31/139
十五話 村
「キャス姉、俺が話すよ」
俺は今の状態で話されると禄な事に成らないと判断し、自ら話をしていく事にした。キャスの心境も何となく分かるので無理やりやらすのも可哀そうだろう。
「僕はゼンと言います。キャスお姉さんと一緒に森から逃げてきました」
相手はたぶんこの村の村長とかだろう。実年齢も俺より上の相手だ、まずは礼儀正しい子で行こう。
俺が挨拶をすると、老人はほうと息を吐き俺に話しかけた。
「儂はこの村の村長ダリオだ。君も奴らに攫われていたのか?」
あーそういう解釈もあったか、それを色々な言い訳にした方が、正直楽そうだったけどキャスのこの態度とコリーンちゃんの事を考えると止めといた方が良いか。
「いえ、僕は気が付いたら森の中にいまして、色々あってキャスお姉さんとこの村へ来る事になりました」
「親御さんはどうしたのだ?」
「両親はいません」
「ふむ……」
色々あって作戦は通用するか? これ言っとけば後は向こうからの質問になるだろ。キャスが俺の隣でうんうん頷いているけど、散々お姉さんぶっといて、案外ポンコツだな。
「ゼン、お前の事は分かった。キャスは二人を森の深部からよくぞ助け出した。それでキャス、お前さんはどうやって生き残れたのだ? オークキャプテンに襲われたと聞いているのだが」
「えーっと……」
うおおおい! 大した打ち合わせ何てしてないけど、少しぐらい頼むよキャス姉さん!
「それはですね、丁度そこに通りかかった僕がオークの気を引いて、その隙に逃げてもらったんです。その後合流しましてね、この村まで連れてきてもらったんです」
俺の全力笑顔の説明にキャスのうんうんが追随して村長を説得していく。だが、明らかにこちらを疑った顔になった。
「キャス、お前さっきから何も喋ってないがどうした?」
「えーっと、ゼン君が説明してくれるみたいだから?」
よし、もうお前には期待しない。
「……取り敢えずまあいい、それで人攫いはどうなったのだキャ」
「それはですね、僕が見つけた時には亜人に殺されてましてね、袋に入って見つかっていなかったコリーンちゃんをその時に助け出したのです」
「……儂はキャスに聞」
「その後にオークに襲われていたキャスお姉さんを見つけましてね、僕が囮になった後に三人で逃げてきたのです」
村長が目を細めキャスにどうなってるんだと言う顔をしているが、あいにく彼女は目を合わす気が無い。少しの間沈黙が訪れるがややあって村長が口を開く。
「キマイラも出たと言うがそれはどうなった」
「一度僕たちも追われましたが、丁度亜人の群れとぶつかったらしく、混乱に紛れて隠れていたら双方共倒れしました」
「キャスも見たのか?」
「……はい」
本当の事も少しだけ混ぜとけば、キャスもこれ位の嘘なら吐けるだろう。
急に黙り込んだ村長が再び口を開いたのは五分後の事だった。その間ずっと俺とキャスの顔を交互に見ていたが、どうやら諦めた様だ。
「分かった、もう何も言わん。キャス良く帰ってきたな。そして良くコリーンを助け出した。報酬は後で渡そう。ヘイストン達も礼がしたいだろう」
「はい!」
よし! これで如何にかなっただろ。キャスもやっと解放されたと思ったのか急に元気になりやがって。
「それでキャス、報酬はゼンに渡した方が良いのか?」
「はい! あっ、いいえ!!」
「なるほど、お前は何もしてないと自分で分かってるんだな」
……キャスさん? 村長がどう見ても俺の顔見て、お前は怪しい見たいな顔してんだけど? 逆転ホームラン撃たれてるんですけど?
「キャス、この子がコリーンとお前を助けたんだな?」
「……」
黙り込むキャスを見て、その視線を俺に向けると村長は大きなため息をついてこう言った。
「話したくないなら良い、結果この村の娘を二人も取り戻せたのだ。ゼン、お前がこの村に滞在する事を許可しよう」
「……ありがとうございます」
どうやら村長はもう追及する気は無いらしい。この村に居ても良いと言ってくれたし甘える事にしよう。
村長との話を終えキャスの家に行く事になり、村長宅を出るとそこにはコリーンちゃんとその両親が待っていた。コリーンちゃんが俺に向かって走ってくる。だが、俺がポッポの籠を持っている事に気付き、慌てて減速をしてゆっくりとこちらに歩いてくる。
「コリーンちゃん、お父さんとお母さんに会えてよかったね」
最高の笑顔を見せてくれるコリーンちゃんの頭を撫でながら声を掛ける。
コリーンちゃんの母親はキャスを抱き締め、泣きながらお礼を言っている。その傍らには父親も居て同じく礼を言っている。
キャスは若干居心地が悪そうだが、それでも嬉しそうに両親に対応していた。
「所でキャス、この子は誰なのかしら?」
コリーンちゃんの母親が娘を撫でている俺を見てキャスに問いかける。
「この子はゼン君、この子が居なかったら私もコリーンも生きては戻れなかったわ」
まあ、核心的な事は言ってないし良いか。
キャスがそう言うと、コリーンちゃんの両親が俺の近くに寄ってきて俺の手を取り話し出す。
「私はフラニー、この人はヘイストン、コリーンを助けてくれてありがとうね」
また感極まったのか涙を潤ませながら俺に抱き着いてくる。
こう見てみると夫妻若いな! 二十代前半じゃねえか。
あまり文明が発展して無さそうな世界だし、低年齢で結婚するのは普通なのかな?
片手に持つポッポの籠に注意しながら、されるがままにしているとヘイストンがキャスに訊ねた。
「報酬は一応ギルドを通す方が良いか?」
「ヘイストンさん、それに関して話があるから私の家に来て」
さっき村長と報酬の話してなかったか? どんなシステムでやってるか分からんから何とも言えんな。
キャスはそう言い、ヘイストン等三人を加えキャスの家へと向かう事になった。
少し歩くと村の中心から少し離れた場所にある、こじんまりとした家の扉を開く。中に入る様に促されヘイストン等と共に入ると、部屋の奥には先程見たキャスの母親が何か料理をしていた。
「あらおかえり。フラニーじゃないどうしたの?」
お邪魔しますと家に入った俺たちに、キャスの母親は声を掛けてくる。キャスが少し話すからと告げると、母親は料理に戻って行った。
家に入って直ぐにあるリビングらしき部屋に通され一同席に着く。皆特に遠慮などしていないので、俺も例にならって遠慮なく座らせてもらった。
机の上に籠を置き、中のポッポの様子を見ると家の中が珍しいのかキョロキョロとしている。俺はポッポの頭を撫でながらキャスが何を話す気なのか待っていた。
「それでキャス話ってのは何なの?」
考え込むように黙っていたキャスに、フラニーがしびれを切らしたのか問いかける。
そうするとキャスは、下を見ていた視線を俺らに向け口を開いた。
「報酬の件なんだけど、私は辞退したいと思うの」
「何を言ってるんだいキャス。コリーンを連れて帰ってきたのはお前だけなんだぞ」
「ヘイストンの言う通りよ。もうギルドには正式に依頼してるんだし、今更取り下げるなんて出来ないわよ?」
さっきから言ってるギルドってのはキャスも所属している冒険者ギルドって奴か、夫妻はそこに依頼して冒険者達に連れ戻してもらおうとしたのか、俺も貰える物は貰っといた方が良いと思うぞ。
俺がそんな事を思いながらコリーンちゃんの相手をしていると、キャスは再び口を開いた。
「本当は私が助けたんじゃないのよ。ゼン君、二人には話しといた方が良いわ。コリーンは色々見てるのよ? まだコリーンは幼いし、誰に何を話すか分からないわ。それなら先に二人に説明しておいた方が、後々の事を考えればいいと思うわ」
もう村長にもばれてる臭いし、俺はどっちでもいいんだけどね。少しぐらいキャスを立ててやるか。
「キャス姉に任すよ、俺はもうどっちでもいいから」
俺がそう言うとキャスは核心には触れないが、二人に事の顛末を伝えていく。あくまでも俺が亜人を追い払い二人を逃がしたと言う話でだ。大体の流れは村長に話した内容と同じなので、あの場でキャスもただ頷いてただけでは無かったのだろう。
ヘイストンは最初は信じられないと言う顔をしていたが、キャスが森の深部から生きて帰れたという事実が、多くを語らなくとも信じる理由になったらしく、それに加え窓から見える木に俺がナイフを投擲して見せると、興奮を交えた驚きを見せ俺の腕前を信じてくれたようだ。
「なるほど……ゼン君、ありがとう。君が居なければコリーンは死んでいたのか」
ヘイストンが俺に向かって礼を述べてくる。悪い気もしないので素直に受け取っておこう。
その後の話し合いの結果、報酬は結局受け取る事にした。幾ら知り合いだからと言って、報酬を渡さないのはヘイストン側に問題が発生するからだ。ギルドを通して依頼をしている以上は、成功したならば報酬を出さなければ、今後の依頼を断られる可能性が有る。
小さな村の話なのと村長がギルドマスターも兼ねてるので、この村でなら問題にならないが、結構な時間がたち依頼内容も既に本部に送られてる事もあり、次回もし依頼する時があった場合に問題が発生するそうだ。
そういう事もあり、ヘイストン夫妻はギルドに報酬を払いキャスが受け取る事にした。
キャスは最初は全額を俺に渡す気だったらしいのだが、キャスも相当な苦労をしたのは分かっているので、流石に全額貰うのは気が引けて、交渉の末半額を俺が貰う事になった。まあ、くれると言うのだ、ありがたく貰っておこう。 金額によってはちょっと考えなければならなそうだけど。
そうこうしていると、作っていた料理が出来たのかキャスの母親が昼飯を食うかと尋ねてきた。
本当に久しぶりに真面な飯にありつけそうなので、手を高々と上げ頂きますと叫ぶと、みんなに笑われてしまった。
程なくして運ばれてきた料理は、所謂ごった煮と言うのだろうか、豆を中心に多少の野菜が入っていて、素材を活かしています見たいなものだった。
同じく出されたパンは、とても固く数日は経っていそうな感じがする。御馳走になるのだから文句など言ってはいけないのだが、期待が大きすぎただけに少しテンションが下がってしまった。
皆が席に着くと一斉に食べ始める。食事前のお祈り何かは無いみたいだ。俺はいただきますとだけ言って出された食事に口を付けた。
久しぶりの豆や野菜はとても美味い。味は薄いし肉なんか入っていないので、味の深みもコクも無いのだが驚きの美味さだ。
でも、次にこれを出されたら、多分美味いとは思わないのかも知れないが今は気にしないでおこう。
野菜のうま味を味わいながらパンに手を付けるが、千切るのに力が必要なほど固く、そのまま食べるとパサパサとして不味い。
俺がいつも食べているパンはこの世界ではレベルが高い事が分かった気がする。
ポッポちゃんに千切って上げてみるが、少し食べて直ぐに何時もの奴をくれと要求されてしまった。コリーンちゃんも何度も食べていたパンが欲しいのか、俺の袖を引っ張り「お兄ちゃんパンちょうだい」とか言いだしている。
マジックバッグに手を入れて中から無尽蔵のパン袋を取り出し、パンを取り出していく。コリーンちゃんと俺だけ食う訳にはいかないので、人数分取り出し渡していく。
「マジックアイテム……?」
ヘイストンが俺が持っている無尽蔵のパン袋を見つめてそう言った。
「親の形見なんです」
神様に貰ったって言ったらどんな反応するんだろう? 加護に超反応していたキャスの事を考えると、言わない方が良いんだろうな。
それ以上は詮索する気が無いらしく、差し出されたパンを見つめて齧りついていた。食べなれてる俺ら以外の、ヘイストン夫妻とキャスの母親は、皆やらかさと美味さに驚きの声を上げていた。
この事も一応秘密にしといてくれと一言だけ言っておき、先に食事が終わった俺は皆が食べ終わるのを待っていた。
皆が食べ終わるのを待っている間、俺は今後どうするか考える。一先ずは滞在許可も得た事だし、この村に当分は留まるとしてどこに泊まるかなんだが、この村の宿屋はどんな感じなんだろうか。
小さな村なのでそんな物無いかと最初は思ったのだが、考えて見たら冒険者が数人森に入っている。そいつらは何処にいたかと言えばこの村に滞在していたのだろう。ならば宿屋位無くてはおかしな事になる。
そう思い食事の話題の一つとして、キャスに聞いてみる。
「キャス姉、この村の宿屋ってどうなってるの? あと風呂ある?」
それがそう質問すると、食べていたパンを飲み込んだキャスがこう答えた。
「食堂兼宿屋のお店が一軒だけあるわよ、安いけどちゃんとしてるし、この辺の村じゃ一番じゃないかしら」
ほうほう、ならそこに泊まるか。
「あっ、でもお風呂は無いわよ。お風呂何て大きな町の宿屋じゃなければ無いからね」
風呂ないのはきついわ―。いっその事その大きな町ってのまで行こうかな。
俺がどうするか悩んでいると、キャスの母親が口を開いた。
「この家に泊まればいいじゃないの。悪いとは思ったけど聞かせてもらったわ、ゼンはキャスの命の恩人なんだろ? 部屋は物置を開ければ使えるから、そこにとうちゃんのベッドを移動させればいいわ」
「確かにそうね、お金も勿体ないしそうしないさよ」
ん? 年頃の娘がいるのに男泊めるとか……って俺子供か。
さてどうするか、タダなのは助かるけど居候は厳しいな。今の俺は子供だし、この二人も気にしないのだろうけどなあ。
でも、ある程度の事情を知っているキャスに助けてもらえるか。道中狩った得物の処理とかあるしその辺を頼めるのは大きいな。
そう言えば父親のベッドとか言ってたけど、出稼ぎかそれとも亡くなってるのか? その辺を突っ込むのは無粋だな。子供らしく気にしないで行こう。
俺がうーんと唸っていると、キャスの母親は俺が遠慮をしていると感じたのか。
「子供が遠慮なんかするんじゃないわよ!」
と言い、俺の背中を力強く叩いてくれた。こんな事を言われて無下に出来る訳も無く、俺は立ち上がり頭を下げた。
「それじゃあ、よろしくお願いします。えーっと」
「あぁ、名前がまだだったね。私はカーラよ、よろしくねゼン」
「よろしくお願いします、カーラさん」
こうして俺は遂に人里にたどり着き、住む場所も手に入れた。これから如何するかは、まだ今迄の日々と同じく未知だけど、幾つかの目標は立てている。
散々冒険はした気がするけど、俺の冒険はこの村から始まると思って頑張って行こう。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。