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六話 群れの支配
体格で上回るボスオークが俺の捕まえようと手を伸ばしてくる。俺はその手を下から殴りつけ、ボスオークの腕はその衝撃で上へと跳ね上がった。体勢を崩し、がら空きになったボスオークの腹を思いっきり殴りつける。だが、肉厚な腹筋と脂肪で阻まれ殆どダメージは無いようだ。
俺の攻撃が大したことないと判断したのか、ボスオークの顔に若干の余裕が戻る。
俺はその場から少し離れ、有効な攻撃方法を模索した。
考えてる内にもボスオークは俺に攻撃を仕掛けてくる。普通のオークに比べれば素早いのだろうがその体格からか、俺から見たらどう見ても遅く感じる。
俺を殴りつけようとしている拳を見切り、避け続けていると不意に下方から迫る物を感じた。
それに気づいた俺はとっさに回避行動を取るが、左肩に衝撃を受け俺の体は横へと飛ばされた。
体格差から俺は常に上を見上げる形になっていたので、ボスオークの蹴りが来るのを見逃していた。オークの体格からしたら短足に見える短い足を使うとは思っていなかったからだ。それに加え、経験不足が生んだ油断だろう。
そもそも、こんな体格差で素手は普通無いよな。
自分から吹っかけた戦いだ、文句を言っても仕方ないのだが少し考えれば超重量級と超軽量級の戦いだ。俺の力を分からせるという目的があるとはいえ、馬鹿な事をしていると改めて思った。
蹴られた場所が少しだけ痛む。肩を回してみるが動きには問題ないみたいだ。打撲程度で済んでいるのだろう。
そろそろ防戦一方は終わりにしよう。
余裕を見せ後ろにいるオークの群れに拳を上げているボスオークに向かって俺は駆けていく。向かってくる俺に気付いたボスオークが俺を追撃するために拳を振るう。
俺はそれを掻い潜りボスオークの後ろへと回り込んだ。
体をひねり俺を捕まえようとしたボスオークの膝の裏に、俺は体を屈めて渾身のフックを食らわす。
バチンッという衝撃音と共にボスオークが膝から崩れた。
俺はその場から少し離れて、ボスオークの様子を伺う。
今の一撃で片足を庇うように立つボスオークは、先ほどの余裕など微塵も見せず苦虫を噛み潰したような顔をしている。
ざまあねえな、今後はお前に余裕なんてかます暇与えないぜ。
真面に動けなくなったボスオークを一方的に攻撃していく。
後ろに回り込んで後頭部を殴りつけ。側面から飛び蹴りを食らわす。回り込むと見せかけてそのまま顔面を殴りつける。
段々とボスオークの動きが鈍くなってくるが、想像以上にタフで俺の攻撃に耐え続けている。
そうこうしていると、俺の放った拳が一段階重くなった事を感じた。
ステータスを確認すると俺の格闘術がレベル二に上がっていたのだ。
そろそろ上がるとは思っていたのだが、やはり実践の経験は大きい様で思わぬパワーアップが得られた。
ここからは俺の攻撃が、例え腹にでも効く様になる。威力はもちろんだが、殴り方一つ変わっただけでここまで変わるとは思わなかった。
殴るというよりは発勁と言うのだろうか、漫画何かで良くある衝撃を内部に伝えられる殴り方が出来る様になった。
程なくして無抵抗になったボスオークの顔面に、最後の一撃を加えその意識を飛ばし俺の勝利となった。
最初に腹を殴った時は予想外の耐久度にビックリしたが、オークと言えどもその体の構造は人間と余り変わらない事が分かった。
ただ、体に生えていた剛毛がかなりの衝撃を吸収していたのだけは、人とは違う特徴なんだろう。でも、人間なら鎧着るから同じかな?
ボスオークが倒れた事に、次は自分たちと恐怖しているオーク達に近づいていく。既に諦めているのかもう逃げる素振りは見せなくなっていた。
「お前たちのボスは俺が倒した。お前たちはどうする。俺と戦い死ぬか、それとも従うか選べ!」
オーク達にそう宣言すると、一匹また一匹と俺の前で膝を付く。たちどころに全てのオークが俺に跪き口々に忠誠を誓っていた。
取り敢えずこれで一段落だと思い、後ろに控えていたゴブリン達の元へ戻ると、皆一様にボスかっけえっす! 見たいな事を言っていた。軽いな君たち。
その中でもゴブ太君だけは、何故か俺に跪き泣いていた。
ゴブリンナイトになった所為なんだろうか? その忠誠心が怖い。彼は一体どんな方向に進むんだろう……。
ゴブリン達を連れオーク達の元へと戻る。倒れている元ボスの事を気にしつつも俺の顔色を窺っている様だ。
俺はオーク達に薬でも無いのかと尋ねると、一匹のオークが俺の前に進み出て薬草の存在を明かした。
急いで治療してやれと指示を出しその様子を伺う。
屋根だけの小屋から何かを持ってきたオークが、それを口に含みかみ砕きボスオークの体へと塗り付けていく。かみ砕いた物が相当不味いのか治療に当たっているオークは、その顔を歪めていた。
その一連の行動が気になった俺は、そのオークに近づき手に持っているまだかみ砕いていない物を渡してもらった。
譲ってもらった物は、とても久しぶりに見た物でハート形をした草だった。鑑定結果も俺が知っているポーションの材料である雫草だった。
思わぬ掘り出し物に驚きの声を上げると、近くにいるオークをびっくりさせてしまった。ごめんよオーク君。
まだ残りはあるのか尋ねると、木で作った箱の中にどっさり積んである。話を聞くと、山の方角にかなり進んだ所に群生地があり、そこから持ってきたらしい。
これはかなりいい情報を教えてもらった。
かみ砕いた雫草では効き目が低い様で、未だにボスオークは意識を取り戻していない。ここはいっちょ俺がポーションを作ってやるべきだろう。
いや、作らせてください。スキル上げたいんです。ポーションのストックがもう無いんです。
ポーション作成は簡単なので、ものの数分で出来上がる。なのだが、用意をしていると俺の周りにゴブリンやオークが集まり、興味津々に俺の作業を覗きこんでいる。
少し離れた場所では、ゴブ元君とオークの一匹が何かを話している。作業をしながら耳を澄ませてみると「あれはゴブリンなのか?」とか「何で人間が喋れるんだ?」など質問攻めにあっていた。
ゴブ元君も真面目に答えている様だ。君ら仲良くなるの早いな。
そうこうしている内にポーションは出来上がる。入れる容器が無いので取り敢えずは二本分を作りだし、その一本をボスオークにぶっ掛けてやる。
体中に出来ていた殴り傷が、見る見るうちに治っていく。はたから見ると改めて凄まじい光景だ。オーク達もポーションを見るのが初めてらしく、「魔法か?」とか、「神よ……」とか言いだしている。
ふふふ、俺を崇めろ!
オークに崇められて如何するんだって話だけど、悪い気分はしない。でも、ゴブリン達もだがついさっきまで味方殺してた相手を良く受け入れられるな。
基本的な考え方が、圧倒的に俺の常識と違う事を身に染みて感じるよ。
体の傷の殆どが癒えたボスオークが目を覚ます。
飛び跳ねる様に立ち上がり、周りの状況を見て理解したらしく、その場に腰を下ろし俺にどうすればいいと言う顔をしてきた。
「お前が良ければ俺の下に付け。嫌なら立ち去るもよし。だが、その際は二度とこの縄張りには立ち入るな」
俺がそう捲し立てると、ボスオークは目を見開き驚き体を仰け反らせそのまま後ろに倒れた。だが、すぐさま身を起こし喋れるのかとフゴフゴ言っている。
静かに喋るその姿は、貫録があるおっさんの様だった。
ボスオークは俺とオーク達を何度も見比べ、一言だけ「勝手にしろ」と言い放ち、この集まりから離れて行った。
それは承諾したと受け入れるぞ。
ボスオークも受け入れた様なので、今日はこれで引き上げる事にする。当分オークはこの場所で過ごしてもらうので、群れの中から俺らと共に来る代表を選ばせると、ボスの次の実力者である二匹のオークが名乗りだした。
この二匹はボスオークと普通のオークの中間と言う感じで、存在進化は遂げていないが経験値は多く得ているという感じだ。
普通のオークよりも賢い感じなので、この二匹を連れていく事にした。
さて、帰るのだがその前にこの場所で俺が殺したオークを弔う事にした。幾ら何でも殺したままで立ち去るのは不味いだろう。
ツルハシを取り出し、集落から少し離れた場所を掘り返す。ゴブリン達にも手伝わせ直ぐに、オーク一匹が入れるほどの穴が掘れた。
まだ集落にある死体を持ってこさせ埋葬する。オーク達は何も言わずに俺らの姿を見つめていた。
まだ俺のマジックバッグには、オークの死体が十数匹分あるのだが、ここでボロボロだして埋める訳にはいかない。流石に大量の死体を見たら彼らも激昂するだろう。
この死体は彼らには秘密にしておく必要があるだろう。
こうして今回のオーク集落の制圧は終わった。
ちなみに雫草は箱に入っていた半分ぐらいは、俺のマジックバッグに収まっている。ポーションが作れるのはかなり大きい。これだけでも俺にしたら、今回の制圧は成果があったと言える。
ゴブリンの洞窟へと戻った俺は、まだ夜飯には早いのだが、昼飯を食べていない事もあり、早めの食事を取りながら今後の方針を決める為に情報を聞き出す。
今回はシカの焼肉で、調理は火の番担当になっているメスゴブちゃんが焼いてくれている。俺が頼んだ通りしっかりと火が通っていてる。
彼女は火を見る目が怪しいけど、火を使う才能はあるっぽい。存在進化をさせたら面白い事になりそうだけど中々その余裕はなさそうだ。
少し脇にそれたが、彼女が焼いた肉を参加する面子に振る舞い話を始める。肉と共に渡したパンはオークにも好評なようだ。
まず二匹のオークから、今回の騒動に関しての話を聞く。
オークとしては強いボスが出てくるなら、それに越したことは無いらしい。
彼らとしても群れの数が増えれば縄張りの拡大は行う予定だったらしい。もし森狼の襲撃が無くとも、ゴブリン達はオークの襲撃を受けていた可能性が高かったのだ。
なので、勝った方が縄張りを支配するのは当たり前なんだとか。それでも、普通は支配するなら全滅させるか縄張りから追い出すらしい。
今回の様に他種族を受け入れる事は、珍しいと言っている。
オークとしては、支配は受け入れるが、今後何をやらされるのかなど不安に思っているとの事だ。まあ当然だよな。
それを含め俺の案を話していく。今後の行動としてはまずゴブリン、オークと縄張りを接しているコボルトを制圧する。
これに関してはオーク、ゴブリン双方とも今の戦力ならば、俺の力が無くともいけるとの事だ。
コボルトの強さはゴブリン以上オーク未満で、存在進化してるゴブリンならば三対一でも勝てるらしい。
任せてみるのも面白いが、早めに片付けたいので明日一気に集落を襲撃する事にする。
次にオークの持っている周辺情報を、今こちらが持っている物と照らし合わせた。オークの縄張りの周辺情報を聞く限り、今のゴブリンの縄張りに関した、新しい情報は無いのだが、ゴブリンの集落から見て麓の情報は増えた。
どうやらその方向では、オーガとゴブリンの集団が争っているらしい。
オーガは数こそ少ないが、単体では周辺でかなり力を持った存在らしく、ボスオークでも二匹を相手するのがやっとらしい。
また、老ゴブの話ではゴブリンの集団は、俺らの群れの元になる群れらしく。ゴブ太君達より進化している、ゴブリンバロンを筆頭に複数の進化したゴブリンが居るらしい。
その勢力が数十対数百の戦いをしているとの事だ。
麓は俺の進む方向でもある。対策を考えなくてはならないな。
続いて細々な指示を、老ゴブを中心に与えていく。
木材の確保、食糧の確保、周辺地域への偵察、そして雫草の確保である。
木材の確保は今後の構想の為に老ゴブを中心に今から用意させ、食糧はまだ備蓄があるとはいえ、食い扶ちも増えたので、今日進化したゴブリンに担当させる。
偵察はゴブシン君を筆頭に、これも今日進化したゴブリンスカウトを補助に着け、やらせる事にした。
雫草の確保は、場所を知っているオークに、ゴブリンを引き連れさせ、大量に持って来いとオークに明日伝える様に指示を出した。
最後にオークが持っていた装備について聞いてみた。
これは麓の方から流れてきたゴブリンやコボルト、ラットマンやリザードマンなどが持っていたものらしい。
新しい二種類の種族が出てきたが、そんな奴らがまだまだ居るって事か。この森はそれほど広大なんだろう。
人が持っていた物じゃなかったのは少し残念だ。
今日も一日有意義に過ごせた。ダンジョンの中で過ごした日々を思い出すと、忙しないのだがそれがいい。
そろそろ眠くなってきた。
おやすみなさい。
◆
今日の朝は少し時間を取って、ポッポちゃんとスキンシップをした。彼女も新しい土地を満喫している様だが、一匹は寂しいと俺の髪の毛を毟り取るのを止めなかった。
怒ってるのは分かるけど、この年で禿げたくないんだ。やめてください。
小一時間ほど、寝転がった俺の胸の上で撫で続ける事で、やっと機嫌を直してくれた。ははは、このやきもちさんめ。
最後にゴブリンの洞窟近くで、俺の肩に乗せた姿を見せたのだが、ゴブリン達の、なにあの美味そうな肉って顔に、耐えられなかったポッポちゃんは逃げる様に飛んで行った。
また明日ね、ぽっぽちゃん。
ゴブリンとオークの準備は整ってる様なので、出発する事にする。途中で一度オークの集落に立ち寄り、ボスオーク事ボーク君と数匹のオークを共に、俺を含めた総勢十一匹でコボルトの集落へと向かう。
コボルトの縄張りへと入り一時間、未だに接触が出来ていない。それもこれもコボルトの特性らしい鼻の良さが原因らしい。
縄張りに入り、俺の探知に反応が掛かるのだが、こちらから近付いていくと、気付かれて逃げられる。それを繰り返し、未だ進展がないのだ。風下に立っても気づかれる始末で、どうやら俺らは相当匂うらしい。まあ、風呂なんてまともに入ってないからね……。
集落に行くまでに一匹ぐらい姿を拝みたかったのだが、これはもうどうしようもない。直接乗り込むしか方法が無さそうだ。
と言う訳で、オークとゴブリンに先導をさせ、集落までたどり着いた。流石にここは放棄する気は無いらしく、数多くのコボルトが群れをなして隊列を組んでいる。
コボルトの姿は所謂犬人間だ。二足歩行する犬が、木の棍棒と木の盾を持ち、それを叩き合わせて音を立て、唸り声と共にこちらを威嚇している。背はゴブリンより少し高いぐらいだろう。オークを見た後では少し貧弱な体に感じる。
さて、どうしよう。
オークの時の様に槍を投付けてやってもいいのだが、今回は少し平和的に行くのもいいか。そう、俺らは言葉が通じるこの星の住人なのだ、手を取り合って生きていくのが一番なのだ。
俺はゴブリン、オーク双方に笑えと命じ、横に一列に並んで、コボルトの群れへと進んでいく。
進めば進むほどコボルト達の騒ぎが大きくなる。不思議に思った俺は並んで進むゴブリンとオークを見て気付いた。俺は素手だが奴らは武器を持っていたのだ。
確かに武器を持った相手が近づいて来たら、そりゃ怖いだろう。危ない、俺の圧倒的なミスが悲劇を生むところだった。
俺は直ぐに武器を捨てろと命じる。歪んだ笑い顔をしていた奴らは、分かりましたと言わんばかりに、更に笑顔になり武器を捨てる。
これでいいはずだ。俺の意図を汲み取る素晴らしい部下達だ。
俺はコボルトの群れへと進んでいく。横に並ぶゴブリン、オーク達も並んで歩いていく。
だが、一向にコボルトの騒ぎは止まらない。中には持っていた武器をこちらに投げてくる奴までいる。
全然届いていなかったが、当たったらどうする、危ないだろ!
また、何かがおかしいと思い、ふと隣のゴブ太君を見ると、指をボキボキと鳴らしている。……君何してんの?
急いで反対側に居るボーク君を見てみると、指のボキボキに加えて、首まで鳴らしている。いやいや、お前も何してんだよ!
一歩先に進み振り返り、並んで歩くゴブリン、オークを見回すと、全員が何かしらの準備運動みたいな事をしていた。
おい! お前らふざけんな! どう見ても平和的解決に来た連中じゃねえ。 これじゃあ殴り込みに来たヤンキーじゃねえか!
ゴブリンとオークの歩みは止まらない。唖然としていた俺を通り過ぎ、更にコボルトへと近づいていく。
コボルト達は限界だったのだろう、一匹が手に持つ武器を地面に落とすと、防波堤が決壊するが如く、次々と武器を手放し、許しを請う様に跪いた。
その姿を見たゴブリンとオーク達が、俺の元へと駆け寄ってきて、口々に「流石ボスだ」とか、「こんな作戦思いつかねえ」とか言っている。
当然、ゴブ太君は俺に跪くし、ボーク君なんて、「我、智将得たり」とかしみじみと言っている。
おいお前ら、それ以上はやめてくれ……。
俺の意図しない作戦を実行した部下共の向こう側に、泣き声を上げ許しを請うコボルトを眺めながら、コボルト制圧は終了した。
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