挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と- 作者:一星

第二章 人里へ

27/139

十一話 キマイラ

「ハッ…ハッ…、キマイラってあれ程の化け物だったのかよ……」

 森の中を息が途切れるのも気にせずに全力で走る。もしかしたらあいつが追いかけて来ているかも知れない。そう考えると、更に早く逃げなくてはいけないと足が自然と加速していく。

 キマイラがオーガとゴブリンの争いの中に乱入してくると、双方を隔てなく食い殺していった。
 だが、オーガもゴブリンも黙ってやられる訳も無く、敵はキマイラ一匹と今までの戦いが無かったかの様に挑んでいった。

 彼らは善戦したと思う。最後までは見て居られなかったが、キマイラも無傷とはいかず、体に無数の傷を作りライオンの顔は片目は失っていたし、放たれた弓矢が体の一部を剣山の様にしていた。
 特にボスオーガが奮闘していて、手に持った巨大な石の棒で何度もキマイラの体を叩きつけキマイラを怯ませていた。

 途中まではオーガとゴブリンが優勢に見えて、これは勝つのではないかと思っていたのだが、キマイラが羽を羽ばたかせ少し飛び上がると、ヤギの頭が地面へ向かって火の弾を吐き出し始めた。
 これにはオーガもゴブリンも耐える事が出来なく、キマイラを囲む様に作っていた陣も崩壊してしまい、地面に戻ってきたキマイラに好き勝手に暴れられる事になった。
 そうなると、前線も何も無くなったオーガとゴブリンの中を、キマイラは縫うように移動し、その道にいた亜人達の命を刈り取っていく。
 進行方向にいたゴブリンバロンも例外では無く、死こそ免れたが周りにいたホブゴブリン達を巻き込み吹き飛ばされていた。

 これによってゴブリン達の統率は乱れ始め、更に一方的な虐殺が始まる。

 この時点でゴブシン君には、群れを引かせるよう命令を出して先に下がらせた。あのキマイラがこの後に北上するかは分からないが、急に戦う相手が変わったら俺の群れでは対処が出来ないだろう。
 戦い自体の用意はしているが、ここは安全を取った方が良いだろうと判断した。

 ゴブリンの統制は乱れたがまだオーガ達は諦めていない様で、あたふたしているゴブリンを捕まえてはキマイラに投げつけて囮にしている。酷いが中々いい作戦だ。
 だが、オーガに近づかれる事を嫌ったのか、近づかれるとキマイラはヤギの口から火の玉を撃ち出し牽制していく。屈強な肉体を持ち硬い皮を持ったオーガも、これはどうしようも無くその勢いは衰えていく。

 ゴブリンの集団が集まっている場所を見ると、倒れたゴブリンバロンを担ぎこの場から逃げようとしている一団を見つけた。
 ここでゴブリンの頭に逃げられるのは俺としても困るので、このどさくさに紛れて距離を詰め、遠距離から一気に槍を投擲する。その槍はゴブリンバロンの胸に深々と突き刺さり、俺のレベルを一つ上げる事になった。

 突然主を失った集団は、この混乱の中どこから放たれた攻撃かも分からずに、驚き戸惑っていた。俺は身を隠しその場から少し離れて見ていると、ボスオーガによってゴブリン達は戦場へと引き戻されていった。

 それから少し経ち、ゴブリンの数は二十以下、オーガに至っては数える程になってしまった。いまだ健在なボスオーガが、ゴブリンやオーガを囮にして自らは背後から攻め、何とか尻尾の蛇を引きちぎったが、それに激怒したキマイラのヤギの頭から放たれた火の玉の直撃を受け、更にはライオンの顔に噛みつかれ片腕を失った。

 俺はその時点で勝ちはもう無いと判断し、急いでその場から離れ集落へと息も絶え絶えで戻ったのだった。
 レベルアップなどで体力が無限にある様に感じられたが、それは思い違いの様だった。

 集落へと戻ると既に皆も戻ってきていて、ゴブシン君から話を聞いたのか喧々囂々と話し合っている。
 場の雰囲気が尋常じゃない事を察しているのか、コリーンちゃんが泣き出している姿が見え、それをキャスとボーク君が慰めているのが見える。ボーク君がどこから持ってきたか分からない花を、コリーンちゃんに差し出している姿が見える。
 ゴブ太君はそんな事は気にせずに、周りに気を張っている事だけは分かる。流石だゴブ太君。

 俺が姿を現すと群れの中から声が上がる。
 コリーンちゃんを抱き上げて落ち着かせてやると、何が起きているか分からないキャスが心配そうにこちらを伺っていた。

「キャスお姉さん、キマイラが出ました」

 その言葉で大体の事を察したのか、眉を歪めて考え込んでしまう。
 まあそりゃそうだよな、俺もどうしたらいいか判らないもん。

 俺の周りに寄ってきた各代表達に、どうするか尋ねてみるが、皆一様に困惑するだけだった。
 だが、こうも近くに現れたとなると対策を立てる必要がある。あの状況はもうひっくり返る事は無いだろう。そうなれば、次の目標は俺らになる可能性は高いのだ。
 結構な傷を負ってはいたので、今すぐ襲撃が来ることも無いと話し合いで結論は出たが、根本的な解決方法は何も浮かばなかった。

 戦いに出る為に用意していた集まりは一度解散し、少し落ち着いてからもう一度作戦を練る事にする。
 小屋に戻ってきてからは、俺もキャスも何を話すべきか考え、お互い何も喋らずに過ごしていた。
 コリーンちゃんがそれに敏感に反応してしまうので、胡坐をかく俺の膝の間に座らせて頭を撫でてやる。

 こんな小さい子だ、周りが混乱していれば当然怯えてしまう。
 俺は体は子供だが中身はおっさんだ、何とかしなくては……。

 そう考えるが何一ついい考えが浮かばない。今弱ってる所を狙って叩くにも、そんな事をすれば例え勝てても群れから多数の犠牲を出すだろう。そのリスクを冒しても戦うメリットはあるだろうか?
 だが、このまま放置しても危険は変わらない。どれ位で回復するかは分からないが、万全の状態になられたら先程の光景がこの集落で起きるだけだ。
 どこかに移動するべきか考えても、どこに行けと言うのだ。例えある程度の距離を移動して他の縄張りを支配しても、あのキマイラがいる限りいつか来る恐怖におびえ続ける事になる。それならどこにいても一緒だろう。

 この群れを維持するならば、危険は排除しなくてはならない。
 既に南は壊滅しただろう。あのキマイラさえ居なくなれば、時間を掛ければこの群れを大きくすることが出来る。

 ならば、キマイラは討とう。

 近い内に離れる予定だったが、ここまで付き合ったんだ、最後の仕事位はやって行こう。だが、その前にコリーンちゃんだけは逃がしたい。考えたくもないが、負ける可能性の方は大きい。こんな小さな女の子が巻き込まれるなんて、俺が地球で子供を助けた意味を否定される気がして来る。

 そうと決まれば話は簡単だ。キマイラもあれ程傷を負ったら、当分は大人しいだろう。その間に逃がしてやれればいい。後は方法だが――

 俺は未だ考え事をしているキャスに声を掛ける。

「キャスお姉さん、ここから村まで何日位で辿り着けるんでしたっけ?」
「えっ! 村なら六日歩けば着くと思うわ。まさかこの群れで村に逃げるの?」

 どうやらキャスは、群れごと村に行くのだと思ってそうだ。

「コリーンちゃんだけでも逃がしたいんです。当然付き添いでキャスお姉さんも同行してもらいますが、時間が無いので相当キツイ道中になると思います。村から一日位の所ならお姉さん一人でも大丈夫ですか?」

 歩いて六日なら走って四日にする。もしキャスが村に近い所から一人で帰れるならそこでお別れだ。合計六日で往復出来るなら、キマイラのあの傷だ、それ位はなんとかなるだろう。

「えぇ、そうね。村に近ければ弱い獣や亜人しか出ないわ。今なら探知もあるし安全に移動できると思う」

 そうだった、キャスは探知が身についていたんだ。それならゴブリン程度しか出ない森なら問題無いだろう。

「それなら二人を村に近い場所まで送ります。そこからは自分達で戻ってください」
「ゼン君、君はまたここに戻る気なの? そのまま村に逃げればいいじゃない」

 話を聞く限り、この世界の住人ならそうするんだろうな。だが俺は、会話が出来て俺の事を慕ってくれているこいつ等を、もう見捨てる事が出来なくなってる。
 キマイラを倒せれば離れるが、それまでは死ぬまで付き合う気だ。

 そうと決まれば、群れにも話を付けなくてはならない。
 俺は代表たちを集めこれからの行動を説明した。



 兎にも角にも時間が惜しい俺らは、その日の内に移動を開始した。
 俺がコリーンちゃんを背負い、キャスと共に森の中を駆ける。まだまだ、序盤なのでキャスも余裕を持って走ってられる様で、少しだけ上がった呼吸を維持しながら俺の後ろを走ってきている。

「お姉さん、何かが近付いて来ても弱そうならそのまま進みます」
「分かったわ。後ろは任せて」

 彼女も探知は持っているので、俺は前方に集中して移動する事にした。走りながら何かをするのはたとえ自動で動いてくれるスキルとは言えなかなか集中がいる。後方を見ないでいいのは結構助かる物なのだ。

「しかし、子供を背負ってこのスピードを維持するなんて、君本当にすごいわね。ねぇ……レベル幾つ?」
「……」

 おいおい、聞かないんじゃ無かったのかよ。こんな時にこんなやり取りするなんて面倒臭すぎる無視だ。
 俺が無言を貫いていると、キャスが観念したと言う感じでこんな事を言い出す。

「分かったわ。私のレベル教えるから教えてね?」
「やです。言っても駄目ですよ」

 おいいいい、面倒くせえ事考え付くんじゃねえよ。いい加減子供のフリして対応するの面倒くさいですが?

「えっとねえ、お姉さんのレベルは一五なの。これでも駆け出しの中じゃあ結構すごいんだからね」

 なんでこいつ俺の話聞かないの? 胸が大きければ何しても良いとでも思ってんのか? それにしても一五とか低すぎないか? 俺今三九ですとか言えねえじゃねえか! ネットでゲームしてて実年齢聞かれて答えずらい、あの感覚思い出すわ。

「駄目って言いましたよね?」
「えぇ~、ゼン君ずるいよっ!」
「……分かりました。お姉さんよりは高いです。でもこれ以上は教えません」

 この世界のステータスの常識が分からない以上、これ以上は言いたくねえ。そもそも、その常識を教えてくれねえのが悪いんじゃねえか。

「どれ位高いのか気になるけど、まあいいわ。追々教えてね」

 やだよ! 幾ら走るだけの道中だからって、人に探り入れてくるんじゃねえよ。

 そんな俺にとって得にならない会話をしながらも、一定のスピードで走り続け一日が経った。

「コリーン疲れたのかな。もう寝てるみたい」
「俺の後ろではしゃいでましたからね、最初は物凄い静かだったのに……」

 コリーンちゃんは最初俺が出すスピードに怯えていたのだが、後半になると慣れたらしく、きゃっきゃと喜んで「コボちゃんよりずっとはやい!」とか言っていた。コボちゃんとはコリーンちゃんが偶に馬代わりにして乗っていたコボルトの事だろう。何だか彼女の未来が心配になってきた。

「あの群れを放ってきて、本当に大丈夫だったの?」

 キャスなりに俺の群れに対して、心配はしているのだろうか? 彼女の真意は分からないが、そこに悪意は感じられない。

「一応キマイラには、ゴブリンアサシンを監視に付けましたから、何かあれば群れに直ぐ伝えると思います。その時は逃げろと言ってあるので、最悪全滅はしないでしょう」

 ゴブシン君をキマイラ監視に付け、何かあれば直ぐに群れを逃がせるように、途中途中にゴブリンスカウトやコボルトを配置して、伝達だけは伝わる様にしてある。
 彼らは最悪キマイラが北上した場合は、死んでも時間を稼ぐ様に言ってあるし、彼らもそのつもりだと言ってくれた。進化したゴブリンの意識の高さや、群れの事を第一に考えるコボルトはなぜ忌み嫌われる亜人と呼ばれるのか。
 言葉の壁がもたらす問題は相当大きいのだろう。

 頭上の木の枝にはポッポちゃんが止まっている。この移動の間、ポッポちゃんはずっと俺らの後ろを飛んで付いて来ていた。ちゃんと偵察の役割も果たしてくれて結構助かったものだ。それにしても飛行できるのはかなりのアドバンテージだと思い知らされた。比較的スピードを出していた俺らに余裕で付いてくる姿を見て、俺も空を飛んでみたくもなった。魔法が使えたら飛べたりするのだろうか?

 そんな事を考えながら目を閉じた。
 目を閉じると群れの事が浮かんで来る、何時キマイラが動き出すか分からない状態だが、気を揉んでも仕方が無い。明日も早く起きて急いで進まなくてはならないのだがから。



 今日も走り続ける。流石に二日目に入るとキャスも疲労が溜まってきたのか、足取りは昨日よりは重くなる。まあ、それは仕方が無いだろうこれは想定内の話だ。彼女はこの後コリーンちゃんを村まで送る為に、居て貰わなくてはいけない人なのだから。

 この道中、今まで探知にはゴブリンやオークに匹敵する反応が何度か掛かっている。全て避けているので接触は無いが、他の種族の縄張りの割には数が少ない。
 やはり西側はキマイラに相当やられたのだろう。

 俺たちはキャスや人攫いが進んできた道である、集落の西側を南下している。この方角ならば既にキャス達が一度進んで、縄張りの空白化が分かっていたのと、キマイラは他の場所に居るのが分かっていたので選択したのだ。

 これは当たりのだと思って順調に進んでいたのだが、二日目の昼頃に事態は急変した。

 昼の休憩も終わり十分位進んだ頃だろうか、探知に一つの反応が掛かった。
 最初はこちら側に向かってくる事に警戒したが、反応がゴブリンだったので特に気にすることも無くなり、走り続けていたが東から近付くこの反応は俺らの進行方向と当たる事が分かり、ナイフだけを用意して姿を見せたら投擲しよと思いながら走る事を維持していた。

 だがこれが間違いだった。

 進路上に現れたゴブリンをナイフの一撃で仕留めたのだが、その後すぐに自分の頭上に大きい反応がある事が分かった。
 その反応を感じると間も無く空から急降下してきて、倒れているゴブリンに齧りついていた。

 そう、現れたのは先日目にしたキマイラだ。

 キマイラが空から降ってくる行動の意味を、自ら経験する事で分かった。もし探知持ちが居たとしても、直線であれ程の速度で近づかれたら逃げようが無いのだ。

 目の前で今だゴブリンを咀嚼しているキマイラから目が離せない。
 だが、背中にいるコリーンちゃんの体温を感じて、一気に目が覚める様に思考が戻ってくる。

「逃げろ!」

 俺はコリーンちゃんをキャスに渡し、一言だけ告げ逃げる方向を指差す。キマイラは俺らの南側にいるならば北側に逃がすしかない。俺が盾になって時間を稼ぐしかないのだから。

「邪魔だ! 早くしろ!」

 キャスは恐怖で埋め尽くされたような顔をしているが、渡されたコリーンちゃんを見て心に火が戻った様だ。状況が分かっていないコリーンちゃんがきょとんとしているが、泣いていないだけマシだ。泣かれてキマイラの気を引かれても困る。

 そうこうしている内にキマイラもゴブリンを食べ終わり、目の前に見える俺らに標的を移したようだ。
 キマイラは俺の背の向こうにいる、既に走り出しているキャスに目を奪われているがやらせる気は無い。

 マジックバッグから鉄のナイフを取り出し、続けてを三本キマイラの一つだけ残ったライオンの目に向かって投擲する。
 これにはキマイラも反応せざるを得ず、首をひねって目に当たる事は避けたが、一本は鼻頭に突き刺さる。残りの二本は分厚いタテガミに阻まれて地面に落ちた。

 どうやら俺のナイフでも傷つける事は出来るらしい。オーガとゴブリンを相手にしていた時も体に矢を受けて、集中攻撃されたそこだけが今もハリネズミの様になっている。体の硬さは大したことはなさそうだ。

 だが、あの巨体にいくらナイフを投げても意味が無いだろう。
 俺は鉄の槍を取り出し、投擲するタイミングを計る。キマイラは既にキャスを標的にする気は無く、俺だけを見据えて唸り声を上げている。

 これは俺より強い敵と初めて真面に闘う経験だ。正直怖い。怖くて今すぐ逃げ出したい。案外ここで逃げても俺の後ろを走って行ったキャスたちを追っていくかも知れない。
 そうすれば、全力で走って逃げれば助かるんじゃないだろうか?

「はぁ……」

 そんな事を思ってしまう自分にため息が出る。
 それをするなら端から、誰もかれも放って逃げれば良いだけなんだから。それが出来なかった以上、俺は彼女らを見捨てて逃げるなんて事は出来ない。

 俺は決めたぞ。

 俺は自分の考えを貫く。その為には手段は択ばない。今俺がするべきは彼女たちを逃がす事。その為ならば俺の命は二の次だ。何故ならそれが俺だから。

 覚悟を決めたら今やる事は一つ。目の前のあいつを殺す事だ。

「かかってこいや。この糞猫が!」

 俺は手にした鉄の槍を渾身の力を籠めキマイラに投擲した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。

Ads by i-mobile

↑ページトップへ