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Chikirinの日記 RSSフィード

2016-01-28 価値は “消費市場” にあり

先日おとずれた有楽町の家電量販店。

最上階には腕時計、ブランドバッグ、スーツケースや旅行用品などが売られているのですが、どこも中国からの観光客の方で賑わっていました。


そのとき店員さんに「日本製のスーツケースはないの?」と尋ねる中国人旅行客が。

「これは? あれは?」と気に入ったスーツケースを指さして質問するのですが、

店員さんはタグを確認しながら、「これは中国製ですね」、「こちらはタイの製品で・・」と返答。どれも日本製ではありません。


「日本製のスーツケースが欲しいんだけど」と困った顔をするお客さん。

「日本で作られてるスーツケースはほとんど無くて・・・」と困った顔をする店員さん。


おもわず『 マーケット感覚を身につけよう! 』と叫びたくなってしまいました。


雑貨屋さんでも商品をイチイチ裏返して“ Made in China”ではないことを確認しながらお土産モノを探す中国からの旅行者は珍しくないし、

今やカメラや家電売り場にはデカデカと「日本製!」と書かれた販売ポスターが掲げられています。

スーツケースや洋服などでも同じ要請があるのは当然でしょう。


ここで、「じゃあ、日本製のスーツケースを作れば売れるんじゃないか?」と考える人もいるんでしょうが、それじゃあダメなんです。

てか、それって“ひと昔前”の作戦としては正しかったのかもしれないけど、今はホント・・・マーケット感覚を身につけよう! です。


どういうことかって?


たとえばユニクロで売られている商品。もう 10年も前から日本製なんかじゃありません。ずっと前から中国や東南アジアなど、海外で作られています。

ところが、その製造国のお店でユニクロと同じ品質のシャツやデニムが売られてるかというと、そんなことはありません。


あれだけ縫製がしっかりし、生地にムラもホツレもなく、しっかりした商品は、当時の中国には(てか、もしかしたら今でも)存在しない。

ユニクロのお店で売られてる商品は「中国製」なのに、です。


これは何を意味しているか?

大事なのは「製造国がどこなのか」ではない。

ってことです。


大事なのは、「ユニクロが技術指導と生産管理をしている工場で作られ、ユニクロの品質基準を満たして店頭に並んだ商品かどうか」であって、「縫製工場の立地がどの国であったか?」ではありません。

他の商品も同じです。


どこで製造された商品であれ、日本の市場で売られている商品は、他国で売られている商品に比べて、圧倒的に不良品が少ないし、品質のバラツキも小さい。

たとえば、ベトナムの同じ工場で作られたカバンがアメリカと日本で売られているとしたら、日本で売られているモノの方が、縫製もしっかりしてるし色ムラも少ないし輸送時のシワも少ない、みたいなことが起こってるんです。


なんでかって?


日本のバイヤーの仕入れ基準が、それだけ厳しいからです。そしてそれは、

日本の小売店の商品を見る目がそれだけ厳しいからであり、

日本の消費者の要求水準がそれだけ高いから、です。


★★★


この本に、「日本の消費市場には国際的な競争力がある」と書きました。読まれた方はイラストも覚えていらっしゃることでしょう。


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製造国であることを売りにしてればいいのは、基本は中進国までです。

では、先進国は何を売りにするのか?


先進国は「消費市場の成熟度・洗練度合い」を売りにするんです。

典型的なのが、昔良く使われた「全米が泣いた!」という映画の宣伝コピーです。

これは、「アメリカは映画消費大国であり、アメリカの観客は長年にわたり、数多くの映画を見ている。その観客がみんな泣いたのだから、この作品は感動大作である」と言いたいわけですね。

「カンヌ入賞作品」という言葉も同じです。

カンヌ映画祭が認めた映画は、元々の製造国(映画の製作国)がどこであれ、ヨーロッパの“意識高い系”の知的階級が認めた映画だと認定されます。


同じコトは日本でも起こり始めています。

今、海外で日本の文房具は大人気です。使いやすい、可愛い、細かい工夫がメチャ便利! と評価が高い。

でもこの場合、その「製造国」にこだわる人は多くはありません。作られてるのが中国でもタイでもいいんです。


大事なことは、「日本人が考案してデザインし、日本の消費者が評価して売れている文房具であること」です。

「日本人が満足する文具なら、他国の人にとっては“ミラクル!”と思えるくらい使い勝手がいいに違いない」と世界が思ってくれる。


これが「消費市場の競争力」です。

日本の消費市場は、グローバルな競争力を持ち始めているんです。


★★★


先進国が売りにすべきなのは、「製造国としての評価」ではなく、「消費市場の競争力」です。

なぜなら、前者は工場を海外に移し、品質管理や生産管理の専門家を送り込めば、遅くても数年、早い企業なら 2年後には、海外でも同じクオリティの商品が作り始められます。

ユニクロが中国製だろうとバングラディッシュ製だろうと、問題無く高いレベルの商品が作れるのは、そういうことです。


しかーし、消費市場の競争力は数年なんて単位では決して追いつけません。

最低でも 10年から 20年、モノによっては 30年以上の「豊かな生活期間」を「一定以上の規模の人数が享受する」ことが必要です。

先進国になってからの期間が大事なので、豊かになってスグの国の消費市場は競争力を持ち得ないし、“一部の富裕層+大半の貧困層”という国でも、同じく市場の厚みが薄すぎて、消費市場は洗練されません。


日本も高度成長期に、極めて短期間の間に「製造国」として名をあげ、「日本製はスゴイ!」という評判を確立しました。

でも、「日本の消費市場がスゴイ」と理解されはじめたのはごく最近です。誰もが食べるに困らなくなった 1980年代から30年以上たってようやく、です。

それも、今はまだ文具、調理家電、化粧用品など、「細かい工夫が光る商品」ばかりです。


「全米が泣いた!」や「カンヌ入賞作品」といった評判を日本のエンタメ界、映画界が獲得できるまでには、まだまだ相当の期間や、映画鑑賞人口の蓄積が必要だし、

住宅や大型バカンスなど、買うのに多額のお金や時間がかかるものは、消費市場の成熟に必要な期間が小物より圧倒的に長いので、まだまだ「日本で売れるモノ」が世界で評価される段階ではありません。


それでも先進国がこれから“売り”にすべきものが、もはや「製造国としての質」ではなく、「消費市場の質」であることは明らかです。


昨年ジャカルタで若い起業家の方と話した時、

「アメリカで話題のコーヒーショップが日本に初出店!」とかいうと、みんな「かっこいい!」と思いますよね、

でも、「インドネシアで話題のスイーツ店が東京に初出店!」と言っても、誰もかっこいいと思ってくれない。それが悔しいんです。

と言ってました。


気持ちはわかる。わかります。

でも、それは「アメリカにおける、コーヒーを楽しむ文化」の成熟度が競争力の源泉なのだから、インドネシアがそれに追いつくには、まだまだ相当の期間が必要でしょう。


繰り返しますが、消費市場が国際競争力をもつのは、大変なんです。時間がかかります。

「国民の大半が豊かになってから数十年」かかるのが、消費市場です。


だ・か・ら・こ・そ

先進国は「製造国としての高いレベル」ではなく、「消費国としての高いレベル」を売りにすべきなんです。


★★★


冒頭に書いた、スーツケース売り場の話に戻りましょう。

あの話を聞いて「じゃあ日本製のスーツケースを作れば売れるんじゃないか」と言う発想は、時代遅れです。


そうではなく

「お客様。大事なのは製造国ではありません。

こちらの売り場に並んでいる商品は、すべて日本で企画デザインが行われ、日本基準で厳しく生産管理、品質管理がなされております。


材質も日本のお客様が好まれるモノを厳選して採用しておりますし、ポケットの付け方やキャスターの滑りにおいても改善に改善を重ね、頻繁に旅行をされる富裕層のお客様から高い評価を得ております。


私どもの売り場にならんでいる商品であれば、製造国がどこであれ、世界最高水準のスーツケースだとお考えいただいて問題ありません。


ぜひ一度、お使いになってみてください。きっと違いが分かっていただけるはずです」

という接客をすべきなんです。


そして、それを中国語で説明した文章を、売り場の奥の壁にデカデカと貼りだしておきましょう。


マーケット感覚の本には「中古品市場の競争力」についても書きました。中国から日本に、中古のブランドバッグを買いに来る旅行客の話です。

理由は「日本の市場には中古でも偽物がほとんどない。しかもきれいだ」ってこと。

ここでも、売られている商品はフランスやイタリアのカバンです。

でも、ここで“売られている価値”は「日本の中古市場の信頼性」であって、イタリア職人が作ったカバンの価値ではありません。

後者なら中国でも売られているんだから、わざわざ日本に買いに来る必要はないんです。


大事なことは、自分たちが今、売りにすべき“価値”とは何なのか、正しく理解しアピールすることです。

いつまでもいつまでも「製造国としてスゴイにっぽん」で生きていくなんて“無理ゲー”な上、得策でさえありません。


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そんじゃーね。


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