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三話 風狼討伐
老ゴブリンに森狼の居場所を聞いてみる。何度もやられているだけはあって、大体の棲家は掴んでいるとの事だ。ゴブ太君にその場所を覚えさせ俺の先導をさせる事にした。
それを聞いたゴブ太君は、喜んで付いていくと言っている。その謎の忠誠心が怖いんだけど……。
腰かけていた石から腰を上げ、ゴブ太君に先導を任せ森狼の棲家へと移動しようとすると、先ほどまで地面に伏せていたボスゴブリンが自分も行くと言い出した。
ボスとしてのプライドが当然あるのだろう、俺の事もまだ認めてない様だし、ここは連れて行きこれから起こる事を見せてやろう。
そういう訳で俺と二匹のゴブリンが、森狼の棲家を目指す。ポッポちゃんはずっと俺らから離れていて、時折視線に入るぐらいの距離を保っている。統制が取れていないゴブリンに、食われては困るので当分はこのままでいく。
一時間ほど進むと、ボスゴブリンが怯えだす。こいつは森狼の棲家の場所を知っているらしく、大分近づいてるのだろう。この辺で自衛の武器くらいは渡しておこう、何故か余裕なゴブ太君には前に使った青銅のナイフを、ボスゴブリンには青銅の斧を渡す。
殴って分からせたので俺に襲ってくる事もなさそうだ。
武器の輝きに目を輝かせているが、それ以上に俺が急に武器を取りだした事に驚いていた。ゴブリンがこの手のアイテムを使う事は無さそうなので、この反応は当たり前なのかもしれない。
二匹とも手に持った武器を確かめながら歩いている。程なくして俺の探知に多数の森狼が掛かる。数は十二なのだが、それとは別に一回り程大きい反応が同じ場所にあった。ボス狼って所だろう。
ばれない様に気配の方向に近づいていくと洞窟が目に入る。どうやらここが棲家の様だ。探知の反応では全て中にいるらしく、外からでは森狼達の姿は見えない。大分奥にいるようだ。
洞窟に入る気は起きないので、向こうから出て来てもらう事にする。二匹に下がる様に言い、洞窟から直線的な距離が取れる場所に位置取る。鉄の槍を数本地面に突き刺し、鉄のナイフを片手に持てるだけ取り出す。
用意は整った。
洞窟に向かって大声を上げて森狼を誘い出す。少しすると一匹の森狼が洞窟からゆっくりと出てきた。何かを咥えている所を見ると、お食事中だったようだ。
俺はそいつに向かって、地面に刺しておいた槍を投擲する。投擲された槍は瞬く間に森狼を突き殺した。
その時に森狼が出した声に反応してか、一頭また一頭と洞窟の出口へと動き出すのが探知で分かった。だが、襲われているとは思ってもいないのか、一気に来る気配が無い。俺としては助かる事だ。
次の森狼が出てきた。槍に刺さっている仲間を見て、一瞬体が驚きで硬直したのが見えた。俺は迷わず槍を投擲する。これもまた森狼を突き殺した。
二度目の断末魔は少し声が大きく、こちらに向かっている途中の森狼が足を速める。どうやら、何かが起こっている事に気付いたようだ。
続々と出てくる森狼に、今度は鉄のナイフを手足を狙い投擲する。投擲術Lv3の腕ならばこの距離ならば外す事は無い。洞窟から出てくる森狼達が攻撃を食らって次々と行動不可能になっていく。
残るは二匹の森狼と、最後尾を進んでいた気配の大きいボス狼だけだ。護衛の様にボス狼に付き添っている様で、固まって行動している。これは少し面倒くさい。
探知の気配を頼りに、まだ視線に入っていないボス狼に向かって鉄の槍を投擲する。洞窟に飲み込まれた槍の行方が見えないが、護衛の一匹の気配が消えた。位置が急に移動したので、身をていしてボス狼を守ったみたいだ。
次の投擲の前に残りの二匹が外に出てきた。自分の周りにある仲間の惨憺たる有り様に、怒りの唸り声を上げている。
姿を見せたボス狼は森狼より二回りも大きく、灰色と黒の毛が美しい模様を作り出している。
こちらに気付いたボス狼が、もう一匹の森狼を伴って俺に向かって駆けてくる。俺は森狼にナイフを投擲し、続いてボス狼にも投擲する。森狼はナイフを顔面に受けもんどり打って転び、その場で動かなくなった。
ボス狼に投げたナイフは当たると思いきや、ボス狼の毛並みが激しく乱れだすと、俺の投擲したナイフが当たる前に何かに弾かれた。その後も更に投擲したナイフも同じように弾かれる。
程なくして俺に近付いてきたボス狼が飛びかかってくる。だが、今の俺からしたら十分対応できるスピードで、横に一っ跳びしてやり過ごす。
地面に着地しようとしているボス狼に向かって、今度は鉄の槍を投擲する。着地と同時に迫る鉄の槍を、更に毛並みを激しく乱し、弾こうとするが流石にこの重量の物は完全に弾けないらしく、体の一部を切り裂いた。
怒りの咆哮を俺に向けてくる。その次の瞬間、ボス狼の口からこちらに向かって飛来する何かが、地面の土を巻き上げながら進んでくる。はっと思った俺は、マジックバッグから盾を取り出し、それを受け止める。まるで強風が吹いたかのような衝撃を受け、俺の後ろへと風が通り抜けた。
今のは確かエルダートレントが撃ってきた攻撃だった。そうするとボス狼は魔法を使うって事だろう。ナイフを防いだあれも自分の周りにバリアーみたいな物を張っているのか。流石ボスだな。
攻撃を防がれたボス狼は、牙をむき出してこちらを威嚇してくる。だが、その顔には戸惑いが見られる所を考えると、さっきの攻撃を防がれるのは想定外だったようだ。
俺は盾をマジックバッグに収め、鉄の槍を取り出し投擲する。防げない事が分かったのか、飛び跳ね鉄の槍を避ける。俺は更にルーンメタルの槍を取り出し、まだ飛び跳ねたままのボス狼に向かって投擲する。
ルーンメタルの槍はボス狼が、急いで展開したバリアーを物ともせずその胴体を貫いた。
地面に落ちたボス狼は、のた打ち回るが直ぐにその動きを止め息を引き取った。俺が動けなくした森狼以外、周囲の気配も無い事から、これで決着が付いた様だ。
二匹が俺に駆け寄ってくる。ゴブ太君は大喜びして俺の手を取り飛び跳ねている。ははは、可愛い奴め。
ボスゴブリンは少し様子がおかしい、先程まで怪訝な顔を常にしていたが、憑き物が落ちたようにすっきりとした顔をしている。そのまま俺に近づいてきて、俺の前で膝を付いた。やっと俺を認めてくれるって事だな。これで君は元ボス、新しい名前はゴブ元君にする。
そんな二匹を引き連れて、まだ息のある森狼の元へ行く。ゴブ太君が止めを刺そうとするが、ゴブ元君がそれを止める。どうやら生きたままゴブリンの洞窟まで連れて行きたいらしい。なるほど、止めはあいつ等にやらせてやりたいんだな。
大した経験値も無いし、それで気が済むなら幾らでもやってくれ。
だが俺は持たないからな。
俺が了承すると、二匹は周辺の木から蔦を探してきて、拘束しようとするが、森狼は大暴れする。危うくゴブ太君が噛まれそうになっていた。
当然そうなる事は分かっていたが、どんな対策を取るのかあえて見ていた。だがそこは、流石ゴブリンだ無策とは恐れ入った。
俺が木の枝を切り取り、刺股状にして森狼の首を押える。二匹は流石ボスとか言いながら、口を蔦で締め続いて手足を拘束する。
後は二匹に任せて俺は先程倒したボス狼の元へ向かう。そこで俺は死体に鑑定を行ってみる。
名称‥【風狼の死体】
素材‥【ウインドウルフ】
なるほど、死体であれば鑑定は出来るんだな。名前からして風を使ってたって事か。
これまで、ポッポやゴブ太君に鑑定を試みたが、一度も成功はしなかった。生き物は対象外って事だろう。だが、生と死の判定をこのスキルはしてるって事だ、その狭間で鑑定したらどうなるのか等、色々考えると、何か変な気持になってくる。生と死は一度は死を経験した俺でも、理解の難しいテーマなのだろう。
名前も分かった事だし、このままマジックバッグに収納してみる。死体をそのまま入れるのは初めてだったが、問題なく吸い込まれていった。
洞窟の入り口付近に転がっていた死体を全て入れ終わり、投擲した武器も回収して二匹を見ると、きつく拘束をした森狼を一か所にまとめていた。
俺は、二匹を呼び洞窟の中に入る事を伝える。二匹を前に従えて奥へ進んでいった。奥には広めの開けた場所が有り、そこらじゅうに、何かの骨が転がっていた。食いかけの鹿の様な死体や、首のとれたゴブリンの死体など、中々グロい光景だ。更に死臭が濃く漂ってくる。
この匂いは二匹は気にしていないようだが俺にはきつい。俺は先に外に出る事を伝えて急いで表に出た。
暫くすると、二匹が戻ってくる。その手には二匹の小さな子狼を持っていた。探知で捉えていたが、森狼ではない小さな反応だったので、小動物でも居るのかと思っていた。改めて探知で気配を見てみると風狼の反応を見せる。
それを俺に差し出し、どうするべきか尋ねてくる。調教スキルで従える事は出来るが、こんな小さな子供を調教しても足手まといも良い所なので、扱いは任せる事にした。
生け捕りにした五匹の森狼を、ゴブ元君が二匹、ゴブ太君が一匹、そして俺が二匹を背負う事になった。最初は持つ気なんて無かったのだが、ゴブリン二匹ではすべての森狼を背負うのはきつかったらしく、ふらふらして見てられなくなったのだ。
歩く速度も遅くなるし、そんな事をしていると陽が暮れてしまう。仕方が無いので二匹から一匹づつ受け取り、ゴブリンの洞窟へと歩いていた。
風狼の子供はゴブリンが一匹づつ大事そうに抱えている。子供の内から育てれば、群れの一員として役に立つらしい。森狼の群れが居なくなったので、食糧事情も改善される事だし、それぐらいは養えていけるとの事だ。
来た道を戻りゴブリンの洞窟に到着した。二匹ともそれ程疲れていない様子で、持久力は結構あるみたいだ。
洞窟の前に生捕った森狼を並べていく。洞窟の中から次々とゴブリン達が出て来て、目に入った光景に驚きの声を上げている。中には拾った石を投付けている奴もいて、相当森狼に憎しみを持っている様だ。まあ、当たり前だよな、仲間食い殺されてるのを見てるんだし。
そういえば俺も一匹殺してるけど、ゴブ太君はどう思ってんだ? これまでの態度を見ると全く気にしてないのが怖いんだよなぁ。
その事は後で聞いてみる事にして、俺はマジックバッグから森狼と風狼の死体を取り出しておく。
洞窟の前に集まったゴブリン達にゴブ元君が森狼が退治された事、俺が如何に凄かったか、そして俺が新しいボスになった事を、俺を置いてきぼりにして演説していた。
ゴブリン達はその話を聞きながら、事あるごとにギィギィと声を上げながら飛び跳ねて喜んでいる。特に俺の戦いの話の時に、ゴブリンの尊敬の視線が集まってきて、思わず苦笑いが出てしまった。
ゴブ元君の演説も終わり、最後に捕まえてきた森狼を処刑する事になった。見ていて少し可哀そうになったが、散々好き放題してきたんだ、負けたなら潔く死んでもらおう。
先ず一匹目が頭を棒で何度も殴られて殺された。単なる棒なので、一撃では殺せないらしい。流石に可哀そうなので、マジックバッグから斧を取り出し、これで首を刎ねろと指示をした。
次々と首を刎ねられ死んでいく森狼達、最後にゴブ太君が手に持った斧で首を刎ね飛ばした。
ここで確信したのだが、森狼を殺したゴブリンは、どうやらレベルが上がっている様に見える。首を刎ねて少し経つと、体が一回り程大きく、肌の色がより濃くなっていた。
彼らは果たして魔物に分類されるのかは分からないが、レベルのシステムが俺とは違う事は間違いなさそうだ。今回は劇的な変化ではないが、レベルが上がり続けたら彼らはどうなるのだろうか。
その辺も含め、後で老ゴブリンに聞いてみよう。
さて、首刎ね大会も終わり、後に残った森狼の死体を処理していく事になる。今回も捌くのは俺は参加しない。全て彼らに任せる事にした。その旨をゴブ太君に伝え、風狼の毛皮だけは俺に寄越すよう言い、後は好きにしろと伝える。隣で聞いていた老ゴブリンは、本当に良いのかと何度も聞いてきたが、毛皮なんて腐るほどあるし、肉も皆で分ければいい事を伝えると、「賢王……」とか言いだしている。
ゴブリンのボスはどんだけ自分勝手に振る舞ってるんだよ……
一連の会話を聞いていたゴブ元君を見ると目を逸らしやがった。そりゃあんな事してたら罰が悪いか。
空が赤くなる頃には森狼も大体捌き終わり、各パーツに分類されていた。何気に器用なもので思ったよりは綺麗に捌かれていて、彼らも中々侮れない。
毛皮まだ工程が残っているらしく、もう少し待ってくれと、ビクビクしながら近づいてきたメスのゴブリンに言われた。別に急いで無いから良いよと言うと、安堵の表情を浮かべる。
俺そんなに怖いかな? むしろ可愛いと思うんだけ?
今夜は狼の肉でパーティーらしい。おうおう、好きに食べてくれ。
食事の用意がされる。地面に腰を下ろしていた俺の前にも、大きな葉に乗せた生の狼の肉が運ばれてくる。なるほど、焼肉形式かな?
全員に行き渡り、ゴブ元君が、「ボス一言お願いします」と、近づいてくる。別に言う事も無いので、「いただきます!」と、手を合わせて言うと、ゴブリン達は俺を真似てギィギィ鳴きながら、手を合わせていた。
そして肉にかぶり付くゴブリン達。分かってたよ、こいつら生で肉を食うって事はな!
いくらレベルが上がろうが、俺は人間なのだ。生で肉を食ったら、どうなるか何て、分かり切っている。
俺が食わない事を不審に思った老ゴブリンが伺いを立ててくるので、生では食べられないと教えるとかなり驚かれた。
まあ、彼らに人間の知識なんて、全くないのだから仕方が無い。老ゴブリンに火を起こせるか聞いてみるが、やり方が分からないと言われてしまった。
しょうがないので今日は鳥の燻製を取り出し、パンに挟んで食べる事にした。
やはり火起こしの方法を確立しよう。時間を掛ければたぶん摩擦で起こせるだろう。力も素早さも上がっているこの体だ、ちゃんとやればそこまで苦じゃないだろう。
食べ終わる頃には夜も更けて来ていた。皆洞窟で寝るらしいので、俺も一緒にさせてもらう。中は大きく開けた広場を中心に、土地が高い場所がボスの位置らしい。そこを譲られた俺は、数日ぶりに土に囲まれた部屋に、微妙な居心地の良さを感じる。
ダンジョンの部屋に慣れすぎた弊害が起きているのか!?
それは良いとして、この洞窟は湿気も無く中々良い。森狼が居た洞窟とは違い匂いも少なく綺麗にしている。
ここならば、多少我慢すれば問題無く寝泊り出来そうだ。俺はマジックバッグから寝具を取り出し寝床の用意をする。
寝る前に、俺を護るかの様に陣取るゴブ太君とゴブ元君を呼び、老ゴブリンを交えて話し合いをした。
今後の事、ゴブリン達の知っている事など、眠くなる迄話を聞き、最後迄起きて俺と話していた老ゴブリンに、礼を言われてお開きになった。
老ゴブリンの最後の礼は、俺が来なければこの群れは、大した時間も掛からず滅びていた事への礼だった。
この世界のゴブリンは最弱の部類らしく、小動物程度なら殺せるが、それ以上になると殆どの相手が格上になるらしい。それでも数をそろえて狩をして、時間を掛ければレベルアップするのだろう。
強いボスが率いる群ならば、数も数百と増え、数の暴力で相手を圧倒出来るのだが、この群れはそうなる前に森狼に襲われ、その時抵抗した力を持ったゴブリン達は死んで行ったらしい。
残ったゴブリンは若く弱い個体で、食うにも困り滅びを待つだけだったのだ。
さて、今日は寝ることにするか。襲われる心配は彼らの態度を見る限り無いだろう。明日も色々と忙しそうだ、しっかりと寝させて貰おう。
おやすみなさい。
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