日本の話芸 落語「初天神」 2016.01.24


(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(笑福亭三喬)ありがとうございます。
代わりましてもう一席おつきあいを願いますが。
私いつもこうして高座で喋っておりますとお客様に言われる事がございます。
「三喬さんいつ見てもきれいな頭してまんな」。
(笑い)そればっかり言われます。
言われる度に答えてます。
「はい。
上方の噺家ですから」と答えてるんでございます。
(笑い)
(拍手)まぁ今日は子供のねたという事でございますがね家はもう子育てを卒業致しまして2人とも社会人になりました。
今日のお客様も皆さんもう子育てはとうに終わられてひょっとしたら孫育てになってる方も多いんじゃないかと思いますがね。
家は息子が中学か高校の時でしたかな反抗期の時でしたですねうん学校のクラブですからちょっと家族よりは遅く御飯食べるんですね。
で台所で御飯食べて家は汚れ物を流しにつけなさいとそこは教育してました「流しにつけなさい」。
「あとはお父さんが洗うから」という家庭でございましたね。
まぁ子供が御飯食べて汚れ物を流しにつけてで黙って台所を出ていこうとしましたからそこは教育です嫁がね「ご馳走さまぐらい言いなさい」言うた時にどない言うた思います?「ご馳走なかった」って言いよったんや。
(笑い)ええ。
私はね胆ん中でね息子に「1本」って手上げたんですけどそれは口では言えません。
今の子はハンバーグとかトンカツとかエビフライとかああいうのは大好きですね。
けど母親はやっぱり子供の成長の事も考えましていわゆる根菜ですなゴンボウであるとかレンコンであるとか大根人参とちょっとかしわとコンニャクを炊き合わせたようなやつのお菜やったんですな。
でまぁ「それが嫌や」とこういう訳でございますがね。
まぁまぁこれいつまで経っても平行線でそこで喧嘩してもしかたがないんですな。
家の息子がまた所帯を持って反抗期の子供を育ててその時に初めてやっぱり親の愛情といいますかな「やっぱり我々のために」との事が分かるんやないかと思いますが。
まぁ噺の時代も我々現代も親子の情愛というのは変わらないようでございますが。
「おい嬶何をしてんね早いこと羽織出せ羽織」。
「何だんねんこの人偉そうに『羽織出せ羽織出せ』て。
あの羽織かてあんたのかい性ででけた羽織やないねんし。
いいえぇな母屋のご隠居はんがお亡くなりになった折に私が三日三晩お手伝いに行たらご寮人さんが『えらいすまなんだな毎日日にち。
形見分けにあんたの着物にでも』っちゅうてええ反物もろてきたやないかいな。
それ私の着物にしてもええけども亭主に羽織の一枚も無かったらみっともないと思うよってにあんたの羽織一枚こさえてあげたらまあ〜あんた羽織が一枚でけたと思たらええ?表行くのん『羽織出せ』隣行くのん『羽織出せ』」。
(笑い)「こないだあんた見てたら便所へ羽織着ていたやないか」。
「みっともない事ぬかすなお前黙って出したらええねん」。
「どこ行きなはんねん?」。
「どこへも行くかい。
今日は1月の25日初天神な〜?天神さんお参りすんねやないか」。
「まぁ左様か?それやったら止めしまへん。
『神参り止めたら止めた者に罰が当たる』っちゅうからどうぞ行といなはれ。
そのかわり家の寅ちゃん連れてったっとくんなはれや」。
「いや。
あれもう堪忍して」。
「何でだんね?」。
「あれ私の梃子に合わん」。
「あんたそらぁ何を言いなはんねん?男の子男親梃子に合わなんだら誰が育てまんの?あんたの子でっしゃろ?まさか他所さんの子やおますまい?」。
「われ今おかしな事ぬかしたなおい」。
(笑い)「『まさか他所さんの子やおますまい?』。
ハハ〜ンあのガキゃ私の言う事を聞かんすぎると思たらわれあれこしらえる時誰ぞに手伝わした」。
「ようそんな阿呆な」。
(笑い)「連れていってやんなはれ」。
「いや。
私ゃ連れていかい」。
「一緒に行ってやんなはれ」。
「私ゃ行かん」と「一緒に行きなはれや」「行かん」ともめておりますところへ帰って参りましたのが寅ちゃんでございますな。
チャイルド・オブ・タイガーでございますがな。
(笑い)こんな所洟2本垂らしよってね。
「おかん。
ただいま。
あっお父っつぁんもおかんもまたもめてるな。
ようもめる夫婦やな。
もうお父っつぁんもやめときおかんもやめときて。
夫婦喧嘩犬も食わんっちゅうねんなやめ…。
ほな僕もう一遍表で遊んでくるさかいな仲直りに一遍寝え」。
「嫌らしい奴っちゃなお前は」。
「お父っつぁん羽織着てまた便所行くのんか?」。
(笑い)「嬶。
われがしょうもない事ばっかり言うさかいお前小伜まで同じようにぬかしてけつかんね」。
「寅ちゃん寅ちゃん。
こっちおいなはれ。
お父っつぁんにそんな口のききようをするもんやおまへん。
そんな事よりお父っつぁん天神さんお参りしなはんね。
寅ちゃんも連れてってもらいなはれ」。
「やった〜っ僕も天神さん行こう」。
「あかん。
連れていかへん」。
「お父っつぁんそんな事言わんと連れてってぇな」。
「あかんっちゅうに」。
「そんな事言わんと一緒に」。
「あかんっちゅうたらあかんねん」。
「ほならお父っつぁんなにか?どうしても天神さん連れてってくれへんのか?」。
「お父っつぁんが一遍あかんっちゅうたらあかんわい」。
「ええわい連れてっていらんわい。
そのかわり連れてってくれへんねやったらなこないだの晩の事向かえのおっさん所へ行って皆喋ってきたるさかいな」。
「おう。
何なと言うてこんかい寅公。
お父っつぁんな他人さんに聞かれて恥ずかしいような事はこっから先もした事ないのんじゃい。
何なと言うてこんかい」。
「言うてきたらぁ。
向かえのおっさ〜ん」。
「おう。
誰やと思たら寅ちゃんやないか。
寅ちゃんどないしてん?」。
「おっさ〜ん。
おもろ〜い話したろか〜?」。
「してして。
もうおっちゃん退屈してたんやもう。
今日一日どないしとこかなと思てたんや。
寅ちゃんの話いつも面白いんで。
どないしたどないした?」。
「こないだの晩のこっちゃねんけどな僕晩御飯食べたあとなベッタン並べて遊んでたらおかんがないことに『早う寝え〜早う寝え』とこない言うねん。
で『僕まだ眠とうない』て『眠とうなかってもお布団入ってお目めつぶってたら眠とうなるよってに早いこと寝なはれ』て。
あんま親に逆ろうてもいかんさかいな僕布団へ入って寝たふりしてたんや。
ほんならお父っつぁんがいつものとおり酔うて帰ってきてな…。
『嬶。
ウッ言うてたとおり寅公寝かしつけといたか?』『あんたそんな大きな声出してせっかく寝てる寅ちゃんが起きたらどないしまんねんな』『ウッハハハハ寝よったかあいつ。
ほたら今晩は久しぶりにゆっくりでけるな〜』っちゅうてな…」。
「寅ちゃん。
この話だいぶと面白いな。
もっと寅ちゃんこっち入っといで。
なんやったらお座布団当てたらどないや?ええ?。
お茶出そか?お煎餅食べるか?それからどないしてやったんや?」。
「ほたらなお父っつぁんな他所で飲んで帰ってきてもまた必ず一杯家で飲みのんね。
うん。
でしばらくしたら『嬶。
お前も飲んだらどないや?』『あんたこんな慣れん物飲んで酔うたらどないしまんねんな』『そんなお前酒飲んで酔わん奴あるかい飲め飲め』言うてなおかんも様子しながら飲んどんねん。
でしばらくしたらおかんが『ほれ見てみなはれあんたがこんな物飲め飲め言うさかいに何や胸の辺りがドキドキドキドキしてきたわ』言うたらお父っつぁんが『胸の辺りってどこえぇな?』言うたらお母ちゃんが『アハ〜ンあんたそんな冷たい手アハ〜ンあんた何…』」。
「あの子呼びなはれやあんた」。
(笑い)「こないだの晩の事向かえ行て皆喋ってるし」。
「あのガキゃお前寝てると思たら起きて聞いてやがったんや。
お〜い寅公」。
(手を叩く音)「天神さん連れてったる帰ってこ〜い」。
(笑い)「えっ?お父ったん天神さん連れってってくれるの?おっちゃん。
僕な天神さん行くさかいこれで帰るわ」。
「チョッチョットットッ」。
(笑い)「そんな殺生やで今おっちゃんの胸の辺りがドキドキドキドキして。
ええ?寅ちゃんもう天神さんやめとき天神さんやめとき。
な?おっちゃんがなほんならな1銭あげるさかいなはい。
続き言い」。
(笑い)「おい嬶。
阿呆か向かえの親父はええ?『1銭やるさかい続き…』。
あいつ若い時分から嫌らしいねんええ?あんな話好きやねん。
お〜い寅公。
1銭もろうて言わんと帰ってこい」。
「あんたのほうが嫌らしいやないかいな」。
(笑い)「ほなお父っつぁん天神さん連れてってくれんねんな?」。
「連れていかなしゃあないやないかな〜。
ほなお前なお父っつぁんこれから便所行てくるよってにお前その間におかんにきれいに顔拭いといてもらえ」。
「ウハ〜ッお父っつぁんやっぱ羽織着たら一遍は便所行くな〜」。
「黙ってえお前は」。
「寅ちゃん。
こっちおいなはれ。
あんたなお父っつぁんにそんな口のききようするもんやおまへん。
うん。
お父っつぁんなお便所行てる間きれいにお顔拭いといてあげよう。
うん。
そりゃそうとな寅ちゃんあんたなおかん『一緒に行き一緒に行き』っちゅうのは他でもないねんしお父っつぁんがな行き帰りおかしな所行ったら帰ってきておかんに言わないかんし」。
「おかん。
おかしな所てあの四角い桃色の行灯のついた所か?」。
(笑い)「まあ〜この子知ってんねやわあんた。
そんな所行た事あんのんか?」「お父っつぁんとな正月明け戎さんお参りした帰りミナミまで帰ってきたらなお父っつぁんがクルッと背中向けて難波新地のほうへ行くねん。
『お父っつぁんそんな所行かんと早いこと家帰ろうな』『いやいや。
ちょっとおばはんの所へ寄っていくわ』。
おばはんいうたら上町やろ?『こんな難波新地に新規におばはんがでけたんかいな?』思た。
「で僕ついていたらその四角い桃色の行灯のついた所やねん。
そこでお父っつぁんがなガラガラ〜ッと戸を開けてな『おう。
姐貴居てるか?』っとこない言う。
な?僕にはおばはんおばはん言うといて向こうには『おう。
姐貴居てるか?』。
どうもお父っつぁんの言う事に一貫性がないように思う」。
(笑い)「えらいあんた難しい言葉知ってんねやな。
それからどないしてやったんや?」。
「ほな姐貴のおばはんが『まあ〜誰やと思たら又はんやないかいなあんた。
長いこと顔見せんとどないしてはりましてんな?』『いや来よう来ようと思てたんやけどなんせ家の山の神がうるそうてな』『お父っつぁん。
山の神て誰や?』『誰でも構へんおかんのこっちゃ』。
ウフッおかん向こう行たら山の神言われてんねんで」。
「憎たらしい事言うてんねやなあんた。
それからどないしたんや?」。
「ほんなら姐貴のおばはんの横におチョボやんてかわいい女の子が座っててな『おチョボ。
又はんが来てんねやないかあの娘呼びにやっとおくれ』っておチョボやんがポ〜ンと飛んで出たと思たらな別嬪のええ匂いのする姉ちゃん連れて帰ってきたんやわ。
『まあ〜誰やと思たら又はんやないかいな。
好かんぽ〜ん』『こら〜何すんの僕のお父っつぁんの背中叩いたりすな〜』『まあ〜怖やな。
又はん今日はあんたきびしょつきか?』言うて。
おかん。
きびしょて何やねん?」。
「そんな嫌らしい言葉あんた知らんでよろしいの。
うん。
それからどないしてやったんや?」。
「ほんなお父っつぁんな家でおかんに強いやろ?向こう行たら別嬪の姉ちゃんに弱いねんで。
背中ボ〜ンどつかれてんのに鼻の下伸ばしてな『何すんねんな』言うてな…」。
(笑い)「喜んどんね。
ほんなその別嬪の姉ちゃんが『又はん。
今日は久しぶりやさかいにみっちりしごいてあげよう』てお父っつぁんの耳引っ張ってな『こっちおいなはれ』ったらお父っつぁん『痛痛え痛痛え。
そんな耳引っ張ったら痛痛いよ』て一緒に二階へ上がっていこうとするさかいな『僕も一緒に行く』っちゅうたらその別嬪の姉ちゃんがな『坊。
姉ちゃんなお父っつぁんと二階で大事なお話がおまんの。
うん。
坊こっちおいなはれ坊こっちおいなはれ。
まあ〜かわいらしい坊やこと。
おばちゃんがだっこしたあげよう』いうてだっこしてもろうたらなおばちゃんのお乳がこの辺へ当たってな僕何かおかしぃな気がした」。
(小拍子の音)「あんたな〜今頃からそんな事言うてたらえらいし」。
「おかん。
そんな煙管で僕の頭叩いたら僕の頭割れてしまうが」。
「あんたがませた事ばっかり言うさかいやないかいな。
それからどないしてやったんや?」。
「おかん最前から怖い顔してな『それからどした?それからどした?』って僕『北海盆唄』やないねやで僕」。
(笑い)「そんな怖い顔して怒んねやったらこのお話聞かいでもええのんと違うか?」。
「このお話は聞いとかないかんの。
それからどないしてやったんや?」。
「ならお父っつぁんが二階でなお話してる間に最前の姐貴のおばはんっちゅうのがな引き出し開けて『坊。
これ食べて待ってなはれ』て紙に包んだ物くれはって『何くれはったんかな』と思て開けてみたら金平糖や。
うん。
僕金平糖大好きやろ?いっぺんに口ん中へガボ〜ッて放り込んでガリガリガリ〜ッと食べて『やっぱりお父っつぁん所行く』『あんたあれだけあった金平糖どないしなはったや?』『あれいっぺんに食てしもた』『あんな物いっぺんに食べたら歯が悪なりまっせ』『悪なろうと何しようと放っときなはれ私の歯だ』」。
「あんた憎たらしい事言うて」。
(笑い)「それからどないしてやったんや?」。
「ほな姐貴のおばはんがまたな机の引き出し開けて紙に包んだ物くれはんね。
『ここの机はいろんな物入ってんねんな』。
僕開けてみたらかたいかたいそら豆。
1粒食べたけどかたい。
『こんなんこんなん辛気くさい歯に合わん』て中庭みたいな所バラバラ〜ッと撒いてな『やっぱりお父っつぁん所行く』。
な〜?お父っつぁんあの時別嬪の姉ちゃんと『せわしな〜いせわしな〜い』言いながら帯しもって下りてきたな」。
「じゃかましいわこのガキは。
ほんまにもうある事ない事ベラベラベラベラ喋りやがって」。
「あんたもあんたやないかいなほんまにもう。
言わんこっちゃないこんな小さい子連れてどこ行てなはんね」。
「私かてつきあいやないか」。
「なんぼつきあいか知らんけど今時分から連れていくさかいに『おかしな気がした』言うてるやないか」。
「それはわれがいかんねや」。
「あんたの教育がいけまへんね」。
「われがいかん」。
「あんたがいけまへん」。
「われがいかん」。
「辛いな〜」。
(笑い)「お父っつぁんは『言うな言うな』言うしな〜おかんは『それからどした?それからどした?』言うしな。
中に立った柱で僕は辛いな。
こうなったら僕はただ静かにお迎えを待つ」。
「おっさんみたいな事言うなお前は。
おい。
表出え表へ」。
「エヘヘ向かえのおっさん」。
「声かけなっちゅうの」。
(笑い)「それでのうても向かえのおっさん喋りやないかお前。
『あこの親子天神さん行った言たらお前土産も買うてこらん』なんてぼやかれたらどんならんやろええ?黙って行け黙って行け。
ええか?寅公今日天神さん連れてったるけどな『あれ買えこれ買え』グズグズグズグズ言うたらお前大川へ放り込んでしもたるさかいな」。
「お父っつぁんいつもな天神さん行く時『大川へ放り込む大川へ放り込む』言うけどなそんな事でけんように思うわ」。
「何ででけへんね?」。
「こないだな僕戎さん行く時ちょっとミナミで迷子になったやろ?あの時お父っつぁんお巡りさんの前でな『目の中に入れても痛ない子でおますどうぞ捜しとくんなはれ』て泣いてたん僕遠くのほうから見てたんや」。
(笑い)「見てたら早いこと出てこい阿呆ほんまに。
あかん。
お前みたいにグズグズ理屈言う奴はほんまに大川へ放り込んでしもたる」。
「大川へ放り込んだら何が居てんねん?」。
「カッパが居るわカッパが」。
「カッパ?カッパいうたらなキュウリの取れる夏が旬やで」。
(笑い)「こんな1月のくそ寒い時にカッパは居てないで。
お皿の水も凍る」。
「理屈言うなお前は。
あかん。
お前みたいな奴はな丹波のおっさんに頼んで山へ炭焼き小屋へやってしもたろ」。
「エヘッ丹波のおっさんに会うたらお父っつぁん先逃げるがな」。
「何で?」。
「借金あるよってに」。
(笑い)「何でそんな事を知って…。
あかん。
お前みたいな奴は天神さんの境内にサーカス団が来てんねんなサーカス団の人買いに売ってしもたろ」。
「古い事言うな〜お父っつぁん」。
(笑い)「サーカス団の人買いて今日日寄席に来る人しか分かれへんでしょうに」。
(笑い)「あのなお父っつぁん今はな人身売買禁止法っちゅうてな法律が許さん」。
「何でそんな事を知ってんねや?」。
なんやこない言うてますとたった2人のようですがミナミから上がって参ります。
天神橋を渡りまして十丁目筋今の繁盛亭の前の商店街でございます。
ここまで来ますと大勢の露店が並んでおります。
ここまで来ますとお父っつぁんのほうが「あれ買えこれ買え」言われんように一生懸命子供にべんちゃらしとる。
「おい寅公。
今日はえらいおとなしいやないか。
な?ふだんからこないおとなしいしてたらこれからどこへでも連れたったんのや」。
「ならお父っつぁんこんなおとなしいしてるもんのこってっさかいぼちぼち何ぞ買うて頂いたらどんなもんでおまっしゃろ?」。
「お前憎たらしい言いようをすんなお前は。
お父っつぁんそんな言い方する奴大嫌いや。
『何ぞ買うて頂いたらどんなもんでおまっしゃろ?』そんな事言うな。
もう子供ええ子供らしい。
『あれ買うてこれ買うて』素直に言え素直に」。
「ほなお父っつぁんミカン買うて」。
「言うたらくれはる。
売ってはったら買うたる」。
「そこに売ってはる」。
「何でも先見ときやがんねん。
ええ?ミカン?10銭?毒や」。
「ええ?」。
「毒や」。
「お父っつぁんミカン毒か?」。
「お前らな子供袋ぐち食うやろ?腸まんっちゅう病気になるさかい毒や」。
「古い病気やねお父っつぁん。
そんなん寄席に来る人しか分かれへんで」。
(笑い)「ほなお父っつぁんその…あっリンゴ…リンゴの横のリンゴ飴買うて。
あれ前から食べてみたかった。
リンゴ飴買うて」。
「リンゴ飴?50銭?猛毒や」。
(笑い)「お父っつぁん。
リンゴが毒か50銭が毒か?」。
「どっちゃでも構へん」。
(笑い)「お父っつぁんが毒やっつったら毒や」。
「おかちい」。
「何がおかしいねん?」。
「こないだ上町のおばはん病気になった時おかんとミカンやリンゴや柿やてぎょうさん持ってったで。
あれ病人に毒の物ばっかり持ってってんの?」。
(笑い)「あれ上町のおばはん殺しにかかっ…」。
「誰がそんな事を言うた?」。
(笑い)「病人さんは栄養があるさかいええねん。
お前が食べたら毒やっちゅうねん」。
「ほんな子供にとって毒でない物っちゅうたら何や?」。
「まぁまぁ飴やな」。
「なら飴買うてえな」。
「売ってはったら買うたるがな」。
「ここに売ってはる」。
(笑い)「何でも先見ときやがんねん」。
「おい飴屋」。
「らっしゃい」。
「こんな所店出すな」。
「そんな阿呆な」。
(笑い)「大将。
言うときます家露店やおまへんで家定店でっせ」。
「なんぼ定店か知らんけど今日ら休め」。
「そんな事言いなはんなかき入れ時でんがな」。
「おい飴屋」。
「へい」。
「これお前1つ1銭の飴て1つなんぼや?」。
(笑い)「何ですか?」。
「1つ1銭の飴1つなんぼやっちゅうねん」。
「あんたおかしな事言いまんな1つ1銭の飴1つ1銭10個買うたら10銭100個買うたら1円1,000個買う…」。
「誰が買うかそんなもの。
こらっこらっこらっお父っつぁんが喋ってる間にそないして手出すやろ背伸びして。
あかんあかん。
お前らまた飴触って汚い手で着物いろうておかんに怒られんねん。
お父っつぁんが取ったろお父っつぁんが。
あかんお父っつぁんが取ったろお父っつぁんがな。
お父っ…。
かたっ。
かたいなこれええ?」。
ペチョペチョペチョペチョ。
(笑い)「よし寅公この黒いのにせえ黒いの。
ええ?『黒いのはゴマの味が嫌い』?ええ?」。
ペチョペチョペチョペチョペチョ。
(笑い)「ならこの白いのにせえ白いの。
『白いのはハッカがツ〜ンとくる』?うるさいなお前は。
ええ?」。
ペチョペチョペチョペチョペチョ。
(笑い)「ならこの赤いのにせえ。
『赤いのは早溶けて無くなる』?何やそれお前。
そない言うてたら…」。
ペチョペチョ。
「いやもし大将」。
(笑い)「坊横手で何も言うてはれしまへんがなあんた」。
(笑い)「大将一人で指ねぶってやってまんね。
そんな事したら角が溶けて取れんようなって売れんようなりまんがな」。
「汚い事ぬかすな」。
「いやあんたが汚いん」。
(笑い)「言うてもうたらちゃんと取る道具がおまんねんここにこうして。
こうして崩しまっさかいこれから取ってやっとくんなはれ」。
「よ〜し寅公赤いのにしぃ。
ア〜ッ触ったらあかん触ったら。
お前らまた着物ゆくずさかったら…。
ヨイショっと。
そうそうそう。
噛むなお前。
噛みやがったら張り倒すぞお前は」。
(笑い)「噛んだらあかん」。
「お父っつぁんな…」。
ズル〜ッ。
「飴ってな物噛まな…」。
「噛んだらあかん口の中でロレロレロレロレロレロレロレロレして甘い汁が出てきたら吸うてたらええねん」。
「ほなお父っつぁんな…」。
ズル〜ッ。
「口の中でロレロレロレロレロレロレする」。
「喋りぃなっちゅうねお前。
また喋って汁こぼして着物汚すおかんに怒られんね」。
「お父っつぁん。
言うとくけどな…」。
ズル〜ッ。
「僕らな飴食べて汁こぼすような素人と違うで」。
(笑い)「飴食べながら歌でも歌えねんで。
歌たろか?」。
・「さらばラバウルよ」
(笑い)・「また来る日まで」・「徐州徐州と人馬は進む徐州いよいか住みよいか」・「チャチャッチャチャラララッチャラア〜ンア〜ッ」
(笑い)「嫌らしい歌歌うな往来の真ん中で」。
「クシュアア〜ン」。
「うるさいなお前は。
男の子お父っつぁんどつかれたくらいでビ〜ビ〜ビ〜ビ〜泣くな」。
「お父っつぁんがどついたさかい泣いてんのんと違うわい」。
「ほな何で泣いてんねん?」。
「お父っつぁんブ〜ンと叩いた拍子に飴落としたんじゃ」。
(笑い)「まぁしかけのなきゃほんまにもう。
まだ洗たら食えるやろええ?捜せ捜せどこ落としたんや?」。
「喉の穴」。
「食ったんやないかお前」。
「お父っつぁん。
みたらし買うて」。
「そやさかいお前連れてくんの嫌や。
売ってはったら買うたるがな」。
「ここに売ってはる」。
「何でも先見ときやがんねや。
みたらし屋」。
「へい」。
「そこのなあんま大きいの要らん小さいほうおくれ。
うん。
小さいほうそれ小さい」。
「お父っつぁん。
見えてるで背伸びしたら。
この大きいほう買うて」。
「ええ?大きいほう?いやこれ看板看板。
おっちゃん。
な?この小さいのが売り物で大きいのが看板やな〜?これ売り物と違うがな。
な〜?」。
「いえ。
大将。
これ大きいほう売り物でっせ。
看板こっちのこの張りぼてが看板なってまんねや」。
(笑い)「これ売り物でっせ」。
「阿呆かお前。
見たら分かってるわ。
子供連れて往生してんねやないかいな」。
「いやいやそらぁ大将大体あんた私らお子たちが商売相手でございましてあんまりあんた背広着てネクタイした人こんな物食べてくれはれへん。
坊坊坊。
こっちおいなはれ。
こっちにな最前も坊ぐらいの子が来てね『大きいほう買うて』言うてね〜『大きいほう買うてくれなんだらね』ほらそこに水溜まりがおまっしゃろ『あそこでねんねしてべべ汚す〜』て買うてもらいなはった」。
(笑い)「坊も寝てみなはれ」。
「悪い奴っちゃなお前」。
(笑い)「こらっお前出かけてる奴があるかほんまに何ちゅう事…。
でお前なこんな日照り続きで何でこんな所水溜まりがあんねん?」。
(笑い)「私ら毎朝来て掘ってまんねん」。
「悪い奴…。
なんぼや?ええ?50銭?銭ばっかり取りやがってほんま。
おう。
こっち貸せこっち。
みたらし屋。
お前こないボトボトに蜜つけなよお前ええ?子供に渡されへんやないかこんなボトボトに蜜つけやがってお前こんな」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッ。
「お前江戸行て修業してこい。
江戸のみたらし屋行てみ『大将。
甘いのにしましょか?辛いのにしまひょか?辛いのたら醤油で甘辛をキリッとつけ焼きにしたあんね』。
ほんなら蜜こぼれへんねやないか。
な?お前修業してこい修業お前」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッ。
「何やこの蜜甘いことも何ともあれへんお前安物の砂糖でこしらえてんねやろお前。
台湾の砂糖使え台湾の砂糖お前」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッ。
「お前なここ掃除せえ掃除。
キラキラキラキラ光ってるがなホコリが。
ようこれ保健所が露店営業の許可証出したなお前にこれ」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッズル〜ッ。
「髭剃れ髭。
ボウボウボウボウ髭生やしやがってお前顔から髭が出てんねやあるかお前髭から顔が出てんねや。
な?もっと食べ物商売衛生に気ぃつけ衛生に」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッズル〜ッズルズル〜ッチャッ。
(笑い)「さぁ食え」。
(笑い)「お父っつぁん。
僕これ要らんわ」。
「大きいの買うてから買うてやったやろ」。
「みたらしいうたら蜜の味で食べんねんこんな白い雪洞さんばっかり要らんわ」。
(笑い)「こっち貸せ。
みたらし屋」。
「へい」。
「この壺何や?」。
「ええ蜜になってまんね」。
「一遍つけさして」。
「何をしなはんね大将」。
「寅公。
食え」。
「お父っつぁんおもろいやろ?」。
ズル〜ッズル〜ッ。
「あっおっちゃんほんまな東京行て修業しといでや」。
ズル〜ッズル〜ッ。
(笑い)「な?ここら掃除しぃやキラキラキラキラ光ったあんでな。
ようこれで露店営業の許可もろたな」。
(笑い)ズル〜ッチャッズル〜ッ。
「甘いことないな台湾の砂糖使いや」。
ズル〜ッチャッズル〜ッ。
「髭剃りや髭ボウボウボウボウ髭生やしてんで。
顔から髭違うで髭から顔が出たあんねんで」。
ズル〜ッチャッズル〜ッチャッ。
「僕もつけさして」。
「何をすんねんな」。
(笑い)「お父っつぁん。
凧買うてぇな凧」。
「ええ?凧揚げ?こんな混んでる日に凧持っていたら破れるやないか」。
「そうかて皆友達お父っつぁんと凧揚げした言うてんね。
僕も凧揚げしたいねや」。
「そうか。
お前と凧揚げした事なかったな。
よし。
ほたらお参りしてからな天満橋渡ってミナミへ下ろか」。
(かしわ手)二人は天神さんでお参りを済ませまして今度は天満橋を渡って馬場町へ出て参ります。
もう皆さんいらっしゃるここでございますね。
大阪のNHKはJOBKでございますね。
あれBいうのは2番目やいう事らしいですな。
東京がJOAKで大阪がJOBKでございますかね。
大阪人そんな事ちょっとも思てまへんね。
「ジャパン大阪馬場町の角や」思てます。
(笑い)まぁ馬場町は空っ風が吹きまして…。
「おう寅公寅公。
お父っつぁん一遍に揚たる。
お父っつぁん昔から凧揚げ一番うまいねん。
もう一遍で。
凧持って走るってな事せんで。
もっと下がれもっと下がれ」。
「ほんなお父っつぁんこんなもんでええか?」。
「もっと下がれもっと下がれっちゅうに」。
「ほんなお父っつぁんこんなもん?」。
「もっと。
一遍に揚げたるもっと下がれ」。
「お父っつぁんこれぐらい下がった」。
「痛いな。
このガキゃ他人の足踏みさらしやがって阿呆。
気ぃつけど阿呆」。
「クシュン。
お父っつぁん。
後ろのおっちゃんがな足踏んだいうてえらい怒ってはんね」。
「大将。
堪忍したっておくんなはれそれ家の伜だんねえらいすんまへん悪気があって踏んだんやおまへんね。
おい寅公。
いつまでも泣かんでもええお父っつぁんがついてるお父っつぁんがついてる。
風向き変わった。
それよりなもっと左行け左こっちこっちこっち。
それは右。
左。
もっとこっち向けもっとこっち向け」。
「痛いなこのガキゃほんまに。
大人だてら往来の真ん中で凧揚げさらしやがって。
気ぃつけど阿呆」。
「お父っつぁんどないしたん?」。
(笑い)「横手のおっちゃんのボ〜ンと顔どついたん?えらいすんまへんねおっちゃんそれ僕のお父っつぁんでんね。
ええ」。
(笑い)「堪忍しとくんなはれ。
大人げなく往来の真ん中で凧揚げしてすんまへんな。
お父っつぁん泣かんでもええ僕がついてる」。
(笑い)「何をぬかしやがんね。
寅公。
一の二の三つで放すねん。
一の二の三つ〜。
オ〜ラよっしゃ。
寅公こっち走ってこいこっち走ってこい。
ホ〜ラホ〜ラホ〜ラホ〜ラホ〜ラホ〜ラホ〜ラホ〜ラ」。
「ワア〜ッお父っつぁんすごいなどんどん揚がっていくな」。
「せやろお父っつぁん小さい時分から凧揚げ負けた事なかってん。
ソ〜ラソ〜ラソ〜ラ」。
「ワア〜ッすごいな。
お父っつぁん。
ちょっと持たしてぇな僕に持たしてぇな」。
「あかん。
お前ら凧揚げ知らんやろ。
これな風がな上の風と下の風がある。
な?。
下手くそが下の風持った時にシュ〜ッと落としてしまうねん。
よう落としてる凧あるやろ?あれ皆な上の風に乗せきらんまでに代わるさかいあないなるねや。
ソ〜ラソ〜ラソ〜ラ」。
「ワア〜ッお父っつぁん一番うまかったん?凧揚げ」。
「うまかったんや。
今日も負けへんで」。
「お父っつぁん頼むで」。
「よっしゃよっしゃ。
ソ…ソ…。
あっあっ寅公こらあかんわ」。
「お父っつぁんどないしてん?」。
「なんぼお父っつぁん凧揚げうまいたってなこれ糸が無いわ糸。
おう。
最前凧買うたおもちゃ屋分かってるか?分かってる?うんそうそう。
ほんならなよしちょっと待ちやおう銭入れ銭入れ渡すさかいに気ぃつけて行てこいよ。
おう。
最前の凧買うた者や言うたらええさかいに。
よっしゃよっしゃ。
おうおう行てきた?行てきた?よっしゃ。
よし。
なら端貸せ端貸せ端端端あるやろ糸の端糸の端。
イ〜ヨイショこっち貸せこっち貸せこっち貸せ。
よしよし。
ちょっと待てよ〜。
ヨ〜ッよしヨッコイショっとソ〜レソ〜レソ〜レソ〜レソ〜レ」。
「ワア〜すごいなお父っつぁんどんどん揚がっていくな。
ワア〜ッお父っつぁんうまいなもう3番ぐらいになったな」。
「ホ〜ラ見てみい3番なったやろ」。
「ワア〜ッ2番なったな。
どんどん揚がっていく。
ワア〜ッすごいすごいすごいすごい。
抜いた抜いた抜いた抜いた僕の1番なった」。
「ホ〜ラ1番なったやろ。
ソ〜レソ〜レソ〜…レソ…。
ええけど寅公これ長い糸やなお前」。
(笑い)「糸なんぼほど買うてきてん?」。
「うん財布ぐっちゃ」。
「無茶すなお前」。
(笑い)「お前今月家糸で生活せなあかんやない」。
(笑い)「クモの親子やな」。
「しょうもない事言うてんあるかい。
ソ〜レソ〜レソ〜レ」。
「ちょっとお父っつぁん代わってぇな代わっ…」。
「あかんあかんお前こんな凧揚がってんねんな?お前ら持ったらビュ〜ッ風と一緒に飛ばされてしまう」。
「そんな事ないでお父っつぁんおかんがこのごろな『寅ちゃんも目方増えてきて上げも下ろさんならん着物もこさえないかん』言うてた。
僕の体グルグル巻きにしといたら飛ばされへん」。
「あかんあかん。
お前らグル巻きグル巻きにしててもなこんだけ風が吹いたら飛ばされんねや」。
「お父っつぁん大丈夫やてちょっと代わってぇな」。
「あかんっちゅったらあかんねん。
こんなもん子供のするもんやあるかいお前」。
(笑い)「ええ?ええ?ソ〜レソ〜レソ〜レソ〜レソ〜レ」。
「アア〜ッお父っつぁん代わってぇな。
こんなこっちゃったらお父ったん連れてくんねやなかったわ」。
(拍手)
(打ち出し太鼓)2016/01/24(日) 14:00〜14:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「初天神」[解][字]

第358回NHK上方落語の会から笑福亭三喬さんの「初天神」をお送りします(平成27年12月3日(木)NHK大阪ホールで収録)。

詳細情報
番組内容
第358回NHK上方落語の会から笑福亭三喬さんの「初天神」をお送りします(平成27年12月3日(木)NHK大阪ホールで収録)。【あらすじ】初天神の日、いたずら盛りの寅吉をつれて、天満の天神さんへ行くことになった男。きっといろいろねだられるだろうと思いながら行ってみると、案の定、アメやみたらし団子を買えとせがまれた上に、たこも買わされるのだが、男の方がたこ揚げに夢中になって…。
出演者
【出演】笑福亭三喬,大川貴子,桂米輔,桂米平,増岡恵美

ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
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日本語(解説)
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