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アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第二章 人里へ

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十二話 魔獣の力

「痛ってえええって、危ねえっ!」

 途中で千切れているはずの尻尾が、まだ動くらしくキマイラの突進を避けたはずなのに、尻尾に当たり弾き飛ばされた。そこにキマイラは更に突進をして俺を食い殺そうとして来る。

 動きはそれほど早くは無いのだが、その体の大きさから想像以上に伸びる攻撃を食らい、もう十回は吹き飛ばされている。
 使ったポーションも既に十本を超え、着ていた毛皮も血と爪痕で汚れてしまっている。攻撃を食らった時に引っかかっても怖いので、急いでマジックバッグに収納した。
 まともな防具を身に着けていない事に後悔する。適当な物が無かったとはいえ、どう考えても調子に乗っていたのだろう。まあ、あったとしてもあの攻撃に耐えられるか分からないのだが。

 何度も吹き飛ばされるたびに、段々とキマイラの攻撃にも慣れてきた。俺もただやられるだけでは無い。キマイラの体には俺が投擲した鉄の槍が何本か突き刺さっているし、鉄のナイフも顔を中心に狙っていたら、下手に俺に噛みついたりはしてこなくなった。

 だが、体格の差が大きすぎる。相手は四つ這いで高さ二メートルを超える巨体だ。俺なんて一口でかみ砕ける程の差がある。
 攻撃が出来ているのも、俺が投擲でしているからであって、もし手で持って突き刺したり、払ったりしていたら攻撃が当たった瞬間に弾き飛ばされるか、その体格差を活かして刺さった槍に振り回されることになっただろう。

 お蔭で攻撃をする為に、ギリギリかわす必要がないのだが、それでも攻撃を食らってしまう。スピードは俺の方があるが、一歩の大きさがそれを埋めてしまうのだ。

 取り敢えずはこのまま消耗戦をする。ポーションはまだまだ余裕があり、キマイラはライオンの顔を主に使っているみたいなので、今のまま見えていない片目の方へ逃げていれば致命的な攻撃は受けないだろう。
 こうやって時間を稼げばそれだけコリーンちゃんやキャスが生き残れるのだ。それに百本槍が刺されば流石に死ぬだろう。体力が続く限りやり合おう。

 それにしても、オーガとゴブリンが付けた傷が無かったら、今頃俺は死んでいただろう。明らかに動きに精彩を欠いている。ライオンの顔の片目は潰れているし、後ろ腿には無数の弓矢が突き刺さっている。三つ目の顔であった尻尾も半分ほどから千切れている。
 なぜこんな状態で動き回っているか分からない。休むって事を知らないのか? それとも食う事で回復でもするのだろうか。

 まあ兎も角、少し余裕が出てきたのは間違いない。もう少し頑張って攻撃を当ててみよう。

 俺は取り出した青銅のナイフを左手に持てるだけ持ち、連続して投擲していく。左手から右手へと流れる様な一連の動作で投擲されたナイフは次々とキマイラの顔へ向かって放たれる。
 顔に当たる事を嫌ったキマイラが横に避け逃げるが、それを狙い最後の二本を左右の手で同時に投擲し、ライオンの顔とヤギの顔を同時に狙う。
 これには虚を突かれたのか、ライオンの顔は避ける事が出来たが、もう一方のナイフはヤギの顔の首に突き刺さり、血吹雪を上げる事に成功した。

「うしっ!」

 有効な攻撃が当たった事に、段々と希望が出てきた。相手が硬くないので俺の一番弱い青銅のナイフでも、良い所に当たれば有効打になる。

 ヤギに攻撃が当たった事で、今まで虫けらを見る様な目で俺を見ていたヤギが、少し雰囲気を変えたような気がする。あいつには火を吐く力があるので気を付けなければならない。

 俺がそう考えているのを感じたのか、ヤギの顔は反撃とばかりにこちらに口から火の玉を吐いてくる。それがあること自体は分かっていたので、横に飛退きその攻撃を避ける。
 あの火の玉は吐く前に若干の溜めがあるので、注意していれば分かりやすい攻撃だった。だが、火の玉が着弾した場所は吐いた成分が広がるのか、その場所は燃え上がるので、避けれたとしても厄介なのは変わらない攻撃だ。

 もう一度だと言わんばかりに、更にヤギの顔が火の玉を吐いてくる。今度は俺も溜めに入ったのを確認すると同時に、鉄の槍を取り出し胴体目掛けて投付ける。
 キマイラは火の玉を吐くことに集中していたのか、その槍をそのまま胴体に受け、火の玉も関係のない方向へと飛んで行った。

 これでもう打てないだろ。

 溜めに入ったら攻撃される事が分かれば、もうあの攻撃は無いだろう。キマイラも何度も同じ事はしないらしく、攻撃は突進と両腕の攻撃に切り替えてきた。

 キマイラが何度目かの突進を仕掛けてくる。俺も慣れてきたのでナイフを投げ反撃をしながらそれを交わしていく。繰り返し行われる突進を交わし続けていると、何度目かの突進を交わしたと思った直後に、俺の目の前にすれ違いざまに放たれた火の玉が迫っていた。

「げっ! まじかよ!」

 キマイラも火の玉を避けられた事で学習したのだろう、突進と火の弾攻撃を組み合わせておこなってきた。油断していた訳では無いが、必ず溜めがあると思い込んでいたので、移動しながら放つことが出来るとは想像もしていなかった。

 火の弾は俺の胸のあたりに着弾すると、勢いよく燃え上がる。

「熱つっ! がっは!」

 燃え上がった火が体を伝い上り、俺の呼吸を遮っていく。頭がパニックになるが、苦しさから逃れる為に反射的にポーションを取り出し体に浴びる。それでも消えない痛みと火に、まるで火の消すかの様にポーションを浴びていく。
 五本のポーションを使い終わる頃にはやっと火が消えたが、呼吸が出来なかった為か意識が朦朧としてきた。

 そんな俺の姿を見て、にやける様な表情をしたヤギの顔が見える。ゆっくりと一歩づつ近付いてくる姿が目に入り、その巨体が俺の目の前に迫ると、片足を上げて俺の体を叩きつける様に踏みつけてきた。

 余りの苦しさに声も上げられない。あの巨体だ、どれ程の重さがあるかは分からないが、俺を踏みつぶすぐらいは余裕で出来るだろう。
 俺はこれで踏み殺されて終わりだと、もう直ぐ来るであろう死に諦めを感じていたが、キマイラが俺を踏む力がそこで止まった。
 何かと見上げてみると、俺の顔の近くにあるライオンの顔が、弄んでやると言わんばかりの表情をしている。

 殺すなら一気に殺してくれよと、キマイラに文句を言いたいが声を出す気力も萎えてしまった。徐々に増える俺に圧し掛かるキマイラの体重に、段々俺も耐えきれなくなりその苦しみから意識が薄れてくる。
 俺の二度目の人生はやたらと短かった。神様に申し訳ないと思いながら、これだけ時間を稼いでいれば彼女らも逃げられただろうと、少しだけの達成感を感じていると、キマイラが俺を踏む力を少しだけ弱めた事を感じた。

 まだ殺す気が無いのかと目を開けキマイラを見てみると、その視線にはまとわりつく鳥をうっとしそうに追い払おうとしている姿が見えた。
 目が霞んでその姿は見れないが、必死にキマイラに食い下がっているのはポッポだ。少しの集中を取り戻した俺の探知に彼女の気配を感じる。俺の命を数秒伸ばす位なら、俺を見捨てて逃げてくれと伝えたかったが、そんな力も既になく只々ポッポが奮闘する気配を感じるだけの自分を今すぐ殺してやりたくなってきた。

 だがそんなポッポも直ぐに、キマイラに追い払われてしまう。かすかに見えるようになったその視線の先では、ポッポの羽に噛みつき、それを食いちぎる為に首を激しく振り回すキマイラの姿があった。
 当然か弱い鳥であるポッポはそんな攻撃に耐えられるはずも無く、彼女の羽は根元から千切れて、その体は噛み千切られた勢いのまま飛んで行った。

 糞がっ! 糞がっ! 糞がぁぁぁ!

 何も出来ずそれを見る事しかできない俺自身に、怒りが込み上げてくる。自分の歯ぎしりがこんなにうるさいと感じたのは初めてだった。
 キマイラが俺を踏んでいた力を少しずつ戻していく。再開された痛みより、俺を守ろうとしたポッポの姿が繰り返し頭の中に浮かんで来る。
 ポッポは確かにペット見たいなものだが、俺がこの世界で一番長く接している存在だ。そいつが命を懸けてくれたのに、それに報いる事も出来ずに死ぬのかと思うと後悔しか浮かんでこない。
 そんな俺の顔を見たキマイラは、残っている二つの顔を歪ませて俺の苦しみを喜んでいる様な顔をしている。

 既に勝利を味わっているキマイラを俺が睨み付けていると、キマイラの視線が俺から外れ、遠くを見る様な目をして森の向こうを眺めている。
 何事かと思い俺は苦しいながらも首を動かして、その方角を見てみると、こちらに向かって走ってくるキャスの姿がかすれる視線に入った。

「ゼン君!」

 あいつ馬鹿か! 何で戻ってきてんだよ!

 彼女が立ち向かった所ですぐ死ぬだろうと思い、もうどうにでもしてくれと思ったが、コリーンちゃんの事が気になり朦朧としている頭を蹴飛ばす様なイメージで気合を入れ探知に集中する。

 すると、いつの間にか俺の探知の範囲には無数の反応が有る事が分かった。キャスはそいつらに追われて逃げてきたのかと思ったが、少し考えるとその反応が何なのか理解する事が出来た。

「何であいつ等がここに……」

 俺の探知には俺の群れである、ゴブリン、オーク、コボルトがキャスのすぐ後ろに追随している事が分かった。
 キマイラの顔は、またかと言わんばかりの表情をしているが、それは俺も同じだ。
 呆れ果ててものが言えないとはこの事だろう。だがこうなったら俺も何時までも寝ている訳にはいかない。キマイラがあいつ等に気を取られてる内に少しでも回復をしたい。僅かに動く左手でマジックバッグの瞳石に触れ、右手にポーションを取り出す。蓋を噛み千切る様にはずしその液体を浴びながら口に流し込んでいく。

 これで少しは動けるようになった。

 キマイラは迫るゴブリン達を如何するか考えている様だが、俺を踏みつけたそのままで、ライオンの顔をゴブリン達に向けると威嚇の咆哮を轟かせる。至近距離で食らった俺はその音量と衝撃に体が縮こまってしまう。それはゴブリン達も同じようで、ゴブリンとコボルトはその場で足を止めてしまった。
 だが、オーク達だけは先頭を走るボークが上げる大声に呼応して、皆大声を上げキマイラの咆哮に対抗していた。

 怯まなかったオーク達がキマイラに迫る。
 それを嫌ったのか、ヤギの顔が火の玉を撃つ姿勢に入ったのが俺の視線に入った。

 不味い!

 俺は少し回復した体を無理やり動かし、右手に取り出したルーンメタルの槍をライオンの残った目に向かって突き出した。
 俺の事は虫の息だと思い眼中に無かったのだろう、オーク達に気を取られていたキマイラは、俺の槍を下から受けライオンの目の中にルーンメタルの槍が突き刺さった。
 痛みの所為か驚いたのか、キマイラはその体を痛みの方角から逸らそうとして俺を踏む力を弱めた。
 そこに迫って来ていたオーク達が、一斉に体当たりをしてキマイラを吹き飛ばした。

 俺は重みから解放され、少しだけ安堵してると、直ぐにキャスが俺の元へ駆けこんできて、渡していたポーションを浴びせる様に俺に振り掛けてくる。
 体中が熱く感じ少しずつ力が戻ってくる。身を起こしたその体はまだまだ重いが、これでまた戦う事が出来る。
 俺はマジックバッグからポーションを大量に取り出し、地面に落としていく。その中から一つを手に取り飲み干した。猛烈に不味いが今はそんな事が如何でもいい。

「キャス! このポーションで傷付いた奴が出たら回復しろ」

 俺は急いでその場を離れ、ポッポが飛んで行った方角へと急いで賭けだす。俺の探知ではまだポッポが死んでいない事は分かる。急げば間に合うはずなんだ。
 それ程飛ばされてはいなかったようで、直ぐにポッポを見つける事が出来た。目を閉じ千切られた羽の根元からは血が流れ出ている。俺は取り出したポーションをその傷口へとかけてやり、ポッポを優しく抱きキャスの元へと戻った。

「こいつを頼む」

 俺はそれだけを言い、ポッポをキャスに手渡すとキマイラに向かって駆けだした。

 目の前ではオーガ戦を想定して作った長槍を持った、ゴブリンとコボルトが四方八方からキマイラの体を突いている。キマイラの攻撃範囲外から突けるこの攻撃に、キマイラは相当嫌がり突進で包囲を抜けようとするが、それを察知したオーク達が自らの体をぶつけ防いでいる。

 ゴブ太やゴブ元達、進化したゴブリン達は長槍を持つゴブリンの間に立ち、スキを見つけては鋭い攻撃をしている。ゴブリンスカウト何かは、先のオーガゴブリンの戦場から拾ってきたのか弓を続けざまに打ち続けている。

 戦況は優勢だが、キマイラもただやられている訳では無い。ゴブリン達が持つ長槍を巻き込みながら、その場で回転するように体を大きく捻り、傷付きながらもゴブリン達を薙ぎ払っていく。
 体の軽いゴブリン達は巻き込まれた長槍に吹き飛ばされる。中には当たり所が悪かったのか、即死した者もいたが多くのゴブリンがポーションで回復して前線に戻ってくる。
 長槍を失ったゴブリン達は手にボーラを持って投擲していたが、これは殆ど意味を為さなかった。あの図体を絡め取るにはサイズが小さすぎたのだ。

 だが、もう一つの網は効果があった。
 コボルトが端と端を持ち、挟むようにキマイラに巻きつける。払おうとすると指の間に引っかかったり、角に引っかかったりと相当鬱陶しそうにしている。

 その状態から逃げようとしたのか、羽を羽ばたかせようとするが、網が絡まって動かない事に苛立つようにその場で地団太を踏み暴れ出す。好機かと思いルーンメタルの槍を取り出し、ヤギの顔目掛けて投擲すると、キマイラは暴れながらも火の玉を放つ為に力を溜めていた様で、放たれた火の玉がキマイラの体に纏わり付いていた網に着弾して、キマイラの体ごと燃え上がりだした。
 俺の放ったルーンメタルの槍は、燃え上がるキマイラの炎の中に吸い込まれその姿を消した。

 キマイラは体を揺らしながら燃え上がる網を排除すると、ようやく止まった炎の中からその姿を現した。俺の放った槍はヤギの首筋辺りに深々と突き刺さっているが、ヤギの表情を見ると依然健在のようだ。

 キマイラが解放された羽を広げ、その場から浮き上がろうとする。
 大きく羽ばたく度に周りにいるゴブリン達は吹き飛ばされ、俺も例外なく叩きつける風に目を開ける事が出来なくなる。
 程なくして風が弱まるが、キマイラの姿は既に上空数メートルの高さへと舞い上がっていた。

 そのまま逃げるのかと思っていると、ここからでは見れなかったヤギの顔がキマイラの胴体からこちらを覗くと、口から火の玉を吐き出してくる。
 狙い何て定めていない様な攻撃なのに、ゴブリン達の被害が増えていく。俺は槍を取り出し投擲するが、空に上がったキマイラは思いのほか素早く、しかも俺の投擲に注意を払い、度重なる投擲にいい加減慣れたのだろう、かすりはするがキマイラの体を突き刺す事が出来ないでいた。

 空を回る様に旋回しつつ一方的に攻撃してくるキマイラに、俺たちはなすすべく数を減らしていった。
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