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九話 準備
朝起きると俺の目の前にやわらかそうな二つの山があった。横になっているのに、そこまで崩れている様子が無い。寝る為に上着を脱いで更に主張されたその山はE……いや、Fはあるだろう。
俺の手が自然とこの素晴らしい山を登ろうと吸い寄せられていると、枕元にいるコリーンちゃんに気が付いた。
朝早いんだねコリーンちゃん。俺に掛ってた魅了魔法をよくぞ解いてくれた。
俺がしていた事を不思議そうな顔をして見ていたコリーンちゃんに、朝の挨拶をして体を起こし朝の準備をする。
今日の朝飯は、マイタケとシカの肉の炒め物とパンだ。鑑定が有るので、キノコの間違いも無く食べられるでレパートリーが増えた。
体が資本の今の俺は朝からでもガンガン食える。一緒の物を食べている彼女らも朝から肉でも文句は無いみたいだ。
昨日の夜も言ってたのだが、巨乳冒険者事キャスはこのパンが物凄く美味いと言う。彼女曰くこの世界のパンは基本的に硬いらしい。酵母の使い方とかが確立されていないのだろうか。
朝食も食べ終わり、集落に作った水場で歯を磨く。二代目の木の棒歯ブラシも、既にクタクタになってきている。新しい物を作らなければ。キャスには俺の三代目候補だったものを渡し、コリーンちゃんは俺自ら磨いてやる。
顔も洗い小屋に戻って出発の用意をする。今日からはキャスも俺と共に鑑定と収穫に付き合ってもらう。
俺が目に入る物を片っ端から鑑定しているのを、キャスは眉を歪めながら見ている。今日もまた新たなキノコを見つけた。俺が倒木に生えているキノコを鑑定したら、何とシイタケが見つかったのだ。見た目で分かってはいたが、キノコは怖いので鑑定様々だ。
俺が取ったシイタケをマジックバッグに入れていると、キャスが結構な声量で声を上げた。ビビらせるなよ虫でも居たのか?
鑑定上げはまだ続き、疲れたコリーンちゃんを肩車して先に進む。少しするとポッポちゃんが、パンを寄越せと高速で俺に突撃して来た。胸で受け止めコリーンちゃんにポッポを引き取ってもらい、マジックバッグから無尽蔵のパン袋を取り出し、中からパンを出してポッポちゃんに与えた。
キャスがブツブツ何かを言い出している。お前怖いよ。
そんなこんなで午前中の探索も終わり集落へと戻ってくると、俺が以前に雫草を取りに行かせていた連中が戻ってきていた。
俺が渡した初期装備などが入っていた袋を二袋も、パンパンにして渡してくる。彼らには青銅のナイフを与えて労をねぎらうと大喜びをしていた。正直安い。
小屋に戻り中身を床にぶちまけると、大量の雫草が出てくる。よくやってくれた。
その大量の雫草を見たキャスは、目を見開き雫草を凝視している。
さっきから明らかに行動がやばいのだが、何も言ってこないので今回も放置だ。
磁器の小瓶も追加が来ていたので、今日はこれからポーション作りをする。ポーションはあるに越したことは無いからね。あと俺のスキルも上がるし。
道具を取り出し小瓶を並べて用意をしポーション作りをしていると、キャスが俺の向かいに座りこちらを窺うように見ている。
「何か……?」
そんな所でそんな顔をされたら、幾ら可愛くともうっとおしい。まあ、大体言いたい事は分かっている。こういうのは早めに終わらすに限る。
「おかしいわ」
「……何がですか?」
「鑑定、調教、幾らでも出てくるパン袋、挙句の果てにマジックバッグ。そして今は錬金まで使えるなんて」
なるほど、大体今までの態度で察してはいたが、子供がこれ程の事が出来るのはやはり驚くか。
「駄目なのですか?」
「……駄目ではないのよ。ただ、こんな事はあり得ないのよ。それに加え、マジックバッグ何て、プラチナでも持ってる人は少ないのに……」
プラチナって何だよ。マジックバッグってそんな高級品か。確かに今持ってるのは確かに凄まじいと思うけどね。
「ははは、僕は神様に愛されているのかも知れませんね」
「まさか、加護まで!?」
おいおい、加護も駄目なのかよ。加護のお蔭で何でも出来るんだけど、この世界の常識じゃヤバいっぽいな。ここは少し探り入れてみるか。
「キャスお姉さんのステータスってどんな感じなんですか?」
「……あなた、人のステータスを聞くのは、とても失礼なのを知らないって言うの?」
てめええ、人に探り入れといてそれかよ、ふざけんな。余り舐めた真似してると揉むぞ。
「ごめんなさい、僕知らなかったんです。でも、それならお姉さんも聞くの止めてくださいね?」
俺の言葉で自分がしている事に気付いたのか、キャスが罰の悪そうな顔をし出した。
「……あたしの方が悪かったわ。ごめんなさい」
キャスが素直に頭を下げる。これで俺への追及は終わりの様だ。うむ、許してやろう。
あぁ、そう言えば今日の夜にでも、ダンジョンで手に入れた物の事を聞こうかと思ってたけどこりゃ駄目だな。更にうっとおしくなりそうだ。
キャスは俺の前から移動して今度は俺の横に座った。俺のポーション作りは見続けるらしい。まあ、いいけどさ。
三十分ほどで、小瓶が無くなったので作業を止める。残りの雫草は全てマジックバッグに収納して作ったポーションも収納していく。
まだ俺の隣で俺の作業を見ているキャスに俺は尋ねた。
「ポーション作りがそんなに珍しいのですか?」
「あなた知らないの? ポーションがどれ程の高級品なのか。第一、雫草がこんなにあるなんて信じられないわ」
えっ、マジかよ。なんか俺いっぱい持ってるんだけど。小瓶が有れば明日にでも百以上になるぞ。雫草自体が希少なのか? まあ、いっぱい有るし少し上げて見るか。
「じゃあ、これ上げますので、何かあったら使ってください」
俺がポーションの小瓶を三本キャスに手渡すと、手に乗せられたポーションを凝視している。
あれ? 偽物じゃねえよ? ちゃんと鑑定してあるし。
キャスは一度ポーションを床に置き、腰に着けている鞄から、大銀貨を五枚ほど取り出し俺に渡してきた。
「これじゃ全く足りないけど、タダって訳にはいかないからね」
価値の分からない硬貨を渡されても、どうしようもないんだよなぁ。ここは恩の一つでも売っておこう。
「お金は要らないです。コリーンちゃんをお任せするって言いましたよね。何かがあったら、迷わず使って欲しいですから」
コリーンちゃんの名前を出せば、受け取らざるを得ないだろ。キャスにはコリーンちゃんの警護をやらせている。それ以外やる事ないしね。それに、結構考えて硬貨を出していた所を見ると、キャスにしてみれば大金なんだろう。
「……分かったわ。有難く頂いておくわ」
男がやると言ったんだ、女の子は素直に貰っとけばいいんだよ。おじさんからの助言だ。でも、相場位は知りたいな。
「ポーションていくら位するんですか?」
「そうね、これは低級ポーションよね? それなら金貨一枚が相場ね」
「なるほど、金貨一枚って大銀貨何枚分ですか?」
金貨とか言われても、何枚で繰り上がるのか分からなさすぎるだろ。流石に銀貨の方が価値あるとか無いよな?
「あなた何でそんな事も知らないの? もしかして、この森から出た事ないとか?」
あぁ、そう受け取るのか。子供だから分からないって、方向にはいかないのね。あっ、もしかしてこの恰好か? 確かに俺の格好は毛皮だけ着た、野性味あふれる姿だ。勘違いされてもおかしくないか。まあ、森から出た事が無い事にしとけば、色々と聞き出せるか?
「気が付いてから、この森を出た事は無いんです。だから何も分からなくて……」
「それなら色々納得いくわ。分からない事は聞いて」
うむ、ちょろい。俺の親の話とかどう捉えてるんだろうな。でも、これなら質問しても怪しまれなくなる。
良いように勘違いしてくれたキャスに、その後色々と話を聞いていく。そこまでの実力が無かったのにも関わらず、コリーンちゃんの為に危険な森にはいっただけあって、お人よしと言うか、面倒見が良いと言うか。まあ、俺が子供だからだろうけど……。
その後、夜までキャスお姉さんの、異世界講座は続いた。
まず、お金の単位。この世界では統一された通貨を使っているらしい。通貨の呼び名はレン。銅貨一枚で一レンになり、銅貨十枚分で大銅貨一枚の価値があるという。大銅貨十枚で一銀貨になり、銀貨十枚で大銀貨になる。要するに十の単位で繰り上がると言う事だ。
最高価値の硬貨は大金貨で、大銀貨であれば百枚分に相当するとの事だ。
物価としては、食堂で一食が五十レンで大銅貨五枚。屋台の串焼き一本が十レンで大銅貨一枚。安宿が一泊で二百レンで銀貨二枚との事だ。
話を聞く限り串焼き一本が十レンならば、大銅貨は日本円で百円位の貨幣価値があるのだろう。そう考えると、一泊二千円は安宿すぎる気がするが、一食五百円は日本の相場と余り変わる気がしない。
その事を聞いてみると、普通は一食二十五レンの立ち食いなどを食べるのが普通と言う。ならば、物価は日本よりかは安い感じがしてくるな。
俺が渡したポーションの値段は、日本円で一本十万円だ。何時怪我をするか分からない冒険者には大人気らしいが、おいそれと買える物ではないと言う。
これまでのポーションの効果を見れば、日本の現代医学をも驚愕させる力を持った、この薬が十万円程度で手に入るなら安い買い物だとは思うんだけどね。
硬貨の話をしている時に、この硬貨に刻まれている五人の人物について尋ねてみた。すると、この人物は人では無く神だと言う。
この世界を創造した神々の中でも、特に力を持つ五大神が硬貨に刻まれているらしい。
秩序と法の大神、破壊と混沌の大神、戦と勝利の大神、英知と魔道の大神、生命と豊穣の大神。この五大神が、この世界における主な信仰の対象であり、この大神とは別に無数の神々が存在するという。
どの神を信仰するかは人それぞれ自由で、この世界のどんな国家も強要するは無いと言う。何か、多神教の大らかな考え方って感じで俺としては共感が持てる。
神はこの世界では身近な存在らしく、熱心な信仰や多大な善行を行った者はその声を授かる事があるらしい。また、試練を乗り越えた者は神からの加護を得る事が出来ると言う。
加護を得るには、この世界に存在するダンジョンで強大なボスを打倒し、そのダンジョンを解放する必要があるらしい。
ただ、そんな事が出来るのは、この世界の一部の存在だけであり、今あるダンジョンは殆どが強大な主がいて、誰も攻略出来ていない場所や未発見、人類未到達地に有るという。
そして、ダンジョンを攻略した者は、加護以外にもアーティファクトとシティーコアを手に入れられると言う。
アーティファクトとは神々が創造し、この地に残した秘宝で、物によっては国一つの価値があると言われているマジックアイテムだと言う。
数多くのアーティファクトの中でも有名な物で、統治の赤盾や退魔の銀杯などは、所持する国の基礎を保つ程の力を持つ物や、魔王をも切り裂くと言われる虚無の閃光や、ドラゴンも一撃で滅ぼすと言われる、天槍雷鳴など目を輝かせて教えてくれた。
何だよその槍。俺、超欲しいよそれ。
また、シティーコアとは、それを使う事によって都市を作る事が出来ると言う。これに関してはそれほど詳しくは無いらしいのだが、シティーコアを持つ都市は、中級までの魔物や魔獣、亜人の侵入を阻む効果が有るらしい。俺が手に入れたダンジョンコアがシティーコアになるのだろうか? 謎だ。
色々気になる点はあるが、俺が箪笥の肥やし状態にしている、霊樹の白蛇杖はアーティファクトって事か。でも、これを持ってても魔法が使えないと意味無いっぽいんだよね。
そう思い、魔法に関して聞いて見えるが、キャスは使えないので分からないと言う。キャスの話では魔法を使える人自体数が少なく、村に一人いるか居ないかと言うレベルらしい。その中でも戦闘でまともに使えるのが十人に一人で、そんな人材は国に抱えられて中々お目に掛らないのだと。
それでも変わり者もいるらしく、冒険者の中には魔法が使える者もいて、キャスも何度か使っている姿を見た事が有るらしい。
火の玉を飛ばしたり、土で作った矢を飛ばしたりと、攻撃に使用していたとか。
俺が食らった事のある魔法と同じような物なんだろう。
キャスは俺が魔法まで使えてたら、国に魔人が出たと報告するつもりだったとか言いだしている。「冗談よ」とは言ってるけど、何だよ魔人て、笑えねえよ。
このダンジョンの話は、キャスが憧れる様に話してくれた。冒険者としては誰もが夢見る冒険のお話なんだろう。
しかし、世界共通通貨ねえ、話を聞く限りこの世界もいくつもの国に分かれてるって言うけど、どんな仕組みで成り立ってんだよ。経済の知識なんてそれほど無いからマジで分からないな。
他にも聞きたい事は一杯あるが、追々聞いていく事にして今日一日が終わった。
◆
今日の朝にやっと風狼の毛皮が俺の元に届けられた。一匹そのままを毛皮にしてくれて、まるで熊の毛皮の敷物みたいだ。灰色と黒の模様が美しく、これを見たキャスは最初は呆れていたが、今では「良い色ね」とか言いながら、毛皮の質感を確かめている。風狼の牙や爪等も一緒に持ってきていたので、マジックバッグに収納しておいた。
一匹そのままを毛皮にしているので、身に着けてみるとデカい狼に覆いかぶされている子供って感じになってしまう。
それも当然で、風狼はニメートルを超える巨体を持っていたのだ、子供の俺の体ではどうやっても余ってしまう。
どうしようかと悩んでいるとキャスが自分の持ち物から紐を取り出してきて、俺の腰に結び毛皮の余っている部分を紐の外でたるませる事で長さの調整をしてくれた。
「ありがとう、キャスお姉さん」
俺が天使の笑顔でお礼を言うと、キャスはそんな俺の顔なんて、どうでも良いと言わんばかりに腰に手を当てドヤ顔で。
「いいのよ。これ位」
何て言っている。そこまで大した事してねえだろ……。俺のありがとうって気持ち返せよ。
朝飯前からこんなやり取りが出来るなんて、ダンジョンに居た頃には思い付もしなかった。お外最高である。そして、紐を結んでくれた時に密着して感じた柔らかさ。万歳である。
昼頃には鑑定散歩から戻り、今後の戦いの為に用意していた道具を完成させる。
まず一つ目は長槍だ。三メートル程の木製の棒の先に俺が投擲用に大量に保有していた、青銅のダガーナイフを取り付けた物だ。
穂先に当たるダガーナイフはそれほど大きくは無いが、攻撃力はそこまで求めていない。ゴブリンやコボルトに持たせて牽制や陣の維持をさせるつもりだからだ。
二つ目に作っていたのは武器では無く網だ。
大量に伐採した木から紐を作りゴブリンに編ませてみた。固くて自由自在に曲がる訳では無いのだが、相手の体に巻きつければ動きは大分封じる事が出来る。固い分丈夫で逆に良かったのかもしれない。
テストでオーク相手に使ってみたが、コボルトが四匹もいれば動きを拘束する事が出来ていた。オーガはもっと体が大きいのだが、それなりの効果が得られるだろう。
最後に作っていたものは、ボーラと呼ばれるものだ。
これは、網に用途は似ていて、遠距離から投げて相手の動きを封じる道具だ。球状にした石に紐を付け、それを三本ほど纏めて結べば完成する。
足などに狙って投げれば、紐が絡みついて身動きが出来なくなる。また、振り回して遠心力を利用して投げれば、動きの拘束が出来なくとも、投擲武器として活躍も出来る。
網もボーラもオーガ対策として、大き目に作ってある。もちろん対ゴブリン用に普通の大きさの物も同じように大量に作ってある。
麻が大量にあれば弓を作ったりもしたかったのだが、今考えて見てみると時間が掛かりすぎて無理だったかもしれない。
対オーガやこちらより数が多いゴブリン相手に、俺の群れのゴブリンやコボルトを当てた所で負けるのは分かっている。それならば端から攻撃力とは考えずに、補助として動かした方が安全に確実に作戦が進む。下手に突っ込んで死なれるよりはマシってもんだ。
攻撃には俺やホブゴブリン、そしてオークが担当した方が確実なのだから。
と言う訳で準備が整った。あくまでも俺が居る前提の戦いになるのだが、南を制すれば俺が抜けた後も、ヌクヌクとゆっくりと力を付けて地域の支配をすればいい。
南との戦いの後の懸念も数点あるのだが、それはその時になってから考えよう。
今日も中々と素晴らしい日だった。やっぱり若い女の子がいると違うね!
それじゃあ、おやすみなさい。
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