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10年にわたりTVシリーズや劇場版が公開されてきた『蒼穹のファフナー』シリーズ。今回はその最新作で、昨年末、TV放映された『蒼穹のファフナー EXODUS』を解説。 3DCGを担当したのは本誌でもおなじみのオレンジだ。
XEBEC制作によって2004年に放映されたTVアニメ『蒼穹のファフナー』。2005年のスペシャル番組を経て、2010年に映画『蒼穹のファフナーHEAVENANDEARTH』が公開され、2016年末『蒼穹のファフナーEXODUS』が放映された。近未来を舞台に、未知の宇宙生命体フェストゥムによって存亡の危機に瀕した地球で、南海の孤島"竜宮島"の少年少女たちが巨大ロボット"ファフナー"に搭乗し、フェストゥムたちと戦う壮大なストーリーが展開されている本作。10年続く長いプロジェクトで、初期TVシリーズではファフナーや兵器は作画で描かれていたが、本作はオレンジによる3DCGで表現された。オレンジは前作の映画『蒼穹のファフナーHEAVEN AND EARTH』から参加しており、ファフナーなどのモデリングやカット制作にあたっている。
「能戸隆総監督には、劇場版で手応えを感じていただけたことから、今回のTVシリーズもひき続きオレンジが担当することになりました」と、CGチーフの吉本一貴氏。3DCGで描かれているのは、主にロボットであるファフナーと未知の生命体のフェストゥムたちで、モデリングやアニメーションは吉本氏のチェックを通しながら進められている。カット制作は2014年の1月からスタートし、2015年1月に放映開始。1話あたり平均300カットほどで、3DCGが必要なカットは60~100ほど。カット制作には1話につき約1ヶ月がかけられている。主な制作チームのメンバーはモデラーが1人と、アニメーターが10人ほど。
CGチーフで、特に難しいカットや他のスタッフのアニメーションチェックなどを担当している織笠晃彦氏は「『オレンジさんがやりやすいように絵コンテの演出は変えていい』と監督から言っていただいたカットは、オレンジ側でベストを尽くして格好良さを追求しています」と語る。TVシリーズというタイトなスケジュールの中で劇場版クラスの作品を制作しているオレンジ。ファフナーによるバトルシーンを中心とする高度なアニメーション表現に要注目だ。
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<POINT:1>ファフナーやフェストゥムの作成
前述のように、本作において3DCGで描かれているのは主にファフナーとフェストゥムだが、その種類はとにかく多い。主人公の真壁一騎たちAlvisなどの味方陣営ファフナーは12種類。敵のフェストゥは取材時の2015年11月時点で18種類におよぶ。いずれも劇場版で制作していたモデルをベースに、モデリングされている。さらに本作では主人公たちと敵対する人類軍も新たに登場したので、人類軍のファフナー9種類を新規でモデリングした。それに加えて、戦闘機や輸送機、ファフナーが扱う十数種類以上の武器なども3DCGで作成。特に武器類などは分解される場所や換装パーツについて細かく指定が入っている。ひと通りのモデルをつくり終えるまでは、3人のモデラーで対応したという。
「シルエットや構造には機能美がありますが、そうした表現がなかなか難しくて、1体のファフナーのモデリングには1ヶ月ほどかかります」と語る吉本氏。カット制作に入ってからの専属モデラーは1人だが、新規のメカが多く、モデリングに対応しきれない時期にはオレンジ社内のモデラーが入ることもあり、臨機応変に対応しているという。また、登場シーンの少ないロボットは作画で描く場合もある。「3DCG側での出力をRPF形式にして、撮影さんで処理を統一していただくことで、違和感のない画に仕上げられています」と、チーフ補佐のCGアニメーター、島本晋太郎氏。なお、本作ではアニメーターのカバーする範囲は非常に広く、その1カットにしか登場しないようなものは、カット担当のアニメーターがモデリングも担当している。
マークザインの3Dモデル
▲主人公の真壁一騎が登場するザルヴァートル・モデルのファフナー、マークザイン。ファフナーの多くは生物的な曲線とメカらしい直線のラインが混ざったデザインが施されているが、マークザインは敵の宇宙生命体フェストゥムとほぼ同じ有機的なラインを多く用いたデザインになっている。モデリング上でのポイントとして、ファフナーは特殊な関節をしているが、関節に沿ってきっちり回転させるというよりも、スキンを入れることを前提に、アニメーションの見映えやデザイン上のボリュームを重視して作成されている。また、平面にも微妙な湾曲を入れて、ニュアンスを表現しているという。なお、質感については、他のファフナーでは3色マテリアルなのに対して、マークザインはフェストゥム処理(※後述)を少し混ぜることで、グラデーションのかかったマテリアルにされている
人類軍ファフナーの3Dモデル
▲前述のマークザインに対し、人類軍のファフナーは純粋に人間が作った兵器として無機質なテイストものが多い。人類軍のファフナーは9種類あり、それぞれに3つの色ちがいの機体がある。画像はその一例。搭乗するキャラクターによって強化センサーやミサイルポット付きライフル、銃剣など、使用する武器が異なっている。「どの機体がどんな装備で、どんな武器を持っているかはコンテの段階で決まっています。そのカットだけを見てつくってしまうと、後になって武器の整合性がとれなくなってしまうので、しっかり把握して作業するようにしていました」(島本氏)
ファフナーのセットアップ
セットアップは吉本氏が行うことが多く、基本的な「伸ばす」、「曲げる」のような動きはCATで付けている。「ファフナーの関節は特殊で、普通にボーンを入れてしまうとほしい動きができなくなってしまうため、手足などは斜めに入れています。また、綺麗に仕上げたいところはスキンで対応しました」(吉本氏)。基本的なセットアップは1日でざっくりと仕上げ、使ってみて違和感があれば修正を重ねていく。機体の付属パーツにはボーンをリンクしてスプリングを仕込むことにより、キャラクターの挙動に合わせた微動を付けられるようになっている。これにより手付けで全てのパーツをアニメーションさせる労力を軽減している。
▲<A>マークフュンフの3Dモデル/<B>リグ表示 /<C>スプリング表示
アイカメラの表現
透けた素材の奥にあるファフナーのアイカメラもしっかりとモデリングされている。「劇場版のときはなかったもので、今回ディテールアップしたものがこのカメラアイです。バイザーの中にカメラをつくってやることで情報量が増すので、アップにも耐えられるようになりました」と語る吉本氏。「中のカメラが複雑なものは、素材を重ねると特に綺麗に発光してくれます」(島本氏)。
▲<A>マークツェンのカメラ素材/<B>ライン素材
▲<C>アイカメラのライン素材/<D>アイカメラ素材 /<E>バイザー素材
▲<F>合成後
▲<G>発光処理後
シンボルマークの表現
機体に描かれているシンボルマークは、プラモデルのデカールのようにテクスチャで対応しており、機体モデルとは別の板ポリゴンに貼りつけられている。「オレンジでは画的な勢いを演出するために、ロボットでも剣を振る動きなどをするときには腕を伸ばしています。そのときにテクスチャをモデルに直接貼っていると、テクスチャも伸びてしまう。平面を1枚かませることで、腕が伸びているときでもテクスチャの伸びを防げるので、そのままのマークを保持できます」(織笠氏)。なお、カメラからの距離に応じて表示/非表示を切り替え、情報量をコントロールしているとのことだ。
▲<A>マークジーベンの3Dモデル
▲<B>板ポリゴンに貼られたテクスチャのみを表示
▲<C>レンダリング結果
▲<D>腕を伸ばした例。このように極端な変形を行なっても、機体モデルとは別の平面にテクスチャを貼り付けているため、シンボルマークが伸びることはない
作画のようなラインの表現
▲オレンジではPencil+ 3を使用してラインを表現しているが、単純にラインを出すだけでなく、作画の表現に近づける工夫をしている。「モデルの角を丸くつくって、端と端が繋がらないスプラインを置くようにしています。隙間を空けることでラインが作画風になるので、画としてのクオリティが上がります」(織笠氏)
ハイライトポリゴンの作成
作画のアニメ作品では、あえて光の方向を無視したハイライトを入れることでケレン味を出すことが多いが、3Dモデルでエッジのハイライトを表現するのは非常に難しい。解決策として、「オレンジでは、画として一番格好良く見えるところにポリゴンでハイライトを入れています」(島本氏)とのこと。なお、ハイライトポリゴンも光に対して影面が暗くなるマテリアルを設定している。「アングルによっては消してしまうこともありますし、もっとハイライトがほしいときはその都度足したり、After Effectsで一枚一枚描き込んでいったりしています」(織笠氏)。こうしたきめ細かい対応により、ファフナーは安定した綺麗なハイライトに仕上げられている。
▲<A>マークジーベンの3Dモデル/<B>ハイライトポリゴンのみを表示した状態
▲<C>ハイライトなしの状態/<D>ハイライトありの状態
フェストゥムの作成
金色にうねる宇宙生命体フェストゥムは現状で18種類。造形についてはカエルと魚を混ぜたようなものなど、地球の生物を思わせるパーツもある。「うねるように金色に輝く、いわゆる"フェストゥム処理"を撮影でかけるので、光でつぶれないようにシルエットを強調させるのがポイントです。加えてモデラーには筋肉のながれや顔のたるみ、ムチムチとした筋肉感などを意識してつくってもらっています」(吉本氏)。なお、フェストゥムのセットアップはファフナーと同じくCAT。尻尾はボーンで、スプリングで動くようになっている。
▲<A>フェストゥム、アザゼルB型の3Dモデル/<B>レンダリング後/<C>撮影後。金色に輝く処理が施されている
▲<D>リグ表示
RPF形式の活用
フェストゥムは金色のうねりのあるシリコン状の装甲をしている。
▲<A>フェストゥムのアザゼルB型。RPF形式(リッチピクセルフォーマット)で出力したカラー、ライン、アンビエントオクルージョンを重ねたもの
▲<B>RPF形式の情報を色分けしたもの。この色の部位に沿って、それぞれ異なる金のうねりを撮影で入れていく
▲<C>撮影処理後のフェストゥム。「このほか、ファフナーの翼の先端にある小さく発光する衝突防止光も、RPFの中に情報を組み込んでおくことで、撮影さんにここだけ抽出してもらって光らせてもらえます」と島本氏。リッチピクセルフォーマットでは、様々な情報を1枚の出力画像に含められるので、ファフナーもフェストゥムもカラーはRPF形式で出力しているという