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十話 開墾
俺が今住んでいるブロベック村から隣のコーソック村までは、歩いて一日程の距離がある。
今回の依頼主であるナディーネちゃんは来る時にはちゃんと定期便の馬車で来たのだが、次回来るのがまだ数日掛かるので、俺が歩きでコーソック村まで行く事を提案した。
最初は盗賊等の心配をして渋っていたのだが、ギルドの外の物陰に連れて行き、マジックバッグから俺が殺した亜人の死体を数体地面に転がして納得してもらった。
確かにこれだけの美人だと、盗賊に出くわしたらどうなるか何て、結果は火を見るよりも明らかって奴だろう。ナディーネちゃんが警戒するのも無理は無い。
とは言え、依頼を受けたならちんたら待つのも嫌なので、歩いてコーソック村まで行く事を提案した。もし盗賊が出たりしたらナディーネちゃんを担いで逃げるか、ナイフの一発でも投げれば、相手も分かってくれるだろう。多分……。
村までの道中で聞いた話で、今回の依頼内容の詳細と何故隣の村まで、態々依頼をしに来たのか説明を受けた。
依頼内容は掲示の通り、森を切り拓いての開墾で、男手が全く無い為に冒険者ギルドに依頼をしたようだ。
本来ならばナディーネちゃんの村で、依頼を受けた人が担う仕事なのだろうが、話を聞く限り冒険者ギルドで依頼をしても、いつの間にかに掲示板から依頼が剥がされていたり、知り合いの冒険者に頼んで見ても、より良い依頼が見つかったからと、断られる事が繰り返され、悩んだ末に俺が住んでいる隣の村まで来たと言う事だ。
なんだか妨害を受けている様な気がするので、ナディーネちゃんにその事を尋ねて見たが、思い当たる節も無いらしく、本人は運が悪いだけど言っている。
確かに冒険者が依頼を断ったのは、運が悪かったのだろうが、冒険者ギルドの件は説明が付かない。その事に関しては本人も判らないとの事なので、これ以上突っ込んでも仕方が無いと判断して、俺がその分頑張ってやれば良いかと考えた。
今回は、少しの間村を離れるがポッポちゃんも同伴している。体力の方も大分戻ったみたいなので、遠出をしても問題ないだろうと判断したからだ。
これが終わったら、そろそろポッポちゃんの強化も図らなくてはならないだろう。
そんな事を考えながら、俺らに先行して道をピョンピョンと飛び跳ねながら進むポッポちゃんに付いて行くのだった。
一日かかると言われた道中だったが、途中からナディーネちゃんを背負って走り、半日で隣村のコーソック村にたどり着いた。
自分より小さい相手に背負われるのは、結構怖かったみたいだが一時間もすればなれて俺の背中で、ポッポちゃんを撫でれる位までになっていた。
辿り着いたコーソック村は、俺が住んでいるブロベック村と殆ど同規模の村で、村の周りを壁で覆った作りで大した違いは見られない。
この国の田舎の村は、大体こんな感じなのだろう。
人のよさそうな門番に挨拶をして村へ入り、ナディーネちゃんの家へと向かう。途中途中で村の人と挨拶を交わしているので、村で問題を抱えている様には見られない。
辿り着いたナディーネちゃんの家は、この村で見られる一般的な家で、ブロベック村でも良くみられる木造の平屋だった。
ナディーネちゃんが帰ったわと言いながら、家のドアを開けて中に入る。俺もそれに続くと中には二人の人物が編み物をしていた。
「早かったわね。あら? その子は誰かしら?」
「お姉ちゃん! おかえりなさい」
俺の事を不思議そうに眺めている女性が、母親のマーシャさんで、もう一人はナディーネちゃんの妹のミラベルちゃんだ。
「ただいま。依頼を受けてくれる人を見つけたわ。小さいけど、たぶん大丈夫よ」
まあ、未だに信用できないのは仕方が無いか。実際に仕事をしてみれば直ぐ分かるだろう。
「ナディーネ……、幾らなんでも子供には無理じゃないの?」
「そう思うだろうけど、ゼン君はただ者じゃないのよ。実際にやって見てくれる事になってるから、開墾地に行きましょ」
マーシャさんの反応は、事前の話し合いで判っていたので、実際に伐採や農地を耕す所を見せて、納得させる事にした。
ナディーネちゃんも今だ半信半疑なので、俺としては早く見せて出来る奴だと分からせてやりたい。
四人で向かった開墾地は、村から少し離れた森の突き出た部分で、周りには開墾した畑が見られる。この一家は村からこの部分の開墾の許可をもらったので、今回の依頼が発生したのだ。
ナディーネちゃんに聞いた話だと、今回の開墾は父親が死んだ事から始まったらしい。ナディーネちゃんの父親は、猟師をしていて一家は今まで畑仕事はそこそこに、父親が行っていた猟で生計を立てていたのだ。
しかし、猟の怪我が切っ掛けで父親は去年命を落とし、一家の収入の大半が失われたのだった。
ある程度の食い扶ちは、小さいながら持っていた畑である程度は補えるのだが、一年を通せばマイナスになり、それに加え税の支払いもある。
このままでは飢え死ぬし、それ以上に税の支払いの為、身売りをするしかない事態に一家は開墾の許可を村から得て、援助として比較的簡単に収穫できるジャガイモの種イモの提供も受けれる事になった。
だが、人手まで回すにはこの村は貧しかった。これはこの国の大体の村でもそうなのだが、基本的に農家は貧しい。自分の所を賄うだけで大半が手一杯になってしまうのだ。
開墾地と種イモを無料でもらえただけ、この村はマシな部類何だろう。
まあ、開墾が出来れば問題は無いのだ、本来ならば数人を集める気だったらしいが、人が集まらない以上俺が頑張るしかない。俺にはスキルが有るのだし、レベルも一般人より高いから何とかなるだろう。
俺は早速ナディーネ達が見守る中、借り受けた斧で木を伐って行く。ゴブリン達の集落作りで切り倒してきたので、久しぶりだが直ぐにコツを取り戻して、それ程時間を掛けずに切り倒す事に成功した。
「はぁ~、スキルを確認していたけど、実際に見ると凄いわね。子供の速度じゃないわよ」
うむ、そうだろう。もっと褒めても良いんだぞ。
この後の切り株の撤去の方が時間が掛かるのだが、その取っ掛かりである伐採を見られた事で母親のマーシャさんも納得したようなので、これから当分の間この家でお世話になる事になった。
だが、切り株の撤去はかなりの手間だ。以前はオークが数匹掛りで地面から引き抜いていたが、今回はそれが無い。馬などの家畜も短期間しか使えないらしいので、少し労働力を確保した方が良いだろう。
今日はこれで引き上げて、作業は明日からとなった。その後は今後の予定や開墾地の話などをして夜飯を頂いた。夜飯は当然肉など入っていない野菜だけの料理で、キャスの家に来た初日を思い出した。
明日は伐採をそこそこに少し森に入らないといけないだろう。
夜が訪れ俺には母親が使っていたベッドを提供された。母親は娘と寝ると言うので喜んで受け入れた。
俺は明日の予定を考えながら、その日は眠りについた。
◆
さていよいよ今日から作業を始める。
まず午前に俺は伐採だけをして、倒した木はナディーネ一家に枝の処理等をさせる。俺の伐採速度の方が上回る様で、午前中で数十の木を伐り倒しておき、俺は午後からは森へと入って少しの狩と周辺の探索をする事にした。
今開墾しているこの森は、ゴブリン達の集落がある森と繋がっていて、この国の北方に長く横たわる巨大な森だ。
北にある山脈を越えると隣国の領土になるらしいのだが、山脈やその周辺の森には強大な力を持った魔獣や魔物が生息しているらしく、普通の精神をしていたらまず山脈を越える事はしないと言う。
森の入り口であるこの周辺では、たまに亜人が出たり強くて熊程度の動物が出る程度の比較的安全な森だ。
俺はその森の少し奥まで入って行き、当分の肉を確保していく。植物の分布はブロベック村周辺と全く変化が無いので、特に見るべきものも無いのだが、ブロベック村周辺にはいないある動物を狙って探知を全開にして森をさまよう。
ポッポちゃんが方向をばっちり判ってくれるので、俺は安心して森の中に入れる。更にポッポちゃんはその野生の感で、俺が探している動物の痕跡も見つけてくれた。
その痕跡とは木に付いた爪痕だ。俺が探しているのはこの周辺に出ると言う月熊と呼ばれる熊だ。名前からして日本にも居るツキノワグマみたいな奴だろうと予想している。この世界にいるシカやイノシシも毛の色や模様が違うだけで、基本的には地球と余り変わらないからだ。
暫くすると探知にオークよりも、少し大き目な反応が掛かった。俺はその方向へと歩みを進め、身を隠しながら反応へと迫った。
程なくして視界にとらえたその姿は、二メートル位の熊の後姿で、頻りに地面にある何かを食べている様だ。
隠密があるから気づかないのか、食べるのに夢中で気付かないのか判らないが、こちらを振り向く気配が無い。今回は殺す気は無いので、地面に転がっていた石を拾い軽く月熊へと投付けて見た。
石が体に当たった月熊は少しだけ体を震わせると、左右を見渡し最後に俺のいる後方へと首を曲げると、その口には何かの腕を咥えていた。
よく見るとその腕はゴブリンの腕の様で、月熊の傍にはゴブリンの胴体が転がっていた。まあ、ゴブリンも食物連鎖の一員なので、それは問題ではないのだが、月熊と呼ばれる熊の姿に俺はわずかな驚きを覚えた。
何故驚いたかと言えば、こちらを振り向いた月熊の下の牙が大きく伸び、その形はまるで三日月の様な形をしていたからだ。
どうやら月熊の月の意味は、この牙から来ている様だ。
こちらに気付いた月熊は新しい得物を見つけたかの様な表情で、座っていた身を起こし四つん這いでこちらに歩いてくる。
俺は牽制としてマジックバッグから鉄球を取り出し、軽めに投擲してみる。軽く投げたのだが、結構なスピードが出て月熊は反応はしたのだが、避けることは出来ずに前足に鉄球を受けて、怒りの声を上げ始めた。
一瞬の溜めの後、一気にこちらに向かって突進してきた月熊を俺は難なく躱していく。この程度はキマイラの突進と比べたら、いなす事は容易である。
ポッポちゃんが木の陰から見守る中、俺は数度の突進を避けながら、鉄球を後ろ脚に投げつけて身動きを出来なくさせた。俺は痛みで動けなくなった月熊に近づき、マジックバッグから果実を取り出して口先に持って行ってやる。
「ほら、お食べ。大丈夫だよ。怖くないよ」
散々いたぶって置いて酷い話だが、月熊は怯えながらも俺に威嚇の唸り声を出している。だがそれも、俺の調教スキルが発動したのか、戸惑いながらも俺が差し出す果実に引き寄せられる。
食べようとしているのだが、まだ抵抗が勝らしくそのやり取りを十分ほど続けていると、ようやく俺の手にある果実にかぶり付き、ゆっくりと食べだした。
正直俺もビビっていたのだが、月熊の怯えてる目を見たら行けると思ってしまった。下手をしたら手を食われそうだが、プロテクションも掛けてあるし、まあ一噛み位は耐えてくれるだろうと思い、少し無理をした。
それが功を成したのか、二個三個と次々と俺の手から果物を食べてくれる。
いつの間にか月熊と俺は、ポッポちゃんと同じように意思の疎通が出来る様になっていた。
月熊に近づいて俺が傷つけた場所に、ポーションを掛けてやると、月熊は俺にすり寄って来る。
「うーん、お前の名前は……、熊でいいか……」
思いつかなかった訳では無い。ただ、この依頼が終わったら彼とはお別れするつもりなので、別に名前を付けなくともいいだろうと思ったからだ。情が移っても別れが悲しくなるからね。
そんなこんなで調教によって、俺の支配下に置かれた月熊に乗って森の探索を再開する。
どうせならもう少し労働力を確保してから戻りたいので、森を走り回ってこの周辺に居るゴブリンなどを片っ端から捕まえていった。
探知に掛ったゴブリンの方向を、月熊に教えれば確実に追いついてくれる。俺の探知の半分ほどの距離に入れば月熊も、匂いがあれば補足出来る様なので自動操縦になり俺も楽が出来た。
ポッポちゃんは月熊の頭の上に器用にしがみ付き、何やら教育を施している。調教のお蔭かペット同士の意思疎通も出来るので、月熊も先輩を立てる様で、ポッポ姉さんと敬っている。最初、ポッポちゃんに舐めた口をきいた時に、鉄拳制裁をかましたのが効いたのだろう。
数時間の探索で、ゴブリン六匹にノール三匹を捕まえた。彼らは調教スキルでならす事は出来ないので、素直に力関係と食べ物で飼いならす事にする。
マジックバッグから料理器具一式と、食材を取り出して物凄く簡単な炒め物を作ってやる。調味料は塩だけなのだが、ラードが手に入ったので味も少しはマシになった。
料理は大量に作ったのだが、すべてを平らげた彼らはとりあえずは、こちらに服従の姿勢を見せている。まあ、月熊が居る時点で彼らからしたら、勝ち目が無いと分かっているのだろう
それ以上にやはり、俺が話が出来る事が大きいみたいだ。
俺らは開墾地近くの場所まで来て、そこに簡単な寝泊まりが出来る程度の環境を作り、ゴブリンや月熊はそこで待機するように命じた。大量の食糧と見張りの月熊が居れば逃げる事は無いだろう。
念の為に、村に近づいたり逃げたりしたら、群れごと滅ぼすと脅しておくことも忘れない。
彼らはそこに置いておき、俺とポッポちゃんは一度開墾地に戻る事にした。結構な時間が経っているが、まだ陽は落ちる時間では無いので、出来るならばもう少し作業を進めたい。
ポッポちゃんの正確な方角の指示で、直ぐに開墾地まで戻る事が出来た。東西南北が分かるだけでもかなり違うもんだね。
ナディーネ一家はまだ作業をしている様で、俺が切り倒した木の枝や葉などの処分をしてくれていた。綺麗になった木材は俺のマジックバッグに収納していく。
驚いている彼女らには、一応秘密にしてくれと言っておいたが、他の人に話してしまったらそれはそれで良い事にした。
いらんトラブルに巻き込まれるのはごめんだが、目の前にある切り倒された木を一々運ぶ事に比べたら、今はそんな事を気にするのは馬鹿らしくなったからだ。
収納した木は半分は俺が頂くとして、もう半分はナディーネ一家で使うとの事だ。薪にしたり木材として売れば幾らか生活の足しになるだろう。
取り敢えずは今日の作業はこれで終了させて、明日から数日はこの辺に来ないでもらう事にした。月熊だけなら何とかなるだろうが、亜人が十近い数現れたら流石に彼女らも作業どころでは無くなるだろう。
最初は俺が理由とした集中したいから、と言う事に納得は行かないようだったが、家の近くに木材を出してやりこれの処理をさせる事で納得してもらった。
彼女らとしたら開墾も大事なのだが、現金収入に繋がるこの作業も大切だと判断したのだろう。
その日の夜は俺が取ってきた動物の肉と、穀物などを提供して料理を作ってもらった。俺が出す事に母親のマーシャさんは、申し訳なさそうにしていたが、俺が肉抜き料理が嫌なのでどうにか了承してもらった。妹のミラベルちゃんも肉が出た事に喜んでくれて、大分俺に懐いて来てくれている。
どの世界でもどんな相手でも、胃袋を制すればすべてを制するのだろう。
食事を終えたその日の夜には、一人の訪問者が現れた。
「あら、イーノス。どうしたの?」
ノックを受け、家のドアを開けたナディーネちゃんが、軽い驚きの声を上げていた。どうやら知り合いらしい。リビングに居る俺からも、その訪問者の姿を見る事が出来た。
「やあ、ナディーネ。夜おそくすまないね。いや、隣町から帰ってきたと聞いてね、何か手伝える事は無いかと思って来たんだよ」
イーノスと呼ばれた男は、ナディーネちゃんより二つ三つ年上の男だった。見てくれはマシな方だが優男と言う感じで、手伝いたいと言ってはいるが、力仕事は望め無さそうだ。
「まあ、ありがとう。でも、ちゃんと冒険者ギルドで、人を雇えたから大丈夫よ。ほらあの子。ゼン君って言うんだけど凄いのよ。あの年で二つもスキルを持ってるんだから」
俺の個人情報をべらべらと、余り言わないでほしいのだが、家のドアを大きく開けて俺の姿をイーノスに見せている。
俺は一応挨拶だけはしとこうと、小さく頭を下げてこんにちはとだけ言っておいた。
「えっ! ははっ、本当なのかい? あんな小さい子が開墾何て無理だろ?」
「嘘じゃないわよ。もう今日だけで十本以上の木を伐ってるんだから、力は本物なのよ」
「えっ……。そうなのかい? 信じられないな……」
まあ、分かるよ。俺の事は気にしないでどっかに行ってほしい。
「じゃあ、畑は何とかなりそうなんだね?」
「そうね、切り株の問題とか畑作りはまだだけど、何とかなると思うわ」
「なるほど……、じゃあ僕は必要無いか」
「気持ちだけでもうれしいわ。ありがとうねイーノス」
何か俺が二人の邪魔をしてしまったかな? イーノスには悪いが、別の機会でナディーネにアピールしてくれ。
その後二人は少しだけ話をしてお開きになった様だ。俺はその間ずっとポッポちゃんを撫でたり、ミラベルちゃんにポッポちゃんが撫でられると、気持ちのいい場所を教えたりといそがしくした。
戻ってきたナディーネが言うには、彼はこの村の村長の孫らしい。父親が死んだ後は何かと声を、掛けて来てくれているのだと言う。下心がありそうな気がするが、それも男としたら立派な理由だと俺は思う。俺が口出す事でもないしね。
しかし、ナディーネ程の美人なら、もっと言い寄られてもおかしくないと思うのだが、この村の男どもは玉無し揃いなんだろうか? あぁ、村長の孫が狙ってるから遠慮してるのかな?
そんな事を考えながら、明日も忙しくなる事を楽しみにしながら、眠りについたのだった。
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