先日、娘から漢字ノートが使い終わったので買ってきてほしいと頼まれたため、、私は昔ながらの文具店で84字の漢字ノートを購入した。
今朝、娘がその漢字ノートに名前を書いてほしいと頼んできた。「自分でも書けるけど、上手く書けないからできるだけ上手に書いて欲しい」と娘は言った。
私は引出しにあったマッキーケア極細を取り出した。久しく使っていなかったマッキーケア極細であったため、インクが出るか一瞬、不安になった。
「ちょっと、こっちにきてよ」
私は近くにいた息子に声をかけた。息子は「なに?」と言いながら近づいてきた。
「手をパッと開いてみてよ。パッと!」
私は自分の手の甲を天井へ向けた状態で、これでもか!ってぐらいに開いてみせた。息子は同じように手のひらを開いてみせた。それを確認すると、私は手に持っていたマッキーケア極細を息子の手の甲に近づけた。
「わっ、何するの!」
「キミは今日、ほくろがひとつ増えました」
「なに言ってんの!」
「ですから、ほくろが増えたのです。おかげでこのマッキーケア極細のインクが良く出ることがわかりました。ありがとうございます。」
「もう……お母さん、相変わらず……」
あいかわらずの先の言葉はいったいなんだったのであろう。
各自、好きな言葉を当てはめて読んでくれると良いと思う。
私にはまったく見当がつかないが。
さて。
インクが出ることを確認したマッキーケア極細を持った私は漢字ノートの表紙にある「なまえ」の欄に娘の名前を書き始めた。そこで思わぬハプニングに遭遇した。マッキーケア極細を持った私の手、正しくはマッキーケア極細に沿えた私の右手中指が真っ黒になっていたのである。
「うわっ!」
私の声に反応した娘と息子が事態を察し「うわー、ひどいわー」と言った。マッキーケア極細は詰め替えタイプのため、強く振ったり落としたりするとインクがもれたりするらしいと後から調べて知ったのだが、私は強く振ってもいないし、落としてもいない。
ではなぜか。
慌てて引き抜いたティッシュでマッキーケア極細と私の中指をぬぐいながらしばらく考えてみたが、答えは見つからなかった。
油性ペンというものは簡単に落ちないようにできているんだと中指を見ながら再確認し、今日は朝からついてないなぁと思った。
けれど、娘の新しい漢字ノートは幸いにもまったく汚れておらず、ピカピカのままだった。
私は娘の名前を汚れた手のまま書き終えた。
ピカピカのノートを持って登校した娘と、ほくろを増やされて登校した息子と、右手中指がインクで汚れたまま出勤した私。
ささいな一日は小さな出来事の積み重ねで形成され、過ぎていくことを私はしみじみ感じたのだった。