[このポストには「イスラエルと『ピンクウォッシュ』」という2011年のNYタイムズの記事と、New York City Queers Against Israeli Apartheid[イスラエルのアパルトヘイトに反対するニューヨークのクィアの会]が2016年1月20日に発表した公開書簡の翻訳が含まれます。2016年1月に、National LGBTQ Task Forceというアメリカの歴史あるLGBT権利団体がシカゴで開催するCreating Changeという会議の一貫として、A Wider Bridgeという親イスラエルのLGBT団体がレセプションを設けることになっていました。Task Forceは一度はこのレセプションをキャンセルしたのですが、反ユダヤ主義という主張などを受け、キャンセルをとりやめたようです。]
Israel and ‘Pinkwashing’
イスラエルと「ピンクウォッシュ」
Sarah Schulman
2011/11/22
「夢のなかから責任が始まる」とイェイツは1914年に書きました。この言葉は、いま急激な権力との関係の変化を目撃しているLGBTの人々の心情をよく捉えています。何世代もの間の闘いと運動を経て、この世界の一部の同性愛者たちは差別からの保護と関係性の承認を獲得してきました。しかし、これらの変化は、非道な現象の到来させました。西ヨーロッパとイスラエルで、白人の同性愛者たちが反移民、反ムスリムの政治勢力に吸収されているのです。
オランダでは、Geert Wildersのメッセージに魅了された同性愛者たちがいるようです。Wildersは、オランダで三番目に大きな政党であるParty for Freedomのリーダーで、暗殺されたゲイの指導者Pim Fortuynのフォロワーを受け継いでいます。ノルウェーでは、7月に77人を虐殺した過激派のアンネシュ・ベーリン・ブレイヴィークが、自分に影響を与えた人物として、ムスリムの移民に否定的なゲイのアメリカの作家を挙げています。ガーディアン紙は昨年、人種主義的なEnglish Defense Leagueには115名のゲイのメンバーがいると報じています。ドイツのThe German Lesbian and Gay Federationは、ムスリムの移民は同性愛者にとっての敵だというステートメントを発表しました。
移民——大抵の場合、アラブ諸国、南アジア、トルコ、アフリカ出身のムスリムの移民——を「同性愛恐怖症の狂信者」として描くのは、都合よくムスリムのゲイやその周りのアライの人々の存在を無視しています。また、キリスト教原理主義者、ローマ・カトリック教会、ユダヤ教正統派が同性愛者への恐怖や恐れを煽っているということも、都合よく見ないふりをすることになります。ムスリムは同性愛恐怖症の狂信者であるというこの人を馬鹿にしたメッセージは、いまやヨーロッパの排外主義という起源を離れ、長きに亘るイスラエル・パレスチナ問題における道具となりつつあります。
2005年、アメリカのマーケティングの専門家たちの力を借りて、イスラエル政府は18から34歳の男性をターゲットした「イスラエルブランド」のマーケティングキャンペーンを始めました。このキャンペーンは、The Jewish Daily Forwardの報道によれば、イスラエルを「親しみやすくモダンな国」とアピールすることを目指しているようです。政府はその後、ゲイ・コミュニティを利用してイスラエルの国際的なイメージを変えようとマーケティング・プランを拡大しました。
昨年、イスラエルのニュースサイトYnetはテルアヴィヴの観光部門はこの都市を「国際的に知られたゲイのためのバケーションの街」として発信するために9000万ドル規模のキャンペーンを始めたと報じました。観光大臣と海外のイスラエルの領事館に支援されたこのプロモーションは、若い同性カップルのイメージを利用したり、アメリカのレズビアン・ゲイの映画祭で親イスラエル的な映画を上映するのに資金を提供することを含むといいます。(政府だけではありません。イスラエルのポルノの製作者は「イスラエルの男」という映画を、もとはパレスチナの村だった場所を舞台に、撮影しています。)
政府高官もこのようなメッセージを発信しています。5月、首相のベンジャミン・ネタニヤフは、中東は「女性が石打の刑にされ、ゲイが絞首刑にされ、キリスト教徒が迫害される地域だ」と議会に述べたと言います。
イスラエルの占領に反対するグローバルなゲイ運動が登場し、このような戦略を「ピンクウォッシュ」と名づけました。「ピンクウォッシュ」はパレスチナ人への継続的な人権侵害を、イスラエルのゲイ・ライフが象徴する近代的なイメージによって覆い隠そうとする戦略を指します。テルアヴィヴ大学法学部の教授であるAeyal Grossは「ゲイの権利は広報活動の道具になりつつあります」と言います。「保守派、とくに宗教的な政治家たちはいまでも激しく同性愛嫌悪的であるにもかかわらずです。」
ピンクウォッシュは、イスラエルのゲイ・コミュニティがようやく勝ち得てきた成果を巧みに利用するだけでなく、パレスチナ人のゲイ・ライツ団体の存在も無視します。ヨルダン川西岸では、同性愛は1950年代以降、脱犯罪化されています。イギリスの植民地支配のもと押し付けられた反ソドミー法がヨルダンの刑法から取り除かれたとき、パレスチナもそれに続いたのです。より重要な事は、Aswat, Al Qaws, そしてPalestinian Queers for Boycott, Divestment and Sanctionsという3つの団体が登場したことです。これらの団体は、パレスチナ人の抑圧は、セクシュアリティの境界を超えるのだとはっきり指摘しています。Al QawsのディレクターのHaneen Maikayが言うように、「チェックポイントを通るときは、兵士のセクシュアリティなんて関係ありません。」
LGBTとそのアライがピンクウォッシュ——そしてその必然的な結果として、一部の白人の同性愛者たちが自分たちの人種や宗教的アイデンティティを特権視するという、理論家Jasbir K. Puarがいうところの「ホモナショナリズム」——にこんなにも流されやすいのは、ホモフォビアの感情的な遺産のためです。多くの同性愛者たちは様々な形で抑圧を経験してきました。家族、ポップカルチャーのなかでの歪められた表象、最近になってようやく緩和しはじめた構造的な法のもとでの不平等など。ゲイの権利保障が前進するにつれ、一部の善意の人たちが、同性愛への対応によって、その国がどれだけ進歩しているのかをジャッジするようになったのです。
イスラエルについては、同性愛者の兵士の存在とテルアヴィヴの相対的に同性愛にオープンな雰囲気は、人権の指標としては不十分です。アメリカも同様、幾つかの州での同性愛者の権利の拡大は、大量投獄[とりわけ貧困層の黒人を狙い撃ちにして大量に刑務所に投獄しているという問題]のような人権侵害の問題を相殺するわけではありません。長い間求められてきた一部の同性愛者にとっての一部の権利の実現に目がくらみ、ヨーロッパやアメリカでの人種主義との闘いやパレスチナ人が「ホーム」である土地を取り戻すための闘いから目をそらしてしまってはいけません。
Sarah Schulman is a professor of humanities at the College of Staten Island, City University of New York.
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#cancelpinkwashing[ピンクウォッシングに与する会議はキャンセルしろ!]を支持して:”Creating Change”とTask Forceへの公開書簡
2016/1/20
New York City Queers Against Israeli Apartheid[イスラエルのアパルトヘイトに反対するニューヨークのクィアの会]はA Wider Bridge[公式HPには「LGBTコミュニティとイスラエルをつなぐ」とあります。以下AWBとします]がシカゴで開催されるCreating Change 2016会議[National LGBTQ Task Forceが毎年開いている会議]を使ったピンクウォッシュに対し、#cancelpinkwashingと主張して抵抗するLGBTコミュニティの人々と連帯します。
AWBはイスラエルによるパレスチナ占領を「ピンクウォッシュ」し、アメリカのLGBTコミュニティのなかでイスラエルへの支持を集めようとしています。AWBはイスラエル政府とそれを支えるイスラエル・ロビーのフロント団体となり、National LGBTQ Task Forceが一度キャンセルし、その後キャンセルを取りやめたこのイベントの性質について、コミュニティに誤解を広げようとしています。AWBは、AWBが主催する会議参加者のためのレセプションに反対する人たちが、このレセプションの前に行われる予定の安息日の礼拝とレセプションの共催者であるJerusalem Open Houseを攻撃しているのだと言います。
Creating ChangeのSue Hydeと話したアパルトヘイト反対の活動家たちは安息日の礼拝やJOHの参加に反対しているのではなく、レセプションとAWBがこのレセプションを使ってイスラエル政府とイスラエルによる違法なパレスチナ占領への支持をとりつけようとしていることを批判していると明らかにしています。AWBは不誠実にも#cancelpinkwashingのイニシアチブを「反ユダヤ主義」と描きました。AWBの委員であるDana Beyerはハフィントンポストに「National LGBTQ Task Forceがユダヤ人を検閲している」というタイトルの記事を投稿し、そこでTask ForceがAWBのレセプションをキャンセルしようとした最初の決定を「ユダヤ系のLGBTQの人々に対する卑劣な差別行為」と呼びさえしました。
イスラエル政府が、若者やLGBTをターゲットとした「コミュニティ」オーガナイザーたちを使って、積極的にイスラエルをアパルトヘイト国家ではなく、中東のおしゃれな出会いの場というイメージを打ち出そうとしていることはよく知られていることです。このキャンペーンで幾度と無く使われてきた戦術は、見た目上はユダヤ系の文化的なイベントをカンファレンスのプログラムに滑り込ませ、実際には、そこでイスラエル政府への支持を取り付けようとすることです。そして、反対する人をユダヤ系差別だと非難するというシナリオです。Task Forceはこの戦略の最初の犠牲者ではありませんが、Task Forceが巻き込まれようとしているものの歴史を理解する責任があります。
しかし、Task Forceはまだ理解していないようです。1月18日、Task Forceがレセプションのキャンセルを取りやめることを発表したステートメントのなかで、Task Forceのエグゼクティブ・ディレクターのRea Careyは「選択を迫られたら、包摂と建設的な対話のための機会という私たちの中心的な価値に立ち戻るべきだと考えています。レセプションをキャンセルすることは間違いでした」と書き、さらに「私たちの最初の決定のせいで、私たちの団体が、長きにわたって続く複雑な紛争のどちらかの側に立ったと思われてしまったようです」と述べた。
実際、最初の決定を覆し、ピンクウォッシュに加担するイベントをリスケしたことで、Task Forceはイスラエルのアパルトヘイトと占領にLGBTの支持を取り付けるプラットフォームを提供し、イスラエル・パレスチナ問題におけるその立場を明らかにしたといえます。「包摂」という言葉は、占領下で暮らすパレスチナ人のLGBTがここに包摂されていないことを思い起こせば、とりわけ虚しく響きます。パレスチナの人々は、西岸を出るのにもイスラエルからの許可が必要で、そういうことはめったに顧みられません。
Careyは「この問題についての対話のための場を設けるつもりです」と言いますが、Task Forceが何を計画しているのか明らかではありません。Task Forceの側が、LGBTの権利のレトリックとCreating Changeという会議を利用して、パレスチナ人を攻撃するアパルトヘイト国家への支持を取り付けようとする団体と組んでいるというのに、どんな対話の席を持つことが可能だというのでしょうか?
また、Creating Changeの会場で抗議活動が計画されているとしたら、それは「平和的な抗議」でなければならないとCareyが呼びかけているのも驚きです。強い感情や鋭い意見の対立があるからといって、抗議が平和裏に行われないと決めつけるべきではありません。この国のイスラモフォビアの空気を踏まえれば、このステートメントはただ偏見を強化しているだけです。
もしイスラエルの占領とアパルトヘイトを正当化するなら、そんな団体はプログレッシヴな社会・政治的変化の最先端の団体だということはできません。
Signed,
Naomi Brussel, Leslie Cagan, and Pauline Park
on behalf of NYC Queers Against Israeli Apartheid