もともと核家族の親子と、離れて暮らす祖父母の同居を推進したいというのが、この特例の狙いであろう。だが、効果は極めて疑わしく、必要性に欠ける。
たまたま創設されたタイミングで、3世帯同居を始めようと自宅を改修する人はこの特例を利用することはありえるかもしれないが、もともと祖父母と離れて暮らしていた核家族(親と未婚の子の世帯)が同居するとなると、金銭的、物理的、精神的なさまざまな問題が発生する。そのハードルをたった数十万円で乗り越えられる人がどれだけいるのだろう。
そもそも既存の住宅税制には住宅借入金等の特別控除(住宅ローン減税)があり、その特別控除との選択適用で、どちらかしか選ぶことができず、場合によっては従来の住宅借入金等の減税のほうが有利な場合もあるぐらいである。
「子育ては社会がするもの」という政府認識はどこへ
今から10年ほど前、平成17(2005)年版の国民生活白書「子育て世代の意識と調査」の結びにはこのような一文がある。
これを読み解く限り、今から約10年前には「子育ては社会がするもの」という政府の認識があったが、10年が経って今度は「子育ては家族がするもの」というふうに変わったと解釈できる。
昭和中・後期ぐらいまでであれば、子育ても介護も家族という単位でそれを吸収しあえた部分はあった。子育ては母だけがするものでなく、一緒に住んでいる親兄弟も積極的に携わってくれた。むしろそれが家族の当然の役割であったのだろう。また、舅・姑の介護も主として嫁が引き受け、当然のこととしてその最期を看取っていた。このように昔のように、家族に子育ての負担の一部を吸収させようと考えるのだとしたら、無理がある。