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十三話 リザードマン
俺はポッポちゃんを頭の上に乗せながら、俺を先導するコボルトに今の戦況を聞きながら東へと進んでいる。
今回の敵であるリザードマン達は、総数二百近い数が居るらしく、それに対してこちらの数はキマイラ戦の傷がまだ癒えて無く、戦闘に出れる数は五十程と数の上では戦力差が大きい。
だが、ゴブリンデュークとなっている、ゴブ太君の一騎当千の働きと統率力で、初期に受けた奇襲で数を減らしたものの、現在は互角の戦いを展開してるらしい。
ただ、少ない戦力をこれ以上減らす訳にもいかず、無理をしての攻勢に出られない為に、戦況は膠着状態に突入しているとの事だ。
色々と美味そうな状況で来れたとは思うのだが、俺が目的として来た物とは少し違う展開なので、出来れば早々にこの争いは終わらせたい。
しかし、相手の数が多いので、取り込むとしても滅ぼすとしても結構大変そうな印象だ。まあ、今考えている帰る時期までにはまだまだ時間はあるので、安全第一でやっていこう。
走り始めてから程なくすると、俺の探知が多数の気配を察知した。すると、向こう側からも一番強力な存在が俺に向かって一直線で駆けてきた。
双方の距離は直ぐに近まり、お互いをその視線に捉えると、オーガの様な体格だが、その顔には知性を伺わせるゴブリンが俺の前へと跪いた。
「ゴブ太君、久しぶりだね。元気だった?」
俺がそう声を掛けると、ゴブ太君は瞳を潤ませ「王のご帰還お待ちしておりました」と仰々しく頭を垂れたのだった。
俺は一時的に帰ってきただけだと説明すると、ゴブ太君はショックなのか嬉しいのか良く判らない顔をしたが、群れの現ボスとして俺を受け入れてくれると言ってくれた。
ゴブ太君は俺の頭の上に乗っているポッポちゃんを見て、何を思ったのか俺を担ぐと言いだして、肩車をして俺を前線まで連れて行ってくれた。
俺はゴブ太君の未だに謎の忠誠を、むず痒く感じた。
着いた前線には別に何がある訳では無かったが、広い範囲でゴブリン達が展開していて、警戒をしているのが分かる。中心にはボーク君やその取り巻き、ホブゴブリン等が集まっている。更に何故かオーガも二匹に見た事のないホブゴブリンも混ざっていた。
話を聞くと以前の南の縄張りの生き残りを吸収したらしい。中々の手腕だねゴブ太君。
人間の俺に新規組は驚きの声を上げているが、ゴブ太君がそれを制して新規組に挨拶をさせて、その後のゴブ太君のありがたいお言葉で彼らも理解できたらしく、俺に対してはゴブ太君以上の扱いをしてくれるまでになった。
俺はその間恥ずかしかったので、新しくゴブリンメイジになっていた、火起こし担当のメスゴブリンとあれこれ話していた。
戦いは今日はもう無いだろうとの事なので、俺は持ってきていた机や椅子などを取り出して設置をした後で、今日の夜飯を作り始めた。
基本的に肉を食べる事しかしない彼らにも、肉を入れてやれば豆や芋等の野菜を入れたスープは好評の様で、暖かい食い物を喜んで食べてくれた。
次の日の昼頃に何時もの事だと言う、小競り合いが始まった。リザードマンも最初の勢いを失い攻めあぐねている様で、数を活かして長い列を作り隙を見つけて、攻め口を探そうとしているが、ゴブ太君の見事な統率でそれを防いでいる。
争いから少し経つと、こちら側の一部が騒がしくなった。何だと思いそちらを見てみると、リザードマンド側から魔法攻撃を食らっているらしく、ゴブリンやコボルトが吹き飛んでいるのが見えた。
一撃では死んでいない様だが、周りのゴブリン達が負傷者を後ろへと下げると、そこが穴になりリザードマンがなだれ込もうとして来る。
だが、それを見逃すゴブ太君では無く、崩れた箇所に素早く対処すべく自らが先頭に立ち、俺が与えた鉄の槍でリザードマン達を蹴散らしていた。
今回は俺は途中から来たので、今一状況が飲めていない理由もあり、後ろで状況を見ていたのだが、大体の感覚は捕まえてきたので、ポッポちゃんと一緒に後方から支援をする事にした。
基本的にゴブリンやコボルトでは一対一では勝てないのだが、俺が作った長槍を使って上手く牽制をしながら、ホブゴブリンやオーク達の助けを待っている。
俺はその状況になっている場所を中心に、ナイフや槍を投げ付けてリザードを殺していき、ポッポちゃんは風の魔法を撃ちリザードの体を吹き飛ばしていた。
その姿を見て俺も魔法を使おうと思い、霊樹の白蛇杖を取り出して、まずは俺の前に居るゴブリン達にブレスやストーンスキンを掛けてやり、それからファイヤアローを連発して、リザードマン達が固まっている所へと打ち込んでいく。
正直ポッポちゃんが魔法を使うまで、投擲術で何とかしようと思う持ちが強く、自分が魔法を使える事を忘れていた。戦闘で使うのは初めてではないのだが、同時にやっていくのは中々に器用さが必要な気がしてくる。
魔法の効果は絶大で、リザードマンの前線が一気に乱れていく。だが、どうしても多勢に無勢で、ゴブリン達は中々前に出ていく事が出来なかった。
その中でも俺の前に居た、支援魔法を掛けてやった奴らは、ズンズンと前に進んでいく。攻撃と支援の両方を使えると、この手の戦闘では結構な効果が出てくるのが分かった。
だが、そのゴブリン達も突出し過ぎたのか、集中攻撃を食らいずるずると後ろへ下がる事になる。終いには何処からか飛んできた水の槍を受けて、陣を崩してしまった。
俺は倒れるゴブリン達を回収させ、迫るリザードマン達を牽制すべく一度杖をしまい、ナイフを投擲していく。攻撃速度と正確さでは今の所、ナイフ投擲が一番だ。
ナイフでの牽制の傍ら、先程の水の槍を撃った対象を見つけようと、リザードの後方を見回していると、精鋭に見える進化したであろうリザードマンに囲まれた一匹のリザードマンが見えた。
大きさでは周りのリザードマンの方が大きいのだが、探知を飛ばしてみた結果気配では囲まれているリザードマンが一番大きい。
どうやらあれが、この群れを率いているボスや幹部と言う所だろう。
注意してそのリザードマンを見ていると、手に持っている杖を、自分の前に差し出すと、どこからか現れた水の塊が水の槍になり、こちらに向かって飛んできた。
その大きさから俺が使っている魔法の矢より、強力な事は分かる。先程倒れたゴブリン達は直撃を受けてはいなかったので、命を落とすまでは行かなかったのだろう。
こちらに向かってくる水の槍を避ける事は容易なのだが、ここは魔法抵抗のスキルを使って、どれだけ耐えられるか試して見たい。最悪一撃では死なないだろうと考えて、俺は両手を前に突出し魔法抵抗のスキルを発動させてみた。
水の槍が俺へと到達すると、張った防御膜と衝突する。だがそれも一瞬の事で、直ぐに防御膜を突き破ると水の槍が俺の肩へと突き刺さった。
刺さったと思ったのだが、俺の体は思ったより丈夫なのか、物凄い圧力を感じて後ろへと飛ばされただけで、大した怪我はなさそうだ。
被弾箇所を見てみると着ていた鎧が凹んでいた。これってもしかして、俺の体が丈夫じゃなくて鎧のお蔭だったのだろうか?
まあ、兎も角まだ魔法抵抗は役に立たないし、あの攻撃なら耐えられると分かっただけで収穫だろう。
俺が吹き飛ばされているのを見ていたポッポちゃんが、反撃とばかりに魔法使いリザードに、風の魔法を撃ちこんでいた。だが、その攻撃は魔法使いリザードが作り出した、水の壁にかき消させて空しく消えて行った。
ポッポちゃんは攻撃が無効化された事に腹が立ったのか、俺に「槍を投げるのよ! いっぱいよ!」と飛び跳ねクルッポーと言いながら俺に攻撃しろと急かしてくる。
ポッポちゃんの言う事ならば聞かなくてはならない。
俺は槍を取り出して魔法使いリザードへと投擲したのだが、水の壁に阻まれて、速度が落ちた槍は護衛のリザードマンが持つ武器に弾かれてしまった。
「むっ!」
俺は投擲術には自信があったので、あんなに簡単に防がれた事に苛立ちを感じ、もう一度全力で投擲してみた。だがこれも、同じように防がれてしまう。
敵ながら、あのリザードマンが出す水は凄い。大量の水がまるで自分の意思を持つ様に動いて壁を作り出している。俺の二度目の投擲の後には、あの壁の水の中から一部が分離して水の槍としてこちらへ飛んできた。
今回は避ける事で対処したが、あの魔法使いリザードは相当な魔法使いなんだろう。
投擲が効かないとは言え、休んでいると一方的に攻撃を食らう事になる。俺なら避けられるが周りのゴブリン達は違うので、こちらから攻撃をして注意を集めていく。
この状況になるとゴブ太君やボーク君が暴れ出し、戦況は段々とこちらに傾き出した。
それを察したのか魔法使いリザードが、周りのリザードマンへと指示を出すと、リザードマン達は後退を始め出す。こちらも簡単に逃がす気は無いので追うのだが、まだまだ多勢に無勢で追い詰めることは出来ず、間延びして個の力が必要になると、前線のゴブリンやコボルトに少しずつ負傷者が出始める。
ゴブ太君はそれを不味いと思ったのか、ここで追撃は中止となりこちらも部隊を下げる事になった。
ゴブ太君が最後の攻撃とばかりに、魔法使いリザードに向かって突撃していくのだが、壁を形成していた水を手に持つ道具にまとわせて、太く巨大な棒状にしたと思うと、それをゴブ太君に向かって振りぬいた。
棒になったと思ったそれはまるで鞭の様にしなやかに動き、それに気づいたゴブ太君は素早く避けるのだが、水の鞭が間近の地面に当たった衝撃で、身を固くしてしまい、魔法使いリザード達の逃亡を許してしまった。
戦況は大体把握した。
俺は傷ついたゴブリン達にポーションを使ってやりながら、打開策を考える。
まず一番の問題はやはり数だろう。上位陣の質で言えばこちらの方が上なのだが、下位のゴブリンやコボルト達の強さは、一匹一匹ではリザードマンに及ばない。武器と戦術で何とか均衡が保たれている状態だった。
これは単純に俺が向こうの縄張りに入って行って、一匹一匹殺していけば解決するだろう。探知と隠密、そして投擲術のコンボがあれば囲まれる前に逃げる事は可能だ。
次にリザードマン達を率いていた、あの魔法使いの存在だろう。
近距離までは近づいていないので分からないが、中、遠距離に対応したあの水の魔法はとても厄介だ。
俺やゴブ太君、ボーク君辺りであれば耐えられるのだろうが、そう何発も食らって無事な攻撃でも無い。そんな攻撃をする奴をゴブリン達に任す訳にはいかないので、俺達が対応しなければならないだろう。
一番良いのはどさくさで暗殺できればいいのだけど、あれだけ囲まれているとそう簡単には行かないんだろう。ならやはり堅実にリザードマン達の数を減らしていく事を考えるべきだ。
俺はゴブ太君達にまだ保持しているポーションを分け与え、俺とポッポちゃんは向こうの縄張りに入ってリザードマンを殺してくると伝えた。ゴブ太君もその手が有効なのは理解できたのか、しぶしぶだが納得してくれる。
群れの事をちゃんと考え出している、ゴブ太君の成長が見れた気がした。
陽はまだまだ高いので、早速実行する事にする。
正面からでは戦場から引いたリザードマン達が、群れているだろうと考え、少し戦場から離れた場所から侵入を試みる事にした。
当然争い中なのでこちら側の偵察部隊であるコボルトや、縄張りの監視をしているであろうリザードマンの気配が探知に多数かかる。
本来はもう少し引きこもって、東にある沼地帯に潜んでいるはずなのだが、これが戦闘態勢の状態なのだろう。
中々他と離れているリザードマンが居ない為に、しびれを切らした俺は少し無理をして縄張りに侵入する事にした。
取り敢えず先制攻撃をして一気に片付けようと思い、巡回行動をしていた二匹のリザードマンに近付き、まず槍を一匹に投擲して、その命を奪い、もう一匹には素早くナイフを首元に投げつけて、仲間を呼ぶ行動を防いだ。
それなりに体格のあるリザードマンには、ナイフ一発では致命傷にはならず、その場で首を抑えてのた打ち回っていたが、ポッポちゃんが魔法数発でその息の根を止めていた。
ポッポちゃんの魔法は、俺が傷を与えた場所を狙って放っており、その箇所が風の刃で切り裂かれたかのようになり、ナイフの傷を更に広げて出血で殺したかの様に見える。小動物ぐらいならこの一撃で簡単に殺せそうだ。
俺が仕留め損ねても、ポッポちゃんがやってくれなら、大いに助かる。流石俺の相棒。愛してるポッポちゃん。
俺は殺したリザードマンを素早くマジックバッグへと収納して、次の獲物を探し出す。一か所を切り崩した事で大分余裕が出来た。周りで巡回運動をしているリザード達は気づいて居ないようだし、もう少し大胆に行動しても良いかも知れない。
俺とポッポちゃんは次なる獲物を探して移動する。ポッポちゃんは隠密の様なスキルを持って居ない様に見えるのだが、野生の力と言うのだろうか、身の隠し方や気配の消し方が半端ない。
存在進化する前は簡単に探知に掛っていた鳩だったのに流石だ。伊達に体の形状が変わっていない。
ただ、恐ろしく森に溶け込まない白い色を見ていると、視線に入った場合はどうにもならない感じがして来る。
次の獲物も俺の投擲とポッポちゃんの魔法で、仕留める事が出来た。今回はリザードマン三匹のグループだったが、俺の投擲で二体のリザードマンを足止めて、残りは突撃した俺の槍の一突きで息の根を止めた。
足止めしたリザードマンは俺が投擲後の突撃にポッポちゃんが追随して、魔法で仕留めていた。
俺とポッポちゃんの華麗なる共同作業で、十匹のリザードマンを仕留めたのだが、気付かれたのかグループの合流と防衛線を張られて、これ以上は進めなくなった。
無理やり行けば殺せるのかも知れないが、色々と不安要素もあるのでここで一度引く事にした。
ゴブリン達に合流した俺は、殺してきた死体を取り出してその場に積み上げた。ゴブ太君達が喜んでくれているので苦労も報われるってもんだ。
討伐証明になる尻尾の先を切り取って、死体が必要かゴブ太君に聞いてみるが、食べる気が無いらしいのでゴブリンに皮を剥いでもらう事にした。素材として価値があるかは分からないが、ワニ革みたいな皮をしているし、一応とっておこう。
加工の報酬には大量に持ってきてある、食べ物を与えれば文句ひとつ言わずにやってくれるだろう。
今日の戦はもう無いだろうと言う事で、夕食をゴブリン達と一緒に作り食べながらの会議を行う事にした。
リザードマン達の数を、大分減らす事が出来たが、こちらにも当然被害があり、数匹のゴブリンとコボルトが死んでいる。
このまま同じ事を繰り返せば、勝てたとしても消耗が激しすぎると判断して、ゴブ太君を中心に力のある面子を選出し、基本的に戦いはその面子だけで行う事にして、残りは全て縄張りの防衛に回すことにした。
選ばれた面子は大体が知った顔で、ゴブリンメイジとなった火が大好きメスゴブリンと、オーガの二匹が新顔と言った所だ。
メスゴブリンは兎も角、二匹のオーガは先の戦いと、群れのボスであるゴブ太君の態度から俺と自分との立場をちゃんと理解していた。亜人の超体育会系な感覚に恐れ入る。
オーガにはその膂力を活かしてもらう為に二槍流に、その他の面子にもより生存率を高める為に、俺が持っている武器を提供すべくゴブ太君に全て渡して配らせた。
俺が直接渡すよりは、現ボスが渡した方が良いと判断したのだが、武器を渡すたびに俺に礼をさせに来るのは、意味が無いんじゃないかと思うんだゴブ太君。
そんなこんなも有りながら、次の日から俺らは戦が始まる前に、リザードマン達の縄張りに入り、敵本体が本格的に動き出す前に殺せるだけ殺して撤退を繰り返したり、こちらの縄張りに攻め入ろうとした敵本体を側面から叩いてみたりと、ゲリラ的に動いてみた。
それもこれも、ゴブリンアサシンであるゴブシン君の、献身的な偵察や俺の探知で、相手の居場所や動きが分かるから、可能になった戦法だと言える。
そしてポッポちゃんの、強い奴が何処にいるか分かるレーダー的な物が、リザードマン達のボスである魔法使いリザードが接近している事を察知してくれるので、その前に引く事が出来て大分楽を出来た。
二日ほどそれを繰り返して、リザードマン達を五十匹程狩ると、リザードマン達の縄張りの中でも、少数で居るグループはいなくなった。
減らされる事を恐れたのか、殆どのリザードマン達は常に固まって行動し始めたのだ。
こうなると囲まれる心配も無くなるので、俺は一度部隊から離れてゴブシン君の偵察網も利用して、遠距離から敵本体に攻撃を加えて逃げる事を繰り返した。
偵察部隊が常に俺の背後を守ってくれているので、俺は何の心配も無く、スナック感覚でリザードマン達を殺していたのだが、本当にこの世界に染まってしまった気がする。
まあ、攻撃してきたのはリザードマン達らしいし、うちの群れと戦うとどうなるかを分からせるのは大事か。
俺が投擲をしてリザードマンの数を、二十は減らした頃になると、流石にリザードマン達も打開策を見いだすべく、こちらの縄張りへと猛攻を開始した。
無理にでもこちらの縄張りに侵入しようと、攻撃を仕掛けてきたのだろうが、その動きは自由に偵察網を構築出来る様になった、こちら側から見たら、単なる何処を攻めるか分かる突撃でしかない。
広く縄張りの防衛をしていたゴブリン達に再度集めて、リザードマンに対抗すべくゴブ太君指揮の下、陣を張る事になった。
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