島根県浜田市の中心部を含む、市内の63%に当たるおよそ1万7000世帯。
・またお断りしなければならないかもしれない。
「半年待っても食べたい」そんな日本料理が京都にある。
並ぶのは四季折々の旬の食材。
五感を刺激する料理の数々。
その美しさは芸術品とも言われる。
味だけではない。
そこにはもてなしの極意が詰まっている。
店のあるじはちょっと強面のはにかみ屋。
(笑い声)京都が生んだ世界に誇る日本料理人。
ここ7年で6回あの三つ星を獲得。
究極のもてなしを追求する石原。
その極意とは。
(主題歌)石原の料理は茶の湯から生まれた…その神髄を独自に進化させてきた。
師と仰いだのは…12月。
一年を締めくくるごちそうとは何か。
ただひたむきに客の期待に応える。
もてなしの心がここにある。
(取材者)おはようございます。
(取材者)よろしくお願いします。
笑顔は一瞬だけだった。
すぐに仕事モードになる。
石原のトレードマークはスマートフォンとつながった無線イヤホン。
店に向かう前に一仕事。
季節の草花を見つけては店の飾りつけに使う。
よいしょ。
(取材者)大丈夫ですか?京都の料理人は仕事となるとついつい夢中になってしまう。
その足で食材の仕入れに向かう。
毎朝の仕入れは石原の仕事。
弟子にはまだ任せられないという。
石原がこだわるのは旬の中の旬。
値段やサイズなど表面的な事には惑わされない。
この道47年の石原の目に仕入れのプロも舌を巻く。
仕入れは専門店だけとは限らない。
柿を探し求めスーパーにやって来た。
熟す前のちょっと硬めのものが欲しかった。
自分が納得できるものを手に入れるためなら京都中を回る。
石原が店を構えるのは桜や紅葉の名所円山公園の一角。
数寄屋造りの店全体が料理を味わってもらうための舞台装置となっている。
店の中も細部まで計算されている。
客を迎えるのは一日一回だけ。
カウンター席の14名のみ。
それが対面でこまやかに目配りできる限度だという。
客の目線からは庭が見え奥行きを感じられるようになっている。
逆に床の間はあえて席の後ろに設け押しつけがましくないようにしている。
料理と共に店のしつらえにも力を尽くす石原。
目指す理想がある。
一座建立とは千利休が大成した茶の湯の世界で大切にされてきた言葉だ。
亭主が心を尽くしてもてなし客が感動で満たされた時に生まれる特別な一体感の事をいう。
石原は一座建立の精神を日本料理の世界で体現させようとしている。
料理の仕込みが始まった。
店で出すのは月替わりの3万5,000円の懐石コースのみ。
全15品を5人の弟子を指揮して作り上げる。
客一人に出す食材の数は厳選した旬のもの300種類以上にもなる。
石原の料理人としてのすごみはその包丁さばきと言われる。
イカの表面に1ミリ以下の間隔で切れ目を入れていく。
この一つの手間が味や食感をガラリと変える。
絶妙な食感を生み出し身の奥にある甘みも最大限引き出す。
これが石原の技だ。
更に石原は驚くほどこまやかな心配りを見せる。
味には支障のない僅かな血管を丹念に抜いていく。
おいでやす。
おいでやす。
一期一会の幕が上がる。
石原は主人として客を迎える。
客は地元京都や兵庫そして東京などからやって来た10組14名。
見知らぬ者同士が無言のままカウンターを囲む。
最初の料理が出された。
汁と飯そして向付。
茶懐石では酒の前に汁と飯を出す習わしがある。
それに倣い悪酔いを防ぐためにまず温かい物をおなかに入れてもらう。
米は島根県の天日乾燥無農薬米。
「煮えばな」という米が炊き上がる直前の甘みが最も引き出された状態で出される。
簡素な料理から一転華やかな世界に客を引き入れる。
マグロにブリ鯛やイカ。
なんとこれで2人前。
豪勢かつ優美な盛りつけは石原の真骨頂だ。
料理はほぼ同じタイミングで全員に振る舞われる。
皆でおいしさを共有してもらうのがねらいだ。
今日初めて会った客同士が感動を分かち合う。
これが石原の一座建立。
そのころ調理場では次の椀物の準備が始まった。
椀物の命とも言えるだしは日本料理の神髄。
その味を石原は毎日追求し続けている。
客に出す5分前。
石原がだし汁に熱を入れ始めた。
だしは温度の変化によって微妙に味わいが変わるという。
また飲み進めるにつれ味の感じ方も変化していく。
石原は客が実際に感じる味わいを予測しながら微調整を繰り返す。
これが極上のだしが利いた吹き寄せ雑煮。
石原の料理に近道はない。
見えない努力をどれだけ積み重ねられるか。
そこにこそ人の心を動かすものが生まれると石原は信じている。
(客たちの感嘆の声)一座建立の夜。
これが石原のもてなしだ。
日本料理の道は日々勉強だと石原さんは言う。
店のしつらえには欠かせない四季の草花や掛け軸などについて知識を蓄えてきた。
横に読んだら「和敬清寂」です。
その下に「和者順也」と。
ね。
器も料理の一部。
古今東西の陶磁器や漆器についての勉強も欠かさない。
更に47年続けてきたのが書道。
お品書きなど文字の印象一つで味も変わってくるという。
料理人として石原さんは一つの姿勢を貫く。
未在とは禅の言葉。
「修行に終わりはなく常に向上心を持って上を目指す」という意味だ。
いかに客をもてなすか。
石原さんはずっと考え続けている。
石原さんは島根県の生まれ。
兼業農家の三男坊として育った。
石原さんの料理の原点。
それは正月やお盆に振る舞われた母のごちそうだという。
中学を卒業すると料理人を志し大阪の料亭に就職した。
料亭の主人は天才料理人と呼ばれた…当時客をもてなす茶の湯の文化を料亭に取り入れ懐石料理というジャンルを確立していた。
だが下働きだった石原さんにとっては雲の上の人。
石原さんは懸命に腕を磨いた。
やがて頭角を現し始めた石原さん。
27歳の時異例の若さで京都にある支店の料理長に抜擢された。
そして間もなく。
あの湯木さんとの真剣勝負が始まる。
湯木さんは毎週石原さんの目の前に座っては料理を食べた。
石原さんはその度にカツオを削りだしをひく。
しかし湯木さんはだしを飲む度に言った。
多い時には一日に3回もだしをひき直した。
それでも言われた。
「もう一回」。
そんな日々が18年続いた。
「もう一回」という湯木さんの言葉に応えるうち石原さんは京都中にその名を知られる料理人となっていた。
湯木さんは最後まで「こうしろ」とは言わずこの世を去った。
石原さんは今こう思う。
湯木さんが亡くなってから7年後。
石原さんは独立し自分の店を構えた。
51歳での決断だった。
湯木さんの懐石料理の心を守りながらも自分なりにアレンジし客を精いっぱいもてなす。
まだ見ぬ到達点を目指し今日も客の前に立つ。
11月下旬。
一年を締めくくる師走の料理。
その献立が話し合われていた。
何か月も前から予約して特別な思いで訪れる客の期待にどう応えるか。
いよいよ明日から師走。
石原は支度に追われていた。
ああそうですね。
(うがい)このところ体調が良くない。
連日の疲労と寒さが重なり喉をやられていた。
喉だけではない。
10年ほど前から腰や首に神経痛を患っていた。
仕事の合間を縫って病院通いが続いている。
下半身のしびれは最近包丁を持つ手にまで及ぶ事もある。
今年63になる石原。
う〜っ…。
料理の道はこれからだ。
何とか順調におさめてきた12月の半ば。
お造りにする縁起物の鯛が小ぶりなものしかない。
大物に比べ脂の乗りは落ちるが他に選択肢がない。
旬の幸を相手にする以上こんな日もある。
今日はこの鯛で勝負すると決めた。
この日は地元京都や東京などから4組13名の客が訪れる。
その半数近くがリピーターだった。
今日も満足のいくもてなしができるか。
石原が動いた。
まず取りかかったのは焼き物の肉にかける特製ソース。
蜂蜜の味を利かせた人気のソースだ。
石原はあえてその味をガラリと変え始めた。
かんきつ系の果汁を次々に足していく。
開店の時間が迫る。
次はあの小ぶりな鯛が待っている。
石原どう仕上げるか。
いつもは皮を取るがこの日はあえて残す事にした。
皮に含まれる脂分によって身の脂の少なさを補えると踏んだ。
ただしそのままでは皮が硬い。
包丁で切れ目を入れ軟らかく仕上げていく。
客を迎えるギリギリまで手を尽くす。
午後5時半。
客が集まり始めた。
常連客の一人谷口さん。
東京の老舗和菓子店で働く谷口さんはこの日を心待ちにしていた。
兵庫の澤井さんも常連。
今日は3人の大切な客を連れてきた。
いつも家事に忙しい嫁を一年の感謝の気持ちを込めて招待したという。
師走の料理が始まった。
一品目はごま豆腐の汁。
これで冷えた体を温めてもらう。
ふきのとうを添え春の足音も感じてもらう。
澤井さんたちの会話が弾む。
三品目はお造り。
あの小ぶりな鯛だ。
五品目は焼き物。
果汁を加え新たに作り出したソースが添えられている。
果たして…。
谷口さん飲み干した。
七品目の八寸はある趣向が凝らされていた。
手書きの紙縒と正月のしめ縄用のわらで飾りつける。
一人一人にメッセージが添えられていた。
来年も福が来るようにと願う言葉や過ぎた日々を懐かしむ言葉が並ぶ。
全14品を出し終えた。
仕込みから9時間石原はずっと立ちっぱなしだった。
だが苦でもない。
帰り際谷口さんが石原に声をかけた。
長い一日が終わった。
(主題歌)一人一日の仕事を振り返る石原。
道の到達点は見えたのだろうか。
いつも持ってるレベル以上の仕事ができないとダメだなと。
そしてやっぱり完璧というものはないか分からない。
完璧はないか分からないけどその完璧を…近づけようとそれに努力するのがプロフェッショナルかなと。
2016/01/25(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「もてなしを究める〜日本料理人・石原仁司〜」[解][字]
京都でもてなしを究め、ここ7年で6回、あの三つ星を獲得した日本料理人・石原仁司。芸術品とも言われる料理で感動を生む石原の、一年を締めくくる師走のごちそうとは!
詳細情報
番組内容
「もてなし」を究め、ここ7年で6回、あの三つ星を獲得した日本料理人が京都にいる。石原仁司(62)。全15品の懐石コースは、四季折々の旬の食材に彩られ、五感を刺激する。その料理は、芸術品とも言われる。客を迎えるのは一日一回、カウンター席の14名のみ。数寄屋造りの店全体でもてなし、感動を生み出す。華やかな秋の料理から、一年を締めくくる師走のごちそうへ。もてなしの心をひたむきに追求する石原に密着する。
出演者
【出演】日本料理人…石原仁司,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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