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悪役令嬢はメンヘラです。 作者:ろな
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短編。思い付きです。流行に乗ってやりましたぜ。
題材が題材なので、全体を通して鬱です。主人公が。






 ぐっと、意識が浮上するのが自分でもわかった。

 眠りから覚める時特有の、あの不思議でいて、絶対に抗えない感覚。


 ――そして、私は、無事、目を覚ました。



 無事に、瞼を持ちあげることに成功してしまった私は、何が何だかわからなかった。――まあ、それも、たった一瞬だけのことだったんだけど。



 気分を悪くしたりせず、聞いてほしい。……ちなみに、私は、とてつもなく脆弱な精神の持ち主なので、次の言葉を聞いて引いてしまった方は、何も言わずに、私のことなんて忘れてほしい。これは、かなり切実なお願いだ。頼みますから、こんな私に、攻撃的な言葉を向けないでください。なんでもない顔をするという技術も必要にかられて身に着けてはみたものの、やはり、中身は脆弱な上に、私は、今、これまでにないくらいに弱っている。元々、脆弱な上に、これまでにないくらい弱っているのである。全く、救いようのない事態である。

 えー……問題の言葉を告げましょう。何か思うところがあっても、心の中にとどめておいてください。


 私は、臆病者なのです。

 ……いや、この言葉だと生温いか。
 端的に言おう。私は、メンヘラだ。



 私は、私という人間が1番大嫌いであり、1番可愛いのだ。
 しかし、人間の大多数が――というか、全てだと内心思っているのだけど――自分が可愛いに違いないと思う。他人が自分を可愛がるのは、私に被害がない限り、一向に構わない。むしろ、当然のことだとさえ思える。しかし、自分がそうであることは許せないのである。
 そして、私は、私が脆弱であるということも許してあげられない。メンヘラであるということも認めたくない。……しかし、残念ながら、客観的に見た時、メンヘラという枠のギリギリ下辺りに自分は属しているんだろうと思う。

 私は、自分が持っている負の部分の全てを許してあげられないという難儀な性質であった。

 そして、その根本には、異常に人目を気にしてしまうという性質がある。被害妄想というヤツであり、人間不信というヤツであり、これらのことから、イイ子ちゃんであり、憎めない天然ちゃんを演じるようになり、次第に、自分を見失っていった。不思議なことに、今、本当に楽しくて笑っているのか、演技で笑っているのか……そういったことがわからなくなっていったのだ。
 結果、まともに機能しなくなった感情と、いつも“最善の回答”しか弾き出せなくなった私は、私という存在が信じられなくなり、その事実が怖くなり、痛覚という、絶対に嘘がつけない感覚に逃げた。自傷行為とか言うヤツだ。


 まあ、こんな感じに、どんどんとおかしくなっていき――完全に疲れ果ててしまった私は、偶然に見つけてしまった人気もない廃ビルが、偶然、屋上まで解放されていたのをいいことに、飛び降りた。
 どこからって? もちろん、その廃ビルの屋上からだ。



 ――しかしながら、私は目を覚ました。



 …………だがしかし、だ。
 あのビルは、8階建て。廃ビルとあって、誰も使っていないからか、エレベーターも動かなかったために、自分の足で苦労して階段を上ったのだから間違いない。となると、屋上は9階ほどの高さがあったわけだ。
 何事にも絶対というものはない。ないけど、少なくとも、飛び降りればただではすまない高さであることは間違いない。
 万が一、億が一、再び目を覚ますようなことがあっても、そこは、病院の1室であろうことは確定だと思う。

 ――しかし、私が寝かされているのは、病院のような無機質でシンプルなところではないのだ。
 まず、天蓋付きのベッド。可愛らしい暖色系の小花柄の天蓋である。……もう、ここからして、あり得ないよね。そして、その向こう側は広い空間が広がっていて、オシャレでありながら、女の子が好みそうな可愛らしいインテリアや小物、ぬいぐるみなんかがあったりする。
 完全な私のイメージだけど、なんだか、高級ホテルのスイートルームを可愛らしい女の子好みの内装に飾り付けたような……まあ、スイートルームも高級ホテルも泊まったことなんてないから、完全なるイメージでしかないんだけど……ようは、とてつもなく高級そうなお部屋なわけである。そして、もうひとつ、勝手なイメージを語らせていただくと、この部屋の主は、ぶりっ子全開の女の子、もしくは、幼い女の子……どっちにしても、お嬢様に違いないと思う。

 わけがわからなくて、首を動かして観察していた私は、全く痛みがないもんだから、自分の体の状態を確認すると同時に、痛覚に対する刺激を受けたいがために、ゆっくりと体を順番に動かしてみた。


 ――しかし、どこも痛くない。それに、普通に動く。

 もしや、死後の世界にでも来たか、さもなくば、幽霊にでもなったかと、自分の腕を試しにつねってみると、普通に痛覚があることがわかった。……体が透明でもなければ、すり抜けたりもしない。


 …………ん?
 待って。

 ……私は、違和感に気付いた。気付いてしまった。
 なんだか、私の手が、私の手じゃないみたい。具体的に言うと、ふくふくしていて小さい。


 嫌な予感がした。


 一体、私の知らないうちに何があったんだろうかと頭を抱えると、ぼんやりと、私は知らない……見たことのないはずの光景が瞼の裏を、眼球の奥を走ったような感覚に陥った。

 …………なんとなく、事態が飲み込めてしまい、ゆっくりとベッドを抜け出し、小さくなってしまった足に驚きつつも、顔を引きつらせながら床に足をつき、部屋の中にある姿見の方へ、恐る恐る足を進めた。
 そして、ソレを見た瞬間、私は、足元から崩れ落ちた。


 そこには、銀髪碧眼の幼女が映っていたのだ。



 ……ああ、神よ。あんまりだ。

 もしや、命を粗末にしてしまった私に対する罰だとでも仰るのか。


 屋上から飛び降りる直前の、泣き喚いてしまいたいくらいの、しかし、はっきりとした理由のない虚無感ややるせなさ……そして、屋上から見渡した景色に対する眩暈と迷子になってしまったかのような心細さ……飛び降りた瞬間の胃が縮むような感覚と、ふと、気付いてしまった、この後の自分の死体の悲惨さに対する吐き気。

 そんなもの全てを、楽になってしまいたいがために我慢したのだ。しかし、私は、終わりを手に入れることができず、こうやって、幼女の姿になってしまっている。
 楽になるどころか、むしろ、残された寿命が伸びたのではなかろうか。あんまりだ。


 別に、前世の記憶さえなければ、転生しようが一向に構わない。私の問題は、幼少期からの経験であり、記憶なのだから、記憶さえなくしてしまえれば、楽に生きることができたはず。

 ……あんまりだ。


 だってさ、さっき、眼球の奥に走った記憶によると、記憶が蘇る前の私は、結構……いや、かなり好き勝手に生きていたというか……もっと言うと、かなり自分勝手であり、傲慢であり、理不尽な幼女で、幼女でありながら、典型的な嫌われ女王のような嫌な女であった。稀に見る悪女である。まだ、幼いのに。
 確かに、まわりにとっては、たまったものではなく、誰にでも嫌われていたし、上辺だけの笑顔で接されているのは一目瞭然だった。しかし、そんなこと歯牙にもかけない様子の過去の私は、私自身にとって、とても幸せなものであっただろう。完全に、悪女な自分の人生を謳歌していた。まだ、幼いのに。

 いつか、自分の行動のせいでしっぺ返しをくらうなどとは露ほども思わず、それはそれは、バカでめでたい思考の幼女であった。……まだ、幼いんだから仕方ない、という言葉で片付けてはいけないレベルの言動をとっていたのだ、私は。
 しかし、前世の私は、超小心者だ。いいことをすれば自分に返ってくるし、逆もしかり、という言葉は強ち間違いではないと思っている私。


 ……今までの私が、やってきたことがもたらす結果が、とんでもなく恐ろしいのだ。
 それに、使用人たちにも無茶苦茶な要求をしたり、理不尽な言動をしたりしていたもんだから、これから、私に向けられることになるであろう視線や言葉がとんでもなく怖い。

 もし、人格が入れ替わってしまっただけであれば、さっさと、元の人格と入れ替わってほしい。しかし、ただ、記憶を思い出したというだけで、これまでの私も私には違いないのだとしたら?



 ……死にたい。死にたいです。超死にたいです。



 …………ああ、使用人ってなんのことかって?

 私、どうも、侯爵家の長女みたいです。一人娘みたいです。



 ……でさぁ、なんか、嫌な予感がしませんか?

 転生・前世の記憶持ち、侯爵家のご令嬢、救いようのない性悪な嫌われ者、……そして、王太子さまの婚約者。


 ええ、そう。私、王太子さまの婚約者なんですって。

 一応、そのための王妃教育は頑張っていました。意外と、未来の王妃という責任というか、重要性というか、その辺は理解していたようで、きちんとやらなければならないという自覚はあったみたいです。
 ちなみに、王妃という立場に対する責任はありましたが、王太子自身に対しては、恋心どころか、敬愛という感情すらなく――王太子さまは、とても整った容姿ですが、自分ほどのものではないと過信しており、そんな自分の魅力に振り向かない王太子さまが憎くすらあったようです。ほんと、とんでもない幼女だ――しかし、王太子の心を射止め、将来、公の場ではもちろん、プライベートでも心身共に支えるというのも王妃の役目であると教わったがために、なんとか王太子さまを振り向かせてみせようと躍起になり、結果、空回り。っていうか、言動が的外れというか、やることなすこと悪い結果にしかならず、王太子さまにはとんでもなく嫌われている。しかしながら、それに気付かなかった私は、手法を変えるでもなく、さらに王太子さまに迫り、状況を悪化させるという……。

 ほんっと、恐ろしいわ。王太子さまになんて会いたくないよぉ……。


 ……ああ、話がズレた。いや、嘆くことがたくさんありすぎて……。

 私はさ、前世で自分の精神を守る方法として、自分にはまだ、しっかりとした感覚があるのだと確認するために自傷行為をしていたという話をしたと思う。
 しかし、精神を守るための方法は、もうひとつあった。物語の世界に入り浸り、現実逃避をするという方法である。始めは、書籍から入った。漫画も読むことには読んだけど、文字だけの方が色々と妄想も広がりやすかったために、小説の方を特に好んだ。結果、一般的な文庫本であれば、3時間あれば読破できるという、私にとっては、嬉しくないスキルを取得してしまったのである。
 何がよろしくなかったかというと、本に費やすお金がかかりすぎること。そして、しょっちゅう図書館に足を運ぶことが面倒だったこと。しかも、図書館にはハードカバーの本が多く、持ち歩きに不便だった。かさばる上に重い。

 そして、そんな私は、ネット小説(無料かつ、かさばらない)に出会うこととなる。……うん、長々とした前置きに付き合ってくださった方、ありがとうございます。正直、何が言いたいんだよって途中でウザがられやしなかったかと……あ、いや、この発言自体が鬱陶しいですよね。ごめんなさい、控えます。

 ……あ、で、ですね。
 書籍にネット小説にと、とにかく、漁り読んだ私。最後にハマっていたのが、転生もしくは、憑依の悪役令嬢物語。
 簡潔に述べると、乙女ゲームや恋愛小説の世界に、ヒロインの当て馬として、転生なり、悪役令嬢の人格と入れ替わる――憑依ってのがコレだよね――が、その悪役令嬢っていうのが、悪役としての働きのせいで、最後は、転落人生が待っているというのがわかりきっているのだ。悪役令嬢になってしまった主人公が、前世の知識をフル活用し、なんとかハッピーエンドに持ち込む……というのが王道だったりする。

 初めて読んだ時は、なかなかに面白い発想だと感心したし、同じような題材を書いている人も多く、その中に、色々と自分なりのアレンジを加えているもんだから、そのアイデアを見ていくのも面白かった。


 ……ちょっと、語りすぎてしまいましたが。
 思い出してもらえますか? 私の現状を。置かれている環境を。

 似ていませんか?
 王道な悪役令嬢物語の主人公に。


 だって、どう見たって、少し前までの私は、悪役令嬢の名を冠するに相応しい幼女であり、婚約者も極上で、ヒロインのお相手に相応しいお人。

 ……え?
 お前が主人公なんだから、王道悪役令嬢物語の展開に進めばいいだろうって?


 ……残念ながら、私、ゲームの類には一切食指が動かず、やったこともありませんでしたし、正直、悪役令嬢物語を読むまで、あからさまなまでな悪役が登場するような恋愛小説を避けておりましたので、9割の確率で、この世界は私の知らない世界であると断言できます。よって、原作知識によるチートなんて無理です。
 しかも、元の性格もよろしくありませんので、今までの事が取り戻せるだなんて傲慢で烏滸がましい期待など、間違ってもできません。

 何より、目が覚めた瞬間に、心が折れ、現状を把握した瞬間には、粉々に粉砕しました。
 無理です。アレです。無理ゲーとか言うヤツです。


 頭が痛い。
 胸焼けが……いや、胃が荒れてるのかな。あはは。



 …………吐く!





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