朝からは、手の空いているゴブリン達を集めて、まだ家を建っていないスペースにドラゴンの死体を、マジックバッグから取り出して解体する事にした。
最初は取り出されたドラゴンに皆がパニックになったが、死んでいる事を理解すると、間近でドラゴンを見ることが出来た事に感動しているゴブリン達も居た位だった。
ゴブリン達は俺とドラゴンの英雄譚を聞きたがったのだが、実際は地形にハマっていたドラゴンを、土砂で埋めて窒息死させただけなので、適当にはぐらかして解体作業をしてもらう事にした。
予想はしていたのだが、ドラゴン体の硬さに悪戦苦闘する事になった。ゴブリンやコボルトの力では固すぎて青銅や鉄のナイフでは中々歯が立たず、一枚の鱗を剥がすだけで一苦労と言う状態だった。
苦労して体の表面にある鱗や角、爪や牙などは全て回収したのだが、体本体はまだ残っている。ここまで三日ほど掛けたのだが、未だ腐らないので助かっている。
ゴブリン達には報酬として少しのドラゴン素材を提供するとして、マジックバッグの容量を開ける為にも、ドラゴンの下半身を提供する事にした。
股間部分は、もしかしたら何かに使える可能性もあるので、これは頂いておく。珍味もしくは精力剤になるのは多分どこの世界でも一緒だろう。
しかし、デカかった……。
体のサイズを考えれば当たり前なのだが、体の中から引っ張り出す作業は正直引いたし、切り取る時はもっとヤバかった。
そう言えば股間の解体をしている時に、思わず気分が悪くなったので、ステータスで状態が変化しているのか見てみたのだが、全く変わりが無かった。
その代り一つだけ分かった事がある。俺は知らぬ間に十一歳になっていたのだ。転生した日が生まれ年なら、やっと一年が経過したと言う事か。
感慨深いわ……。
しかし、調教上げ以来ドラゴンを埋める為に永遠と地面を掘っていた時から、余りステータスは気にしていなかったのだが、こんなタイミングで気付くとは思わなかった。
う~ん、俺の今年のバースデーケーキはドラゴンの……事かな?
俺の目的は、ダンジョンの部屋を見つける事以外は、これで達成されたので、そろそろ帰る事にした。
今回も当然ゴブ太君は泣いてはいたが、ボスとしての自覚が生まれているのか、俺に残れとは言わなくなっていた。少しさびしい気もするが、今後もこの地を納める事を頑張ってほしい。
◆
今俺は森をゴブリン達の集落から離れ、森を南下しているのだが、キャス達が住むブロベック村に戻る前に、以前開墾の手伝いをした、ナディーネ一家を尋ねてみる事にした。
帰るタイミングも収穫の時期に合わせていたので、今いけば俺が手伝った開墾の成果が見れるはずだ。まだ収穫前や途中だったら手伝っても良いだろう。
今の俺にはそれだけの余裕がある。何故なら俺はドラゴンスレイヤーだからだ!
ポッポちゃんの完璧な先導によって道なき道を進んでいき、三日後には余裕を持ってコーソック村へとたどり着いた。レベルアップと補助魔法のお蔭で、相当の短縮が出来る様になっている。修行万歳である。
俺は先ず、森近くに作られた畑を見に行ったのだが、その光景に目を奪われた。目に入るジャガイモ苗の殆どが倒れていたからだ。
近づいて良く見てみると、葉には黒い斑点の様な物が付いており、放棄して大分経つのか苗は根元から倒れ、地面の土にへばり付いていた。
俺は芋の状態を確かめて見ようと、無断ではあるが地面を掘り返えした。
土が付いているので分かりづらいのだが、見るからに病気と言った黒い斑点が付いていて、割った中身にも何か分からない黒い物に犯されていた。
俺は急いでナディーネの村まで駆けて行き、門番に通行の許可を貰って家まで全力で走った。
ノックをして来訪を告げると、中から一人の老人が出てくる。
たしかこの人はこの村の村長だったはずだ。
「こんにちは、ナディーネさんはいませんか? お母さんでも良いのですが」
村長は俺の顔を見て誰だと思ったのか、少し険しい顔をしたのだが、俺の事を思い出してくれたようだ。
「あぁ、開墾を手伝ってくれた子か。うーむ、少し待っていなさい」
そう言って村長は家の中へと戻っていくと、中に居る誰かに話かけてもう一度戻ってきた。
「入りなさい。マーシャも話があると言っている」
俺は長老が開いてくれたドアを潜り家の中に入ると、そこのは机に力なく項垂れているナディーネの母親であるマーシャさんの姿があった。
明らかに今さっきまで泣いていたであろうその顔で、健気にも笑顔を作り俺に挨拶をしてくれる。
「久しぶりねゼン君。畑を見に来てくれたかしら? でも、ごめんなさいね。失敗しちゃったわ」
なるほど、確かにあれだけ気合を入れていた、畑が失敗したらこうなるか。
俺はどう言ったら良いのか悩んだが、それ以上に気になる事がありマーシャさんに尋ねてみた。
「ナディーネさんとミラベルちゃんは、居ないのですか?」
俺がそう言うと、マーシャさんはいきなり顔を崩したかと思うと、その瞳からは涙があふれ出てしまった。
困った俺は助けを求め村長に振り向くと、村長が家の外に出ろとジェスチャーを返してきた。
外に出た俺に村長が、何やら一頻悩んでから考えが纏まったのか話をし出した。
「ミラベルは儂の家におる。マーシャがあの状態でな、少し面倒を見る事にした」
あの状態だと家事とかも疎かになるだろう。まだ小さいミラベルちゃんの面倒を見るのも難しいかも知れない。
「で、だな。ナディーネはな、この村を離れた」
とても言いにくそうに喋る村長から俺は、子供には伝えずらい内容だと理解した。要するに以前ナディーネも言っていた身売りをしたって事だろう。
「そうなんですか……、ミラベルちゃんには会えますか?」
「うむ、儂の家におるからな。一緒に行こうか」
そう言って村長は俺を家まで連れて行き、リビングにいたミラベルちゃんに引き合わせてくれた。ミラベルちゃんは俺の事を最初は思い出せなかったみたいだが、直ぐに思い出したらしく、笑顔で会えた事に喜んでくれた。
だがその顔にはマーシャさんと同じく、泣いた後が見える事に俺は心がざわついてしまう。
ミラベルちゃんはポッポちゃんの姿が、変わっている事に驚き最初は遠慮がちにしていたが、俺がポッポちゃんを抱かせてやると、大事そうに抱えて撫でていた。
ポッポちゃんを撫でているミラベルちゃんが、俺の顔を見るとぼそぼそと喋り出す。
「お姉ちゃんね、いなくなちゃったの。お母さんもずっと泣いてるの」
泣きそうになるミラベルちゃんの頭を撫でてやり、ポッポちゃんに相手をしてあげる様に頼んで、俺は村長に話を聞くことにした。
「あのジャガイモは病気になったんですか?」
「そうじゃな、だがあの病気があそこまで広がる事は、余りないのぉ。あの畑の他にも、ジャガイモは作っていたんじゃが、一部はあの病気に掛かったが、直ぐに除去したからのう」
「あれってうつる病気なんですか?」
「うむ、放って置くと畑全体に広がるが、普通はまず一部に症状がでるからのう。マーシャの畑の様に、一気に全体に広がる事は無いはずなんじゃがな」
んー、何か怪しい気もするけど、新規の畑だからこうなったとかもあるのだろうか? 俺は畑なんて全然分からないからなあ。
いや、そんな事よりナディーネの事を聞かなきゃならねえ。
「村長さん、言いにくいのでしょうが、ナディーネさんがどうなったのか教えてくれませんか?」
「うむ……、ナディーネは先日、奴隷商にその身を売って、イヴリンの街に連れて行かれたのじゃ。頭のよさそうな坊主なら、奴隷の事は大体は分かっておるのじゃろ? 教育後、どんな売り方をされるかは儂も分からんのじゃが、あの器量じゃ直ぐに買い手は付くじゃろう」
村長さんも言うのが辛いのだろう。ため息交じりで俺に説明をしてくれた。
しかし奴隷か。今回は家族を助ける為に自分を売ると言う、もしかしたら美談なのかも知れない。
だが、実際に家族の悲しみや、その後を見てしまったら、そんな事は口が裂けても言えないと分かった。
その後も村長さんと何かを話していたのだが、如何も頭の中に入ってこず、気づいたら村の外を歩いていた。
村を出てからずっと歩いていた俺は、思い出したく無いのだが、マーシャさんとミラベルちゃんの悲しそうな顔が、何度も頭の中に浮かんできた。
そしてナディーネの俺に微笑む顔も思い出してしまう。
村が俺の小さい手でも掴めてしまう程の距離まで来ても、その思いが俺に重く圧し掛かり、何度も自然とため息が出て来てしまう。
俺は気分が紛れるかと思い、ポッポちゃんに大体の顛末を話していくとポッポちゃんは「主人は助けるの? 助けないの? 助けるなら早くいこ?」と、何を悩んでいるのか分からないと、首を左右に傾けながら俺に聞いてきた。
俺は余りにも簡単に言うポッポちゃんに、呆気に取られてしまった。
だが、確かにそうなのだ、俺が如何したいかなのだ。
たった一週間程の付き合いだろうが、俺に得が無かろうが関係ない。悩んでいると言う事は、この状況が俺はまったく面白くないのだ。面白く無い所か、腹が立ってしょうがない。
自分が依頼を受けて助けた一家が、あんなに苦しんでいる。日本にいた頃の俺ならば、仕方が無いよねで片付けたかも知れない。
だが、二度目の人生で同じことをするのか?
ちがうだろ。
よし、やったるぞ!
ナディーネは俺が助けるんじゃぁ!
俺は両手で頬を叩き気合を入れ直し、村へと全力で戻り門番にイヴリンの街の方角を教わり、その方向へと駆けて行く。
マジックバッグから霊樹の白蛇杖を取り出し、俺とポッポちゃんに強化魔法を掛け更に加速していく。
先が見えないほどに見渡せる草原を俺は全力で駆け、そしてどうやって助けるかの算段を考える。
俺の表情が変わったのが分かったのか、ポッポちゃんが「うふふ、主人はやっぱ元気が一番ね」と、彼女自身の機嫌も良くなったみたいだ。
俺は改めてポッポちゃんに、助けられているのだと気付かされた。
ポッポちゃん流石だ。惚れ直したぜ。
ご褒美は高級穀物七点セットをプレゼントだ。
そんな物は本当は無いのだが、俺の心の中で決めておいた。
冗談を考えられる程、余裕が生まれた俺は、イヴリンの街へと草原を駆けて行くのであった。
三章初めに地図を追加しました。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。