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十二話 真ポッポちゃん
森の中の道無き道を進んで行く。俺の進む視線の先には度々、木々の隙間から横一列に並ぶ山脈が見え隠れする。
まだ入って数時間だが、今回は色々と森に入って役に立ちそうな物を用意してあるので、以前に比べたら大分楽な道程になるはずだ。
今回の目的は第一に体調が戻ったポッポちゃんのレベル上げだ。
今まではそれ程余裕も無く、怪我の事もあったので考えてはいたが実行はしていなかった。
ポッポちゃんも体調が完全に戻ったと言っているので、森の中にいる亜人や獣を標的にして存分に強くなって頂くのだ。
ポッポちゃんは所謂鳩系の鳥なのだが、この世界では存在進化と言う物があり、それによって強化が可能だ。
以前ジニーが話していた昔話の中には、伝説の調教師の話があり、その中では一匹の犬が、強大な力を持つ獣になると言う話があった 昔話なので話半分程度に聞いていたのだが、ランドルの話やギルドに居るおっさん達の話では、かなり真実に近い話だと言う事が分かり、俄然俺のやる気に拍車がかかったのだった。
羽が失われている事に関しては、存在進化をしても治る事は無いだろうと言うのが皆の考えなので、そちらの希望は余り持っていないのだが、このままでは何時村の猫や犬に襲われてコロッと死ぬかも判らないので、あの程度の雑魚どもは一撃で倒してくれるまでにはなって頂きたい。
ただ、非力なポッポちゃんが、俺が亜人等を瀕死まで持って行っても、実際に殺せるかと言えばかなり難しい。日本の一般的な鳩に比べれば大きいのだが、ポッポちゃんは所詮鳩なのだ。突いた所でダメージがゼロなら攻撃も意味が無い。
その為、ポッポちゃんには専用の武器と、街の魔法店で購入したエルフの知恵が書かれていると言っていた、植物図鑑を参考にしてどうにか他の生き物を殺して貰おうと思っている。
武器と言うのはクチバシに咥える事が出来る刃物で、村の鍛冶屋であるバートさんに鍛冶場と知恵を借りて作ってみた。
最初はこの刃物を咥えたポッポちゃんを、瀕死のゴブリンなどに投げつければ相手は死ぬのではないかと思ったのだが、そんな事をしたらポッポちゃんの首が折れて、逆に死にそうだったので止めてい置いた。
俺が良い案が浮かんだと、ポッポちゃんにその事を告げた時の彼女の「あかんやんそれ……」と言う顔が今でも忘れられない。
なので今回は毒殺を狙う事にしてみた。植物図鑑にはエルフの知恵が詰まっていると言っていただけあって、雫草の様な回復系の植物から食べられる物、様々な素材になる物や毒物など多彩な情報が載っており、お値段以上のお買い物をした感じがひしひしと感じられる。
もし次回あの店に行けたら、絶対大金を使ってあげようと心に決めている。そしてあの可愛い笑顔をもう一度見るのだ!
森を北に進んで二日目になると、植物の植生も大分変わってきて、目的の毒草や毒の根などが発見できた。これにはポッポちゃんが大いに役だった。流石森生まれ森育ちの森ガールだ。いや、ただ視線が低いだけかも知れないけど。
目的の毒草も手に入り、早速すり潰してみる。今回手に入れた毒草は極炎草と呼ばれていて、触るだけで皮膚がただれ、食べれば運動障害、言語障害、多臓器不全になり、大多数が死亡すると言う恐ろしい植物だ。
ただ、見た目は肉厚の真っ赤な葉なので、間違っても食べる事は無いと思う。
危ないのでポッポちゃんには少し離れてもらい、俺も細心の注意を持ってこれにあたった。これには錬金のスキルが適用されるらしく、思ったよりかは容易に処理を行う事が出来る。ただ葉をすり潰しているだけなので、スキルも糞も無い気がするけどね。
すり潰して抽出した液体を丁寧に磁器の小瓶に入れて、次に獲物を探すことにした。森もこの辺りまで来ると一時間位歩けば、探知に亜人や獣の反応が多数掛かる。どれも問題なく俺で対処できる相手なので、一匹で居る奴を探しながら北へと進んでいった。
程なくすると、一匹で居るゴブリンを発見した。俺はポッポちゃんを抱きかかえ素早くそちらに向かって駆けて行く。視線に入ったゴブリンは木の棒を振り回しながら、飯は何処だとギィギィ言いながら歩いていた。
少し可哀そうだがこれもポッポちゃんの為だ。俺は涙を呑んで、今だ気付いていないゴブリンの足に向けて青銅の槍を投擲して、その両足を貫いた。
突然の衝撃と痛みに絶叫を上げているが、余り五月蠅くされると周りにいる他の亜人や獣が群がってくる。可哀そうだが猿ぐつわをして声を封じさせてもらった。
相手は既に動く事は出来ないので、俺はゆっくりと慎重にポッポちゃん専用武器の刃に毒を掛けて、ポッポちゃんに咥えて貰った。
このままだとバタバタと暴れるゴブリンが危ないので、体を押さえつけ俺はナイフを取り出し、ゴブリンの胴体へと軽く突き刺した。
「さあ、ポッポさんお願いします。ここです。この傷口にぶすっとやってください」
刃物を咥え若干緊張している様なポッポちゃんに、俺が付けた傷口を指差しこの場所だと教えてやる。
するとポッポちゃんは脱兎の如く駆けだしたかと思うと、華麗にジャンプをしてゴブリンの上に乗り、傷口へと刃を何度も突き刺し始めた。
「ポッポさん……、もう相手死んでます……」
ポッポちゃんが狂ったようにゴブリンの傷口へと攻撃を加え、数分でゴブリンは死んだ。だが、その間ポッポちゃんは絶え間なくゴブリンを突き続けていた。
「ポッポちゃん……」
初めての殺しからか、ポッポちゃんが放心状態になってしまった。やはり平和の象徴である鳩に、こんな事をさせるべきでは無かったのだ……。
俺は後悔の波が押し寄せる中、振るえるポッポちゃんを優しく撫でてやろうと近付いてみると、ポッポちゃんの表情がうっとりしている事に気付いた。
まさか……。
ポッポちゃんはレベルアップの快感からか、恍惚の表情を浮かべ始め、だらしなく舌を垂らしながら「次よ」と、短く一言だけ意思を伝えて来て、自ら獲物を探し始めた。
俺は先程の後悔など一気に吹き飛び、それ以上にやってしまったのではないか、と言う思いに駆られたのだった。
二匹目の獲物になったゴブリンも、先ほどと同じ方法で殺ったのだが、今回はポッポちゃんも余裕が出来たのか、数度突いたらゴブリンから離れ「貴方はもう、死んでいるわ」と、ゴブリンに背を向け座ってしまった。
その後、五分程死ぬまで俺がゴブリンを押さえつけている間、ずっと身動きしなかったポッポちゃんの姿がシュールだった。
レベルが上がったポッポちゃんは体は、余り大きくなっていない気がするが、微妙に羽が綺麗になっているように見える。ポッポちゃんは日本で言えば、小汚いドバト見たいな色をしているのだが、生えてきた羽は青白い美しい色だ。
存在進化が出来れば、この美しい羽根に生え変わるのだろうか?
あっ、ごめんなさい。小汚いとか思ってないです。
マジで止めて、毒の付いた武器で攻撃しようとするのは、それ食らったら俺死んじゃうよ?
ふぅ、意思疎通系は言葉に出さなくとも、たまに漏れるのが問題だね。本当にポッポちゃんは鋭い娘だよ。
ポッポちゃんに許しを請う為に、次の獲物はもう少し大物にすることにした。この周辺はゴブリンの縄張りみたいなので、少し北へと歩みを進めと、他の縄張りに入ったのかオーガと同等の力を感じる気配が探知に掛った。
探知で何なのか分からないと言う事は、俺がまだ見た事のない相手なので、慎重に移動してなるべく遠目からその姿を確認する事にした。
木の陰からゆっくりと覗いて見えたのは、背が高い太ったオッサンと言う感じの亜人だった。だが、その体に見合わず頭が小さく、アンバランスな容姿に少し不快感を覚える。
その見た目から確かあれはトロールと言う奴だと、ゴブリン達が言っていたのを思い出した。鈍足だが力が強く異常な回復力を持つトロールは、斬撃の様な攻撃に滅法強く、弱点である頭や心臓などを潰さないと中々死なないと言う亜人だ。
動きは遅いので、いざとなったら頭を潰せば殺せるだろうと考え、取り敢えずやって見る事にした。
まあ、やる事は基本的には変わらない。まずは先制攻撃として足を狙って槍を投げ、倒れた所で四肢に槍を投付けて地面に拘束してみた。
今回はゴブリンの様に体が小さくは無いので、少し違う拘束の仕方になったが、動きがとろいので思ったよりも簡単に成功してしまった。
そこまで深くは無いが、地面に突き刺さった槍に四肢を串刺しにされているのにも関わらず、どうにも反応が鈍い。槍が刺さった傷口を見てみると、うねうねと動き再生をしている様だ。地面に張り付けられているので、治った所で動けないのだろうが、物凄く気持ちが悪いので早めに処分する事にした。
先程と同じように武器に毒を掛けて、ポッポちゃんに咥えさせ、体にナイフで傷を作ってみるが、瞬く間にその傷口が塞がってしまった。亜人達にも恐れられる回復力は、体の至る所を修復していても健在のようだ。
仕方が無いので、以前に何度も使っていた刺又を取り出して、頭の動きを拘束し、ポッポちゃんに眼球を狙わせて突かせてみた。
デカい相手にポッポちゃんが思いっきりビビっているが、恐る恐る顔まで近づき、覚悟を決めたのか顔の上に飛び乗り、また狂ったように眼球に向かって咥えた刃を突き刺し始めた。
これにはトロールも嫌がりを見せ、顔を振ろうとしているが、俺が全力で押さえつけ、何とかその動きが止まるまで耐えてみせた。
いくら回復能力が桁はずれていても、頭部に対する毒には勝てなかったみたいで、ゴブリン以上に早くその動きを止める事になった。
ポッポちゃんがトロールの顔の上で、いい汗かいたわ見たいな顔をしていると思ったら、いきなり体中の羽がざわめきだした。
ポッポちゃんは少し苦しそうな顔をしているが、その体が一回り大きくなり、体に生えた羽の色が段々と青白い色に変わってく。
そう言えばこんな色のインコもいた気がするな、と思いながらその姿を眺めていると、進化が終わったのかポッポちゃんが顔を上げ俺に「どう? かわいいかしら?」と御すまし顔で俺に話しかけてきた。
存在進化をしたポッポちゃんは、体全体の羽が青白くなり、所々に白い羽を生やし、それが綺麗なラインを画き模様の様に見える。
クチバシはより攻撃的な形に変わり、尾羽は長くなった。そして後頭部の毛が長い髪の毛の様に伸びて、ポッポちゃんの可愛さをより際立出せている。
ポッポちゃん、かわいいよ、ポッポちゃん。
俺が近づくとポッポちゃんが脚力だけで、俺の頭を超える程のジャンプを見せ俺の腕の中へと向かってくる。俺も腕を差し出し迎えに行こうとしたのだが、ポッポちゃんの足に付いたトロールの返り血に気付き、俺は華麗にポッポちゃんを避けた。
卒なく地面に着地したポッポちゃんが、抗議の声を上げているが、俺は理由を説明してちゃんと足を拭いてから、改めて胸に抱いてやる事にした。
存在進化をしても失くした羽は戻らなかったが、これなら犬猫位なら余裕で対処できるだろう。先程見せたジャンプからも彼女の脚力が大きく上がっている事が分かる。
こう考えると自然状態で、ポッポちゃんの様な小動物が存在進化をする事は、奇跡に近い事に思えてきた。多分ゴブリンでも三匹目で進化した気がするのだが、普通に生きていて鳩の様な鳥があれだけの相手を殺す機会などまずありえないと思える。
本当に自然の世界で存在進化をしていたら、そいつは動物世界の天才みたいな奴なんだろう。
その後、やる気を出したポッポちゃんは、目的地に着くまでの二日間でもう一度存在進化をした。今回の進化では体の大きさに差ほど変化は無かったが、羽がより大きくなり、尾羽も伸びて体全体の色が更に白くなった。
そして一番の変化は、ポッポちゃんが「あの木を見て見て」と言うので、何だろうと見ていると起こった現象だった。
なんとポッポちゃんが魔法を使ったのだ。威力は結構あり木の表皮を吹き飛ばすほどで、その速度は俺のファイヤーアロー等より早い。
魔獣や亜人等が使う、独自の名前も無い魔法なんだろうが、中々使い勝手が良さそうな攻撃手段で、年甲斐も無く俺はポッポちゃんを抱きかかえて喜んでしまった。
更には羽ばたきに魔法を乗せる事により、五メートルほどの垂直跳びが出来る様になった。これは片方の羽しか無い為に、飛んだ後のコントロールが出来ず、俺が慌ててキャッチする事になったのだが、羽があれば飛行方向に対しても使える様なので、ブースト移動魔法と言う所だろう。
姿は大分変わってしまったが、歩く時の首振りや鳴き方で未だに鳩だと分かる。多分、存在進化をこのまま続けて行っても、基本は鳩なんだろう。このままいくと、どんな事になるのか期待と不安が混じった微妙な感覚に襲われた。
進化したポッポちゃんは地面を走っても、かなりのスピードを出せる様になったので、俺は一旦ポッポちゃんの強化は止めて、北へと向かって急ぐ事にした。
ポッポちゃんが嬉しそうに走る姿を見ながら、俺も並走して探知を使って網の目を縫う様に、敵になりそうな相手を避けて駆けていく。
この辺りまで来ると、ポッポちゃんは完璧に目的地までの最短距離を把握しているのか、俺の前を走って先導してくれる。ポッポちゃんの「そろそろだわ」の声の後、暫くすると俺の探知に複数のコボルトの反応が現れた。
コボルトは最初、俺の視線には入らない位の距離で、こちらを伺っていたのだが、その数を増やすと一気に俺の周囲を囲んで逃げ場を奪った。
「くっ! 囲まれたか!」
俺に迫り来るコボルト達に身構えて居ると、周りの茂み等から四方八方にコボルトが飛び出して来て、俺の周りを取り囲み一気にその距離を詰めて来た。
「クソッ!手遅れだ!」
囲まれてしまった事に俺は諦め、なすがままにコボルト達の「ねえ、帰ってきたの?」とか「ボス食べ物ちょうだい」とか「この鳥食べていいの?」等の声を受け入れた。
俺の周りをグルグルと回りながら、キャンキャンと吠えるコボルト達が正直ウザすぎる。ウザいのだが、顔がわんちゃんなので怒る気にもならず、俺がマジックバッグから肉を取り出して、遠くに投げると我先にと群がって行った。
仲良く分割も終わったのか、興奮が収まったコボルト達に先導をさせ俺は亜人達の集落へと再び戻って来た。
集落へ入ると既に連絡が伝わっていたのか、集落の主だった連中が集まっていた。皆に声を掛けて再会を喜び合っているのだが、こんな短期間で戻れるとは思っていなかったので、少し恥ずかしかった。
この集落を出てからまだ、一か月とちょっとしか経っていない。
当初は人里に行ったら何だかんだで、面倒くさい事に巻き込まれると思っていたし、生活の目途も立たないと思っていた。
それが、大して追及もされず、更には住む場所も直ぐに見つかり、そして欲しい物も取り敢えず用意できてしまった。
金の問題も特に無く、冒険者ギルドに登録はしたが、大した仕事も無いので、ほぼ片手間に狩った亜人を換金するだけの場所になっているし、スキル上げは森の中の方が効率が良さそうなので、やりたい事もあってここに又戻ってきたのだった。
ゴブ太君やボーク君が居ない事を不思議に思った俺は、老ゴブ等に話を聞いてみると、どうやらまた戦いになっているらしい。
この集落の東に存在するリザードマン達が、攻撃を仕掛けてきたみたいで、戦闘が得意な者は前線に出ているとの事だ。
戦いの原因はこの群れの規模が大きくなった事による、リザードマン達の危機感が引き起こした物で、これ以上大きくなる前に潰そうと言う良くある話だった。
確かに隣接する縄張りが一気に巨大になり、それを率いる存在が強大な力を持っていたら、次は自分たちだと思うのは当たり前だろう。
しかし、良いタイミングで来れた。運が良ければ俺のレベルを上げられるかも知れないし、ポッポちゃんのレベル上げの材料が転がっている可能性がある。更に言えば、リザードマンの死体の一部を持ち帰れば小銭が稼げる。
俺とポッポちゃんは一休みしてから、現群れのボスであるゴブ太君達に合流すべく森の東に向かっていったのだった。
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