印南敦史 - アイデア発想術,スタディ,仕事術,書評,生産性向上 06:30 AM
ネットを活用して、外国人観光客を呼び込むには?
ここ2~3年で、個人で訪日する外国人観光客の旅行先が多様化しつつあると指摘するのは、『ネット活用でここまで変わる! 外国人観光客を呼び込む方法』(小野秀一郎著、日本実業出版社)の著者。温泉旅館を筆頭とする全国の宿泊施設400軒に対する外国人集客サービス、観光地の誘客コンサルティングを手がけている人物です。
数年前であれば、一般的だったのは東京、箱根、富士山、京都などの観光地を巡るコース。しかし最近ではインターネットの情報の増加により、これまで注目されることのなかった温泉地や、日本人にも知られていないような観光地への外国人客の訪問が増え続けているというのです。
しかし、だからといって東京や大阪などの都市観光は海外からの流入が激減するというわけでもないそうです。なぜなら、地方に行った旅行者が、帰りの空港に行く前にお土産や家電を買ったり、あるいは日本の食事を楽しむために、旅程の後半に都市部へ滞在すれば、全体的なインバウンド(訪日外国人旅行者市場)の活性化につながるから。
いわば全国どこの観光地、宿泊施設、飲食店にとっても、こうした流れに乗るのは有利だということ。先細る国内市場を補完できるだけの収益を、インバウンドで得ることができるというわけです。
肝心なのは時流に流されないマーケティング手法をスタート時にどう組むか、そして逆風の時にいかに早く集客を回復できるかです。順調な時はもちろんのこと、逆風時にも外国人に満足してもらえる旅館やホテル、飲食店、観光地であり続け、継続してインバウンドで収益を上げられるような、本当の集客力を身に付ける術を本書でご紹介していきたいと思います。(「はじめに」より)
具体的に何ができるのか、なにをすべきなのか、第5章「インバウンド集客についてのQ&A」から、いくつかをピックアップしてみたいと思います。
なにから始めればいい?
Q:小さな料亭を営んでいます。集客をするには、なにから始めればいいでしょうか?
まず大切なのは、店頭に英語のメニューを置き、それと同じメニューを店内にも用意すること。料亭の料理は日本人でもわからないことが多いだけに、外国人にとってはなおさら理解しづらいもの。そこで、もし外国人客を取り込みたいなら、写真つきメニューを店舗の名称と一緒に大きく掲示し、目を向けてもらう必要があるというわけです。なお、この場合の狙いはふたつあるそうです。ひとつは、直接的なお店への誘導。もうひとつは、SNSなどネット上で投稿してもらうため。
また、フェイスブックページもブランディングに役立つツールであり、特にチェックイン機能は活用すべきだと著者。ユーザーがチェックインすると、特典としてビール1杯や料理1品のサービスや割引が受けられる設定は、定番の誘導策だということ。この際、外国人向けにも提供していることがわかるように、特典も英語や中国語で表記しておくといいそうです。
そしてチェックインは単に誘客のためだけの機能ではなく、他にもふたつのメリットをもたらしてくれるそうです。ひとつは拡散効果。ユーザーがチェックインをしたことで、繋がっている友人・知人へ情報が拡散するということ。もうひとつは、チェックイン数が多くなることで店舗への信頼度が高まり、「いいね!」の数と実集客数の増加が期待できることだそうです。(162ページより)
外国語サイトをリニューアルしたいのですが
外国語サイトをリニューアルしたいのですが、予算がありません。どこから手をつけたらいいでしょうか?
「リニューアルが必要」と認識している時点で、館内や外観の写真が古いことが大半。そう指摘する著者は、だからこそ、まず写真を撮りなおすことが大切だと主張しています。なぜなら当然のことながら、外国人には文章での説明よりも、画像の方がよさを伝えやすいから。
たとえば日本人なら、温泉旅館に対するイメージはある程度できあがっているもの。しかし、そうではない外国人に対しては、画像の鮮度、豊富さ自体が差別化できるポイントになるということです。さらにそのページに、送迎やWi-Fiの有無、ベジタリアン、ハラル対応の可否を追記していけば、サイトの内容が充実したものになるといいます。
大切なのは、「この旅館に泊まるのはなぜか」「なにを求めているのか」をいま一度考えてみること。そして「立地」「快適さ」「便利さ」「とっておきの旅行用」など、外国人客の目的と対応するように、コンテンツを絞り込んで充実させていくことが大切なポイントになってくるわけです。
そうすることで、自社の外国人客が関心を持たなそうな余分な箇所に予算や時間を割く必要がなくなり、コストを抑えながらサイトを部分的にリニューアルすることが可能になるのです。また、導入の手間やランニングコストを安く抑えることができる自動変換サービスを利用し、スマートフォン対応化を実現するものいいそうです。(167ページより)
地域を特定して集客した方がいい?
地域を特定して集客したり、国ごとにその手法を変えたりした方がいいのでしょうか?
この問いについて著者は、ネットを活用したインバウンド集客の初期段階において、国や地域を特定してマーケティングを行うことはおすすめしないと断言しています。理由は、インターネットで世界と一気につながるチャンスがあるのに、自ら市場を狭めることで集客機会を失ってしまうことになるから。また、特定の国や地域から集客できたとしても、天災や経済変動など固有の問題が発生した際、すぐに他の国や地域からの集客に振り替えることは困難。
逆にいえば、特定の国からの集客に偏り過ぎていなければ、それだけリスクを分散できるということ。インターネットを使った集客においては、世界に向けて一気に自社の存在を発信することが可能。そのメリットを享受するためには、特定の国にこだわらない方が賢明だという考え方です。
著者はセミナーや研修会に呼ばれた際にはよく、「リスク分散のために市場分散をしましょう」と話すそうです。株や投資信託における「リスク分散」と同じで、集客する市場をバランスよく分散することが大切だということ。
分散割合としてはアジアから3~4割、北米・オーストラリアから2~3割、ヨーロッパから2~3割、日本在住外国人とその他の地域から1割が理想だと考えているといいますが、この割合は宿泊施設の規模・地域・特長・集客時期などにより異なるそうです。(171ページより)
ガイドブックに紹介されるには?
海外メディアやガイドブックに紹介されるにはどうしたらいいですか?
「ロンリープラネット」や「ミシュランガイド」など、特に欧米の旅行者の間でよく買われている旅行ガイドブックに乗せてもらうにはどうしたらいいのか? 著者も、そんな相談をよく受けるそうです。
ただしガイドブックの記者は、「掲載してください」とお願いされても、ブランドや公平性を保つため、基本的にはすんなり承諾したりしないもの。だから、そのような質問に対して著者は、直接的なアプローチ手法をアドバイスするのではなく、「英語版のホームページはきちんとしたものをお持ちですか?」と答えるのだとか。
これにも理由があります。世界中の情報を常に収集している旅行ライターは、旅先・宿泊先の候補を、インターネットを最大限に活用して日ごろから検索しているから。だとすれば、その人たちがネットで検索した際、きちんとした英語サイトがなければ、紹介しようとするモチベーションがわかないというわけです。
同じことは、観光地や温泉地全体を取り上げるケースの場合でもいえるといいます。海外から団体客、個人客を問わず集客をしたいのであれば、その地域が責任を持って情報発信するオフィシャルサイトを主軸としたマーケティングが、今後は必要になってくるということ。ガイドブックの記者たちは、温泉地・観光地が主体となって発信するサイトをなによりも重視するのだそうです(176ページより)
本書では観光地などを対象にしていますが、インバウンド集客を広い視野で捉えた場合、ここで紹介されている手法の多くはさまざまな領域で応用できるはず。そういう意味でも、将来的なビジネスのあり方を模索するビジネスパーソンには必読だといえそうです。
(印南敦史)
- ネット活用でここまで変わる! 外国人観光客を呼び込む方法
- 小野 秀一郎日本実業出版社