これが交通事故だったら、運転者は十分に注意をしていたのか、車はきちんと整備されていたのか、道路の整備に不備はなかったのか、など、原因がしっかりと追究されるだろう。そして、原因に対して誰かが責任をとり、そのような事故の再発をいかにして防止するかが議論されるだろう。
なぜ、学校が舞台になると、「骨折ぐらいは仕方ない。お互いに許して団結しよう」という話になってしまうのだろうか。この教材を見た時、私は、「法とは何なのか」をあらためて真剣に考えなくてはならないと思った。
法的に見ると、つよし君が参加した組体操は、違法の可能性が高い。
学校は一般に、子どもの安全を確保するために十分な配慮をすべき義務(安全配慮義務)を負う。組み体操を実施するならば、十分な監視者を配置し、バランスを崩した子どもがいないかを丁寧に監視し、危険な場所が見つかれば即座に練習を中止する。それだけの体制を整える必要が学校にはある。これは、下級審ではあるが確定した判決が指摘したことだ。
一部の子どもがバランスを崩しただけで骨折者がでる、そんな危険な状況で練習をさせたのであれば、学校の安全配慮義務違反が認定される可能性は高い。民事上の問題として考えるなら、学校が損害賠償を請求されれば責任は免れ得ないだろう。
また、刑事上の問題として考えるなら、注意義務違反によって骨折者が出ているのだから、教員は業務上過失致傷罪に問われてもおかしくない。
事故が起きれば、原因を追究し、責任者を特定する。責任者の行動が、不法行為や犯罪なら、損害賠償義務が発生し、刑罰が科される。どの国でも、法とはそういうものだ。
しかし、この教材は、「困難を乗り越え、組体操を成功させる」という学校内道徳の話に終始する。学校内道徳が、法規範の上位にあるのだ。いや、もっと正確に言えば、学校内道徳が絶対にして唯一の価値とされ、もはや法は眼中にない。法の支配が学校には及んでいないようだ。これは治外法権ではないのか。
学校は治外法権?
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