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十三話 万能武器
空を飛ぶキマイラがヤギの口から火を飛ばす度にゴブリン達が死んでいく。その光景に焦って槍を投げるもあまり効果は見られない。周りを見渡すと傷ついたゴブリンが横たわり、それを他のゴブリン達が引きずる様に移動させ、ポーションが置いてあるキャスの元へと連れて行っていた。
キャスは運ばれてきたゴブリン達を怖がることも無く、ポーションを飲ませたり傷口に掛けたりと忙しそうにしている。
そう言えばコリーンちゃんは何処に置いてきたのだろう?
俺の探知外にいるのだろうとは思う、進化したゴブリンも数匹見ないので、そいつ等と一緒に居るのだと考えよう。
周りの状況を見ていると少しだけ冷静さが戻ってくる。
有効な手立てが無い以上、無策であれこれやっても仕方が無い。ここは頭を働かせ今ある問題を解決する方法を考える時だ。
周りから聞こえてくる叫び声で、完全な冷静な状態にはなれないが、無い知恵を絞ってキマイラをあの場所から地面に降ろす方法を考える。
槍を投げても効果は薄い。網がまだ残っているだろうが、あそこまで飛ばす事は出来るだろうか? 当然ボーラでは全く効果は無いだろう。
何か手段があるはずだ。俺が持っている物で有効な手段を見つけ出そうと、マジックバッグのリストに集中していく。
「あった……」
一つだけ手段を見つけた俺は、空に浮かぶキマイラを眺めて、苦い顔をしているボークの隣まで駆け寄りこう告げた。
「俺をキマイラの上に向かって投げつけろ」
ボークは意図は分かっていないみたいだが、俺の言った意味は理解できたようで、俺の体を持ち上げるとその肩に乗せ、俺の尻と足を手で掴んで固定すると、三歩の助走の後に力いっぱい俺を上方へと投げ飛ばした。
ボークが普段使っている斧よりもはるかに軽いであろう俺の体は、空高く飛び上がり投げ飛ばされる瞬間に俺自身もボークの手を蹴り上げ、キマイラに向かって一直線に向かっていく。
火の玉を吐き続けていたキマイラも俺の動きは見ていたらしく、自分に向かってくる俺の姿を捉えると、両目の潰れたライオンの口を思いっきり開き俺に食いつこうとして来る。
俺は自分を食い殺そうとするキマイラを限界まで待ち、ライオンの口が俺の体を捉える間際で、マジックバッグから盾を取り出し、その大きな口に食わせる事に成功した。
一瞬戸惑ったキマイラだったが、直ぐに盾を口から吐き出すと目の前にいる俺に再度噛みついて来ようとした。だが俺はその前にライオンの顔を踏みつけ、キマイラの上方へと登って行く。
そして、マジックバッグの中からダンジョンのボスに使用した、ルーンメタルと鉄から作り上げた、巨大な金属の杭をキマイラの頭上に出現させた。ダンジョンボスを突き破り、地面に突き刺さっていた当時の姿勢のまま現れた金属の杭は、瞬く間に落下を始め空中に羽ばたいていたキマイラの頭部を押し付けながら落下してく。
ほんの数秒で地面に突き刺さった金属の杭は、キマイラの頭の一つであるライオンの頭部を真ん中から押し潰し、その脳髄をまき散らす事になった。
二つ目の頭部を失ったキマイラはそれでも死なず、杭で地面に張り付けられながらも激しくのた打ち回り、残ったヤギの口からは苦しさからか絶叫の声が上がっていた。
レベルアップで強化されている俺の体でも、高い所から落ちれば痛いのは当然で、キマイラと一緒に落下する事になった俺は強かに体を地面に打ち付け動けずにいた。
前々から木の上程度からなら落ちても大丈夫なんじゃないかと思っていたのだが、それ以上の高さからの落下でしかも背中から落ちると、その衝撃からか呼吸が出来なくなる。
お互いダメージは受けた。その大きさで言えばキマイラが上なのだが、復帰の速さでもキマイラは上回った様で、叫び声を上げていたヤギの顔がこちらを見たかと思うと、その口から火の玉を吐き出してきた。
俺は今だ落下の衝撃から動く事が出来ずにその直撃を受ける。燃え上がる体を俺の元に寄ってきたゴブリン達が消そうとしてくれるが、一向に消える事は無く熱さで悶えていた俺は、ヤギの頭が次の攻撃をする態勢に入る姿が見えた。
二度目の火の玉は流石に死んだかなと思いながらも、燃える自分の体を如何にかしようと暴れていたのだが、一向に攻撃が来る様子がない。
いつの間にか、俺の体にポーションをかけ続けていたキャスに気が付き、若干回復した体を起こしキマイラを見上げると、ヤギの首筋に槍を突き立てていたゴブ太とゴブ元の姿があった。
二匹とも暴れるキマイラに振り回されながらも、俺が与えた槍でキマイラのヤギの顔を攻撃している。だが、更に暴れるキマイラに二匹のゴブリンは飛ばされてしまう。
手に持っていた槍も落とし、そのまま落ちてくるかと思っていたが、振り落されたのはゴブ元だけで、ゴブ太は俺が前に投げて突き刺していたルーンメタルの槍に捕まり耐えていた。
ルーンメタルの槍に捕まると、その切れ味からか傷口が大きく広がりだす。キマイラは大声を上げながら更に振り落そうと暴れ始める。
だが、深く突き刺さった槍にしがみ付き続けるゴブ太を、振り落す事は出来ず暴れ疲れたのか、その動きを一時的に止める事になった。
それを見逃さなかったボークが、巨斧を地面に張り付けられているキマイラの後ろ脚に叩きつけると、深々と斧が突き刺さる。それに反応したヤギの頭がボークを睨み付けるが、その隙を付いてゴブ太は掴んでいたルーンメタルの槍を引き抜き、ヤギの口の中へと突き刺していく。
驚愕で目を見開いているヤギの顔だったが、ゴブ太が体重を掛ける度に深く沈んでいく槍についに力尽きたのか、白目を剥きその動きを止める事になった。
巨大なキマイラの体から力が抜けていくのが分かる。
どうやらゴブ太達のお蔭で、俺は死なずに済んだらしい。
キマイラを仕留めたゴブ太君が、キャスに助けられ立っている俺の姿に気付いたのか、不安げな顔をして駆け寄ってくる。
だがその途中でゴブ太君の体に異変が起きた。キマイラを倒したことによる存在進化が始まったのだ。
とても苦しそうにその場にしゃがみ込み、唸り声を上げている。明らかに変化してることが分かる。体は二回り以上は大きくなり、骨格や体つきが人間に酷似してきている。更に黒くなった肌には白い線の様な物が浮き上がり刺青をしているかのような印象を受ける。
そして立ち上がったその顔には大きな牙と鋭い二本の角が生えていた。
その存在感はこの群れの誰よりも大きい。今までは個別の強さではボーク君が一番だったが、それをはるかに超えている。もし俺が万全の状態で、一対一をしても勝てないほど強くなっているのを感じる。
そのゴブ太君が地面を鳴らしながら俺の元へと進んでくる。俺を支えているキャスが軽く震えているが、俺も正直やばいかも知れないと不安で笑えて来てしまう。
ゴブ太君が俺の目の前に来ると、見下ろしていたその頭を低く下げ俺に膝を付き一言、「王、遅参申し訳ございません」とだけ言い、何故か泣き出していた。
俺はキャスと顔を見合わせ、安堵のため息を付き、二人ともそのまま体の力が抜けてしまい、その場で座り込んでしまった。
安心したとはいえ、周りの地面に横たわるゴブリン達の姿を思い出し、直ぐにマジックバッグから追加のポーションを取り出して、生き残りの負傷者に使用していく。
予想以上に生き残ったゴブリン達は多かったが、それでも損害は相当あった。
俺はポッポがどうなったか気になり、キャスに尋ねてみると負傷者にポーションを使うのが大変だったので、コボルトにポーションを一本渡し、後方に下がらせたとの事だった。
何時までもここに居ても仕方が無いので、一度集落まで戻る事にして来た道を帰って行った。
道中で損害の確認と俺らを追ってきた経緯について話しを聞いた。
まず損害は群れ全体の四割程を減らす事になった。特に最初から数が多かったコボルトの被害が大きく、その内訳の六割以上を占める事になった。
死体は一度俺が全てマジックバッグで保存して、集落近くに埋める事になっている。
キマイラ攻略はどの道やる事になっただろう、その時も同様に死んだのかも知れないが、今回は俺の為に死んだともいえる。弔いをしないという選択肢は無かった。
なぜ彼らがこんなに早く俺の元へと駆けつけられたかは、戦いには参加していなかったゴブシン君から聞く事になった。
ゴブシン君は俺らが集落を出た後にキマイラの姿を監視していたのだが、俺らが集落を出てから数時間で動き出していたらしい。その方角が俺らが進んでいた西方向だったので、慌てて戻り群れを率いて俺らの後を追ってきたとの事だ。
ゴブシン君は偵察時から寝ずに俺らの後を追っていたらしく、キャスと合流した時には疲労困憊だったので、コリーンちゃんを託されて後方で控えていたらしい。
もしもの時はコリーンちゃんだけでも、人里に送り届けると約束していたという。
キャスから聞いた、亜人と言われ蔑まれる姿からは想像も出来ない彼らの行動に目頭が熱くなる。言葉さえ通じれば共存の道は有るのではないかと心から思ってしまった。
移動しながら俺は戦ってくれた皆に声をかけ労をねぎらった。戦いで味方が死んだ事をそれ程気にしていない彼らを、ドライだと感じると同時に悲しくもなってくる。
最後に声をかけたゴブ太君は、その身長を更に伸ばし百八十センチメートルは有りそうなオーガを思わせる体になっている。だが、その顔からは知性を感じさせ、オーガとは一線を画している事が分かる。
何故か俺の事をボスから王と呼び名を変えたゴブ太君は、進化して知能が上がったからか、自分の状態を理解していらしく、ゴブリンデュークというものに進化をしたらしい。
ナイトだったのでてっきり戦士的な名前になると思っていたが、予想外に貴族になってしまっていた。たしかデュークは爵位の一つだったはずだ。
次の日の夜には集落へと戻ってこれた。
思っていたより疲れていた俺は、集落に残っていた面々に挨拶もそこそこに小屋に戻って、傷付きまだ目を覚まさないポッポにポーションを少しだけかけて、毛皮で作ったベッドの上で眠らせた。
そのまま横になって眠ってしまおうと目をつぶっていると、コリーンちゃんを寝かしつけたキャスが俺の隣に座り込んだ。
「お疲れ様」
キャスが俺の頭を撫でながら声をかけてくる。そんな事をされてさらに眠くなってきたが、言うべきことだけは言っておこう。
「お姉さんのお蔭で助かりました」
「助けてもらったのは私の方でしょ? キマイラに一人で挑むなんて、君は本当に何者なんだろうね?」
そこには問いただす様な感じは受けず、ただ疑問に感じた事を述べただけの言葉があった。俺もこれには応じる必要は無いと分かったので、適当に受け流す。
「さあ、どうなんでしょうね。僕にも分かりませんよ」
俺がそういうと、キャスはあっと何かを思い出したかの様に喋り出す。
「そう言えばゼン君、口調が戻ってるのね。あの時はビックリしちゃったよ」
思い出してみれば命令口調で喋ってた気がする。別に緊急事態だしどうでもいいのだが、俺の体は子供だしあやまっておこう。
「ごめんなさい、あの時は興奮してて、つい出ちゃいました」
「そうなんだ、あれはあれで男の子っぽくてかっこよかったけど、でもあれがゼン君の素じゃないの? 亜人と喋ってる時はあんな感じだよね」
そりゃ俺が生きてきた年齢相当の体を持ってたら、二十にも成っていない子供に敬語なんて使わないけどさ。一応君の事を考えて丁寧に喋ってるのにひどいな。
「そう言われてもキャス姉さんは年上だから……」
「丁寧過ぎる気がするけど、子供が気を使わなくても良いんだよ」
「分かったよ、キャス姉。これでいいんだろ?」
「よろしい!」
何が嬉しいのか知らんけど、それでいいなら俺も楽でいいよ。
「俺もう眠いから寝るよ」
「はい、寝るまで撫でてて上げるからね」
気持ちいいし、そうしてくれるならお願いしよう。キマイラ相手に頑張ったご褒美だと思えば、これ位してもらっても良いよな。
この世界に来てから一番かも知れない寝心地を感じながら、俺は深い眠りに付いたのだった。
◆
目が覚めると俺に抱き着いている、柔らかくてすべすべした肌を感じた。俺がその肌を堪能していると、俺の身動きを感じたのか彼女も目を覚ました。
「おはよう、コリーンちゃん」
何時俺の隣に来たのか、俺を抱き枕にしていたコリーンちゃんに朝の挨拶を済ます。コリーンちゃんはまだ眠いのか少し目を開けただけで、また直ぐに眠りに落ちてしまった。
寝る子は育つ、もっと寝てなさい。
コリーンちゃんの拘束を解き、立ち上がり体を伸ばして目を覚ます。キャスは既に起きている様で小屋にはいない。水場にでも行ってるのかも知れない。
ポッポはまだ目が覚めない様だが、呼吸は正常そうなので一安心した。
俺も目を覚ます為に水場に向かうと、思った通りキャスがそこにいた。
「おはよう、キャス姉」
「あらおはよう、体は大丈夫?」
「うん、問題無いよ」
「なら良かったわ、昨日の事があるから少し心配してたのよ」
確かにあれだけ攻撃を食らっていたら、幾らポーションを使ってても心配なるか。
浴びるように使っていたポーションのお蔭か筋肉痛も無いんだよね。
キャスとの朝の挨拶も済まし、俺も頭から水を浴びて昨日そのままにして寝ていた汚れも落とした。そう言えばここ数日風呂に入っていない事を思い出す。村に付いたら絶対に入ってやろう。
体の汚れも落とし目が覚めたついでに、マジックバッグに水を補充して小屋へ戻った。
今日は朝から手の空いている奴らを集めて穴掘りをした。ゴブリン達に埋葬をする習慣は無いので、大きい穴にすべて纏めて埋めてくれれば良いとの事だ。
俺が渡したツルハシで穴を掘っていく彼らを見ながら、俺も取り出したツルハシで広く穴を掘っていく。採掘スキルがある俺が一番早いみたいだ。その次はゴブリンその次はオークと、ゴブリンの意外な才能を見た気がする。
案外鉱山につれて行ったら使えるかもしれない。
大きく開けられた穴に、俺は気を付けながら死体を並べて行く。ゴブリン達が並べられた死体に次々と土を掛けてくれる。マジックバッグの中に以前殺したオークの死体がある事を思い出し、今更この死体を如何こうする気は無いので、この機会に一緒に埋める事にした。
オークの死体が多い事など皆気にしていない様なので、俺も黙って全て取り出した。
小一時間程で全ての死体を埋め終わり、この世界の墓がどうなっているかは知らないが、木の棒で作った墓標を突き刺して供養したことにする。日本のやり方だが、この世界の神様も許してくれるだろう。
その場で解散しゴブ太君には昼飯の後に、各代表を集めろと命令を出しておく。進化したゴブ太君の謎の忠誠は変わらない様で、頭を垂れ「承知しました」と言っていた。喋り方が違いすぎて違和感しかないのだが……。
昼の集まりまで、まだ時間があるので、消費したポーションを作って補充しておく。追加の磁器も貰ったのだが、そこまで作る気は無かったので、残りは全てマジックバッグに収納しておく。
ポーションを作りながら、コボ美ちゃんを愛でようかと思ったら、コリーンちゃんに独占されてしまった。まあ、おじさんは見てるだけでもいいから楽しんでくれ。
昼飯も食い終わり少し経つと、小屋の外にゴブ太君を始め種族の代表が集まりだした。コリーンちゃんはコボ美ちゃんに任せて、外で遊んで来てもらう事にする。コリーンちゃんが集落の外に出ようとすれば、コボ美ちゃんが止めてくれるだろう。
キャスが一緒に外に出て行こうとしていたが、今回は会話に加わって貰いたいので残ってもらった。
外に出て代表達に中に入るよう促す。
取り敢えずここを出るに当たって、俺の最後の仕事になるだろう話し合いを始める事にした。
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