NHKスペシャル 東日本大震災▽原発事故5年 ゼロからの町再建〜楢葉町の苦闘 2016.01.23


4年半時間が止まっていた町。
住宅街に人の気配はありません。
原発事故による避難指示が去年解除された福島県葉町。
避難先から戻った人を把握しようと住宅を一軒一軒回る活動が続けられています。
やっと見つけた独り暮らしの男性。
男性が人と話したのは1週間ぶりの事でした。
うん…ね。
5年前に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故。
8万8,000人の住民が強制的に避難させられる事態となりました。
7つの町と村では役場も避難。
人の立ち入りは制限され町のあらゆる機能が停止してきました。
(アナウンス)321ゼロ!ただいまをもって葉町の避難指示が解除となりました!去年9月国は葉町への避難指示を解除しました。
全住民が避難した7つの自治体の中で初めて葉町は無人の町への帰還に動き出したのです。
町内に設置された線量計。
放射線は国の基準を下回るレベルになりました。
こうした中役場職員が直面しているのは町を作り直す事の難しさ。
4年半の間に失われた医療福祉商業施設などあらゆる生活基盤を再建しなくてはなりません。
葉町をよみがえらせる事はできるのか。
それは日本が原発事故から復興できるかどうかの試金石です。
ゼロからの町の再建。
過去に例のない取り組みを始めた町の苦闘の記録です。
(鎌田)東京電力福島第一原発から10キロ余り福島県葉町です。
町の至る所に置かれたこの黒い袋放射性物質を取り除く除染で出たゴミが詰め込まれています。
確かに放射線の量は国の基準を大幅に下回るようになりましたが住民の暮らしのすぐそばに原発事故のこうした爪痕が今も残っています。
原発被災地のこれが日常なんです。
5年前の原発事故によってご覧のように葉町を含む7つの自治体では役場も含めて全ての住民が避難。
町が完全に空白となる異常な事態が続きました。
それから4年たった去年9月葉町では自治体の先陣を切って避難指示が解除され人が立ち入れなくなった町をゼロから作り直すという全例のない取り組みがスタートしたのです。
葉町で住民の帰還が始まって4か月町の再生はそもそもどこにどんな人たちが戻ってきているのかまずそれを把握する事から始まりました。
帰還した住民を探し家々を訪ね歩く葉町の生活支援相談員です。
自宅に戻っても町に届け出る決まりはないため一軒一軒確認して回ります。
こんにちは。
わしゃ帰ってきたわよ。
原発事故のあと高齢者を支えたいとこの仕事に就きました。
住民の健康状態や支える家族がいるかどうかを聞き取ります。
戻りました。
得られた情報は紙に記して住宅地図に貼っていきます。
町の調査では7,400人の住民のうち1月初めまでに帰還したのはおよそ400人。
人口の僅か6%です。
原発事故後葉町役場は100キロ離れた会津美里町次いでいわき市に移転し去年9月葉町に戻りました。
住民も避難先を転々とし今も多くの人が町を離れて暮らしています。
町への住民の帰還は思うようには進んでいません。
戻った住民を訪ね歩く渡邉さんたち。
こんにちは!こんにちは!ひとつきでおよそ700軒を回りますが会えるのは50人程度だといいます。
こんにちは!いらっしゃらないですかね?一日回って一人にも会えない事もある根気のいる取り組み。
こんにちは!その原動力は自分の両親への思いにあります。
原発事故に遭ったのは共に70代半ばでした。
避難中に持病が悪化し父は事故の翌年母はその半年後に亡くなりました。
渡邉さんはこの日町に戻って独りで暮らしている男性を見つけました。
こんにちは!住み慣れた我が家で暮らしたいといわき市の仮設住宅から戻ってきました。
人と話したのは1週間ぶりだといいます。
そっかそっか。
自宅に戻れた事を喜ぶ大和田さん。
しかし支えてくれる人が周りにいるか尋ねた時の事でした。
(泣き声)近所には帰還した人は誰もいないといいます。
またね来ますから。
はいお願いします。
どうもすいませんでした。
失礼しました。
失礼します。
大和田さんが避難先から戻った一番の理由は先祖から受け継いだ土地への愛着です。
原発事故の前一緒に暮らしていた息子家族は避難先のいわき市から戻っていません。
車の運転ができず買い物にも行けないため週に1回程度息子が食材を届けてくれています。
大和田さんは10年前に脳梗塞で倒れました。
今も左半身にはまひが残っています。
自分の健康を管理しようと一日3回の血圧測定は欠かさずに行っています。
渡邉さんたちの訪問活動でこれまでに会えたのは250人。
その聞き取りから体の不自由や持病があり何らかの支援を希望する人がに上っている事が分かりました。
全住民が避難を余儀なくされた自治体の中で初めての帰還を進める葉町。
160人の職員が町の再建を目指して働いています。
その中核となっているのが…町長直属の6人の職員が町のさまざまな機能の再生を進めようとしています。
はい新産業創造室です。
グループを率いる…震災後避難した住民の生活支援を担当。
その後自ら希望して町の再建の先頭に立つ部署にやって来ました。
葉町で生まれ育った渡邉さん。
幼なじみの友人たちは原発事故でちりぢりになりました。
再びみんながこの町に帰れるように力を尽くしたいと考えています。
震災前葉町にあった学校医療・介護施設食料品店です。
町の広い範囲に点在していました。
そして今の葉町。
学校は再開しておらず医療・介護施設は2つだけ。
食料品店も小さな仮設商店とコンビニしかありません。
葉町役場では今年度中に介護施設や診療所を設け来年春までに商業施設学校などを整備する事を目標にしています。
渡邉さんの所属する新産業創造室が力を入れているのが住宅や商業施設を集約した新しい町の中心を作る事です。
これまでに出店が決まったのはホームセンター1店舗だけ。
渡邉さんはなんとか大型のスーパーマーケットを誘致したいと考えています。
この日渡邉さんはスーパーを誘致するためにいわき市に向かいました。
訪ねたのはもともと葉町で年商9億円のスーパーを経営していた根本茂樹さんです。
すいません。
今日はどうもありがとうございます。
渡邉さんは新しく作る商業施設の中核店舗になってほしいと客が最も多く出入りする1等地を提示しました。
今町に戻っているのはおよそ400人。
その5倍以上の住民が戻らなければ経営が成り立たないというのです。
渡邉さんは協議を継続してもらう事だけで精いっぱいでした。
おはようございます。
おはようございます。
根本さん自身いずれは葉町に戻りたいと考え2年前プレハブの仮設店舗を出店しました。
しかし直面しているのは厳しい現実です。
平日の昼過ぎ店には復興事業に携わる作業員が大勢訪れます。
ところがピークの時間を過ぎると客足はパッタリ止まります。
避難指示が解除されてからも売り上げは回復せず年間7,000万円の赤字です。
今は東京電力から賠償の一環として支払われている営業補償で赤字を補填していますがその制度も来年春以降はどうなるか決まっていません。
国が葉町の200余りの事業所に行った意向調査では6割が根本さんのように町に戻りたいと回答しています。
しかし状況は厳しく実際に戻れた事業所はそのうちの1/3にとどまっています。
人が戻るのが先か商業施設が戻るのが先か。
葉町が抱えている大きなジレンマです。
企業を戻す事で住民にも戻ってほしい。
渡邉さんは葉町にあった企業を回って元の場所で再開してもらえるよう働きかけています。
この日向かったのは観光バス会社です。
それでは行ってきます。
はいお願い致します。
行ってきます。
今この会社の仕事の多くは原発作業員の送迎です。
震災前7人だった従業員は88人に増員。
葉町民はほとんどいません。
7台だったバスは50台近くに増え年商も10倍以上のおよそ8億円になりました。
こうした急成長が皮肉にも町に戻る上での足かせになっています。
このバス会社のように避難先に定着する企業は増えています。
NHKのアンケートではすぐに町に戻れない理由として新たな取引先や販路など「避難先に経営基盤ができた」と答えた企業が6割。
「町に戻ると従業員の確保が難しくなる」と答えた企業も6割に上りました。
人がいない町には戻れないというスーパー。
避難先に経営基盤ができたという企業。
町の再建にどこから手をつければいいのか。
渡邉さんは4年半の歳月の重さを改めて突きつけられていました。
町が単独では解決できないこの問題に国はどう対処しようとしているのか。
去年8月に発足した福島の復興のための官民合同チーム。
被災企業の自立支援を目的に国や民間企業から160人が集められ今後設備投資や販路開拓などの支援を行っていきます。
いざ帰れるようになっても閉鎖されたままのこの辺りの店舗のように生活環境が整わないため町に戻れない住民たち。
一方住民が町に戻らないのでもともとあった商店や企業も帰ってくる事ができない。
葉町はこうした悪循環に陥っているのです。
長引く避難生活により生活基盤がそこに出来上がってしまったという5年の歳月の重みも町の再生を阻む壁となっています。
「人がいない所に帰ってくるのが果たして帰還といえるのか」という生活支援相談員の女性の言葉が印象に残ります。
避難指示を解除して住民の帰還政策を進める以上国にはより実効性のある支援策が求められます。
住民の帰還が始まって4か月。
今町の将来にとって新たな問題が持ち上がっています。
これは帰還した400人の住民の年齢構成です。
60代以上が合わせて70%に上ります。
これに対して20代30代は4%にも届きません。
町の将来を担う若い世代の帰還を促すとともに高齢者が安心して暮らすため医療や介護の整備を図るという2つの大きな課題に同時に向き合う事を町は迫られています。
若い世代が戻ってこられるよう今まで町になかった新たな産業を呼び込む活動も始めています。
町の郊外に造成された工業団地。
葉町はここに新エネルギーやロボット開発など新産業の拠点を作ろうとしています。
これまでに4社の誘致に成功。
200人の雇用が生まれる事になっています。
この日渡邉さんは誘致した企業の一つ大手金属メーカーの子会社を訪ねました。
3月から本格稼働するこの工場。
次世代の電気自動車に搭載される電池の材料を製造します。
総工費は70億円。
そのうち30億円は雇用創出などで復興に貢献する企業に対する国の補助金が充てられます。
今日はどうもすいません。
どうもありがとうございます。
よろしくお願いします。
この工場が必要とする従業員は50人。
渡邉さんの関心はどれくらい葉町民が雇用されるかです。
採用された町民は僅か9人。
応募してきた人自体が少なかったといいます。
しかもその9人のほとんどは町には帰還しておらず避難先から通っていました。
実は渡邉さん自身も町には帰還していません。
この日久しぶりに町内の自宅の様子を見に行きました。
畳の部屋が3つ。
渡邉さんはいわき市のアパートで家族4人で避難生活を続けています。
2人の子どもは3歳と0歳。
震災後に生まれました。
現在の葉町周辺では専門的な小児医療が受けられず幼い子ども2人を育てていく環境に不安があるのです。
町の再建に取り組む職員も帰還に踏み切れない。
避難指示が解除された町の現実です。
葉町にとって早急に対処しなくてはならないもう一つの課題が高齢者を支える医療福祉サービスの再建です。
町に唯一あった特別養護老人ホーム。
ここつかまってもらえますか?職員の人数が足りないため規模を縮小して再開するはずでした。
しかし意外な事が障害になりました。
施設で食事を作る給食業者がどうしても見つからないのです。
朝食の準備が始まるのは早朝6時。
町の外から時間をかけてくる業者にとっては大きな負担です。
それではどうぞ。
(拍手)こうした中去年11月。
町はデイサービス施設の再開にこぎ着けました。
施設のスタッフの中に訪問活動をしていた渡邉久美子さんの姿がありました。
ゆっくりね〜。
こっちつかもうか。
それまで経験した事のない介護現場での仕事です。
施設で必要な人手が足りずヘルパーの資格を持つ渡邉さんが駆り出されたのです。
この日仕事を終えた渡邉さん。
気になっていたお年寄りの様子を見に行きました。
(ノック)こんにちは〜。
訪ねたのは孤独な生活への不安から涙を流した大和田昭さんです。
大和田さんは最近血圧が高い事を気にしていました。
うん無理しない…。
すいませんでした突然お邪魔して。
はい失礼しま〜す。
町を取り巻く状況が厳しくても渡邉さんはできる事を一つずつやるしかないと覚悟を決めています。
町はさまざまな人々と多様な活動が関係し合って成り立ちます。
つまりそれが社会なのです。
葉町の苦悩から見えてきたのは原発事故によって断ち切られたさまざまな関係性を改めて同時並行で紡ぎ直さなければ町の再生はないという厳しい現実でした。
原発事故から間もなく5年。
避難指示が解除された葉町のかじ取りを担う松本幸英町長はこの厳しい現実にどう向き合おうとしているのか。
話を聞きました。
松本町長が言うように葉町が再生できるかどうかはほかの自治体の復興にも大きく影響します。
その意味でたとえ困難な道のりであっても復興へ向けた取り組みを諦める訳にはいかないのです。
原発事故から間もなく5年。
復興に向けた被災地の取り組みはこれからも続きます。
そうした被災地での営みや人々の思いに私たちはどう応えるのかその事もまた問われているのです。
避難指示の解除後初めての元旦。
夜明け前の岬の公園で薪をくべる役場職員の中に渡邉文生さんの姿もありました。
初日の出を見に来る町民が暖をとりながら話し合える場を用意していました。
明け方少しずつ人が集まってきました。
やって来たのは渡邉さんが予想していなかった若者や子ども連れの家族です。
5年ぶりにふるさとで初日の出を見ようと遠方の避難先からやって来ていました。
すげえきれい。
いいじゃん。
町に戻る決断ができなくても多くの人がふるさとへの愛着を持ち続けていました。
原発事故から間もなく5年。
人がいなくなった町をゼロから再建するという誰も経験した事のない模索が続いています。
ニュージーランドの国立公園を進む4人のフランス人ハイカー。
2016/01/23(土) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル 東日本大震災▽原発事故5年 ゼロからの町再建〜楢葉町の苦闘[字]

去年、原発事故による避難指示が解除された福島県楢葉町。帰還した住民はわずか5%にとどまる。何が復興の壁となっているのか。存続をかけて奮闘する役場職員を追う。

詳細情報
番組内容
去年9月、原発事故による避難指示が解除された福島県楢葉町。しかし商店や働く場、医療機関などが戻らず、4か月経っても帰還した住民は人口のわずか5%にとどまる。町の存続をかけて商店や企業の帰還推進や誘致に奮闘する職員たち。しかしその前には、一自治体では解決できないさまざまな壁が立ちはだかる。原発事故で何年もの間、人の暮らしが消えた“空白の町”は作り直せるのか。その試金石である楢葉町の苦闘を見つめる。
出演者
【キャスター】鎌田靖,【語り】渡邊佐和子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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ニュース/報道 – 報道特番

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