先どり きょうの健康「どう考える? 乳がんの薬物療法」 2016.01.23


「きょうの健康」です。
日本人女性に最も多いがんが乳がんです。
今日本人女性の12人に1人が乳がんにかかるといわれています。
近年乳がんの研究は飛躍的に進みまして治療が多様化しています。
そこで今日は特に進歩が著しい薬の治療を取り上げまして「どう考える?乳がんの薬物療法」というテーマでお伝えします。
お話は…乳がんの薬物療法がご専門です。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願い致します。
今日は「どう考える?」という事なんですけれどもどうなんでしょう。
私たちはこの薬で治療を進めていきますよと。
そういう形で医師から治療を勧められると。
そういうふうに思ってるんですがどうなんでしょうか?そうですね。
今まではやはり医師がリーダーシップをとって「こうしましょう」と言ったら患者さんが「こうします」というような感じで患者さんが医師の指示に従っていくようなやり方だったんですけれども最近はやはり特に乳がんの領域ではですね薬の選択肢が増えたという事とそれから治療自体もかなり個別化してきたという事で患者さんにこういうふうにしたいんだというふうに積極的にですね意思決定に関わって頂くという事が必要になってきています。
はい。
今日はですねこちらのケースを例に考えてまいります。
A子さん58歳です。
早期の乳がんで右側の乳房を手術で部分的に切除しました。
取り出したがんの組織を病理検査で調べた結果がんの大きさは1.2cm。
腋窩…わきの下のリンパ節への転移が2個。
悪性度これ3段階の真ん中グレード2。
ホルモン受容体は陽性でした。
HER2たんぱくは陰性。
細胞増殖の指標は18%。
中等度の値でした。
ステージは2aです。
A子さんは再発予防のためホルモン療法に加えて化学療法いわゆる抗がん剤治療を追加するかどうか悩んでいるというケースです。
こうしたA子さんのケースですねこれはよくあるんでしょうか?今日本人の乳がんの多くはこのケースのように手術可能な早期の状況で見つかる事が多くホルモン受容体が出ている陽性のがんというのも多いという事で非常によくあるケースだと思います。
じゃあそうしたA子さんの状況から治療はですねどう考えていきますか?がんが小さく見つかっていますのでまずは手術でがんを切り取るという事はいいと思います。
そのあとにですね放射線治療とか薬物療法を考えていきます。
A子さんの場合は乳房を部分的に切除しておりますので乳房の周囲に残ってるかもしれない微少な…がん細胞をやっつけるために放射線治療をするというとこまでそこまでいいと思います。
そのあとに薬の治療を考えていく事になります。
その薬ですけれどもその薬の治療にはどういったものがあるんでしょうか?乳がんの薬物療法はですね大きく3つに分けられます。
一つは…それぞれ見ていきますとホルモン療法というのは乳がんにホルモン受容体というものが出ておりますと体の中の女性ホルモンがその受容体にくっついてそれが刺激になって乳がんが増殖していく仕組みが働くと考えられています。
ホルモン療法というのは…増殖の刺激になってる女性ホルモンの量を減らす方法ともう一つは受容体にくっついてホルモン受容体をブロックする。
女性ホルモンがくっつかないようにブロックするという方法があります。
がんを小さくする訳ですね。
日本人の多くの方ですね7〜8割の方はホルモン受容体を持っているといわれています。
このA子さんの場合もホルモン受容体が陽性の乳がんという事でホルモン療法の効果が期待できるがんだと言えます。
ホルモン療法に続きまして今度は分子標的療法ですね。
これはどういうものでしょう?現在乳がんの術後に使われる薬の治療の分子標的療法は抗HER2薬ともいいますけれどもHER2というたんぱく質ががん細胞の表面にたくさん出ているがんに使われるお薬があります。
HER2がたくさん出ておりますとそれが増殖の刺激になりましてがん細胞が増殖していくと考えられています。
抗HER2薬という分子標的薬はこのHER2たんぱくをブロックする事でがんの増殖を抑える。
そういう仕組みで働いています。
先ほどのA子さんの場合にはHER2が陰性だったという事なのでこの分子標的薬の効果は見込めません。
そして今度は化学療法ですけれども…。
化学療法はいわゆる抗がん剤とも呼ばれておりますけれどもがん細胞が細胞分裂をするその過程に働きかけて増殖を抑える治療です。
細胞分裂が活発ですとより効果が期待できるという事がいわれております。
ただ正常のその分裂していく細胞も攻撃してしまいますので副作用も無視できないという事になります。
抗がん剤の治療というのは効果が100%保証されている訳ではないという事と一方で決して楽な治療ではないという事なので患者さんにそのメリットやデメリットを理解して頂いた上で選択をして頂くという事になります。
その確かに化学療法というのは吐き気とか脱毛とか非常にやっぱりその副作用といいましょうか大変だなという印象ありますよね。
そうですね。
だから慎重になってしまうんですけどA子さんのようにですねしこりの大きさが1cm以上あってそれから腋窩のリンパ節わきの下のリンパ節転移もあるという状態ですと昔は一律に化学療法やりましょうというふうになっておりました。
ですが最近ではそのリンパ節転移の状況とかしこりの大きさだけでなくて悪性度ホルモン受容体とかHER2たんぱくとあるいはその増殖の指標といったその生物学的な情報も踏まえて考えるようになってきています。
A子さんのこの状況はですねリンパ節転移が2個ぐらいでグレードが2。
ホルモン受容体が陽性HER2が出ていない。
そして増殖の指標が18%という数字は追加するかどうか本当に悩むところであります。
本当に悩む。
本当にそうなるとどうやって決めたらいいのかと思うんですけどね。
まずはですね私たちはどう考えるかなんですけれどもその人にどれくらい再発のリスクがあるかという事を考えます。
それを踏まえた上で化学療法を追加するとホルモン療法だけの時に比べてどれくらいその再発の確率を下げる事ができるか生存期間が延ばせるのかという事を考えていきます。
こちらを見て頂きますとA子さんと同じホルモン受容体が陽性の乳がんの患者さん。
55歳から69歳の方々のデータなんですけれどもホルモン療法を5年間やるのに更にその化学療法を追加した時のその10年後の生存率がどれくらい変わるかという事を見ております。
そうしますとホルモン療法単独だと10年後の生存率72%ですが化学療法を追加すると78.5%という事で化学療法の上乗せによって6.5%の追加効果が得られるという事になります。
6.5%というと大体15〜16人に1人という事になりますけれどもその数字が本当に大きいのか少ないのかというのは患者さんに判断して頂かなくてはならないという事になります。
本当に一人一人の考え方や状況で変わってくるという事ですね。
その化学療法には副作用あるいは通院の負担あるいは場合によってはその費用なんかかかりますのでそれと照らし合わせてその再発率の低下あるいは生存期間の延長というのがどれくらいの重み付けになるのか考えて頂くという事になります。
改めてその副作用ですけどどんなものがあるかこちらですね。
化学療法も用いるその薬剤によってかなり副作用というのは変わってくる訳なんですけどもただ乳がんで使われるものに関してはある程度定まっておりましてその副作用の種類としてはこういうものが主なものになります。
たくさん本当これだけあると日常生活にも随分影響すると思うんですけれどもね。
治療期間は大体3か月から6か月ぐらいで比較的短期的に済んでしまう副作用もありますけれどもその後も…副作用が続いてしまうという事もあります。
なのでその従来どおりに仕事や家庭での事ができないというような事も出てくる訳です。
昔に比べるとですね特にその吐き気止めなんかはすごく進歩してきておりまして割と気軽に外来で始めましょうと言えるような事になってきています。
そのほかの副作用はですね対策が進歩してる部分とそうでない部分はあるんですけれどもできる事そしてできない事もあるんですが医療機関でもいろいろ考えて支援を考えておりますので何かあったら相談して頂くといいと思うんですね。
実際こういう状況に直面した患者さんというのはどうなんでしょうか?そうですね。
やはりそのがんが怖いから再発怖いから将来後悔しないように目いっぱいやっておきたいという事でバッチリやる方もいれば一方で例えばお母さんの介護とか仕事の状況なんかでどうしても今自分が倒れる訳にいかないからという事で化学療法追加されないという方もいらっしゃいます。
自分がですね化学療法で上乗せ効果ができるかどうか正しく知ってそれが大切になってきますよね。
正確にお伝えしなくてはとは思います。
最近そういう中で注目されてるものがあるんですね。
そうですね。
最近遺伝子検査多遺伝子アッセイというふうに呼んだりもしますけれどもその技術の進歩でですねがん細胞の複数の遺伝子をいっぺんに解析するような技術が出てまいりましてそういったそのツールを使って再発のリスクや抗がん剤の効果というのをより正確に予測できるようになるんではないかという事が期待されています。
この検査方法はですね今のところまだ保険では承認されておりませんので全額自己負担という事で30万円から45万円と非常に高額な検査にはなっております。
やっぱり30万円から45万円って本当に高額ですけれどもでも意を決して受けました。
受けた場合どうなんでしょう。
化学療法が必要かどうか正確にこれは分かるものなんですか?う〜んやっぱりそれはちょっと残念なんですけれども検査自体にもグレーゾーンがある事は確かです。
そういった場合には患者さんにご判断頂くというような事がやっぱり必要になってくる場合もあります。
自分の判断という事になるんですね。
はい。
今日はその乳がんの薬物療法という事でお話を伺ってきたんですけれどもA子さんまだほかにどんな悩みが出てきそうですか?ホルモン受容体の陽性のがんですと多分治療期間というのが結構悩みになるかなというふうに思います。
今までホルモン療法というのは5年間でよいだろうとされてきたんですけれども最近のデータではですね5年ホルモン療法やるのと10年を比較すると15年目に差が出てくるという事が分かってきています。
データでは15年後の生存率が85%ですね。
5年間内服する85%に対して10年内服すると87.8%。
2.8%の差が出るという事で35〜36人に1人にはやはり違いがあるという事になります。
なのでどうしますかね。
桜井さんでしたら…。
その35〜36人の1人という事で本当にその状況とか自分のいる状況とか年齢とかあるいはその副作用とかやっぱり悩んじゃいますね。
やめるかもしれない。
しないかもしれない…。
だからやはり5年後10年後の計画ってなかなかやはり具体的には立たないので例えば5年後その内服し終わった時のまた自分の状況踏まえてやっぱり自分で考えていくという事が必要になります。
今日は乳がんの手術後の薬物療法についてねお話を伺ったんですけどもやっぱりメリットとデメリットよく自分で伺って知ってそしてやっぱりその決断をする。
そういう事が必要なんですね。
そうですね。
なかなかその自分の暮らしに落とし込むというのは難しいし必ずしも同じ天秤に乗っからないようなものだったりもするので非常に難しいんですけれども私たちもお手伝いを致しますので今までの受け身のですね治療を受けるんだというのではなくて自分で治療を選んで参加してやってるんだというようなその気持ちに主体的に関わって頂けるとありがたいなというふうに思います。
積極的にコミュニケーションをとって悔いのない選択をして頂くといいなというふうに思います。
心強いです。
はい。
ありがとうございました。
今日はですね清水千佳子さんにお話を伺いました。
ありがとうございました。
ありがとうございました。
2016/01/23(土) 04:15〜04:30
NHK総合1・神戸
先どり きょうの健康「どう考える? 乳がんの薬物療法」[解][字]

乳がん薬物療法は、遺伝子研究により個別化が進み、患者それぞれの意思がより重要視される時代に。ケーススタディーを用い、抗がん剤の効果や副作用をどう捉えるか考える。

詳細情報
番組内容
日本人女性に最も多いがん、乳がん。12人に1人がかかるという。乳がんの治療は進歩がめざましいが、とくに薬は遺伝子研究などの成果で個別化が進み、治療方針を決める上で、患者自身の選択と決断がより求められるようになってきている。番組では、実際の治療現場でよくみられる薬の選択に迷いやすいケースを取り上げ、抗がん剤の効果や副作用の差をデータからどう読み取り、どう自分の場合に当てはめればいいかを考える。
出演者
【講師】国立がん研究センター中央病院医長…清水千佳子,【キャスター】桜井洋子

ジャンル :
情報/ワイドショー – 健康・医療
福祉 – 高齢者
趣味/教育 – 生涯教育・資格

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
2/0モード(ステレオ)
日本語(解説)
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