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ドナルド・トランプはヒトラーと同じデマゴーグ【前編】

The Rhetorical Brilliance of Trump the Demagogue

2016年1月26日(火)18時54分
ジェニファー・マルシエカ(テキサスA&M大学コミュニケーション学教授)

 トランプは遊説で、自分が大統領にふさわしいことを証明するために、タフなビジネスマンとしてのペルソナを強調している。これは、ソーシャルメディアと長年のテレビ出演を通じて作られたものだ。そのペルソナは束縛を拒絶する。トランプは、所属する共和党にも、メディアにも、ほかの候補にも、政治的公正にも、事実にも、まさにあらゆるものに縛られていないと語る。ある意味、制御不能な指導者としての自分を、自ら演出しているのだ。

敵対者は人身攻撃

 ほとんどの有権者は、「制御不能な大統領」を望まないだろう。ではなぜ、これほど多くの人たちがトランプを支持し続けているのだろう。

 まず彼は、「アメリカ例外論」という神話を利用している。トランプは、アメリカを世界一の希望として描き出す。世界唯一の選ばれし国だ。そしてトランプの判断はすべて、アメリカを偉大な国にすることに向けられる。自分をアメリカという例外的な国に結びつける一方で、自分を悪く言う者を「弱虫」「でくの坊」などと呼ぶことで、批判者たちを、米国の「偉大さ」を信じず、またそれに貢献することもしない人物だと決めつけることができる。

 次にトランプは、疑問を向けられ、コーナーに追い込まれないようにするため、論理的に間違った、あつれきを生む修辞技法を使う。

 例えば、大衆に訴えかけやすい「多数論証」を駆使することが多い(例:「世論調査が示している」「我々はあらゆるところで勝利している」)。

 対立候補がトランプの考えや立場に異議を唱えると、トランプは、議論する代わりに人身攻撃、すなわち相手の人格を批判する(典型的な批判は「でくの坊」「弱虫」「退屈」)。

 最も悪名高いのは、共和党の最初の討論後の世論調査で支持が高まり始めた米コンピューター大手ヒューレット・パッカードの元CEO、カーリー・フィオリーナの外見を嘲笑したことだろう「あの顔を見ろ!」「あんな顔に投票するやつがいるか? 次の大統領の顔だなんて信じられるか?」

 最後に、トランプの演説は「脅迫論証」、すなわち「威力に訴える論証」がちりばめられていることが多い(「私に刃向かう者はボロボロになる」)。

後編へ続く)

Jennifer Mercieca, Associate Professor of Communication and Director of the Aggie Agora, Texas A&M University

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.

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