金曜プレミアム・SPドラマ『大奥』第一部〜最凶の女〜 2016.01.22


(鈴の音)
(女中)上様おなーりー。
(葛岡)
ここは江戸城大奥
男子禁制の女の園にございます
時は文化文政年間
11代将軍家斉さまのみ代は15代続いた将軍家の歴史の中でも最も長く最も華やかならん熟のさなかにございました

この時代にぎやかなのは奥ばかりではございません
上方からの流通商いは江戸の町を潤し浮世絵に葛飾北斎戯作者に滝沢馬琴十返舎一九が現れ下々もまた面白きこと見目良きことを求め日々の暮らしを楽しんでおりました
そして雲の上の江戸城には家斉さまがおいででした

(駆ける足音)・
(吉野)葛岡さま!
(吉野)葛岡さま葛岡さま!おめでたでございます。
お以登さまが若君をご出産になりました。
(葛岡)そうですか。
若君ね…。
若君は…あっ若君。
えーと…。
20…21?あっ21男ですね。

(浦尾)葛岡さま!
(浦尾)22番目の姫君のご誕生にございます。
(葛岡)お母上は?
(浦尾)うん?おそでさまです。
おそでさまは確かおしとねすべりに…。
(吉野)あのおそでさまはもうねやの相手をできる年ではございませぬ。
(浦尾)もう一人のお若い方です。
(葛岡)そちらのおそでさまね。
えーと21番目?
(吉野・浦尾)22番目です。
(泣き声)
(女中)お生まれになりました!お生まれに。
お生まれになりました!お生まれに。
お生まれになられました!
(産婆)しっかり…しっかり息んでくださいませ。
(女中)お方さましっかり。
(産婆)お息みくださいませ。
(女中たち)やっ!やっ!やっ!
記録に残るだけでご側室は五十有余名
その方々のなした和子さまが57人
これは歴代で最多にございます
面白きこと見目良きことの大好きな上様が何よりもお好きだったのはご自分のお体と子づくりにございました
そのご執念は計り知れずお体を鍛えるため真冬でも薄着で日々のご鍛錬を欠かさず
牛の乳が滋養になると聞けばバターを作りお召し上がりになり
(家斉)うむ。
美味じゃ。
果ては精力維持のため何と何とオットセイの局部を粉末にして薬として飲まれていたのです
そしてこの上様のご寵愛を一心に浴び大奥において長きにわたり権勢をほしいままにされていた大奥史上最強最大のご側室がお美代の方さまにございます
このお方がいかにして今日の栄耀栄華をお手にされたのか
物語は先の将軍家治公のみ代にさかのぼりまする
(戸をたたく音)
(日啓)中野さま。
(日啓)これは何としたことを。
(清茂)悪いようにはせぬ日啓。
その方に任せた。
(日啓)いつものようにすればよいのですか?
(清茂)いや。
育ててくれ。
(清茂)やんごとない血筋の娘じゃ。
育てればいつか何かに使える。

(すすり泣き)
(日啓)ご案じめさるな。
拙僧にお任せくだされ。
夕べには身軽になってお帰りになれまする。
うむ。
さあ。
(女中)はい。
見るな!もう見たのか?なら忘れろ。
(お美代)赤子…。
その赤子は…。
(日啓)忘れろ!この世には知らぬ方がよいことがある。
青菜いらんかね。
青菜。
青菜いらんかね。
(雷鳴)
(男性)すげえ雨だな。
(男性)奇麗だな。
あんたどこの娘だ?奇麗?天女みたいだ。
あっ…。
許してください!野菜拾ってきますから。
父上さま!父上さま!父上さま!・
(物音)父上さま?
(日啓)中野さまそろそろ教えてはいただけませぬか。
あの娘はどこで生まれたのです?親は誰です?
(清茂)知ればその方の身が危うくなる。
まだ申すわけにはいかぬのじゃ。
青菜。
青菜いらんかね。

(役人)控え!御台所寔子さまのおかごがお通りになる。
控え!
(町人)これ控えなさい。
頭を下げて。
雲の上のお人じゃ。
《雲の上の人》《雲の上…見たい》
(役人)ええい頭が高い!無礼者!キャー!・
(寔子)待っちゃ。
(寔子)もうよい。
(役人)はっ。
(役人)下賤の者が高貴なお方を見ることはあたわぬ。
よく覚えとけ!
(役人)出立!
(中間)旦那さま屋敷の前に女物乞いが参っております。
その者が「父上に会わせてくれ」と訳の分からぬことを。

(中間)来い。
おびえずともよい。
それよりよう顔を見せてくれ。
思うたとおりじゃ。
さすが血は争えぬ。
どうやってわが屋敷を突き止めた。
中野さまというお名前と紋所を頼りに。
なるほど。
賢い子じゃ。
父上さま。
わしはそなたの父ではない。
ならばなぜこのようになさるのです?湯あみをさせ美しい着物を着せ。
面白いからじゃ。
(清茂)美しい娘に美しい着物を着せるのは面白い。
私の父は誰です?あの坊主ではないのでしょう?この世には知らぬままいた方が幸せということがある。
そうは思いませぬ。
不幸なのにその訳を知らずにいることの方が不幸です。
(清茂)話してやってもよいが覚悟がいるぞ。
一生を変える覚悟が。
もとよりお聞かせくださいませ。
さかのぼれば長い話になる。
今の上様の前の代家治さまのご治世のころじゃ。
家治さまには家基さまというご子息がおられた。
お世継ぎとして俊英の誉れ高く類いまれな心ばえをお持ちの方だった。
その立派な将軍候補が鷹狩りの後休まれていたとき急に胸の痛みに襲われ一両日して亡くなられた。
お世継ぎをなくされた将軍家治さまのご心痛は大きくその後はめっきりとご気力をなくされ5年後とうとう重い病の床に伏された。
お世継ぎとして新たにお墨付きを頂いたのは一橋家の豊千代。
現将軍に当たられる家斉さまじゃ。
ところがこれは偶然ではない。
家斉さまの父一橋治済と気脈を通じていた幕閣の田沼意次が家治さまの病が重くなるよう毒を一さじ盛ったという噂がある。
そして鷹狩りの後家基さまが亡くなられたのも田沼の盛った毒のせいだと。
あとは家治さまの死を待つばかり。
…が一つ厄介なことが持ち上がった。
美乃という美しい御中臈が大奥に入ってきたのじゃ。
美乃は見る者の心を解かすぼさつのような女だった。
病がちだった家治さまの御身もこの美乃の美しさには奮い立ったのであろう。
美乃は上様のお子を腹に宿した。
(清茂)それが分かったのは折あしく上様が病に倒れられもうろうと生死の境をさまよわれながら家斉さまにお墨付きをお与えになった後だった。
そこで田沼は動いた。
美乃を宿下がりさせ自分の息のかかった大名家に押し込め腹の子ともども始末しようとしたのじゃ。
子が生まれて男と分かってから殺すより女一人殺す方が世間の目も欺ける。
(清茂)子を生かそうとする母の一念は強い。
美乃は手傷を負いながらもわが屋敷の前まで逃げおおせた。
(男性)おいしっかりしろ!
(清茂)そしてここで娘を産み落とした。
そなたじゃ。
母はどうなりました。
深手が癒えぬまま産じょくの時を迎えられた。
(美乃の息む声)
(清茂)息むたびに血を流され苦しんでお産を終えられた。
それなのに…。
(産声)
(清茂)産声を聞いてぼさつのごとくほほ笑まれた。
(清茂)それが最期じゃった。
中野さま。
私をどうか大奥にお連れください。
母のいた場所に立たせてくださいませ。
会ったこともない母上の恨みを晴らしたいと申すか。
はい。
かなうことなら。
母を踏みにじった者の上に立ちとうございます。
それには知恵を使わねばならぬ。
そなたのその顔もその体も存分に使わねばならぬ。
使い方をお教えくださいませ。
そなたは賢い上に強い。
教えて進ぜよう。
よいかお美代。
知っていることを知っているそぶりを見せてはならぬ。
何も知らぬ生娘のように振る舞え。
男はさかしらな女を好まぬ。
無知な無邪気な女をこそ好む。
上様もじゃ。
はい。
(清茂)大奥。
あそこでは上様のお心をつかんだ者のみが勝者となるのじゃ。

(吉野)こたび奥入りとなりましたお美代なるお女中ご覧になりましたか?それはまあお奇麗な愛くるしいやんごとない。
お美代なるお女中のご養父は今を時めく中野清茂さま。
大崎局さまの部屋子として入られたのであろう。
(吉野)中野清茂さまといえば…。
(浦尾)上様のお覚えめでたく目覚ましいご出世をされた御小納戸頭取ですよね。
では実のお父上は?下総の古寺智泉院のご住職とか。
えー!いやらしい。
いやらしいわ。
お坊さまなのに女犯の罪を犯して娘を持つなんて。
ですから表向き下女ということにして寺に置いていたそうなのです。
その類いまれな美しさを中野さまがお見初めになりご自分の養女にして奥に上げたとか。
ここだけの話その智泉院なる寺は大奥にゆかりの深いお寺なのです。
われわれのお仲間も時々ご祈とうのためひそかに通っているとか。
なぜそのような小さな声でお話しになるんですか?女の園には色々悩みが付き物。
ご住職の日啓さまは私たちの悩みを親身に聞いてくださるそうです。
それだけでなく時には…。
時には?これ以上は申せません。
そんな!聞かせてくださいましよ。
ねえ?葛岡さま。
私も気になります。
何ですか?教えてくださいませ!
(浦尾・吉野)えー!
(浦尾)あれですか?ついうっかりおなかが大きくなった…。
えっ?でも何で?何で?大奥にそんな乱れたことが…。
乱れた…乱れた…。
(鈴の音)
(女中)上様おなーりー。

(家斉)その方名は?
(知恵)知恵と申します。
ういやつじゃ。

(清茂)大崎殿。
お美代を上様のお目に留める妙案はございませぬか。
(大崎局)上様はお気の多いお方。
大奥はより取り見取り。
あれだけの数のおなごが控えておりますればお目に留まるにはそれなりの工夫が必要にございます。
(清茂)なるほど。
つきましてはご相談がございます。
先のご老中松平定信さまがお出しになられた大奥倹約令を取り下げていただきたい。
後のことはこの大崎に万事お任せあれ。

(大崎局)上様いかがでございましょう。
キャッ!わぁわぁ!わぁ!
(家斉)フフフ…ハハハ…。
目を閉じよ。
はい。
上様。
上様!
(悲鳴)
(女中)大丈夫ですか?
(悲鳴)
(家斉)あー!キャー!上様!
(家斉)よしよし。
家治さま!今日は日が悪い。
また会おうぞ。

(家斉)あのお美代とか申す娘は確かに美しい。
(清茂)はい。
(家斉)じゃがどことのう不吉なにおいがする。
男をそっと手で差し招いて奈落に引き落とすようなそんな美しさじゃ。
「不吉なにおいがする」そのようなことを。
ひょっとすると上様は亡き家治公の面影をそなたの上に見られたのやもしれぬのう。
上様はご存じなのですか?将軍となられる前家治さま家基さまの身に起こったことを。
感づいてはおられる。
その証拠に家治家基さまの月命日毎年のご命日だけは必ず仏間にこもり長々とご祈とうなさる。
今は引き時じゃ。
少し引いて様子を見るがよかろう。
はい。
さてこのころ大奥では…
上様のご寵愛を得ていたのはお楽の方さまにございました
この方は丈夫な若君をお生みになりました
待ちに待ったお世継ぎにございます
(家斉)元気な子じゃ。
(お楽)ええほんに。
ぶぅ〜ばぁ。
普通ならめでたしめでたしでございます
…がそこはオットセイ将軍といわれたわれらが上様家斉公のこと
ういやつじゃ。

お楽さまのことなどすっかりお忘れになったかのように…
ういやつじゃ。
次々とお気に入りをつくってはお戯れになり
お世継ぎの母上という誰よりも強いお立場にありながらお楽さまは古びた置物のように捨て置かれ寂しい独り寝をかこつお身の上になられたのです
そんなお楽さまにお美代さまは救いの手を差し伸べられました
お楽さま。
(お楽)私もここでこのコイのように一人寂しく朽ちていくのか。
救いの手
または魔の手を
み仏におすがりなさいませ。
心が清くなり楽になれまする。

(日啓)頼み事とは何かな?父上には造作もなきことにございます。
(日啓)ほう。
女中たちの噂によると下谷の海光寺という寺に当代の菊五郎によく似た日遠なる眉目秀麗の僧侶がいるというのです。
(日啓)その男をいかがせよと申す。
これで智泉院に引き抜いてくださいませ。
仏に仕える者が金で言うことを聞くかな?実は上様にお願いして智泉院を将軍家ご祈とう所にしていただこうと思うのです。
大それたことを。
いやありがたい話ではあるがそんな無理が通るか?上様のお心さえつかめばどんな無理も通ります。
(日啓)お美代そなたいつの間にそのような怖い女になった。
フッ…。
私は父上のやり方をまねているだけでございます。
(日啓)大したたまじゃのうそなたは。
近々お楽のお方さまをお連れします故どうか手厚うおもてなしくださいませ。
(読経)
(お楽)おかげさまで心が晴れ晴れといたします。
これはほんの心ばかりですが。
(日啓)ありがとうございます。
み仏もさぞ喜ばれていることでございましょう。
お茶をお持ちします故ごゆるりとおくつろぎくださいませ。
(日遠)本日はようお越しになりました。
(日遠)日遠と申します。
お茶をお持ちしました。
(お楽・日遠)あっ!
(日遠)申し訳ございませぬ。
とんだ粗相を。
お楽さま。
(お楽)えっ?またご祈とうに参りましょうか。
えっ?ああ…。
ええぜひ。
・あの方をお思いですか?誰がお楽さまを責められましょう。
私にはよう分かります。
初めからお清ならいざ知らず男女のむつみ合う喜びを知った後上様にお手を触れられもせずただ散るを待つ身はどれほどおつらいことか。
(お楽)そなた…。
あの寺で起きたことは決して口外いたしませぬ故ご安心を。
(家斉)ハハハ…大きくなったのう。
(お楽)ええほんに。
泣きだした…。
またあした遊ぼうのう。
じゃあのう。
(お楽)こよいはどなたとお泊まりでございますか。
(家斉)うん?
(お楽)お利央の方さまにございますか。
それともお志賀さま。
余は何もそなたにあいたわけではない。
産後故そなたの体をいとうて…。
敏次郎を生んだのは何年も前です。
そうじゃったかのう?お美代という御中臈をご存じですか?
(家斉)うん?《キャッ!》お目に留まらぬはずはございませぬ。
美しい娘です。
(家斉)うむ。
一度御寝所にお呼びになってみてはいかがです?あれほどのおなごなら私も腹が立ちませぬ。
さようか。
お美代と申したな?はい。
ういやつじゃ。

(家斉)近う寄れ。
(家斉)構わぬ。
(家斉)立ったまま。
(家斉)脱げ。

(家斉)ここは極楽か?そなたは天女か?
(いびき)
(家斉)家治さま!家基さま!う〜…!うわっ!わーっ!消えろ!消えろ!消えろ!上様いかがなさいました。
どうかお許しくださいませ!何もかも田沼が勝手にやったことにござります!どうかご容赦を!どうか!上様私にお任せください。
何じゃと?
(読経)やーっ!お二人のみ霊は冥土にお戻りになりました。
2人?お一人は50がらみ。
お一人はまだ若い方。
家治さまと家基さま。
見えるのか?私は寺で育ちました故成仏できぬ霊がさまよう姿はよく目にしておりまする。
お二人はよほどこの世に未練を残しておいでなのでしょう。
余はどうすればよいのじゃ?ご安心なさいませ。
私がおそばについていますかぎりお二人を上様には近づけませぬ。
今のようにおはらいをして冥土に戻っていただきまする。
(泣き声)ご案じめさるな。
大丈夫。
大丈夫。
それからはもうお美代さまの天下にございました

後見人のご養父中野清茂さまは目覚ましいご出世を遂げられ新御番頭格奥勤めとなり1,500石から2,000石にご加増され播磨守に任ぜられました
智泉院は将軍家ご祈とう所となりお美代さまに言葉巧みに誘われてあまたの女中たちが祈とう参籠代参に通い詰めました
日啓さまは見目麗しいお坊さまばかり揃えてお迎えになりました
寺の奥では日ごと夜ごとひそやかな酒池肉林の宴が開かれていたのでございます
(日啓・女性たち)ハハハ…。
(日啓)それっ!
このありさまをただ一人眉をひそめてご覧になっているお方がありました
すご腕の寺社奉行脇坂淡路守さまです
(脇坂)女どもが寺へ参るようですな。
(清茂)上様のご側室を「女ども」とは。
脇坂殿も手厳しい。
(脇坂)3年前延命院であったことをご存じでしょう。
あまつさえ役者上がりの坊主が奥女中をたぶらかしこの大奥から金を吸い上げていた。
(清茂)存じています。
そのとき坊主たちを死罪にしたのは脇坂殿あなたさまだった。
(脇坂)こたびもし同じことが起きれば…。
坊主一人二人を処分するだけでは済まされませぬ。
悪の根は元から絶たねば。
それが上様へのご奉公だと私は信じている。
それは良いお心掛けです。
(脇坂)上様。
御年2歳になられる敏次郎君にそろそろお墨付きをお与えになってはいかがでしょうか。
今なら跡目争いの恐れもなく人心も安定します。
(家斉)うむ。
それもよいか。
お楽さまのお生みになった敏次郎君をお世継ぎに推すこと
これすなわち上様のご寵愛がお美代さまに傾き中野さまがこれ以上お力を伸ばすのをけん制する一手でもありました
(清茂)寺社奉行脇坂淡路がお楽の方さまがお生みになった敏次郎君にお墨付きをと上様にとりなしておられる。
さようにございますか。
そなたが早く若君を生んでいればこのようなことは避けられたのだが。
脇坂淡路には気を付けねばなるまい。
(女将)お待たせをいたしました。
お疲れでございましょう。
お寺まではまだ1里ほどございますから。
どうぞゆっくり休んでってくださいましね。
ああおいしい。
生き返ります。
(日高)ほんに。
のう。
(女中)ええ。
脇坂さま。
智泉院は江戸から7里。
代参に向かうには少々遠うございますな。
遠ければそれだけ金子も掛かる。
籠の鳥の気持ちをお察しくださいませ。
私たち奥の者にとって長い道のりはかえって気晴らしになるのです。
気晴らしですか。
江戸を遠く離れ羽を伸ばして何をなさってるのか。
失礼いたします。

(脇坂)何をなさる!あなたは私に負けた。
今の口づけを楽しまれたでしょ。
そんなことはない。
どんなに澄ました顔で取り繕うても男は皆同じ。
体は嘘をつきませぬ。
やめろ!汚らわしい。
汚らわしい?人に欲は付き物。
あなたさまにも色々と欲がおありのはず。
出世したいという欲。
人の上に立ちたいという欲。
体の欲だけがなぜ汚らわしいのです?今日のこと上様に申し上げてもよいのですよ。
智泉院に向かう参道で寺社奉行脇坂淡路守に襲われたと。
そうなったら事実を申すまでじゃ。
襲われたのは私の方だ。
上様はどちらをお信じになるでしょう。
月に一度の今日の日を一日千秋の思いでお待ちしておりました。
日遠さま。

(お楽)日遠さま…。
何を見てるのです?
(お志摩)カエルのまぐわう様を。
えっ?生き物のまぐわう様というのはどことのう哀れなおかしげなものです。
人も己の姿が見えていないからこそ夢心地でまぐわうのでしょう。
そなた気に入りのお坊さまはおらぬのか?遠慮せずともよい。
好みの男がいるのなら私が引き合わせてあげましょう。
男に興味などありませぬ。
あのときに女の体の上にいるというだけで女に勝った気でいるのが男にございます。
これほど愚かしいものはありませぬ。
上様は別にございます。
別ではない。
面白い娘じゃ。
名は何と申す?志摩にございます。
程なくしてお美代の方さまは和子さまをお生みになりました
溶姫さまです
期待された若君ではございませんでしたが上様はことのほかお喜びでした
(日高)ようございましたね。
お健やかな姫君で。
上様もお喜びです。
姫では意味がない。
次は男を生まねば。

(演奏)
一方敏次郎君はお健やかに5歳を迎えられいよいよお墨付きをという声が内外に高まってまいりました
これは敏次郎君にお祝いの品にございます。
(お楽)恐れ入ります。
お墨付きもいよいよにございますね。
(お楽)はい。
おかげさまで。
そのことですが…。
ご辞退なさってはいかがでしょうか。
何故じゃ?これはいらぬ差し出口やもしれませぬがあまり幼いうちにお墨付きを頂くとそのすぐ後に亡くなられることが多いと耳にしたことがございます。
将軍職を継げずに亡くなられた方のお恨みが年端も行かぬ方に集まるのではないかと。
そんな…不吉な。
お楽さま智泉院にはこの次いつ参りましょうか。
日遠さまが首を長くしてお待ちにございますよ。
あっ…。
(読経)
(日啓)お告げが出ましてございます。
(家斉)お告げ?
(日啓)このところ和子さまが次々に亡くなられまた息絶えてお生まれになるのはご先祖さまのたたりにございます。
何と…。
(日啓)はかりごとにより命を落とされた方。
お一人はお若く。
お一人はご壮年のみぎりに。
(日啓)敏次郎さまにお墨付きをお出しになるのはいま少し待たれた方が。
荒ぶる悪霊が若君に目を付けぬよう今は静かに。
静かに。
(家斉)脱げ。
面白い娘じゃ。
名は何と申す?志摩にございます。
(お志摩)あなたさまは他の方とは違います。
父は私の体を抱いた。
(家斉)近う寄れ。
早う早う。
(家斉)早う。
お願いがございます。
(家斉)何じゃ?溶姫を加賀前田家に嫁がせたいのです。
溶姫?姫はまだ2歳にもならぬ。
後で一筆書いてくださいませ。
加賀百万石当代随一の大名家に嫁がせることで上様のご寵愛が姫に一番に注がれていることを皆に知らしめたいのです。
分かった分かった。
早う横になれ。
(いびき)ハァ…。

(足音)そなたいつぞやの…。
そうか。
こよいのお添い寝はそなたであったか。
(お志摩)御寝所にお戻りくださいませ。
なぜじゃ?
(お志摩)決まりにございます。
ここで寝かせたも。
(お志摩)お美代さま?男の体は暑苦しい。
嫌な臭いもする。
そなたの肌は冷とうて心地よい。
(お志摩)お許しくださりませ。
そなたこよいのあれやこれを聞いとったな。
お役目にござりますれば。
カエルのまぐわいに似て面白うと思うたか。
めっそうもないことにございます。
上様にねだり事をしその代わりに身を任せる。
うれしゅうもないのに感じ入ったような声を上げ上様のお気を引く。
浅ましいものじゃ。
違います。
あなたさまは他の方とは違います。
智泉院のお庭でお会いしたときから思うておりました。
何と目の澄んだ方。
この世の何もかもを見通してしまう目をお持ちの方。
このような方が男の意のままになるのはどれほどおつらいことかと。

(琴の演奏)いかがした?つらいのです。
こよいも上様があなたさまをお抱きになるのかと思うと。
私の初めての男は父であった。
父というても血のつながりのない父じゃ。
たまった欲を解き放つためただそれだけのために父は私の体を抱いた。
人をいとおしいと思い思われたことが一度でもあったならそれをつらいと感じたであろう。
私は悲しくもなくつらくもなかった。
獣のように雄とは何かを知っただけだった。
なれど今そなたと知り合うて…。
私はあのときの自分を哀れに思う。
何という哀れな悲しい娘であったのだろうと。

(鈴の音)そなた前からここにおったか?
(お志摩)はい。
そうかなぜ気付かなかったのであろうのう。
ういやつじゃ。
あの娘はおやめくださいませ。
(家斉)なぜじゃ。
そなたと添うてよりこの方余は一人の側室も続けて寝間に呼んだことはない。
一夜の気まぐれならばよいではないか。
あの娘は身分が低うございます。
あまりに身分の低い者にお手を付けると将軍家のご威光に傷が付きまする。
そうは思わぬ。
(家斉)八百屋の娘呉服屋の娘。
昔から将軍家の側室には身分の低い者がごまんとおった。
私が嫌なのです!うん?いえ…あの顔が嫌なのです。
あの貧乏くさい顔が。
貧乏くさい?あの娘に触れたお手で私に触れるおつもりなのでしょう。
それくらいならおしとねすべりを申し出ます。
おしとねすべり!?もう上様とはむつみませぬ!いやそれは…それはいかん!早まるな。
それはいかん。
分かった分かった。
なっ?ここなら誰にも気付かれぬ。
(お志摩)はい。
さあ。
そなたの肌に男が触れると思うただけでむしずが走る。
お美代さま。
カワイイ人。
誰にもやらぬ。
・美代。
(お美乃)お美代。
母上…。

それが再びのご懐妊のしるしでした
そうか…ここにややがいるか。
うん?はい。
若君ですきっと。
そうであればよいがのう。
男が生まれたらお世継ぎにしてくださいませ。
敏次郎がおるのにか?将軍家は長子相続が決まりぞ。
上様はお楽さまと私どちらがお好きですか?そりゃあそなたじゃ。
もちろん。
ならばお約束くださりませ。
分かった分かった。
そなたの望みには逆らえぬ。
(読経)母は大奥を追われて死んだ。
男子を生み将軍にすることで母を殺した者らへの恨みをやっと晴らせる。
それさえかなえばもう他に望むことはない。
(お志摩)寂しゅうございます。
若君がお生まれになったらお美代さまは若君お一筋になってしまわれそうじゃ。
そんなことはない。
お志摩。
そなたがいなければ私は生きているかいがない。

(足音)《やめろ!汚らわしい》
(吉野)うわ〜…カワイイ。
あっこれカワイイ!
(浦尾)あっ葛岡さま葛岡さま。
これ葛岡さまにお似合いなんじゃないですか。
そう?
(吉野)すてきすてき!
(商人)これは葛岡さまには少しお派手でございます。
こういった物はもっとお若い方でないと。
まあお志摩さま。
どうぞこれなどいかがでございますか?美人には態度が違うんですね。
いいわね。
これ頂きます。
(商人)ありがとうございます。
あああとこの扇子要が折れてしまったのでお直しお願いします。
(商人)はい承ります。

(吉野)ここでございますよ葛岡さま。
(葛岡)こちらか?
(吉野)夜更けにここを通ると時々妙な物音がするのです。
(浦尾)誰もいないはずなのに。
(吉野)わ〜…恐ろしや。
(浦尾)物取りか何かが潜んでいるのでは。
(吉野)いずれにしても恐ろしいではございませぬか。
ですから葛岡さまちょっと中を見てくださいませ。
(葛岡)何で私が?
(吉野)目上の方を立ててのことです。
いつも敬うそぶりなど見せたこともないくせに。
(浦尾・吉野)葛岡さまあっての私たち。
ねえ?
(浦尾)さあさあ!
(吉野)早くお先に。
(葛岡)やだ…やだわ。
や…やだやだやだ。
(浦尾)やでございます。
(吉野)はい葛岡さま。
あの…だから…。
(悲鳴)・
(物音)
(浦尾)今何か物音がしたような。
(吉野)ホントですか?怖い!
(葛岡)ちょっと!踏まないで。
もし?もし!どなたかおられますか?・
(物音)
(吉野)えっ?何かしら?
(浦尾)これは…。
(葛岡)見覚えが。
(吉野)いや葛岡さまには少し派手…あっ!
(物音)
(悲鳴)
(吉野)だ…誰かいるみたい。
(浦尾)ゆ…幽霊?
(悲鳴)・出た出た!幽霊出たよ!これは?
(大崎局)ゆうべかご部屋に落ちておりました。
拾うた女中はお志摩の物ではないかと申しておりまするが。
なぜかご部屋などに。
さあ…それは分かりませぬ。
いずれにせよ詮議いたしませぬと。
この扇子私に預からせてくれまいか?はい?上様にお見せしておぼしめしを伺いたいのじゃ。
はい。
うん?《あとこの扇子要が折れてしまったのでお直しお願いします》《はい承ります》
(お志摩)「引き続きお美代さまの身辺を探っておりまする」「ご当人に懇意の僧侶はございませぬが八重るりそでなど名だたるお手つき御中臈を智泉院に引き入れ僧侶との仲立ちをし裏で手を引いていらっしゃいます」「ここで僧侶宛てのどなたかの艶書一通でも手に入れることができれば大奥の腐敗しているれっきとした証し」「お美代さま中野播磨守さまはじめ敵方を一網打尽にすることも夢ではなく…」《あなたさまは他の方とは違います》・
(演奏)うっ…。
いかがいたした?つわりが重うて。
(家斉)さようか。
ならば部屋で休んでおれ。
ややをいとうてのう。
申し訳ござりませぬ。
(家斉)うむ。
ここじゃ。
お志摩。
はい。
目を閉じよ。
(刺す音)
(お志摩)あっ…。
お美代さま…。
脇坂と通じておったな。
なぜ裏切った?信じていたのに。
そなただけをいとおしいと思うていたのに。
そなただけが生きるよすがじゃったのに。
あっ…。

(お志摩)ああ…。
殺しとうはなかった。
私がしたのではない。
腹の子がさせたのじゃ。
わが母の血を引く男子が今度こそ日の目を見たいと腹の中で泣くからじゃ。
お志摩…。
お志摩…。
お志摩…。
お志摩…。
(泣き声)お志摩!
(泣き声)
(吉野)お志摩さまの死は物取りの仕業として片付いたんですね?
(葛岡)お召し物に乱れがあり物取りに襲われたようです。
えー恐ろしい。
つまりあのかご部屋には何者かが潜んでいたということですね。
ひとつ間違えば私も襲われていたかも。
えっ?
(浦尾)納得できません。
あのときかご部屋にいたのは間違いなく幽霊です。
いやいや…。
そういえば争っている気配はありませんでしたね。
そうそうそうそう。
むしろ静まり返っておりました。
そしてぽつりと落ちていた扇子。
ここだけの話大崎局さまに扇子をお渡ししたところお志摩さまはひそかにどこぞの男と情を通じておられたのではとのお疑いもあったようです。
(吉野・浦尾)えー!ではあのときまさに密会中だったと?密会中!もののけより恐ろしいものがこの大奥にはあるということですよ。
お志摩さまの死は様々な臆測を呼びました
そしてしばらく後
(産婆)さあしっかりお息みなさいませ!
(日高)お方さま。
(息む声)
(産声)お生まれになりました。
おめでとうございます。
男か?女か?姫君にございます。
姫か…。
乳を吸う力もない小さな姫君は仲姫と名付けられわずか3歳でお亡くなりになりました
一方溶姫さまは14の年にかねてのお約束どおり加賀前田家におこし入れとなりました
その後溶姫さまのお生みになった一子犬千代君を次期将軍候補にとお美代さまは最後まで画策されることになります
なれどもかご部屋を後にされたあの日からお命の尽きる日までこの方が心からほほ笑まれることはついぞなかったようにございます
(鈴の音)
(女中)上様おなーりー。
そして夜が明けて朝が来るように様々な女の不幸をのみ込んでこの大奥には再び絢爛たる物語の幕が開くのでございました
血で血を洗う女の戦いにはまだまだ終わりが見えぬようにございます
「梅さまか歌さまのどちらかがご側室に選ばれ」「私は勝ち続け姉上は負け続ける」「負け犬の遠吠えは耳障りなだけです」「なぜそうまでして人のものを奪う」「そなたが哀れじゃ」「天下人の目にかなう体だと思うか?」「でかしたぞ梅。
余のために世継ぎを生んでくれ」「いとまを申し渡す」2016/01/22(金) 21:00〜22:52
関西テレビ1
金曜プレミアム・SPドラマ『大奥』第一部〜最凶の女〜[字][多]

「11年ぶり大奥が復活!大奥史上最強の悪女の波乱の生涯!復讐誓い大奥へ…牢獄で咲いた禁断の愛…その衝撃の結末!」沢尻エリカ 成宮寛貴 渡辺麻友 浅野ゆう子 ほか

詳細情報
番組内容
 これは江戸幕府第11代将軍・徳川家斉(成宮寛貴)の壮年期の物語である。

 ある晩、降りしきる一面の雪のなか、一人の武士・中野清茂(板尾創路)が智泉院の住職・日啓(田中要次)を訪ね、赤ん坊と大金を託して育てるように頼んだ。

 14年後、お美代(沢尻エリカ)は誰もが認める美しい少女に成長していた。お美代は日啓と密会していた清茂のもとを訪れると、自分が10代将軍・家治と側室・お美乃の間にできた子で
番組内容2
あることを聞く。さらに、家斉を将軍にしようと画策する一派によって、家治とお美乃が死に追いやられたという事実を知らされる。涙を流しながら話を聞いたお美代は両親の無念を晴らすため、大奥に入ることを願い出る。

 家斉の側近であった清茂の口添えで大奥入りしたお美代は、大奥総取締・大崎局(浅野ゆう子)の計らいもありすぐに家斉の目に留まる。その後、生まれ持った美貌と清茂に仕込まれた手練手管を使い家斉の寵愛を
番組内容3
受けるようになるお美代。

 ほどなくしてお美代は姫君を産むものの、若君でなかったことにより「次は男を産まねば」と思いつめるようになる。

 大奥での地位を着々と固めていたお美代はある日、智泉院の庭にいた女中・お志摩(渡辺麻友)と言葉を交わす。大奥で巻き起こる争いごとをどこか冷めた目で見ているお志摩に強く興味を引かれたお美代はその後度々密会を重ねるようになり、ついに禁断の恋愛関係に進んでしまい…。
出演者
お美代: 沢尻エリカ 
徳川家斉: 成宮寛貴 

中野清茂: 板尾創路 
寔子: 光浦靖子 
葛岡: 鷲尾真知子 
吉野: 山口香緒里 
浦尾: 久保田磨希 

お志摩: 渡辺麻友(AKB48) 

日啓: 田中要次 
脇坂安董: 浜田学 
お楽: 浅井江理名 
日遠: 金子昇 

大崎局: 浅野ゆう子
スタッフ
【脚本】
浅野妙子 

【編成企画】
保原賢一郎(フジテレビ) 
羽鳥健一(フジテレビ) 

【プロデューサー】
林徹(フジテレビ) 
金丸哲也(東映) 
小柳憲子(東映) 

【監督】
林徹(フジテレビ) 

【音楽】
石田勝範 

【制作】
フジテレビ 
東映

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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