人口28人に一台。日本全体がカジノ化──世界のギャンブル機の60%が日本に
国際的にみると、機械としてのパチンコは、イギリスの「フルーツ・マシン」、アメリカの「ゲイミング・マシン」、オーストラリアの「ポキー・マシン」や「ジャックポット・マシン」と呼ばれる、ギャンブル用の電子的ゲーム機械(EGM)のひとつとして扱われている。つまり国内的にどのような政治的文脈(これについては後述)で運用されていようと、国際的にはパチンコは明確にギャンブルである。日本の事情を考慮し、ギャンブル代用物と表現されることもある。
オーストラリアのゲーム機械協会が、最近まとめた『ゲーム機械世界統計2013』を見ると、日本のパチンコ台数は、他の先進国のEGMと比べて飛び抜けて多く、日本全体がカジノ化していることを疑う余地はない。
日本は、EGMの設置数で世界一であるだけではない。2013年の全世界の設置767万3134台のうち、その6割(59.8%)をパチンコが占めている。日本でパチンコがいかに多いかは、機械1台当りの人数でみるとさらにはっきりする。表4のうち、日本を除く上位7位はすべて、カジノを主要産業とする小さな国、もしくは行政区である。機械1台当たりの人口を見ると、日本はマカオの半分(多さでは倍)に近い。日本では、パチンコが日常的な光景のなかにとけ込んでおり、その意味で日本全体はすでに疑似カジノと化している。「先進国では日本でだけカジノが許されていない」と言うのは、まったく事実を見ない表現である。
各国における EGM の設置台数
2013年順位 | 国名 | EGMの数(台) | 行政区 | EGMの数(台) |
---|---|---|---|---|
1 | 日本 | 4,592,036 | 日本 | 4,592,036 |
2 | アメリカ | 889,070 | イタリア | 412,252 |
3 | イタリア | 412,252 | ドイツ | 265,000 |
4 | ドイツ | 265,000 | スペイン | 249,820 |
5 | スペイン | 249,820 | ネバダ州 | 181,109 |
6 | オーストラリア | 198,418 | イギリス | 157,002 |
7 | イギリス | 157,002 | NSW 州(豪) | 95,799 |
8 | カナダ | 97,289 | メキシコ | 90,000 |
9 | メキシコ | 90,000 | ペルー | 76,278 |
10 | ペルー | 76,278 | オクラホマ州 | 69,287 |
(The World Count of Gaming Machines 2013, p.7 を改作)
EGM 1 台当りの人口
国もしくは行政区(*はカジノを主産業とする) | 1台あたりの人口数(人 / 台) | |
---|---|---|
1 | セント・マーチン(カリブ海) | 12 |
2 | モナコ | 26 |
3 | 日本 | 28 |
4 | アルバ(オランダ) | 29 |
5 | マカオ特別区(中国) | 46 |
6 | クラカオ | 65 |
7 | セントキッツ&ネビス | 95 |
8 | オーストラリア | 118 |
9 | 英領ジブラルタル | 132 |
10 | イタリア | 145 |
(The World Count of Gaming Machines 2013, p.10 を改作)
売上24.5兆円、ホール粗利益3.67兆円──パチンコ産業の経済規模
パチンコホール、国内で株式上場が認められていない
れまで、パチンコの産業としての経済規模は、一方では誤解を招きやすい“売上高”という言葉遣いのために過大に評価され、他方ではこの額は過少に算定されてきた。日本のパチンコ産業の実像を見定めようとするとき、株式の上場問題は大きな手掛かりを与えてくれる。
この問題では、パチンコホールとパチンコ機製造のふたつの業種に分けて考えるとよい。パチンコ機製造は、利益率が高く、生産する機械の射幸性(ギャンブル性を意味する行政用語)の限度は、公的な検定(6章を参照)によって厳格にコントロールされている。法律的な疑義は少ないため、いくつかの企業が上場を認められている。パチンコ機製造のSANKYO(東証一部)、パチスロ機製造のセガサミーホールディングス(東証一部)、パチンコ機の企画販売のフィールズ(ジャスダック)などがそれである。これに対して、パチンコホールは上場を認められていない。2006年に、ピーアークホールディングスが、ジャスダックへの上場を計画したのだが、公式見解はないまま取りやめとなった。
このようななか、パチンコホール業界、第二位のダイナムが、2012年に香港市場へ株式の上場を果たした。この上場手続きを経ることによって、これまで公開されなかったパチンコホールの営業形態が明らかになった。ダイナムが、上場審査の過程で繰り返し説明を求められたのは、パチンコの合法性とこれに関する政府(この場合は警察庁)の政策的見解である。仮に政府見解がくつがえる恐れが少しでもあるのなら、投資家保護の観点から問題が生じるからである。
日本では、パチンコホールの売り上げは、貸玉料額とするのが習慣となってきた。ところが海外のカジノは、賭金総額から払戻金を差し引いたもの(業界では粗利益、もしくネットと言う)を売上高としている。パチンコホールにとってこの数字は、どの程度、玉を出しているかを示す営業戦略そのものであり、絶対に外には出さない数字である。だが、パチンコを世界のカジノ産業と比較しようとする場合は、国際基準に合わせる必要がある。当然、ダイナムは香港市場への上場の過程でこの必要に迫られた。その数字が、鮎川良『ダイナム香港上場1年間の軌跡』で明らかにされている。
ダイナムの貸玉料収入と国際会計基準による売上高
2009年 3月期 ( 百万円 ) | 2010年 3月期 ( 百万円 ) | 2011年 3月期 ( 百万円 ) | |
---|---|---|---|
貸玉料収入 | 970,858 | 866,897 | 864,595 |
ネット売上高 | 158,543 | 165,236 | 168,884 |
経常利益 | 32,650 | 31,907 | 27,503 |
当期利益 | 6,647 | 12,490 | 13,646 |
国際会計基準 による売上高 (粗利益率) |
158,394 (16.3%) |
165,461 (18.6%) |
169,637 (19.6%) |
経常利益 | 35,055 | 34,574 | 29,007 |
当期利益 | 28,005 | 20,214 | 16,192 |
(鮎川良『ダイナム香港上場1年間の軌跡』、2012,p.193を改作)
これによると、「売り上げ」と言われている貸玉料額は、2011年度は8646億円であった。これに対して、国際会計基準によるネット売り上げは1696億円である。この数字は貸玉料の16~19%に相当し、うわさされていた客への還元率とほぼ合致する。2011年度から2013年までの3年分からも、全体の売り上げが減る一方で、パチンコ機の価格上昇など経費の増加を埋めわせるために、還元率を絞って(つまり客はかつてのようには儲からない)、利益を出す方向をとっているのを見てとることができる。
ピークは2005年の34.9兆円。売上額(貸玉料)を上方修正
一時期、「パチンコ産業30兆円」と言われたことがある。これは、公益財団法人・日本生産性本部編『レジャー白書』にある数値が、1990年代中期に30兆円を越えたからである。この時代、医療費総額が30兆円を超えたため、それとの比較でよく引き合いに出されることがあった。
パチンコ産業の規模としては、この『レジャー白書』の数字がよく引用される。しかし、パチンコホールの経営形態は零細なものが大半で、税金対策や経営戦略上の観点から払い戻し率を伏せるなど、不透明な部分が多々あり、全体の数字を把握するのは困難である。そのため、全体額は過小評価になりがちである。
事実、日本生産性本部は2015年7月に『レジャー白書2015』の概要を発表した際に、前年までの数字は過小評価であったことを告白し、同時に過去にさかのぼってデータを大幅に上方修正した。その理由は、2014年12月に発表された総務省統計局の調査の数値が、2012年の遊技場の年間売上高27兆0151億円であったから、と言うのである。これによって、過去の最大売上の値も1996年の30兆9020億円から、2005年の34兆8620億円になり、昨年までとはまるで違うパチンコ産業の光景が描かれることになった。(図2)
一方で、この貸玉料額を、たとえばトヨタ自動車の売上(2014年の連結決算では25兆円)と比較するのはまったく意味がない。異業種間や、国際的に比較をするには少なくとも、国際会計基準による数字を用いるべきである。そこで鍵になるのが、公開されたダイナムのデータである。一般に、パチンコホールの大半は零細で、ダイナムのような高い利益はあげられない。これらを踏まえて、『レジャー白書2015』にある2014年の貸玉料額24兆5000億円に対して、ダイナムより低い粗利益率15%を掛けると、3.67兆円になる。このあたりが、パチンコホール全体の実際の売上高と考えるのが妥当であろう。
EGM。依存症を誘発する技術開発──東芝、ヤマハ、オムロンなどが高いシェア
視覚と音響によって大当りの忘我状態を誘導
新しい技術がギャンブルに用いられるのは必然であり、不可避である。だが多様なギャンブルのなかで、とくに電子的ゲーム機械(EGM)はギャンブル依存症を生み出しやすいという指摘は、1990年代からなされている。最近では、N.ダウリングらが「EGMはギャンブルのコカインか?」という論文のなかで、こう述べている。 「一般的に、EGMは、ギャンブルの中でももっとも“依存症誘発的”であり、病的ギャンブルの原因となることが多い、とされている」。
「コンピュータ・グラフィックを用いたEGMは、デザインの面でも仕掛けの面でも、強烈な画像と音響で刺激するギャンブルへ、一段と変貌した。音響効果は、伝統的な回胴式遊技機(スロットマシンのこと)でも、シグナルや曲の一節や、コインの落下音で入賞を印象づけるために用いられてきた。視角的には、照明・色彩・フラッシュ効果・ゲームの図像学が動員される。これらの視覚や音響の効果は、快感を持続させ、負けたときより勝ったときの高揚感を印象づけ強化するのに駆使される。この状況は、記憶のなかから大勝ちした時の印象だけを選択的に引き出して、将来は大勝ちするかもしれない予想を過大評価するように仕向けるもの、と見てよい。......それらはまた、勝ちを求め続ける姿勢を再強化し、心理的な緊張・心理生理学的な活性化・ギャンブルにいざなう一定の強い刺激、として機能するものである。」(同論文、p.42)
ダウリングらの念頭にあるのは、ポキー・マシンと呼ばれるスロット・マシンである。そしてここで強調しなくてはならないのは、海外のEGMは、基本的に純粋な確率に賭けるものであるのに対し て、パチンコはこれとは違う、異質のEGMである点である。物語性の面白さを前提に、大当りの前兆であることを暗示するサイン(リーチ表示と言う)を強烈な視覚と音響によって繰り返し刺激する。こうして、パチンコを打つ人間を大当たりの忘我状態に置く方向に、技術を動員し機械を開発してきた結果が、今日の光景である。ある意味で、今日の日本のパチンコは、巨大な“ガラパゴス産業”だと言ってよい。
EGMギャンブルの持続可能な未来とは?
『日経ビジネス』2007年12月24-31日号によると、先端的な部品提供として、液晶パネルはシャープや東芝、LEDはスタンレー電気、スピーカーはヤマハ、センサーや管理システムはオムロンが、それぞれ高いシェアを占めている。加えて、パチンコ機製造業界は閉鎖的(1997年に、公正取引委員会から排除勧告が出されたことがある)であり、利益率も高い。 C.リビングストンらは、最近のEGMになればなるほど、勝ちの記憶を刷り込むために先端技術が駆使されており、その結果、依存症誘発の危険性が著しく高められていることを指摘した論文の結論部分で、こう述べている。
「EGMの体系は、消費者、なかでももっとも傷つきやすい市民から財を吸い取ることを目指す権力が操る技術システムの好例である。この形の搾取は、科学の面でも政策の面でも議論の対象になってはいない。EGM業者の側はつねに、本人自身が悲劇のシナリオライターであると言い張ってきた。こういう形で問題が立てられているかぎり、EGMという技術志向の商業システムの未来は安泰となる。
私たちは、EGMの生産やサービスについて、安全で持続可能な消費の形態を描くことはできるとは思う。ただし、安心な消費とは、政府が、EGMにともなう危険を取り除く方向に動いたときに初めて、現実のものとなるのである」。
『疑似カジノ化している日本:ギャンブル依存症はどういうかたちの社会問題か?』の全文はこちらからダウンロードすることができます。
編集部より:随時記事を追加していきます。記事の一覧はカテゴリーページ「擬似カジノ化している日本」をご覧ください。
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