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悪役令嬢はメンヘラです。 作者:ろな
11/11

とある少女Aの呟き

異世界より、とある少女A視点。
少し鬱っぽいような展開です。補足的な何か。





 私は、とりあえずのところ、少女Aとでも名乗っておこうかと思う。Aというアルファベットを用いた理由は特にない。イニシャルがAであるだけである。なんのひねりもない――いや、別に、ひねりも何も必要ないんだけどさ。

 私には、今、ハマっている乙女ゲームがある。乙女ゲームというのは、所謂、女性用恋愛シュミレーションゲームのことで、仮想の世界の、色んなタイプの好きなイケメンを選んでイチャイチャちゅっちゅしようぜって趣旨のゲームなのである。
 ……え? なんか間違ってる? 合ってるよね?


 元々、乙女ゲームが好きだったわけじゃない――っていうか、ゲーム自体あまりしない。下手だし。乙女ゲームに手を付けるきっかけになったのは、ネット小説だった。ゲームはそんなに好きじゃないけど、小説とか物語の世界自体は好きなのだ。今、乙女ゲームの世界にトリップしちゃった、とか、転生しちゃったとかいう小説が一部で流行っていて、そのせいで、乙女ゲームというものに興味を持ったのだ。試しに、スマホ版無料ゲームをやってみたんだけど、イマイチ、楽しめなかった。で、途中で放り投げる、というのを3回繰り返した。
 で、オタクな大学生の従姉にその話をしたら、“じゃあ、私の一押し貸してあげる”とゲームの本体ごと、とあるゲームを貸してくれたのだ。……余談だけど、お姉ちゃんはBL専門かと思ってたんだけど、そんなことはないらしい。乙女ゲームも食指が動く範囲内なんだとか。さすが――いや、なんでもない。



 で、その従姉が貸してくれたゲームに絶賛、ドハマり中なのである。
 そのゲームの名前は、“王宮の彼と私”である。意外と、ベタベタでないシンプルな題名だ。
 簡潔に述べると、仮想中世ヨーロッパを舞台としており、子爵家のご令嬢であるヒロインが、王宮で出会った色んな種類のイケメンたちと愛を育んでいくお話である。

 ヒロインのお相手――プレイヤー的に言うと攻略対象者であるイケメンたちは計5人。

 宮廷楽師のフィービ。可愛らしい顔立ちをしており、王宮の近くにある下宿――寮みたいな所っぽい――に住んでいて、王宮からお呼び出しがあれば、王宮に出向き、バイオリンを演奏する。年は、15歳で、ヒロインのひとつ上。見た目から、絶対に、この子が攻略対象者の中では最年少だと思ったんだけど違う。見た目的にはショタ要員であるが、小悪魔的でお腹の黒い子である。どうも、幼少期に、家が貧しすぎて、かなりひもじい思いをしたらしく、そこから、こんな性格になったようだ。
 彼の攻略のコツは、彼の小悪魔・腹黒な言動を流しつつ、叱りつつ、絶対に騙されないという姿勢を貫くこと。そうすれば、彼がどんどんヒロインに躍起になり、いつの間にか気になって――という展開になっていく。

 次に、攻略を試みたのは、王宮の典医であるラザロス。傾国の美女もあわやという美女っぷり――そう、美女なのだ。男性なのに。まあ、女性的な美しくも整った容姿をしているってことなんだよね。彼は、ご先祖様が王族で、臣籍降下してからは、医者として代々王宮で仕えているという由緒正しきお家柄。あくまでも爵位は持っていないけど、それでも、特別な家のようだ。ちょっと鈍いというか天然さんで、その見た目とのギャップが可愛らしい人。のんびりとした人なんだけど、医術に関しては国トップレベル。故に、何かあった時のために、王宮に住み込みで典医として働いている。血を見ても動揺しないし、それが、また、普段の彼に結びつかないくらいに頼もしくて、これまた、ギャップ。私は、この人が1番お気に入りかもしれない。ちなみに、彼は21歳で、ヒロインとは7歳も違う。彼が攻略対象者の中で最年長だ。
 彼には、うるさくないくらいに無邪気に接し、のんびりと一緒の時間を過ごすことで、穏やかにお互いの気持ちを育んでいくことになる。なんだか、可愛らしい老夫婦を見ている気分で癒された。確か、難易度は、1番低かったはず。

 次に、次期宰相であり、公爵家の嫡男のアレシャンドレ。通称、アレン。泣く子もちびる強面であるが、年は14歳で――実際、絵を見ても、どうも、14歳に見えないのだけど――ヒロインと同い年。攻略対象者の中で最年少。将来の宰相というお堅そうな役職名なのにもかかわらず、結構、適当な男だ。それでいいのか、次期宰相。自由と平和と楽を愛していると堂々と言ってのけてしまう男なのである。その理由は、幼少期、実は、元々は、彼は嫡男ではなかったから、ある程度自由に生活ができ、お兄さんが死んでしまったことで自由のない生活をいきなり送るハメになったため、そのせいで、そんなことを公言してやまないのだとか。いきなり、当たり前にあったものを取り上げられてしまうとそうもなるか。
 この子に関しては、ちゃんと仕事せぇと促し、時に褒め、相談に乗り、寄り添う姿勢を見せる。すると、傍にあるものが1番大切なんだということに、徐々に気付いていく。はじめは、完全に友達か兄弟みたいな感じだから、はじめの方で、ちらりと男の影っぽいものを感じさせる言動をとらないと女として見てもらえない。はじめは、ソレに気付けなかった。だって、普通、男の影をちらつかせるとか、好感度下がりそうなイメージじゃん。そんなのわかんないよ。……まあ、実際、最後の方で、ソレをやっちゃうと愛想つかされちゃうんだけど。

 で、その次は、近衛騎士であるイオアネス。彼は、この国の王太子様の乳兄弟――あ、乳母の子供ってことね。だから、兄弟みたいに育ったんだって――でもある。爽やかな、現代風に言えばスポーツ少年を連想させる、好青年然とした男である。王太子至上主義なのを除けば、今までのメンバーの中で、1番まともというか、人間がよくできた人だと思う。超紳士だし。気遣いできるし。ただ、話の7、8割が王太子様のお話。まあ、自分のお母さんが乳母だったから、きっと、そのお母さんの影響なんじゃないかなって思う。今まで、彼は、王太子を優先しすぎて、せっかくいい感じの関係になった女の人とも、すぐに、ダメになるらしい。だけど、彼は、そこそこのお家柄でありながら、両親が政略結婚を強要するでもないから、恋愛結婚をしたいと夢を見ている。彼が目の前の現れたら、“それは、諦めろ”と言ってやりたいところだ。
 彼は、超紳士的だと言うのに、仕事――王太子のことに関しては、一切、妥協ナシ、彼が最優先という態度を意地でも貫くためか、どこか、亭主関白っぽい雰囲気を感じる。うーん……意思が強い、のかなぁ……。そんな彼を支える姿勢を取ればいいんだけど……この人の何が難しいかって、会話の選択である。彼の言葉に対して、画面に出てくる選択肢の中から選択して答えなきゃいけないんだけど、王太子至上主義な彼に対して、王太子の悪口や不平を言うなんてもってのほか――そうでなくとも、実際の世界なら、“不敬だ”って首切られそうだと思うんだけど。なんで、そんな選択肢が……と目を疑うものもある――だが、悪口のつもりで選んだ選択肢でないのに、彼には、どう取られてしまったのか、怒らせてしまうのだ。ある意味、難しい人だった。そして、この人が唯一、このゲームでの残念男子だと思う。

 そして、最後が王太子のアリス。なんで、こんな女の子みたいな名前を付けたのかはイマイチ理解できない。このゲームの公式ホームページを見たら、密かに、端の方にちらっと、アリスの名前については、そういうツッコミをちらほらといただくと書いてあり、このゲームの登場人物の名前は、ギリシャ名を意識してつけたと語っている。なぜギリシャだったのかには言及していない。本当に、謎。
 まあ、その話は、結局、いくら考えても答えは出てこないので置いておこう。
 で、彼は、中性的な容姿をしている。典医のラザロス程の女性らしさっていうか、そういうものはなく、綺麗でありながらも、逞しい印象だ。しかしながら、極上なのは容姿だけであり、その他――頭の良さや剣の腕などをはじめとする色んな能力や、王としての器など、本当に色んなこと。容姿以外の全てと言ってもいい――が並み、ないし、並みよりも少しできる方かな、と言うレベルの、意外と普通な人なのである。別に、普通であっても、普通レベルのことができればなんの問題もないだろうから、十分だと思うんだけど、婚約者があまりにも優秀な人だったのがマズかった。幼少期から彼女と比べられて育つハメになる。そのため、自分にとても厳しい人に育った。能力が並み程のものしかないということに強烈なまでのコンプレックスを抱いており、自分の失敗を赦せない・受け入れることができないらしい。なんだか、これ以上いくと、自傷行為まがいの言動になっちゃうんじゃないかと思えるようなシーンまであって、自分に厳しいにも程があるだろうと、本当にこんな人がいたら、心底、心配してしまうような人だ。
 この人の攻略は、1番難しかった。王太子と言うからにも、この人がこのゲームのメインヒーローだったんだけど、なんか……確かに、リアルだな、おい、と感心さえもしてしまうのである。こちらが優しく接したり、甘やかしすぎると、彼自身が自分をそれ以上に、痛めつけるようなことになり、逆に、キツク当たり過ぎると、それもそれで距離が縮まらないという……。バランスよく両方が必要なのだ。どちらかというと、理論的に、彼が納得できるように理由付けした言葉をかけてあげる必要がある。……確かに、あまりにも彼の自分に対する認識が偏り過ぎているのはわかるから、リアルに考えても、その考え方から変えてあげなきゃいけない、それは違うってはっきりと言うことが必要なのはわかる。
 最終的には、お互いが相手に対等に言いたいことが言える関係・持ちつ持たれつな関係をつくらなければならない。それは、同じ職場で働くパートナーとしても、長くうまく夫婦としてやっていくことを考えた時にも、1番理想な夫婦の形なんじゃないかなぁと思う。

 このゲームの何が好きかっていうと、みんなリアルなのだ。本当に、どこかにいそうなくらい、ちゃんと人間として成立している。ただの1キャラクターに見えないというところだ。
 私は、乙女ゲームに萌えとかを追求しているわけじゃない。もちろん、ゲームのスチルは綺麗で好きだ。綺麗な絵は眺めていても飽きない。ただ、私の場合は、恋愛シュミレーションというよりも、ひとつの読み物、物語として楽しんでいる面が強い。だから、作りこまれた人間性に惹かれたのだろうと思う。
 1番好きなキャラはラザロスなんだけど、やっぱり、メインのアリスの物語が1番いい。ネットでの評判通りだ。当て馬的存在がいるのもアリスだけで、もちろん、その当て馬というのは、さっき、ちらっと出てきた優秀な婚約者のことである。他の攻略対象者に関しては、当て馬は存在しないものの、我儘で無茶苦茶な王太子の婚約者――彼女は優秀ではあったものの、性格がよろしくないとされていた。確かに、やることは、清々しいまでの悪役だった――の余波というか……彼女が何かやらかしたり、彼女に無茶ぶりをされたりで、それが恋の妨害となるのである。

 でも、その婚約者、ディアンテお嬢様にも、色々あるような片鱗が最後の最後で見えた。アリスの攻略が完了して、最後のシナリオ。アリスが“婚約破棄をしてほしい。国王陛下にも、侯爵殿にも私の方から頭を下げる”と、彼女に向かって頭を下げたシーンでのこと。
 彼女は、恨めしそうにアリスを睨み付けて、泣きながら怒鳴ったのだ。“なんで、頭を下げるのですか。王族ともあろうお方が。お前は最低な女だと罵ってくださった方がマシです”と。“何が1番残酷か。それは、無関心ですわ。貴方は、最後まで、私に対して何も――本当に、何も仰らなかった。罵ることも、諫めることも、本当に何も……。ただ、その冷たい目で私を見るだけでした。私は、どうしたらよかったのですか? どうすれば、愛されたのですか。…………結局は、みんな、そうですわ”と、最後には、厳しい表情で、どこか遠いところを睨んでいた。別に、ソレは、攻略対象者とのシーンでもなんでもないのに、唯一、そのシーンだけが、攻略対象者が誰1人として入っていないスチルとして描かれていた。とても、心に響いた。
 きっと、それは、アリスだけに向けたものではなく、まわりの大人やその他大勢の人に向けられたものではなかったか。構ってほしくて、愛されたくて……彼女の悪行も、全て、そこからきていたものなのではないかと想像させるものがあった。

 悪役の1人にもドラマがある。当たり前のことだけど、それは、ゲームや創作の世界においては、ついつい、忘れてしまいがちになってしまうものだ。
 このゲームは、それさえ忘れず、ちゃんと、最後に突き付けてくる。……なんだか、“ああ、あなたも苦しかったんだね。嫌いだなんて思ってごめんね”と言ってあげたくなった。



 ――――って、アレ?

 待って。ラストシナリオ? ってことは、終わり? 私、アリス攻略完了した? ゲーム制覇?
 ……待って。あんなに、アリスには苦労させられたっていうのに、結局、どうやってクリアしたか、過程を覚えてないよ……! っていうか、ところどころ、記憶が定かではないんだけど……!
 ……ああ、また、後で、落ち着いたらやり直そう。



「――――あーあ」



 あーあ……。……あーあ。

 あーあ…………!


 とても、泣きたい気分だ。しかし、なんだか、実感もわかない。そして、泣いてしまったら、そこで、実感してしまいそうで怖かったりもする。

 ゲームをぽーんとベッドに放り投げ、私の体も後を追うように、ベッドに倒れ込む。腕を目元に当てると、当然のように堅い布が顔に触れた。……そういえば、制服のままだった。ほんと、何やってんだよ、私。シワになっちゃうよ……。


 なんで、日曜日に制服を着ているのか。
 部活じゃない。私、帰宅部だし。

 今日は、友達のお葬式だったのだ。



 お葬式……あの子が死んだと聞かされた時、私は、耳を疑った。
 あの子は、私と同じく物語というものが大好きで、むしろ、愛しているような節さえあった。……だからといって、メガネに三つ編みのダサ子を想像してもらっちゃ困る。美女だとかアイドル並みの可愛さではないけど、童顔で愛嬌がある可愛らしい子だ。完全なる癒し要員である。のんびりした子だから、クラスで中心になっているグループの子ではなく、教室の端で私たちと一緒にのんびりしているような子だったけど、時折、派手な子たちからも、餌付けのようにお菓子をもらっては、にこにこと可愛らしく愛嬌を振りまいていた。
 うちの学校自体、陰険なイジメとか嫌がらせみたいな幼稚なことはないので、実は、裏で……とかもなく、本当にみんなに可愛がられる子だったと思う。

 しかし、死因は自殺だと言われている。
 あの子が学校に来なかったから、私たちは、あの子の家にプリントを届けに行ったんだけど、“学校にも行っていないのか”と、あの子のお母さんがびっくりしていた。話を聞けば、昨日から帰っていないらしい。“いつまで、出歩いてるんだ”と怒りのメールもしたらしいけど返信がなく、“まさか、学校にも行ってないとは……じゃあ、あの子は、今、どこにいる?”と、あの子のお母さんは、そこで、ようやく、危機感をおぼえた様子だった。もちろん、私たちは知らない。そして、学校の中では、私たちが1番あの子と仲がいいと思うから、誰かの所に転がり込んでいるとしても、学校関連の人でない可能性が高いかもしれない。最悪、なんらかの事件に巻き込まれた可能性も否定できない。あの子のお母さんは、明日まで待っても帰ってこなかったら、警察にも相談してみると言っていたけど……。
 確かに、いつか、あの子の家は放任主義だと聞いたこともあるような気もするんだけど、これは、ちょっとひどくないだろうか。少し、あの子の弟くんたちの扱いも心配になった。


 そして、その翌日だった。あの子の死体が発見されたというのは。

 諸々のことから鑑みて、亡くなったのは、あの子がいなくなった日の夕方。なぜ、死体の発見が遅れたかと言うと、亡くなった場所が原因だった。全く、人が通らないのだ。


 警察も色々と調べてくれたみたいだけど、結局、事件性は見当たらなかったそうだ。となると、自殺だろう。おそらくは、ビルからの飛び降り自殺ではないかと推測された。
 そして、そうなると、今度は、まわりの人間に聞き込みが始まる。しかし、みんなは一貫して答えた。“あの子は、本当にいい子だった”と。それは、あの子のまわりが、ひとつの例外もなくそうだった。あの子のことを話しながら泣く子もいた。癒し系なあの子は、女子にも好かれていたけど、当然の如く、あの子に恋心を持つ男子もいた。それは、知っていたけど、クラスのムードメーカーで、男女共に、そこそこ人気のある西名くんが泣いていたのは衝撃的だった。

 そして、結局、あの子がなんで、“死”という選択肢を取ってしまったのか、全くわからなかった。こうではないかという憶測すら立てることもできなかった。
 だけど、もしかしたら、それは、知られるのをあの子は望んでいなかったからじゃないのか。だから、遺書も何もないのではないか。そんなことを言った子もいた。本当にそうであったなら、うまく隠したものだと苦笑いしてしまう。



 あの子は、そういえば、本当に、不思議な子だった。


 誰にでも好かれるような、のほほんとした癒し系。小動物のような愛らしさ。しかし、それと同時に、野生動物のような落ち着きのなさというか、活発さも見せた。そして、物事に熱中するとすごいという面も持っており、いつもは、自分から積極的にクラスの中心に行くことはないのに、行事にはすごく燃える子だった。癒し系で守ってあげたくなるような可愛らしさとのギャップにやられたと語ったのは西名くんである。1年も片思いかぁ……なかなか、告白できなかったとは、彼も意外と奥手である。まあ、それは、さておき、あの子は器用貧乏だと自称するように、たいていの物事はこなしてしまうことができるため、みんなが頼ってしまうのも要因のひとつだ。
 そして、時たま、大人びた顔も見せた。そう、本当に唐突にだ。どこか、遠くを見る。何を考えているのかわからない顔で。なんだか、一気に、どこか遠くの人に感じられて、でも、触っちゃいけないような繊細さもあって、そんな顔のあの子には、私は、1度も話しかけることができないままとなった。しかし、その顔を知っている子は、驚くほどに少なかった。うちのクラスでは西名くんだけだった。だてに、1年片思いしていない。西名くんも、みんながあの顔を知らないことに驚いていて“あの顔を見たから、守ってあげたいと思うんじゃないの?”と首を傾げていた。

 なんだか、みんなで懐かしむようにあの子のことを話していると、どうも、“大人びた顔”のことをはじめ、引っ掛かる点がいくつか出てきた。
 癒し系だ、マスコット系だと思っていたけど、実は、ミステリアスな不思議ちゃんだったのか……。


 最後に、西名くんが難しそうな顔で言った。
 “結局、あの子は、何をどう思っていたのかわからないね”と。

 その通りだ。あまり、あの子は、自分のことを語らない。だから、私たちも、とある一面しか知らない。だから、全部の面が繋がらず、あの子のことを一言で表すことができない。



 もしかしたら、と私は思う。

 もしかしたら、あの子は、思い返してみれば、理論的におかしいということははっきり言ったけど、それは、あの子の言葉を聞けば、こちらがおかしかったんだと納得できたし、素直に自分を正せ、謝れた。しかし、自分の心情から、感情的に何かを訴えたことはなかったかもしれない。正しい理論をかざし、自我を通さない。だから、あの子は“イイ子”だったのではないかと。


 一体、あの子の心は、どこにあったのだろうか。
 実は、ずっと、独りだったのではないだろうか。
 あの子の心に寄り添える人は、いたのだろうか。



 ……なんで、さっさと告白して、あの子のことを支えて、寄り添ってやらなかったのよ、と西名くんを恨むことは八つ当たりだろう。



 私は、腕で覆って暗くした視界のまま、ため息をついた。じわり、涙がブレザーに吸い取られていく。

 あーあ……。
 泣いちゃったよ、もう……。



 あの子の心が、知りたい。





ご愛読、ありがとうございました。
多くの閲覧、ブクマ、感想、評価など、ありがとうございました。ここまで人目に触れる作品になるとは、思ってもみませんでした。少し調子に乗り過ぎて書きすぎた感じもしますが、お付き合いくださった方、本当にありがとうございます。

番外編も満足に書けたので、この作品は、番外編も含めて、ここまでにさせていただこうと思います。
ちょっと、重たすぎだけど、等身大な女の子が書けて満足です。本当に、ありがとうございます。


……うん? フィービくん? だって、ディアンテとは接点がなさすぎるんだもの。


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