赤ちゃんが好きな形を知っていますか?それは…丸!球体は私たちにとって特別な形。
人類は球体を信仰しそして球体の上に住みその神秘に取りつかれてきました。
その球体になる不思議な生き物がいます。
北海道阿寒湖。
そうま〜るいマリモです。
大きいものでは…これほど大きな球体になる生き物は地球上にほかに存在しません。
マリモはなぜどのようにして丸くなるのか?今回特別保護地区で許可を得てマリモの詳しい調査を行いました。
分かってきたのは阿寒湖の自然の奇跡的なバランス。
世界初の映像でマリモが丸くなる仕組みが明らかになってきました。
マリモはなぜ丸いのか?神秘の球体の謎に迫ります。
今日のテーマは「マリモ」。
はい。
スタジオにもマリモがたくさん。
そうですね。
今日はここは阿寒湖の湖底を再現したんですが…こんな集まって生きてるんですね。
そうなんですね。
でもマリモは丸いって事がそんなに謎なんですか?これね大いなる謎なんですよ。
へえ〜。
今日はその謎を解明していきますので。
はい。
ちなみに奈央ちゃんはマリモって見た事ありますか?旅行先でマリモがお土産屋さんで売っててかわいいなと思って自分で買って帰りました。
これでしょ?おっそれそれ。
これ北海道のお土産の定番ですよね。
ですよね。
でもこれって人が手で丸めてるって知ってました?え〜!知らなかったです。
そうなんですか?ちょっとねこちらをご覧下さい。
マリモってこういうふうに糸みたいに細いのがたくさん集まってるんですよ。
えっこの細いのは何ですか?藻なんですねこれ。
藻なんですか!そうなんです。
これ長さは3センチから4センチぐらい。
ほう〜。
光合成で成長するんですね。
これがたくさん集まったのがマリモなんですよ。
そうだったんですね。
はい。
そしてお土産のマリモはこれを集めて人が手で丸めていると。
いや〜何か結構衝撃的な。
そうですか。
じゃあもともとは丸くないって事ですか?丸くないんですよ。
え〜。
実際に阿寒湖にも量が多くはありませんが丸くないマリモがあるんですよ。
え〜!こうやって湖を漂っている浮遊型マリモなんていうのがあるんですよ。
ふわふわと。
かと思うと岩になんかに貼り付いて生きている着生型マリモなんていうのもいるんですよ。
そうなんだ。
こんなマリモですが実は世界中に分布しています。
世界中にいるんですか?ただし…という事で阿寒湖のマリモは特別天然記念物に指定されてると。
そうなんですね。
そういう事なんですねはい。
しかもこの…おおっ。
じゃあちょっとこちらを見て下さい。
マリモは藻なので光合成をして成長しますよね。
へえ〜!仮にマリモが違う形をしていて立方体だったらどうでしょうか?おっ。
これちょっと計算で比べてみましょうか。
両方とも体積が1だとします。
うん。
立方体の方は表面積は6になります。
そうですね。
でしょ。
計算すると球の方は表面積は4.8にしかならない。
少ない。
ええ〜。
更に言うとですねもしこれが平面にぱ〜っと広がっていたとしたら。
あっ。
みんなが光合成ができるので効率がいいじゃないですか。
こっちの方がいいですね。
ですよね。
球だと表面の数ミリぐらいしか光合成できないので極めて効率が悪い格好なんですよ。
確かにそうですよね。
じゃあ何でわざわざ丸い形になってるんでしょうかね。
それこそが謎だったんですね。
それどころかそもそもどうやってマリモが丸くなるのかすら分かってなかったんですよ。
そうなんですか。
世界で唯一のマリモ群生地がある…しかし20センチ以上の大型の球状マリモが生息している水域は実は湖の北側チュウルイ湾という小さな湾だけ。
そして遠浅の湖底が広がるこの湾の中でもサッカーグラウンド半分ほどの面積にしかいません。
マリモの謎に挑んでいるのが若菜勇さん。
マリモ研究の第一人者です。
マリモが丸くなる仕組みを25年にわたって研究してきました。
なぜチュウルイ湾で丸いマリモが出来るのか?去年6月。
この謎の解明のために若菜さんを中心とする調査チームが発足しました。
マリモが丸くなる仕組みを科学的に解き明かそうというのです。
風や波の強さを計測する機器を取り付け群生地の自然条件を一つずつ調べます。
更に今回特別な許可の下湖の中にカメラを設置。
マリモの群生地で初めてとなる長期の撮影に挑みました。
一体何が撮れるのでしょうか。
調査を始めて10日。
若菜さんがある映像にくぎづけになりました。
波に揺られマリモがゆらゆらと動いています。
このマリモの動き4時間の映像を30秒に縮めてみると…。
なんとマリモはぐるぐると回転していました。
世界で初めて捉えたマリモの回転映像。
マリモは転がりもせずその場で回っていたのです。
早速詳細な分析が始まりました。
調査チームがまず注目したのが風です。
この日湾に吹き込んでいた風は…マリモの回転はこの風によって起きる事が分かってきたのです。
観測の結果6月になるとチュウルイ湾には3日に1回5メートルから10メートルの南風が吹き込んでいました。
マリモが最も成長する夏。
太平洋からやって来る風が山あいを抜けて阿寒湖に到達します。
湖を渡りチュウルイ湾に吹き込む南風。
風が生む波が湾に押し寄せます。
この時水中では水の粒子が上下左右に揺られ回転するような軌道を描きます。
円運動と呼ばれる現象です。
この円運動は湖底に行くにつれて次第に弱まります。
そして水深2メートルの浅瀬に住むマリモに絶妙な強さで働きかけます。
するとマリモは隣り合うマリモや湖の底とこすれ合いその結果回転するのです。
これによりマリモは岸に打ち上がる事もなく沖に流される事もなくその場で回る事ができていたのです。
この映像から若菜さんが推測したマリモが丸くなる仕組みです。
一本一本の細い藻は光を受けて光合成を行い伸びていきます。
その際その場で回転する事で全体に満遍なく光を浴びる事ができ均等に丸く成長していきます。
何年もかけゆっくりと真ん丸に育っていくというのです。
世界で唯一大きな球体になる阿寒湖のマリモ。
それは絶妙な自然の条件が生んだ奇跡の形だったのです。
すごいな〜。
奇跡的なんですね。
しかもその場にとどまってぐるぐる回ってるの不思議でしたね。
何かこう神秘というかこんな事やってたんだって感じですよね。
それでは早速専門家に伺いましょう。
阿寒湖でマリモの調査や保護活動に当たってきた釧路市教育委員会マリモ研究室の若菜勇さんです。
あの丸くなったマリモっていうのは本当に奇跡的に作られたんですね。
そうですね。
阿寒湖っていうのは火山噴火で出来た湖でその地形ですとかそれからそこからもたらされる湧き水ですとかそれから風ですとかさまざまな環境条件がマリモの球形化に関係している事が分かってきました。
へえ〜。
一つ一つの条件は決して珍しいものではないんですがそれがこう幾層にも重なるようにして初めてマリモの生育場所が作られてくるという訳です。
でも生き物で球体っていうのはありえないっていう話だったんですけど。
そうですね。
植物の場合だと一番効率がいい形というのは実は私たちに身近なあの薄い葉っぱの形でああいう光を浴びて二酸化炭素から物質を作る。
それに本当に適した形な訳です。
ふ〜ん。
そういう事が常識だったんですが実際にそのマリモという生物を見てみるとこれは一体何をしているのだと。
そうですよね。
ちょっとこちらをご覧下さい。
マリモの断面なんですけれども。
おおっ。
あっ切ってますね。
そうですね。
まあふだんだとこんな事はできないんですけれども特別な許可を得て調べをしています。
見て頂くと分かるように緑色が中までみっちり詰まっています。
マリモを作っている藻の繊維が中心から外に向けて放射状に並んでいるんですね。
へえ〜。
ところが光が当たるのは表面だけですから光合成は表でしかできない。
植物の生活としては非常に効率の悪い形が球体だという事になる訳です。
何かそれって決定的な欠点っていう感じがするんですがそれにもかかわらず丸いという事はよほどのメリットがあるっていう事ですよね。
そうですね。
これは夏場マリモの表面を別な種類のシオグサの仲間なんですが…覆ってる様子ですね。
あっ本当だ。
ふわふわ何かついてますね。
表面覆われてますからマリモは光合成できなくなっちゃうはずなんですけれど波が立って回転を始めると…。
あっ取れてきてるんですねこれ。
そうなんですね。
マリモ同士がこすれ合って表面についた藻をかき落としている様子です。
これも今回初めて得られた映像ですね。
へえ〜面白い。
これ確かに…そうですね。
まさにこうマリモが1個あっただけでは決してできないという事になります。
群生だからですよね。
そうですね。
面白い。
でもちょっと気になる事があるんですね。
今我々の後ろにはマリモの群生地が再現されてるんですがこれご覧頂くと3層ぐらいになってるんですよ。
おお。
という事は…ああっそうですよね。
実際そうなんですね。
ところがやはり丸い形がここで大きく効いてくるんですね。
ちょうどこの赤い円で囲ったマリモを見てて下さい。
あれ何か移動してますよね。
そうですね。
いや何か…そうですね。
でもこれはマリモがわざとやってるというよりかはたまたま丸かったからうまくいってるって事ですか?結果的にはそういう事になるんですがでもそう理解しようとしてもあまりにもよく出来すぎた話で。
そうですよね。
やはり何かこう仕組まれたものを命の不思議さみたいなものを感じますね。
ところがおととし群生地の存続が危ぶまれるような事態が起きてしまったんです!えっ何ですか?大型の低気圧が北海道を直撃。
風速18メートルを超える強風がチュウルイ湾に吹き荒れました。
急いで現場に向かう若菜さん。
目にしたのは岸辺に打ち上げられた大量のマリモです。
その多くが長い年月をかけて育った20センチ以上のものばかり。
群生地のマリモの1/3が打ち上げられてしまいました。
世界で唯一の群生地。
一体どうなってしまうのでしょうか。
いやこれは大変じゃないですか。
大変…ではなかったんですよね実は。
そうなんですね。
1回目が1995年2回目が2002年3回目が2007年そして最後が2013年なんですね。
へえ〜。
これをこう並べていくと大体5年から7年周期で打ち上がりが繰り返されてるという事なんです。
そんな定期的に危機にさらされてるんですかこれ。
そうなんですね。
定期的という事は周期がありますからそこに多分…生物屋さんの習性なので場所を決めてずっとモニタリングしてきました。
そうすると…マリモがこう大きくなっていって30センチ近くなるとちょうどそのタイミングで打ち上げが起こるというか大きくなったから打ち上がる。
へえ〜。
何か大きくなるとそんな流されないようなイメージもあるんですけど。
ところが直径が大きくなるという事も非常に大事なんですけれどもう一つ大きなマリモは中心から枯れて空洞が出来てきますから。
この映像は大きなマリモを切った時の断面なんですけれど空洞が大きく広がっている様子が分かります。
中全然ないですね。
そうすると見かけは大きいんですけれど中身がないので動かされやすくなってくるんですね。
へえ〜。
メリットですか?はい。
ちょっとですねこの我々の後ろにある群生地でそれを再現してみましょうか。
さあ風が吹いてくると…。
ああ流れて…。
大きいのは流されてっちゃった。
お〜行っちゃった。
あっそうすると…そうですね。
小さいマリモから5年くらいかけて大きくなったマリモがいなくなってまたその下から小さいマリモが大きくなってくる。
これを繰り返して生きてる訳です。
へえ〜。
打ち上げられてしまったマリモ。
波にもまれバラバラになってしまいました。
しかし丸いマリモは一本一本の藻の集合体。
この断片も実はまだ死んではいません。
冬を迎える頃には浅瀬はマリモのかけらで埋め尽くされていました。
ところが試練は続きます。
何者かがマリモたちの上を通り過ぎました。
シベリアからやって来た…湖に首を突っ込みました。
んっ?ああっ!マリモを食べ始めました!浅瀬のマリモはハクチョウたちの格好の餌になってしまいます。
そんな試練も乗り越えたマリモたち。
氷の下でじっと春を待ちます。
春。
雪解けで水かさが増した湾に沖に向けての流れが起こります。
するとマリモのかけらたちが動き始めました。
ゆっくりと移動していくマリモ。
たどりついた群生地でまた大きく丸く成長していくのです。
すごいですね。
マリモがあの丸い形だからこそ一生のサイクルがうまくいってるような感じですね。
そうですね。
しかもその阿寒湖の絶妙なその環境を舞台とした大スペクタクルがここで描かれてるという訳ですね。
でもあのハクチョウに食べられちゃったマリモちょっとかわいそうですね。
でもそうとばかりも言えないんですね。
特徴があるんです。
更にですねマリモは渡り鳥の力によって世界中を旅したと考えられてるんですよ。
えっ?世界中を旅した?そうなんですね。
実はこれまで…その調べからマリモのその分布のしかたが分かってきました。
マリモをその調べた遺伝子のタイプに5つあってこの図の…それから今マリモが住んでいるその生息場所のうちヨーロッパや北アメリカってのは僅か1万年くらい前までは氷河で覆われていた所が今の生育地になっていますからそういったさまざまな情報を勘案すると恐らく…その担い手がハクチョウをはじめとする水鳥だったのではないかと考えられているんですね。
でもそうやって世界中に広がっていったマリモですが阿寒湖みたいな奇跡的な環境というのはあまりなかったのでなかなか球体にはなれなかったという事ですかね。
そういう事になりますね。
神秘の球体マリモ。
その姿はかつてヨーロッパの湖でも見る事ができたといいます。
その一つオーストリア中部にあるツェラー湖です。
山に囲まれたリゾート地。
阿寒湖にそっくりです。
夏場たくさんの観光客でにぎわうこの湖には150年ほど前まで数多くの球状マリモが群生していたといいます。
町にある博物館です。
かつて湖にいたマリモだといわれるものが保管されていました。
ドイツ語で「湖の団子」。
中には20センチを超える大型のものまでいて人々の生活に浸透していたといいます。
ツェラー湖から球状マリモが姿を消したのは観光開発が盛んになった頃からです。
原因は護岸の整備でした。
護岸に当たった波が跳ね返る返し波が発生し浅瀬にいたマリモは沖へと運ばれてしまいました。
光が届かない深場へ運ばれて球状マリモは絶滅したと考えられているのです。
湖からマリモが消えて1世紀以上。
やがて人々の記憶からも消えていきました。
マリモって結構デリケートなんですね。
本当にそうですね。
何か一つでも環境条件が変わると生存が不可能になってしまう。
実際実は…そうなんですか。
昔はマリモの打ち上がりというのは被害というふうに受け止められていてそれを防止するために群生地に300メートルにわたって…ところが先ほどの例と一緒で返し波が発生するとマリモが沖合に動いてしまう。
そうするとそのそういう打ち上げない対策が果たして保護なのだろうかだんだん分かんなくなってきて今でも100メートルがそのまま残った状態で残存してるという事なんです。
ですから本当に昔はマリモの生態を知らないままその保護対策をしようとしていたというふうに言っていいと思いますね。
あのマリモの研究を25年されてるという事ですけどされてきてどうですか?とにかくその謎が謎を呼ぶ生き物だったですね。
こういう科学の進歩した時代にこれだけ何もよく分かっていない生き物がいるっていうのは初め大きな驚きでしたね。
結果として25年やってきてようやく生き物としての姿っていうか輪郭が分かってきたというところではよかったと思いますね。
何事一つの事をこつこつ続けるのは大事でマリモの上にも25年という事になるかと思います。
いやこのマリモが丸いっていうのは奇跡なんですね〜。
でもそう考えると本当に日本にいるっていうのが貴重な財産だなってすごく感じましたね。
そうやっぱり日本にあるっていう事が誇らしいですよね。
守っていきたいですよね。
ええはい。
若菜さん今日はどうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2016/01/23(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「マリモ 球体の謎に迫る!」[字][再]
北海道の阿寒湖に群生する球体生物「マリモ」。しかし球という形は、生物として「あり得ない形」と言われる。マリモはなぜ、どうやって丸くなるのか?球体の謎に迫る!
詳細情報
番組内容
北海道の阿寒湖に群生する丸い「マリモ」。しかし「球」という形は、内部に光が届かないため光合成の効率が非常に悪く、生物学上「ありえない形」と言われる。マリモは、いったいどうやって、何のために丸くなるのか?去年行われた調査で、阿寒のマリモが球化する詳細なメカニズムがついに明らかになってきた。世界で唯一、奇跡的に残されたマリモ群生地の神秘を詳細にひも解く。
出演者
【ゲスト】釧路市教育委員会マリモ研究室室長…若菜勇,【司会】竹内薫,南沢奈央,【語り】筒井亮太郎
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
情報/ワイドショー – その他
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:18663(0x48E7)