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四話 火と肉
ゴブリン達の喋り声で目が覚めた。
既にゴブリン達は活動をしている様で、朝っぱらだというのに忙しなく動いている。昨日大量に狩った森狼の毛皮から、まだ残っている脂肪の部分等を剥ぎ取ったり、食べ残っている肉などに齧りついているみたいだ。
結局昨日は狼の肉は食べられなかったので、数カ月鶏肉だけの生活をしていた俺としては、どんな味をしているのか非常に興味があるのだが、落ち着いて考えたら狼って犬の祖先って事を思い出した。
そう考えるとちょっと食べる気が無くなってくる。既に一日経ってるので、腐敗も始まっているだろうし、どの道俺には食べられないので、もう気にしない事にした。
大きな欠伸をかきながら、体を伸ばして覚醒を促す。朝飯のパンを食べながら、老ゴブリンと二ゴブを呼び、今日の予定を伝える。
まずは、俺が一番求めている、火起こしをゴブリン達にやらせてみる。俺がやった方が早いだろうけど、俺は俺で今日はやる事が有るのだ。これは老ゴブリンを中心に、洞窟に残るメスを中心にやらせてみる事にした。大体の説明は昨日の内に済んでいるので、ゴブリンの中では、一番まともな頭をしてそうな、老ゴブリンに数点の道具を渡して任せておけばいいだろう。
次にゴブ元君をリーダーとして、周辺の偵察をさせる事にした。ある程度の情報はゴブリンも持っていたのだが、俺が知りたいのは最新の状況だ。森狼に怯えてあまり外に出てなかったので、状況が変わっている可能性は十分にある。これには戦闘が出来るメンバーを大目に入れて送り出す。まだ、はぐれの森狼などが居る可能性があるので、ゴブ元君には斧を持たせている。一匹二匹なら十を超えるゴブリン集団でどうにかなるだろう。
そして俺は、一番重要であろう食糧の確保を行う。森狼が消えた事で、この周辺に居るという、シカやイノシシなどの狩をしてみようと思う。これは昨日の話し合いで、ゴブリンが知っている動物の特徴を聞いて浮かんだ動物の名前なのだが、実際はどんなものかは分からない。見つけてからのお楽しみだろう。
指示が行き渡り、ゴブ元君を見送って俺も出発する。俺のお供にはゴブ太君を連れて行き、探知を展開しながら森を進んでいく。
途中でポッポが合流してきたので俺の肩に乗せ、俺が手に持つパンを食わせながら道を進んだ。森狼が相当この辺の動物を餌にしてしまったのか、一時間ほど移動しても、探知には小動物の反応以外かかる事は無かった。ゴブリンの洞窟を中心に円を描く様に歩いているのだが、ゴブ太君が縄張りと言う範囲は相当広く、余裕で数時間は歩く範囲がそうらしい。正確な距離何て分からないけど、数キロの範囲は軽く有るんだろう。
そう考えると、改めてこの森は大きいのだと思い知らされる。何故ならこんな最弱ゴブリンが、これ程の範囲を自分の物だと言えるからだ。森狼に制圧されてはいたが、それ以前はちゃんと支配していたのだ。どう考えても土地が余っているから、成立しているのだと思える。
それと同時にこの周辺には、それ程力を持った存在は居ないのだと思える。先の森狼の群れは、ゴブリンを圧倒していたとはいえ、全滅させるには至っていなかった。昨日襲撃した時に思ったが、食糧庫にしようと考えれるほど、あの森狼は賢くないだろう。たとえ風狼というボスが居ようがそれは変わらなそうだ。
ゴブ太君を捕まえてからずっとゴブリンを観察した結果、その考えが有ったので森狼の群れに挑んでみたのだが、やはり想像通りで大したことは無かった。
唯一ボスの風狼は少しだけ手ごわかったが、魔法なんて知識の無い俺には初見殺しに近いし、初撃でルーンメタルの槍を全力で投げてれば殺せてた可能性もあるのだ。やはりこの周辺なら問題ないのだろう。
となると今の俺の強さは、結構なものなんだろう。
余りに獲物が現れないので、考え事が多くなってしまったが、休憩をはさみ三十分程歩いていると、探知に掛る二つの反応を感じた。
大きさはゴブリンより少し大きい程度の気配が一つと、それに寄り添うように小さな気配を感じる。状況から考えるに子連れの可能性が高そうだ。
俺はゴブ太君に俺から距離を取り、静かに進むよう指示を出し、ゆっくりと気配がする方へと進んでいく。少し進み、木の陰から気配の方向を覗きこむと、そこにはシカに似た生き物がいた。
確かにシカなのだが、俺の知っているシカとは少し違っていて、地球のシカにもある、木の枝の様な形の角が頭の真ん中に一本だけ生えている。体毛も長く垂れ下がっていて、体中を包み隠している。
気配が小さかった方は、予想通り子供の様で大分体が小さい。毛はまだ短く角も無い、こちらを見れば地球のシカとそれ程違いが無さそうだ。
地面に生えている草でも食べているのだろうか、しきりに口を地面に着けて咀嚼している。
親子連れなのは少し気が引けるが、だからと言って別の奴なら殺しても良いのかと言う訳でもないので、ここは一つ涙を呑んで狩らせてもらう。
マジックバッグから鉄の槍を取り出す。何時でも投げられるように準備をして、木の陰から覗き込みタイミングを計る。一分ほどでシカはその場から立ち去るのか、こちらに体の側面を向け歩き出した。絶好のチャンスだと判断した俺は、素早く木の陰から体を出し、小さいモーションで鉄の槍を投擲した。シカもこちらに気付いた様だが既に遅く、鉄の槍を体に受け、その勢いで地面に倒れこんだ。
槍を受けた親ジカは、立ち上がろうと何度も体を起こそうとしているが、直ぐに力尽きその体を横たえた。子ジカは親ジカが上げた声に驚き逃げ、視線に入る位の距離でこちらを窺っている。
この先あの子ジカが、生きていけるかは分からない。殺してやるのが優しさなのか、逃がしてやるのがいいのか悩んだが、結局殺すことが出来ずに、近くの木にナイフを投付け脅してその場から立ち去らせた。
その後も狩りを続け、黒い毛をした地球と余り変わらないイノシシや、鋭い牙をもつウサギの様な動物を狩り続けた。
その中の数匹は足を狙い動けなくして、止めをゴブ太君にやらせてみた。動物を殺してもレベルが上がるらしく、段々とゴブ太君が逞しくなっていく。何か育成ゲームをしてる気になってきて中々楽しい。
狩を進めてみると、どうやら森狼の棲家からゴブリンの洞窟を挟んだこの場所は、それほど狩られてはいない様で、それなりの数の動物が居るみたいだ。
だが、幾らなんでも狩を続けていたら、直ぐに居なくなってしまうだろう。狩り尽くさないまでも、危険を感じればこの場を離れてしまうのだ。
そう考えれば狩場の拡大は必須だと思える。
俺の目的でもある人里探しも兼ねて、この周辺の支配を進めるのが今後の課題になりそうだ。
食料は十分狩れたので洞窟へ戻る事にした。それにしても探知は役に立つ。自分が認識できる範囲が広がるだけで、こんな世界が変わるとは思わなかった。幾ら相手に気付かれてても、当てる事が出来る投擲術があっても、探し出せないと話にならないからね。
明らかに俺より背が高くなったゴブ太君を先頭に、ゴブリンの洞窟付近まで近づくと、何かが燃える匂いがしてきた。俺が指示をしていた火を起こしに成功したのだろう。近づいていくにつれ段々と煙も漂い出している。
高い木の所為で上がっているであろう煙は見えないが、どう考えても煙の量が多すぎる。
火事でも起こしたのかと思い、急いで戻ってみると、洞窟の前でキャンプファイヤー程の大きさの炎が上がっていた。
おい! 俺はそこまでデカい火を起こせとは言ってねえぞ!
炎の周りにいるゴブリン達が、何処から集めてきたのか大量の木の枝を次々と炎へと投げ込んでいた。俺は呆れつつ、周りのゴブリンに指示を出していた老ゴブリンに、問い詰めようと近づいていくと、此方に気付いたらしく、良い仕事しました位のいい顔をして俺に成果を報告してきた。
そんな顔をされたら文句言えねえじゃねえか……。
俺はゴブリンとはこう云うものだと諦め、老ゴブリンの労をねぎらってやった。
これは俺が悪いんだ。俺がちゃんとした指示をしなかったからこうなったんだ。……俺が悪いの?
とは言え、火の起こし方は確立したらしいので俺にとっては素晴らしい報告になった。よく木をこすり合わす方法で、起こせたものだと思う。教えたとおり、渡した大工道具で着火材代わりの木くずを作った様だ。この辺りの乾燥した気候のお蔭で、火も着きやすかったのだろう。
そうこうしていると、ゴブ元君も戻ってきた。皆無事に戻ってきた様で、こいつ等も皆やってやった見たいな顔をしている。ゴブリンが全部こうなのか、こいつ等だけなのか謎である。
報告によると、多少の変化があり、多数の群れが消えているらしく、姿が見えなかったらしい。争った跡も有ったらしいが、それ以上はもっと深く相手の領域に、入らないと分からないとの事なので詳細は不明だ。
そもそも深入りはしない様に言っていたので、それは仕方が無い。
ただ、争った跡から見えてくる進行方向は、山脈の麓を目指している様で、こちらは大丈夫なようだ。
報告を聞く限り、このゴブリンの群れと同じ様に、何かの変化が有ったのは明らかで、方角的には俺が下りてきた山脈を背に、右手側だけに集中しているので、そちら側には少し配慮しないといけないだろう。監視でも置くべきなのかも知れない。
左手側は変化は無かったらしく、ゴブリンの縄張りの隣にオークの群れがいて、俺らの見て正面の側にコボルトの群れが有るとの事だ。更にその奥にはオーガや、同じゴブリンだが規模が違う群れが居るらしい。
ファンタジーな名前が並ぶ事に、正直ウキウキしてくる。ゴブリンの例に漏れず、オークやコボルトなどは俺が知っている奴らなんだろう。
報告も聞き終わり、今日の狩の成果をお披露目する。積まれる肉達にゴブリン達が大興奮している。ちょっとうるさい。
ゴブリン達に一連の処理をまかせ、俺は近場にある小さい水場に行き久しぶりの水浴びと、いざという時の為に水の備蓄をしておいた。
水浴びも終わり、洞窟まで戻ってみたが、ゴブリン達は忙しなく動いているのだが、俺はやることも無いので、スキル上げを兼ねて近くにある木を切り倒し、食器でも作ってみる事にした。
ダンジョンではトレントに斧を投げると、何故か伐採のスキルが偶に上がっていたのだが、そう確率も高くなかったので結局はレベル1にもならず終わってしまった。格闘術と並びもう直ぐ上がる候補なのでやっておこう。
木を切り倒し、一度マジックバッグに収納してから、洞窟の近くで取り出して皿を大量に作ってみた。何をしてるのか興味を持ったゴブリンもいて、ナイフを渡してやらせてみたが余り器用じゃ無いみたいだ。
俺の見よう見まねで頑張ってるので、ナイフは渡したままで見守ってみよう。
陽も暮れて食事の時間になった。今日はイノシシを食べる事にする。それ以外の処理済みの生肉は、俺がマジックバッグの中で保存する事にした。
火起こしのコツを掴んでいるという、メスゴブリンが頑張って起こした火がまたキャンプファイヤーの様になっている。こいつ等は加減と言うものを知らないのか?
その火を囲み集まっているゴブリンに、今日は肉を焼くという事を教え込む。
熱したフライパンに肉を乗せると、独特な匂いがして来る。日本にいた頃の俺なら、結構きついと思うのかもしれないが、肉に飢えている俺にはこの匂いが堪らない。
焼いてみると結構血みたいな物が出ているので、やっぱり血抜きは必須なんだと理解した。次回はゴブリンに教えておこう。
焼けている肉に興味津々のゴブリン達が俺の近くに寄ってくる。何か皿を持って列を作ってるんだが、もしかして俺が全部焼くのか?
まあいい、初回だしボスとしてこれ位のサービスはしてやろう。
焼いては配りを繰り返し、やっと俺の分も焼き終わった。
ゴブリン達は律儀に俺を待っていたので、いただきますをして肉にかぶりつく。
地球でも久しく食べていなかったイノシシの肉は、血抜きをしていないので生臭い。だが、肉を食べている感じが、俺の脳を刺激してそんな事を気にさせなかった。大きさ的に三百グラムはありそうな肉を、一気に胃袋に収め至極の食事は終了した。
やっぱ肉だね!
寝る前に何気なくステータスの確認を行うと、隠密と言うスキルが増えていた。スキルの効果は気配を絶ち、移動する事が出来る様になるらしい。まるで忍者みたいだ。まだレベル0の取っ掛かりなのだが、気づかなかったのは対象が自分じゃないからだろう。
でも何で今まで得られなかったのだろうか? スキルの説明的にこのスキルを得られそうな行動は、ダンジョン内で散々していた気がする。
違いと言えば……、あぁ距離かも知れないな。
ダンジョン内では結構な距離を取って、魔物の観察をしていたのと比べると、出てからは最初のゴブリンやシカを狩った時等、結構接近している。ゲーム的考えで言えばその辺が、スキル上昇の判定をしてそうだ。
兎も角この隠密って奴は役に立ちそうだ。スキルのレベルが上がらない事には、まだまだ使い物にならないんだろうけど、レベルが上がれば後ろから近付いて一撃も可能だろう。
有用なスキルも出てきたし、久々の鶏肉以外の肉で今日は大満足の日だ。
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