阿部峻介
2016年1月28日10時38分
安倍晋三首相による2013年12月の靖国神社参拝で精神的苦痛を受けたとして、国内外の戦没者遺族ら765人が安倍首相と国、神社に1人1万円の慰謝料を求めた訴訟の判決が28日、大阪地裁であった。佐藤哲治裁判長は「原告らの法的利益を侵害していない」として請求を退けた。参拝が憲法の政教分離原則に反するかは判断を示さず、今後の参拝差し止めを求めた訴えも棄却した。
安倍首相の参拝に対しては東京地裁にも国内外の633人が提訴しており、大阪地裁判決が先行した。現職首相の靖国参拝をめぐっては、過去に中曽根康弘氏、小泉純一郎氏について訴訟が起こされ、小泉参拝に関する8訴訟のうち福岡地裁と大阪高裁が「違憲」と判断している。
安倍首相は13年12月26日、礼服姿で公用車に乗り、戦没者約246万人が合祀(ごうし)されている靖国神社へ参拝。宮司の出迎えを受けて昇殿し、「二礼二拍手一礼」の神道形式をとり、「内閣総理大臣 安倍晋三」と記帳。私費で10万円の献花料を納めた。
39都道府県や台湾に住む戦没者遺族や被爆2世、宗教者ら20~80代の原告団は、こうした参拝方法や外交上の影響が見込まれる韓国や米国にも事前通告した点を踏まえ、「職務として公的参拝したのは明らか」と指摘。公権力が特定の宗教と結びつくことを禁じた憲法20条の政教分離原則に反すると主張した。
そのうえで、戦争責任を負うA級戦犯も含めた戦没者を「英霊」として顕彰する宗教施設を国の代表者が特別に支援する印象を与えたと指摘。戦没者が靖国に祭られていること自体をよしとしない遺族原告らは首相参拝で一層苦しみ、憲法上の内心・信教の自由、身近な人の死を悼む方法を自ら選ぶ自己決定権を圧迫されたと訴えた。
さらに、集団的自衛権の行使容認などを進める安倍首相が、戦前の軍国主義を支えた靖国神社に参拝するのは「戦争の準備行為」とみなせると主張。戦争遺族以外の原告らも、憲法前文がうたう平和的生存権を侵されたとした。
一方、安倍首相や国側は参拝はあくまで私人の立場で、首相個人の信教の自由の範囲内であり、政教分離原則に反しないと主張。参拝時の公用車使用は警備上の都合で、肩書付きで記帳したのも地位を示す慣例上の行為にすぎないとした。小泉参拝訴訟で最高裁判決(06年6月)が「参拝行為で不快の念を抱いたとしても、直ちに損害賠償の対象となる法的利益の侵害とは言えない」とした点も踏まえ、今回の参拝でも具体的な損害はないと反論した。
靖国神社側も06年の最高裁判決を引き、首相の参拝が個人の利益を害しないことは明らかと主張。参拝の趣旨に沿った参拝をする人なら、安倍首相を含め誰でも参拝を受け入れているとしていた。(阿部峻介)
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朝日新聞社会部
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