(ジュン)
私絶賛引きこもり中の駄目作家…いや今は自称作家でございます
(ジュン)《館山さんにはホントに申し訳ないんですけど俺…書けません》
(館山)《その言葉言っちゃうか…》《もういいよ。
編集者として橋本君に期待しちゃった俺の責任もあるからね》
(ジュン)あ〜。
世話になった人にあんなこと言わせちゃって…。
うえ…。
うっ…。
あ〜。
(男性)《あら汁作ったし》《ジュンちゃん好物だろ?》《ジュンちゃんなら絶対書けるって》《苦しいのは分かるけどここ乗り越え…》《知ったふうなこと言うなよ!!》《もう出てけよ!説教はうんざりなんだよ》あんなひでえこと言っちゃって俺…。
最悪。
謝りてえ…。
あ〜番号聞いてなかったか。
あっ。
固っ。
うわ!
(啓介)あっ工藤先輩の小説!
(啓介)おい見ろよ!「工藤誠也」先輩の名前がある。
(純)お〜ホントだ。
(根津爺)ひたちなかの本屋3つ回ってやっと見つけたぞ。
根津爺サンキュー。
俺は時間がかかるから純ちゃん先読んで。
(純)時間かかるってたった見開き2ページだろ。
(啓介)いいから。
フフ。
すっげえよな工藤先輩。
うちらと1個しか変わらないのに文学賞なんて取って。
(啓介)根津爺はもう読んだ?『妄想ライン』
(根津爺)わしは読まん。
小説なんて読んだら頭痛くなって死んでしまう。
(啓介)読み終わった?うん。
この不満顔の中学男子は中2のときの俺
隣の目きらきら君は幼なじみの同級生村田啓介
この間突然現れたあいつだ
俺が15まで生まれ育った町は何にもなかった
あるのはどんよりとした灰色の海とだだっ広い国道とでっかいパチンコ屋
この不機嫌顔のじいさんは根津爺
漁師しながら魚屋をやっている町の厄介者
大人たちの評判は良くないがなぜか俺たちの面倒をよく見てくれる
家族とあんまり折り合いの良くない俺は他に行く所がなくって根津爺の家によく入り浸っていた
(根津爺)でどうだった?その妄想何とかって小説は。
さすが賞を取るって感じ。
重過ぎないハードボイルドな文体と…。
文学賞を取り町中の噂になった工藤先輩の小説『妄想ライン』は東京の高速道路をドライブする男のサスペンス風の短編だった
この町とは全然違ってきらきら輝いちゃって俺もいつか東京の高速を…。
でもさそこに書かれてる東京って何か嘘くさくね?たぶん工藤先輩東京なんて行ったことねえよ。
(啓介)関係ないよそんなこと。
小説ってフィクションだろ?嘘だよ。
だって工藤先輩免許持ってないし。
それをあんなふうに書けるのはすごいよ。
うるせえ評論家!ハマグリグリグリグ〜リグリ!やめろよ!やめねえよ!グ〜リグリ!グ〜リグリ!グ〜リグリ!痛い痛い痛い痛い…。
グ〜リグリったらグ〜リグリ!
(根津爺)こら!人んちの商品で遊ぶな!まあいい。
そんないいハマグリ他のやつに食わせんのはしゃくだからな。
ほら入れちゃえよ。
根津爺は奥さんも子供もいなくって漁協の集まりにも参加しない
ずっと1人だった
この狭い田舎で地縁と血縁から独立した根津爺の前だと俺たちは楽で自由でいられたのかもしれない
(純・啓介)うんめえ。
ハハ当たり前だ。
ねえねえ知ってる?ある国ではこういう形の生き物がいてさ色は緑色なの。
で名前はイガヌ…。
そう。
イガヌ。
イガヌ?うん。
その国で10年前ぐらいに発見された生き物で食べてみたらもうこれがめちゃくちゃうまくて栄養もあってあっという間に国民的な食べ物になったんだ。
お〜。
それは海の物か?山の物か?どっちでもない。
イガヌは毎年12月になると空から降ってくるんだ雨みたいに。
だから「イガヌの雨」って呼ばれてんの。
へ〜。
こんな形で緑色なのが降ってくるんだ…。
気持ち悪。
それは…それはどの辺の国の話だ?俺が今適当に作ったの。
(根津爺)えっ?
(啓介)純ちゃんすげえじゃん。
何だよ。
真剣に聞いちまったじゃねえか。
バカヤロー。
ごめんごめん。
爽快タイム終了!
(啓介)終了!あ〜あ。
卒業式終わったらもう3年か。
(啓介)光陰矢のごとし!あっそれまでに工藤先輩に東京に行ったかどうか聞こうぜ。
別にいいけど。
受験めんどくさいな〜。
でもいいな啓介はサッカーがあって。
高校はスポーツ推薦で行くんだろ?まだ分かんない。
ハァ…いいよな。
俺には何もないからな〜。
えっ?何言ってんだよ。
純ちゃん話面白いじゃん。
さっきのイガヌ?の話とかさ。
えっ?純ちゃん才能あるよ。
面白いから何か書けばいいんだよ工藤先輩みたいに。
でも嘘なんか書きたくねえしな。
じゃあ本当のこと書けばいいじゃん。
先輩の小説はフィクションかもしれないけど先輩は本気で書いたからそれは嘘じゃないんだよ。
本当のことなんだよ。
何だよそれ。
あのとき工藤先輩の名前ばかりが引っ掛かって俺はもっと大切な言葉に気付けなかった
・
(『仰げば尊し』の歌声)
工藤先輩に確かめると言いながら時はあっという間に過ぎて卒業式を迎えた
工藤先輩の答辞めっちゃ爽やか優等生だったよな。
(啓介)だな。
あの妄想何とかと全然イメージ違うな。
『妄想ライン』だよ。
あっおい。
あれって工藤先輩だよな?うん。
どうしたんだろう?あんな所で。
なあせっかくだから東京に行ったかどうか聞こうぜ。
うん。
よし。
行くぞ。
あっ!なああれってバスケ部の高橋先輩だよな?うん。
・
(物音)びっくりしたよな。
俺さ…工藤先輩が好きだったんだ。
まあいい先輩だよな…。
そういう意味じゃなくて。
えっ?男の人が好きなんて変だよね。
変…じゃないんじゃない?
どうして啓介がたった2ページの先輩の小説を読むのに時間がかかるのか俺はそのときやっと理解した
「変じゃない」
そう返すだけで精いっぱいだった
でも俺はあのとき2人を汚くて気持ち悪いと思ったけど啓介のことはそうは思わない
啓介は啓介だ
ただあのとき無意識のうちに俺は手を離そうとしていた
怖かった
それは啓介をじゃない
啓介と過ごした時間が変わってしまうのが怖かったんだ
あのときの俺にはどうしたらいいのか分からなかった
春休みの間ずっとこもって考えて俺はある結論を出した
それは俺が啓介を理解してやること
(男性)あっあっあ〜。
恥ずかしい…あ〜。
(男性)いまさら何言ってんだよ。
うえ…。
(せき)何だ?おいどうした?何でもない。
・
(男性)あ〜。
あ〜。
(根津爺)んっ?あっ!
(男性)あっ…ん〜。
いい…。
すごいいい…。
(根津爺)何だそうか。
お前さんももう中3だもんな。
吐くなんて情けねえなあ。
どんなの見てるんだ?うるさいな!出ていけよ!出てけって…ここは俺んちだぞ。
こんなことをしている自分が情けなかった
でも何かしないと啓介との距離が離れてしまいそうで…
3年になると俺と啓介はクラス替えで初めてばらばらになった
おす。
おす。
(生徒)あしたは1時間目数学で…。
(啓介)数学か。
(生徒)一番だるいやつじゃん。
(生徒)めっちゃ眠くなる…。
(啓介)あっそういえば今度の日曜二中と練習試合なんだよ。
(生徒)お〜見に行くよ!
(啓介)マジで?
俺がこんなに悩んでるのに啓介は何事もないような顔をして一人自分の道を進んでいるようだった
そんな啓介を見たくなくて俺は学校をサボりがちになり根津爺の家にこもるようになった
(啓介)あと3kmぐらい。
(生徒)マジで?マジで言ってんの?おっ純!おお…よう。
(啓介)何買いに来たの?漫画の立ち読み。
啓介は?ランニング中。
暑くて喉からから。
じゃあ俺行くわ。
じゃあ。
(啓介)行くぞ。
・
(生徒)啓介かっけえよな体キレてて。
俺啓介とならやれるかも。
(生徒)冗談だろ?
(生徒)何で?
(生徒)えっ?いやお前無理だよ。
おい!てめえ今何つった?えっ?冗談でもそんなこと言ってんじゃねえ!てめえ何やってんだよ!うるせえ!どけ!
俺はバカだった
こいつらを殴ったところで何も解決しないのに
どうした?その顔。
別に。
何でも。
しょうがねえ野郎だな。
何でケンカした?別に。
何かむしゃくしゃして。
フッむしゃくしゃか。
若えやつらは腹が立つと言って周りに当たるがその気持ちよ〜く見てみろ。
腹が立ったっていうのは怒ってるからじゃない。
悲しいからだ。
たいてい怒りの根っこにあるのは悲しみだ。
そう。
俺は怒っていたんじゃない
悲しんでいたんだ
あの日の啓介の告白に
男が好きな啓介を理解できない自分に
俺ではなく工藤先輩が好きな啓介に
根津爺はさみしくないの?1人で。
さみしくなんかねえさ。
お前何か間違ってるな。
人は喜ぼうと思っても限界はあるが悲しもうと思うと際限なく悲しむことができる。
だったら最初から悲しまずただ出来事として受け入れる方がいい。
(啓介)《純ちゃん才能あるよ》《面白いから何か書けばいいんだよ》《工藤先輩みたいに》
あの町のように何もなかった当時の俺に初めて何かあると言ってくれたのは啓介だった
俺が作家になったのは啓介の言葉があったからかもしれない
今行かなければ
あの場所に
あの灰色の海に
『傘をもたない蟻たちは』はFODで配信中。
パソコンやスマホタブレットでいつでもご覧いただけます。
詳しくはこちらまで。
2016/01/23(土) 23:40〜00:05
関西テレビ1
傘をもたない蟻たちは #03[字]【原作・加藤シゲアキ 全4話】
「甦った記憶」
桐山漣 阪田マサノブ 竜雷太ほか 原作の短編集を“因数分解”。肝の要素を散りばめた全4話の苦悩と希望が渦巻く、生と性の物語です。
詳細情報
番組内容
執筆に行き詰まり、追い込まれた橋本ジュン(桐山漣)は、担当編集者の館山(阪田マサノブ)に執筆断念を告げる。さらに優しく励ましてくれた幼なじみ(加藤シゲアキ)にも冷たい言葉を放って家から追い出してしまった。自己嫌悪に陥ったジュンは、幼なじみに謝るため連絡先を調べようと中学校の卒業アルバムを引っ張り出す。その際、共にしまい込んでいた当時の文芸誌が出てきた。そこには、新人賞受賞作品として
番組内容2
“工藤先輩”の短編小説『妄想ライン』が掲載されていた。
16年前———、漁師町である那珂湊で生まれ育った中学2年生の橋本純(小林亮太)と幼なじみで親友の村田啓介(市川理矩)は、町で厄介者と評判の漁師の根津爺(竜雷太)の家に入り浸っていた。
この日も2人は、根津爺がわざわざ街に行って買ってきてくれた、1つ年上の先輩・工藤誠也(小松直樹)の小説が掲載された発売したての文芸誌を読むために
番組内容3
根津爺の家にやってきた。順番に読み、絶賛する啓介に対し、純はどこか否定的な感想を述べる。その後、食事をしながら架空の物語をよどみなく話す純に、啓介は小説を書けばいいと勧める。
工藤先輩の卒業式の日。船着き場で工藤の姿を見かけた2人は、こっそりと後をつけるが、そこで…!
出演者
桐山漣
加藤シゲアキ
阪田マサノブ
小林亮太
市川理矩
武田玲奈
竜雷太
他
スタッフ
【原作】
加藤シゲアキ「傘をもたない蟻たちは」(KADOKAWA刊)
【脚本】
小川真
(『救命病棟24時』『恋なんて贅沢が私に落ちてくるのだろうか?』『世にも奇妙な物語’13春の特別編』『山田くんと7人の魔女』『星新一ミステリーSP』など)
【編成企画】
羽鳥健一
(『高校入試』『東京にオリンピックを呼んだ男』『信長協奏曲』『ようこそ、わが家へ』など)
スタッフ2
【プロデュース】
江森浩子
(『1リットルの涙』『僕のいた時間』『遅咲きのヒマワリ〜ボクの人生、リニューアル〜』『わが家の歴史』『ストロベリーナイト』など)
【演出】
河野圭太
(『フリーター、家を買う。』『マルモのおきて』『わが家の歴史』『オリエント急行殺人事件』『一千兆円の身代金』など)
【主題歌】
「ヒカリノシズク」NEWS(ジャニーズ・エンタテイメント)
【制作】
フジテレビ
スタッフ3
共同テレビ
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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